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■夏の日の想い出・十二月(1)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-07-27
 
 
2019年2月、鱒渕水帆は鳥取県の湯梨浜町・羽合(はわい)で、“羽合碁王”というハワイアンバンドのメンバーと会った。この名前は町の名前“はわい”に引っかけて、1970年代の人気刑事ドラマHawaii Five-0(ハワイ・ファイブ・オー) にちなんだものと思われる(2010年以降リメイク版が放送中)。
 
彼らはアマチュアのハワイアン・バンドなのだが、昨年フランス領ポリネシアをテーマにした『プカプカ』というアルバム(自主制作のディストリビューター流通)を発表していたのをケイが偶然見掛け、買ってみたら“当たり”で、けっこう熱心に聴いていた。
 
プカプカというと、日本ではクック諸島の孤島Puka Pukaが比較的知られているが、実は同名の島がフランス領ポリネシアにもあるのである。こちらも他の島から遠く離れた孤島である。このことはアルバム『プカプカ』に封入されたパンフレットにも記載されており、ケイはフランス領ポリネシアの地図を広げて、その島を見付け「ここだけ他の島と離れている!」などと言って感心していた。
 
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実際のアルバム『プカプカ』は、プカプカ島固有の音楽ということではなく、一般的なポリネシア風の音楽で、使用している楽器も普段彼らが使用しているハワイアンの楽器(ウクレレ・ギター・スティールギターなど)であった。『プカプカ』『タカトコ』『タヒチ』『モオレア』『ヴァナヴァナ』など多数のフランス領ポリネシアの島の名前をタイトルにしていたが、各々の島の写真を見て、そこからイメージを膨らませて書いた作品だと断ってあった。
 
彼らのプロフィールを調べてみると、男性3人のユニットで、2人は大学2年生、もうひとりは彼らの高校の同級生で居酒屋でバイトをしていることが分かった。それで“ミッション”に都合がいいかもとケイと鱒渕は話しあい、接触してみたのである。
 
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彼らは東京のプロダクションのマネージャーというので、デビューしないかと言われるかも?と期待の目でこちらを見ていた。
 
「私はローズ+リリーのマネージャーです」
と自己紹介して
 
《サマーガールズ出版マネージャー/ローズ+リリー担当/鱒渕水帆》
 
の名刺を3人に配った。そして鱒渕は彼らに言った。
 
「実は羽合碁王さんが昨年出したアルバム『Puka Puka』を聞いてローズ+リリーのケイが凄く気に入りましてね」
と鱒渕が言うと
 
「それはよかったです」
と言いながら、小声で
 
『ケイって誰?』
『確かローズ&リリーのリーダーだよ』
 
などと会話をしているのが微笑ましい。
 
ちなみにローズ+リリーのリーダーはマリである!
 
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「私も聴かせていただいたんですが、ほんとに南国にいるみたいで心地よいサウンドですね」
 
「俺たちも南国の島にいる気分で書いたんですよ。本当は沖縄かせめて奄美にでも行って、書きたかったんだけど、金が無くて。もう想像だけです」
 
「『モオレア』は本当にエメラルドグリーンの海が見えるみたい」
「実はフレンチ・ポリネシアの写真だけでは想像しきれなくて、沖縄旅行に行って来た友だちから写真をたくさん見せてもらって書きました」
 
「なるほどぉ!」
 
「この付近じゃ、あんな明るい海って無いし」
「やはり海流の関係かしらね」
「住んでいるプランクトンの違いとか聞いたことありますよ」
 
「あと『ボラボラ』はまるで本当に海の中から高い山がそびえているみたいで、飛行機のエンジン音みたいに聞こえるのはあれはシンセサイザで作ったんですか?」
 
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「あれ出雲空港に行って録音してきたんですよ」
「そうだったんだ!でも鳥取空港じゃなくて?」
「鳥取空港にはジェット機しか就航してないんですよ」
「へー!」
 
「鳥取は今羽田便だけですけど、ボーイング737-800とエアバスA320だけです。米子空港も羽田便だけで使用される機材は同じ737-800とA320。でも出雲空港は福岡便と隠岐便にサーブ社の340Bが飛んでいるんです」
と1人の青年(酒田さん)が答える。
 
「凄い!あなた飛行機に詳しいみたい。修行僧とか?」
「いや、金が無いので脳内修行僧です」
「それもいいよね!時刻表マニアとかいるし」
「あ、俺わりと時刻表マニアです。JTBの時刻表なら、どの線が載っているページでも3秒以内に開けますよ」
 
