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■夏の日の想い出・龍たちの伝説(2)

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その日、うちのマンションにまたまた雨宮先生が、お酒を飲むのを目的に?来訪していた。この日は偶然にもコスモスとアクア・葉月にエレメントガードのリーダー・ヤコも来訪していた。ちなみにマリは“サワークリーム食パン”に出かけていた(竜木マネージャーがドライバー兼監視役で付いて行っている)。
 
先生はアクアにも
「あんた高校卒業したんだからいいでしょ?付き合いなさいよ」
と言ったが、コスモスが
 
「20歳になるまではダメです」
 
ときつく言ったので
 
「あんた本当に偉そうだ」
 
と文句を言いながらも諦めた。ちなみに私もコスモスも飲まないが、ヤコは結構いけるので(コスモスの承認のもと)
「このウィスキー美味しいですね」
などと言って相伴していた。
 
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先生たちはサントリーの“響(ひびき)”Japanese Harmony を飲んでいたのだが、元々残り少なくなっていた(先日、トラベリングベルズの黒木さんとスターキッズの鷹野さんがかなり飲んでいった)ので尽きてしまう。それで先生は「もう1本開けよう」と言って、勝手に棚からボトルを出してくる。
 
それで開けて飲み始めるが
「あれ?味が違う」
と言う。
 

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それでよく見ると、それはサントリーの“響(ひびき)”ではなく、サラバーンの“饗(うたげ)”であった。
 
「ボトルが似てるから間違えた!」
「響と饗って字も似てるし」
「サントリーもサラバーンもSで始まっているし」
 
「いや、“饗”も充分美味しいんだけどね」
「さすがに“響”と比べると分が悪い」」
 
「先生、ボトルを間違えるほど酔っておられるなら、そろそろご帰宅なさっては」
と私は言ったが、先生は
 
「まだ大丈夫。アクアが2人に見えるようになったら危ないけど」
などと言っておられる。
 
私はほんとうにもう1人のアクアをここに呼ぼうかと思った。
 

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「そういえば昔、アメリカのTVドラマシリーズで『スパイ大作戦』というのがあってさ」
と先生はどうも長話になりそうな話を始めた。
 
「君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないのでそのつもりで。このテープは自動的に消滅する、という指令の声もうけたんだけどね」
 
「あ、それは聞いたことある」
とアクアも言った。
 
「政府の非公開組織 IM forceというのが、毎回様々な指令を受けて秘密工作をする。リーダーはピーター・グレイプス演じるジム・フェルプスで、4〜5人の少数精鋭で指令を実行する。このチームのチームワークがまた素晴らしいんだな」
 
「へー」
 
「それである時受けた指令がさ、反戦政治家が、米軍の派兵地での違法行為を暴いて、米軍を撤退させようとしていた。それを妨害しろという指令」
 
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「その指令には賛成できかねるなぁ。戦争はやめるべき」
とヤコが言うが
 
「まあお話だから」
と雨宮先生は言う。
 

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「その政治家は、派兵地での米兵の過剰行為を録画したフィルムを入手していた。しかしそのフィルムに映っている内容だけでは、違法とまではいえず、国会に政府追及の証拠として提出するには弱い。そこでその先生は俳優を呼んでさ、あたかもそのフィルムの続きであるかのように装い、もっと酷い行為をしている場面を撮影するんだよ」
 
「捏造(ねつぞう)ですか?」
 
「本物に続く場面だから本当のように見える。その先生としては、海外派兵はよくない行為だから、それをやめさせるためには多少の不正はしてもいいと考える」
 
「辞書通りの確信犯ってやつですね」
「そうそう。“確信犯”ということばは、概して誤用の方が多い」
と言って、先生はアクアを見ながら
 
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「アクアはしばしば出がけにズボンが見つからなかったという言い訳で、今日みたいにスカート穿いて出歩いているけど、それ絶対確信犯だから、なんていうのが誤用の方だな」
などと言っている。
 
「ほんとに見つからなかったんですよぉ」
「はいはい」
 

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「それでIM Forceがやったのはさ、その俳優を使って撮影している場面をこっそり撮影しちゃうんだよ」
 
