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■夏の日の想い出・十二月(10)
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そういうわけで9月上旬に制作された『花園の秘密/レジンの首飾り』であるが、10月9日の発売記者会見には、コスモス社長、私、加藤珈琲(葵照子)、TKRの三田原部長、そして“ナナちゃん人形”の5人(?)が出席した。アクア本人は記者会見のテーブルには就かない。
“北里ナナ”は昨年『シルバークリスマス』の発表をした時と同様にペッパーズゴーストで歌と踊りを披露したが、2人デュエットするシーンは女の子衣装のアクア(1人は豪華衣装・1人は安っぽい衣装)が2人並んでデュエットしたので
「今のは録画と本人をヘッパーズゴーストで合成したものですか?」
と質問された。しかしコスモスは
「実は両方とも録画です」
と答えていた。
本当は記者が言った通り、安っぽい衣装のアクアN(でもこちらが主役)のダンス録画に、豪華衣装のアクアFが生で合わせて踊ったものである。記者さんはなかなか鋭いなと私は思った。アクアFはその後も“北里ナナの声”だけで、記者からの質問に答えていた。
アクアはこの北里ナナ名義のCDを出した後、10月中旬の連休(12土13日14祝)から、今度はアクア本人名義のミニアルバム制作に入った。都内のスタジオで制作すると、追っかけが面倒という問題もあり、実は今回の制作は郷愁スタジオを使用した!
ローズ+リリーが『十二月』の制作をしているのは郷愁スタジオの静電遮蔽された新スタジオの方なのだが、実は旧スタジオでは映像関係の機器を入れてアクアの映画のビデオ編集作業を7月から撮影と同時進行でやっていた。それがだいたい10月上旬までには一段落したので、その後、そこでアクアの音源製作をすることにしたのである。
このことはマリには秘密である!
アクアは学校に行かなければならないので、楽器演奏部分を平日に録り、金曜夕方に山村マネージャーが黒いインプレッサG4でアクアを連れてきて月曜朝まで休憩を取りながら歌唱の録音をする。金曜の放課後に学校からアクアを連れ出す時はいつもの白いボルボを使うのだが、目立たないようにするため、途中でわざわざ黒いインプレッサに乗せ替えているのである。
Impreza G4 2.0i-S Eyesight Crystal-Black-Silica 1995cc AWD Lineartronic (CVTの7MTモード付)
黒いインプレッサを使うのは、アクアは白い車に乗っているというイメージがあるので、気付かれにくくするためである。この車は千里の私物らしいが今年夏前に購入して山村に託しているものらしい。ボディの丈夫さでは国内車でもトップクラス。歩行者用エアバッグまで装備した最新型である。
でも実は金曜の放課後に学校の玄関で白いボルボに乗るアクアと、黒いインプレッサでスタジオに入るアクアは別のアクアである!
これをやるため、緑川志穂と高村友香にアクアが実は3人いることを打ち明けたのだが「そんな気はしていた」と2人とも言った。三つ子などではなく、何かのはずみで起きた、超自然現象で、霊能者の話によれば、いづれ1人に戻るはずという説明には
「忙しさに耐えかねて分裂したのかも」
「アクアの人気が少し落ち着いて、仕事も減った頃に1人に戻るのかも」
と2人は言っていた。
それで学校に迎えに行くのは緑川や高村だが、彼女たちはアクアを自宅マンションに連れて帰る。そして山村が(日中仮眠していた)別のアクアを郷愁村に連れて行くのである。
エレメントガードや追加のミュージシャンは、旅館“昭和”の社員寮の空き部屋に泊めてもらっている。アクアだけは金土日の晩、“昭和”のコテージ型特別室“桜”の一棟に泊める。アクアを特別室に泊めることは誰も変には思わないが、実は分けている主たる理由はアクアが3人いるからである!3人はだいたい3時間くらいで交替しているっぽい。
旧スタジオでアクアの音源製作が行われていることがマリにバレないようにするのには細心の注意を払った。まず旧スタジオの出入口を「間違えないように」という言い訳で反対側に付け替えている。これで実際社員寮に泊まっているエレメントガードや他のミュージシャンは「自分たちも間違えにくくていい」と言っていた。
(↑の地図に見るように新スタジオの出入口はマンション側にあるが、旧スタジオの出入口はマンション側にあったものを塞いで、社員寮方面からの道路側に付け変えたのである。浄水場の配管の上にコンクリート・ブロックを置いていた場所を旧スタジオ用の駐車場として開放した)
食事を取るのにも、各々のスタジオには“昭和”からデリバリーしているし、マンションに泊まり込んでいるローズ+リリーの制作に参加している人たちはムーラン郷愁村店で食べるか、デリバリーしてもらい、アクアの音源製作に参加している人は寮の食堂で食べるかデリバリーで、彼らにはムーラン郷愁村店の使用を禁止している(出前はOK)。
「マリがアクアの音源製作がこちらで行われていることに気付いたら、絶対邪魔されるから言わないこと。ネットなどにも絶対書かないこと」
と言ったら、全員納得してくれた。
マリに口出しされると、振り回されるのは容易に想像が付く!