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「すごーい!」
と鱒渕は満面の笑顔で言った。
 
「お金があったら、グアムとかハワイでなくてもほんとせめて沖縄とかに行って曲を書きたいね、なんて言ってたんですけどね」
と1人の青年が言う。
 
鱒渕の目がキラリと光る。
 
「あら、だったらちょっと南の島に行って来たりしない?」
「いいですね〜」
 
「1ヶ月か、よかったら3ヶ月くらい」
 
と鱒渕が言うと、3人が顔を見合わせた。
 
「もしかして何かの仕事ですか?」
 

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それで鱒渕は説明した。
 
「実はローズ+リリーで、タヒチ音楽風の曲を制作する予定があるのですが、伴奏してくれそうなバンドを探したものの、国内でタヒチ音楽をしているバンドとかが見当たらないんですよ。それであなたたちがタヒチ風の曲を発表していたので、もし興味がおありなら、実際にタヒチに行って、現地でタヒチの楽器とかを習ってきた上で監修と伴奏をしてくれたりしないかなと思って」
 
「それが1ヶ月あるいは3ヶ月と?」
「ええ1ヶ月なら春休みにぶつけていいですよ。3ヶ月なら3月から5月まで。制作は夏以降になると思うので」
 
彼らは顔を見合わせている。
 
「現地の民謡団体とは話が付いています。フランス語と日本語の日本人通訳、タヒチ語とフランス語の現地人通訳を付けます。生活費はもちろん全部見ます」
 
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彼らは興味津々である。
 
「3つお願いしたいことがあるのですが」
 
「はい」
 
「現地でタヒチの楽器を習い、歌なども習うとともに、現地の景色とか町の様子を見た上で曲を5−6曲書いてみて欲しいんです。そういう経験がタヒチ音楽を深く理解するのにも役立つと思うので」
 
「なるほど。5−6曲ですか」
 
「あと2つは禁止事項です。ひとつはタトゥの禁止。“タトゥ”という単語の語源がタヒチ語で、現地では盛んですが、勧められても会社から禁止されているのでと断ってください。やはり日本での活動に差し障りが出てしまうので。もうひとつは現地の女性とのセックス禁止。これはトラブルの元になるので。女性の取り合いで喧嘩などになると困ります。まあ相手は女性とは限りませんが。代わりに各自の恋人を連れて行っていいですよ。その分の交通費も出しますから」
 
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「それ凄く興味あります。セックスは我慢します。恋人についてはまた後で回答していいですか?」
 
と彼らの中でリーダーっぽい中橋さんという人が訊いた。
 
「いいですよ。ちなみに恋人は女性でも男性でもいいですから」
と鱒渕は答える。
 
1人の青年(村原さん)が少し考えるようにして言った。
「実は・・・男の娘の恋人がいるんですが」
「全然問題ありません」
と鱒渕は即答する。
 
「ちなみに経費以外の報酬とかはあるんでしょうか?」
と中橋さんが訊く。
 
「アルバム制作の際の伴奏料とかはまた後日ご提案しますが、タヒチ遠征の報酬は1ヶ月300万円という線でどうでしょう?3ヶ月行ってくれるなら900万」
 
「900万か・・・。3人で分けると300万・・・」
と中橋さんは考えるように口にしたのだが、鱒渕は訂正した。
 
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「違います。1人900万です」
 
彼らは顔を見合わせた。そして即答した。
 
「やります!3ヶ月コースで」
 

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「ひかるのご?」
と聞いたとき、アクアも葉月もその言葉の意味が分からなかった。
 
「“のご”って花か何かの名前ですか?」
「違う、違う。『ヒカルの碁』」
と言って中村万作監督は紙に漢字で書いて見せた。
 
「囲碁の漫画なんだけど知らない?」
「知りません」
とふたりとも答えるので、監督は
「そうか。今の若い子は知らないよなあ」
と嘆いた。
 
それで監督は物語のあらすじを説明した。
 
「そんな幽霊に教えられながら碁を打つってズルだと思います」
とアクアは素直な感想を言った。
 
「うん。だから佐為は消えざるを得なかったんだろうね。これはたぶん原作の基本設定が招いた悲劇だと思う」
 
「普段の対局中は絶対に口出ししないように厳命しておいて、ネットで思いっきり打たせてあげればよかったのに」
と葉月は言うが
 
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「それはそうなんだけど、その内、sai は実際にはヒカルが打っているというのが、いつかは誰かにバレて面倒なことになったと思うよ」
と監督は言った。
 