「ああ」
 
「それでその政治家が、国会の委員たちにそのフィルムを見せる。前半は本物で、委員たちも、かなり難しい顔をしている。そして後半になると、みんな『これは酷い』と口々に言う。このまま行けば、国会は政府に対して即時撤退を求めるだろうという雰囲気。ところがそのフィルムが終わった後に、IM forceのメンバーが撮影したメイキング映像が流れちゃうんだな」
 
「なるほどー」
 
「委員たちはみんな大笑いして『なーんだ』と言って帰っちゃう。それでその先生の政府追及は失笑を買っただけで空振りに終わる」
 
「それは色々考えさせられるお話です」
 
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「世間では割と、本物に偽物を少しまぜて、全て本物であるかのように売る手法がある。でも偽物が混じっていることがいったん知れると、全てが偽物ではないかと世間の人は思う。たとえ実は本物が大半だったりしてもね」
 
「それ、不祥事をした警官が発覚すると、警官はみんな不祥事してるのではと思われるのと似てますね」
 
「そうそう。実際はほとんどの警官は真面目で仕事に誠実なんだけどね」
 

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そんな話をしていた時に、家電(いえでん)が鳴る。多くの場合、友人からの連絡や仕事関係の電話は携帯に掛かってくるので、家電は珍しい。私は受話器を取ると「はい」とだけ答えた。
 
「あ、ケイちゃん?私、松崎ノエルです」
「久しぶり!」
 
プリマヴェーラの夢路カエルである。
 
「私のアドレス帳のケイちゃんの携帯番号が古すぎる気がして。レイナ(プリマヴェーラの相棒・諏訪ハルカ)に聞いても自分のも古いかも知れないというから、八雲課長に電話して、家電の番号だけ教えてもらった」
 
「ごめんねー。だいたい半年に1度は携帯の番号変えてるから」
「大変だね!それで申し訳無いんだけど、そこに雨宮先生いたりしない?」
「いるけど」
 
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「よかった。実は会う約束してたんだけど、なかなか来ないもんだから。あちこち電話しまくっていたら、**さんがお昼頃遭遇して、確かケイさんの家に行くって言ってたよと言ったから。本人も誘われたらしいけど断ったらしくて」
 
「ああ、飲み仲間が欲しかったんだな」
 
会う約束というのは、つまりデートだろうなと思った。彼女と雨宮先生の付き合いは長い。いったん別れていたと思ったが、また復活したのだろう。
 
「じゃ代わるね」
 
それで雨宮先生は彼女と話す。
「ごめーん。うっかりしてた。今どこに居るの?OKOK。じゃ1時間後にそちらに行くよ」
と言って切る。
 
「誰か、私を越中島(えっちゅうじま)駅まで送ってくれない?」
と先生が言うと、コスモスが
 
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「私がお送りしますよ。ケイちゃん、申し訳無いけど、アクアと葉月をこの子たちのマンションまで送ってあげてもらえない?」
と言った。
 
「いいよ」
 
(この時期、葉月はアクアのマンションに同居中)
 

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それでコスモスが
「じゃ出ましようか」
と言うと、雨宮先生は腰を下ろしてしまう。
 
「越中島駅までは20-30分で行くから、あと30分飲む」
などとおっしゃる。
 
ヤコが心配して言った。
 
「先生、デートなんでしょ?あまり飲み過ぎるとあちら出来なくなったりしません?」
「平気平気。私のはウィスキーボトル2本くらい空けても立つから」
「酔いすぎて間違ってウィスキーボトルの穴に入れちゃったりして」
「そういう失敗は3回くらいしかしたことはない」
 
間違ったことがあるのか!?
 
