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■夏の日の想い出・龍たちの伝説(5)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-10-10
約1ヶ月間、龍虎(アクア)のマンションに同居していた西湖(葉月)たちは、8月27日(木)に用賀の“橘ハイツ”6階の243号室(オーナーズ・ルーム)に引越していった。このマンシヨンは地下から5階までの大部分を§§ミュージックが借りて、男子寮として使用している。西湖が男子かどうかについては怪しいが、どっちみちここのオーナー相当である。(本当のオーナーは千里)
西湖は↓の北側の6畳の部屋で寝起きするのだが、その部屋に付随するウォークイン・クローゼットに、千里さんから送られてきた本棚を置き、そのいちばん上の段に、これも送られて来た神棚を置き、その神棚の中に、しばらく龍虎のマンションのNの部屋に置かせてもらっていた銅鏡を入れた。東側に置いた棚の上にあるので鏡は西を向くことになる。
(6F部分)
なおこの部屋の外側にある廊下は、非常階段にアクセスするためだけに存在しているので、非常時以外は誰も通らない(掃除のおばちゃんが掃除するのに通るくらい)。
西湖MとFが、鏡を置いた後、スーパーで買って来たいなり寿司10個パックを4つ神棚の前に置き、2人で一緒に手をパンパンと叩くと、たくさん“おキツネさん”たちが出て来て
「西湖ちゃん、お帰り」
と言った。
「コーラもあるよ」
と言ってコカコーラの2Lサイズ3本とたくさんの紙コップを置くと、みんな適当に注いで飲んでいる。
「またよろしくねぇ」
西湖は2002年の生まれなので、本命卦は男なら兌、女なら艮で、実はどちらにしても西四命になる。すると玄関のある北東は兌なら延年・艮なら伏位でいづれにしても吉方位、寝室のある北西は兌なら生気・艮なら天医でこれも吉方位。
ということで、ここの戸は西湖にとって理想的な風水になっている。むろんそうなるようにマンションを建てている。この部屋は西側になければならない。そうしないと、この部屋と伏見方面にはさまれた明日香の部屋にまで、おキツネさんたちが、出没することになる。
なお南側の2つの8畳の部屋だが、奥側、西南の部屋(寝室とウォークスルー・クローゼットで行き来できる)は、防音構造になっていてヴァイオリンなどの練習もできるし、またテレビ番組にリモート出演する場合、ここから参加することができる。ここにはクラビノーバ CLP-685 も置いている。
西南の部屋は本命卦が兌なら天医・艮なら生気で、これも吉方位である。
もうひとつの8畳(南側の部屋)は、本棚や衣装ケースなどを置く。ここは凶方位になるので、こういう部屋は基本的に物を置くのに使うのが良いのである。ここにはアクアから「少し持って行ってよ」と言われて渡された洋服類、コスモス社長から「場所があるからこれも置けるよね?」と言われて渡された大量のCD類、伯父からもらった黒部座の記念グッズ、丸山アイから「ボク引っ越すから荷物減らすのに少しもらって」と言われて渡された幾つかの機械類(空中歩行器とか地球破壊爆弾とか自動造山機とかプロ野球選手養成ギプスとか、よく分からないがAOMと書かれた箱とか)なども納められた。
ちなみに西湖は男物の服は全く持っていないので、服は下着も含めて全て女物である。聖子Fは当然いつも女の子の服を着ているが、西湖Mも女物しか着ない。
アクアはMFNが部屋をひとつずつ使っていたが、西湖はこのマンションでは北側の部屋にMとFが一緒に布団を並べて敷いて寝るつもりである。男女ではあっても、むろん変なことはしないし、お互いの裸を見ても平気だ。Fが布団の中でオナニーしててもMは気にしない(正確には気付かない!)