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『キャッツアイ』『80日間世界一周』でも脚本を書いた稲本さんに脚本を書いてもらい、両作品で助監督を務めた高原さんも加わって検討していった所、どうしても2回以上に分割せざるを得ないということになり、今年はプロ試験を受ける直前までをひとつの映画にすることになった。
 
「ところで君たちは囲碁ってやったことある?」
 
「ボクは一昨年アマ四段の免状を頂きました」
とアクア。
「そうだったんだ!」
 
「ルールも知りません」
と葉月。
 
「だったら、囲碁初心者のヒカルが碁盤で対局するシーンは葉月ちゃんが打つところの手を撮影すればいいね」
と監督は言った。
 
実際そのシーンは“葉月が上達してしまう前に”ということで5月中に撮影した。
 
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「でもルールも知らないというのは困るから、スマホ用の適当な囲碁ソフトを紹介するから、それで勉強して夏までには10級程度にはなっておいてよ」
 
「分かりました!」
 

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2019年9月“ゴールデンシックス”のツアーが発表されたのに対して、その日程と会場はローズ+リリーのツアーではなかったのか?という問い合わせが大量に発生した。それでローズ+リリーとゴールデンシックスで共同記者会見をおこなった。
 
出席したのは、私とマリ、リノンとカノン、鱒渕・秩父、菱沼・板橋、氷川の9人である。それでゴールデンシックスがローズ+リリーに「勝負」を挑んで、カラオケ対決に勝ち、ツアー日程を奪い取ったという説明をすると記者たちの間には爆笑が起きていた。
 
「今回はリノンに完敗でした。鍛え直してまた来年勝負します」
とマリが言うと
「今度はローズ+リリーのドーム・ライブを奪い取ろうかな」
とリノンは言った。
 
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記者会見は和気藹々と進んだが、ネットの声は「マリちゃんが負けたのなら仕方ない」「リノンすげー」とリノンを称讃する声が多かった。
 

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「本当にちんちんを切ってもいいですね?」
と医者は念を押した。
 
「はい。お願いします。そんなの付いてるなんて可哀相」
と母親は言った。
 
それで赤ちゃんは手術室に運ばれていった。
 
2時間後、手術室からまだ麻酔から回復していない赤ちゃんが運び出されてきた。医者は母親に告げた。
 
「手術は成功しました。赤ちゃんはもう立派な女の子です。出生証明書も女児と記載しておきますね」
 

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「そういう訳でお前はちんちん取って女の子にしてもらったんだよ、ってよく母ちゃんが言ってたからさ、ボクはてっきり自分は男の子だったのが女の子に変えられてしまったんだと思って、男の子に戻りたいと思いながら育ったんだよ」
 
と鮎川ゆまは言った。
 
「それ半陰陽か何かだったの?」
と松野凛子が訊く。
 
「小学校3年生の頃に『ボクって生まれた時はおちんちん付いてたんでしょ?』とあらためて母ちゃんに訊いたらさ『そんな訳ないじゃん』と言うんだよ。でも生まれてすぐお医者さんに頼んでちんちん取ってもらったと言ってたじゃん、と言ったら『そんなのジョークに決まってるじゃん』と言われて。ボクずっと信じていたのに」
とゆまは不快そうに言う。
 
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「ひっどーい」
 
「それで自分が実は男だったのかもという不安は消えたものの、男になりたいという思いはそのままでさ。だから中学の時も高校の時も、よく学生服着て外を歩いて、男子トイレも使っていたよ」
とゆまは言った。
 

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「今でも男になりたい?」
と樹梨菜が尋ねた。
 
「びみょー。手術代高そうだし、凄く痛そうだし」
 
「ゆまちゃん、恋愛対象は?」
「普通にストレートだよ」
「ああ。男の子が好きなんだ?」
「違うよ〜。ボクはホモじゃないし。女の子としか恋愛したことないよ」
 
「うーん」
と私たちは顔を見合わせた。つまり、ゆまの性別意識は男なのだろうか?
 
「ゆまちゃん、トイレはどちらに入るの?」
「男子トイレ。実は女子トイレに入ろうとすると悲鳴をあげられる。まあボクは立ってするのが好きだし」
 
「すごーい!立ってできるんだ?」
 
「ゆまちゃん、お風呂はどちらに入る?」
「女湯。男湯に入るには、胸があるから無理」
「なるほどー!」
「女湯では必ず悲鳴あげられるから、ちんちん無いことを確認してもらってから入る」
「大変ね!」
 
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「じゃ、ちんちんは無いのね?」
「欲しいんだけどね〜」
 

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夏の日の想い出・十二月(1)

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