「そもそも睾丸が無いのによく立ちますね」
とコスモスが呆れるように言う。
 

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「立てるのは気合いよ」
などとおっしゃっている。
 
「そうだ。アクアも葉月も睾丸取っちゃったから、女の子と寝る時は気合いでちんちん立てなさい」
とまで言う。
 
「どういう気合いなんです?」
とアクアも呆れたように答える。
 
「普通は睾丸が無いと、ちんちんは立たない人が多い。でも立つ人もある。私みたいにね。それはひとつは、ちんちんが立つと思い込むこと」
 
「自己暗示ですか」
 
「そうそう。MTFの人の多くは去勢した後、立たなくなる。それは自分はもう去勢したから、勃起しなくて済むという精神的な安心感が勃起を阻むんだよ」
 
「へー」
 
「だいたいEDの原因の大部分は精神的なもの」
「それはそうでしょうね」
 
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「だから去勢していても毎日ちゃんとオナニーしていれば立つよ」
「毎日するんですか?」
とアクアが訊いている。
 
「普通の男は毎日オナニーしている。あんたオナニーなんてしてないでしょ?」
「週に1回くらいはしてますよ」
とアクア。
 
「それはしてる内に入らない。でも睾丸がたとえ無くても毎日オナニーしてればちゃんと勃起能力は維持できるよ」
と雨宮先生。
 
「そんなものですか?」
「それプラス自分はちゃんと立つと思い込むことだね」
 
「なんか哲学的な話だ」
などとヤコは言っている。
 
「ヤコちゃん、あんただって毎日してれば立つようになるよ」
「立てるものが存在しない場合は、どうすれぱいいんでしょう?」
「最近は、ちんちん要らないという男の子が多いから、譲ってもらえばいいね」
「まあドナーは多いかも知れませんね」
 
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今年は多くの学校が8月24日から授業を開始したのだが、聖子F(葉月F)の学校では、元々出席日数が危ない生徒が多いこともあり、8月17日には授業を再開した。聖子Fはその日、生物の授業を受けていた。
 
「そういう訳で、メンデルの遺伝の法則をまとめると(1)優性の法則、(2)独立の法則、(3)分離の法則、という3つの法則にまとめられる。これをきれいに表すものとして血液型の遺伝問題がある」
 
と言って先生は図をプロジェクタでホワイトボードに投影した。
 
「血液型を決める遺伝子は“主なものに”A因子、B因子、O因子がある。これは人間のゲノムの第9染色体上に存在しているが、人間のほとんどは2倍体(diploid)なので、この遺伝子情報を2個持っている」
 
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「これは母親由来つまり卵子から来たものと父親由来つまり精子から来たものと2個だな。それで2種類の因子を持ち、因子にはABO3種類があるので、血液型遺伝子の組合せは、AA, AB, AO, BB, BO, OO の6種類ができることになる。数学でいうと、3個から重複を許して2個を取る組合せの数 H(3,2)=C(3+2-1,2)=C(4,2)=(4×3)/(2×1)=12/2=6 だ。しかしここでA型因子とB型因子はO型因子より“優性”なので、AAもAOもA型になり、BBもBOもB型になる。ここに優性の法則が出ている」
 
と言って、先生はプロジェクタで表示した図を指し示した。
 

 
「分離の法則が出るのはこういうケースだ」
と言って、先生は別の図をプロジェクタで表示した。
 
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「このケースでは第2世代ではAO,BOの子供ができているが、優性の法則によりO型遺伝子は発現せず、どちらもA型・B型になっている。ところが第3世代になると、O型の子ができて、お祖父さんだかお祖母さんの血液型が再現している。俗に言う隔世遺伝という奴だな。しばしば霊感とか、音楽的才能とか、その手のものが隔世遺伝で現れる。つまりそういう能力は優性ではなく劣性遺伝なのだろうと思う。沖縄の伝統的信仰の巫女であるノロはしばしばお祖母さんから孫娘へと継承されたらしい。孫の世代にそういう能力を持った人が現れていたからだと思う。室町幕府も江戸幕府も幕府創立者の子供は大したことないが、孫の足利義満、徳川家光は凄かった。こういうのも多分隔世遺伝なんだろうな」
 
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と先生は生物の授業の範囲から飛び出すことまで話していた。
 
そういえばケイ先生のお母さんは音楽苦手だけど、お祖母さんは民謡の家元だったとか言ってたなあ、などと聖子は思っていた。あれも隔世遺伝なのだろうか。
 
ここで手を挙げる子がいる。そして
 
「アルセーヌ・ルパンの孫のルパン三世に泥棒の才能が現れたのも隔世遺伝でしょうか?」
などと質問するのは、例によって紀子である!すると先生は平然として
 
「金田一耕助の孫が名探偵になったようなものだな」
と答えた!
 

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