ちなみにMの方は全くオナニーはしない。小浜に行った日にケイナからオナニーしなさいと言われたので試みてみたものの、少しいじっても立たなかったので「別にいいや」と思って、それ以降試みもしていない。ボクの睾丸やはり死んでるのかも知れないなあ、などと思っていた。
(実は生きていて、それが思わぬ所に波紋をもたらすことになるのだが)
§§ミュージックおよび私とコスモスの運命を賭けた?アクアのライブが無事終わった後、私たちはアクアのミニアルバムを制作することにした。
ミニアルバムと聞いてアクアは最初、春に作った12星座のうちの6星座を歌いこんだアルバムの続きかと思ったようだが、私たちは別の企画を提示したのである。
ミニアルバム(仮題)『男の子女の子』
↓仮曲名(予定衣装)
ルビーの情熱(赤いドレス)
トパーズの溜息(黄色いドレス)
パールの優しさ(乳白色のドレス)
ダイヤモンドの意志(白銀色のスーツ)
サファイアの高貴(青いスーツ)
アクアマリンの期待(アクア色のスーツ)
「ルビーとトパーズはFが歌う。パールとダイヤモンドはNが歌う。サファイアとアクアマリンはMが歌う」
「つまり3人のアクアの記念碑だよ。これは」
「そういうアルバムを遺せるのは嬉しいけど」
「9月中はまだ大丈夫だと千里さんは言っていた」
アクア自身も千里さんから11月か12月くらいに多分1人になると聞いていた。いよいよかとアクアも厳しい顔になる。
「でもうまくNが具現化しますかね?ライブではうまい具合に具現化したから、3人でトリオの歌を歌えたけど」
あの時は実は2人のアクアと2人の葉月で出るつもりでスタンバイしていたのが、幕間の休憩中に突然アクアが3人になり葉月が1人になったので、1人になった葉月にホワイトスーツを着てもらって歌唱に参加してもらい、3人のアクアは、Fが赤いドレスでヴァイオリン、Mがアクアのスーツ、Nがピンクのスーツで各々歌唱に参加した。だからカノンはFから弾き始めたし、龍と一緒に歌ったのはMである。むろん前半歌ったのと、龍が消えた後に白いドレスで出演してアクア色のスーツのアクアとハグしたのもFである。
「それはたぶん何とかなる、と千里さんが言ってた」
「千里さんが言うなら大丈夫かな」
2020年9月2日(水).
この日は満月であった。
★★レコードの八雲課長は、大きなお腹を抱えて精力的に仕事をしていた。
「課長休まなくても大丈夫ですか?もうすぐ予定日なのでは?」
と心配そうに福本深春係長が言う。
「平気平気。まだ1週間ある」
などと言って八雲課長は山積みの書類をひとつずつチェックしては、あるいは決済し、あるいは担当者を呼んで問題点を告げて修正するように言った。
21時すぎ、福本係長と明智光代主任が2人で八雲課長のところに行き
「もう9時です。妊婦はこれより遅くまで仕事をしてはいけません」
と強く言った。
「仕方ないなあ」
と八雲真友子は言い、渋々帰宅することにする。企画書を持ち帰ろうとするのを福本が取り上げる。
「ちゃんと休んでください」
「分かった、分かった」
と言って、デスクを立ち、更衣室の方に向かった時のことだった。
真友子が急にしゃがみ込む。
「どうしました?」
「来たかも」
「え〜?」
「八雲係長は?」
「今日は大阪に出張中」
「私たちで病院に連れていこう」
福本は近くに坂口平太がいるのに気付き
「坂口君、手伝って」
と言った。
「分かった」
それで3人で支えるようにして駐車場まで運び、真友子の車・レヴォーグの後部部席に彼女を寝せる。
「かかりつけの病院はどこですか?」
「カーナビに入ってる。斉藤クリニックという所」
「坂口君、分かる?」
「見つけました」
「よし、行こう」
坂口が運転し、助手席に明智が乗り、福本は後部座席の床に座って、真友子の身体を支えている。よくない乗り方だが、緊急事態なので仕方ない。
車内から、真友子のスマホを借りて福本が病院に連絡する。
20分ほどで病院に着く。病院の玄関前に停める。福本が病院に走り込んで、連れて来たことを告げると看護師さんと医師がストレッチャーを持って出てきてくれた。坂口と医師で抱えてストレッチャーに移す。そして病院内に運び込む。
真友子は運び込まれるとすぐに破水。2時間ほどで女の子を出産した。結果的には超安産だった。
生まれた子供の血液型はAB型である。真友子も礼江もAB型なので、2人の間にはO型以外の全ての血液型の子供が生まれる可能性があるので全く問題ない。そもそも春朗と礼江は同じAB型なので何も矛盾するおそれは無かった。
↓両親の血液型と(通常)生まれる可能性のある子供の血液型
真友子は医師に翌朝
「午前中に退院できますか?仕事が溜まっているんですけど」
などと尋ね
「一週間は入院していなさい」
と叱られた。
結局、真友子は加藤部長に電話し、佐々木上級係長に、自分の退院まで課長代行をしてもらうことにした。
佐々木さんは「俺が代行?」と言って焦っていたが、
「ここはベテランの佐々木さんしか代理は務まりません」
と福本も八重垣も言ったし、もうひとりの上級係長の奥山さんも
「僕も本社のことはまだまだ分からないことが多いから、佐々木さんしか居ないですよ」
と言った。奥山さんは昨年春に仙台支店から転任してきたばかりで、まだ1年しか経っていないので把握出来ていない物事も多い。
同じ9月2日。
その日、大林亮平が仕事から帰ってくると、富(みつる:原野妃登美)は玄関で亮平にハグし
「ハッピーバースデイ、マイダーリン」
と言った。
亮平は富(みつる)にキスした上で
「僕、別に今日は誕生日じゃないけど」
と言った。
「あれ〜〜!?そうだったっけ?」
「僕の誕生日は9月15日」
「ごめーん。勘違いしてた。私ケーキ買って来ちゃった」
「買って来たものは食べよう」
「そうだね」
それで富(みつる)は、恵比寿ビールを出してきて、ケーキの箱を開け、
「りょう、好きな方取ってね」
という。それで亮平がモンブランを取ると、富(みつる)は残ったミルフィーユを取り、富(みつる)のお茶と、亮平の缶ビールで乾杯して食べ始めた。
「これ美味しいね」
「うん。**堂のケーキだよ」
「へー」
それでケーキを食べ終えた後、富(みつる)は
「ごめーん。ハンバーグ作るつもりが崩れちゃった」
と言って、皿を持ってくる。亮平は
「いや、崩れても味は変わらないよ」
と言って笑顔で食べてくれる。
『この人ほんとに優しいなあ。結婚して良かった』
と富(みつる)は思って自分もその崩れた肉の塊を食べていた。
ちなみに昨日はビーフシチューを作っていたがルーが足りない感じだったので、別の“シチュー”の箱を開けたつもりがカレールーだったので、ビーフシチューとカレーのミックスになってしまったが、亮平は「スパイシーシチューだね」と言って、笑顔でそれにフランスパンを浸したりして食べてくれた。
御飯の後、亮平が入れてくれたジャスミンティーを飲んでいた時、富(みつる)は急にお腹を押さえて椅子から崩れるように床に座り込んだ。
「みつりん!」
「もしかしたら出てくるかも」
「すぐ病院に行こう!」
それで亮平はタクシーを呼ぶ。今ビールを飲んじゃったので運転できないのである。
富(みつる)を支えながらエレベータで1階まで降りて、すぐに来てくれたタクシーに乗り込み、かかりつけの病院に入った。
医師は富(みつる)を見ると
「すぐ分娩室へ」
と言った。そして夜22時頃、富(みつる)は可愛い女の子を産みおとした。かなり安産の部類であったが
「辛かったよぉ」
と富(みつる)は言い、亮平は
「頑張ったね」
と笑顔で自分の妻をいたわった。
なお生まれた子供の血液型はB型であった。亮平はA型、富(みつる)はB型なので血液型的には矛盾がない。実はA型とB型の両親からはどの血液型でも生まれる可能性があるので、この問題について2人は何も心配していなかった。
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