アクアのミニアルバムの中で最初に制作したのは『Hei Tiare』である。Havai'i99のメンバーがあらためて伴奏を作ってくれたので、アクアがこれに歌を乗せた(歌ったのはアクアN)。
実際には先にPVを制作している。できるだけ南国の気分が出るように、9月の内(北海道にアクアNが行った翌週)にアクアMと今井葉月・姫路スピカの3人および Havai'i99のメンバーで奄美大島まで飛び、宇宿港そばの広場で夜間に(許可を取り)松明を焚いて、その灯りの下でHavai'i99のメンバーが演奏し、アクアたち3人が踊る映像を撮影した。
アクアたちはその後タヒチアン・ダンス(の女性型ダンス−腰を細かく振る:男性型は膝を細かく振る)のレッスンを受けたので、踊りが5月の時より、さまになっていた。この奄美で再録した映像を5月にタヒチで撮影した映像と混ぜて編集した。
続いて醍醐春海作詞作曲の『Bandai』および大宮万葉作詞作曲の『Sky Mountains』を続けて制作した。演奏は通常のエレメントガードに私と千里2がヴァイオリンで加わった構成である。9月中は私も千里2も結構時間が取れたのである。
(ヴァイオリンは千里2が3人の千里の中でいちばん上手い)
なおこの2曲は8月に千里と青葉がバイクで裏磐梯を走って来たときに書いた曲らしい。使用したバイクは
千里 Kawasaki ZZR-1400 limegreen
青葉 Yamaha FJR1300AS Blue
ということで2人とも巨大バイクである。
「Bandaiって、福島県の磐梯だったのか」
と歌詞を見てアクアたちが言っていた。
「タイトルだけ聞いた段階で意見が分かれたんですよね〜」
などとアクアMが言っている。
「Fはゲーム会社のバンダイではないか、Mはお風呂の番台ではないか、ボクは割烹とかで料理を入れている丸い木製の盤台では、とか言っていたのですが」
とアクアN。
「3人ともハズレたね」
とアクアF。
「ゲーム会社のバンダイって、もしかして福島県で始めたとか?」
「いや、あそこは東京のおもちゃ屋さんで、元々の字は『萬代屋』だよ」
と私は字を書いてみせた。
「その字だったのか」
「萬代というのは中国の古典に出てくることば。元々は布を作る会社だった。その端切れで人形を作り始めたのが発端」
「そんな所からおもちゃの一種としてゲームに参入した訳ですか」
「まあ副業がメインになってしまうことはよくある」
『Beforte the Kettle boils』はマリ&ケイから提供した曲で、ヤカンが沸く前に愛の告白をしてしまおうという歌詞である。過去にアクアが歌ってきた曲からすると、おとなっぽい曲だが、アクアもそろそろこういう歌を歌って行ってよいだろう。この歌詞はFが結構気に入っていたようである。それで実際この歌はFに歌わせたものを収録したら、凄く艶めかしい雰囲気が出て
「これとても男の子が歌っているように聞こえないんですけど」
「これ聞いただけで立ちました。すみません」
などという意見も出ていたが
「別にいいでしょ。今更だし」
という秋風コスモスの一言で、そのまま活かすことになった。
「実際アクアが男の子だと思っている人なんてほとんど居ないよ」
とコスモスが言うと
「それ困るんですけどぉ」
とアクアMは言っていた。
『Motorbike built for two』は琴沢幸穂(千里2と千里3の共同ペンネーム)から提供された作品である。実際には千里2が書いたらしい。毎年たくさん四輪・二輪のレースに出ている千里2らしいと私は思った。
この曲の間奏部分には Harry Dacre (1857-1922)作詞作曲の"Bicycle built for two"(しばしばイギリス民謡と紹介されるが、作詞作曲者は明確)のサビ部分を合唱で歌うのが入っている。
Daisy, Daisy, Give me your answer, do! I'm half crazy, All for the love of you, It won't be a stylish marriage, I can't afford a carriage, But you'll look sweet on the seat Of a bicycle built for two!
盛大な結婚式も挙げられないし、馬車も用意できないけど、2人乗り自転車に乗った君はきっと可愛いよと歌っている。近年ではこの部分だけ歌われることが多いが、本当は長い曲の中のサビ部分である。
しばしば女の子がこの求愛を「そんなの嫌よ」と断る歌詞が付け加えられるが、それはオリジナル歌詞には無い“替え歌”である。
「馬車も用意できない男なんてお断り」と言う女は高ピー(死語?)で可愛げが無い。オリジナル歌詞とは世界観が違う。
この "Daisy Bell" のコーラスを歌ったのは今井葉月、姫路スピカ、白鳥リズム、東雲はるこ、の4人。スピカとリズムがソプラノ、葉月とはるこがアルトを歌っている。
他に自転車のベルを鳴らす所もあるが、これはアクア自身が歌いながら鳴らした。
ところで、“2人乗りのバイク”と聞いて、多くの人がバイクのタンデム乗りを想像した。
ところが「音源製作の前に実物を見て欲しい」と千里が言い、南千葉サーキットに出かけた私たちはその“実物”のヴィジュアルに度肝を抜かれた。
「何これ〜〜!?」
とアクアFが声をあげた。
この日、南千葉サーキットは午前中を完全に貸切にしていて、誰も居ない。スタッフの人にも休んでもらっている。ゲートを開けてくれた警備員さんだけであるが、彼はゲートの所から離れないから、サーキット内部には来ない。何か必要なら電話してくれと言って電話番号を伝えている。
そしてここに来ているのは、私、千里2・千里3、山村、3人のアクアの7人だけである。複数のアクアを同席させるためには誰も居ない環境を作る必要がある。
私は千里2と千里3が普通に挨拶して握手したりしているのを見て呆れた!
「仲良かったんだっけ?」
「セックスくらいしてもいい程度には仲良いよ」
「でも2人ともちんちん持ってないからセックスできないね」
どこまで本気なのかはよく分からない。
「私たちビアンの傾向も無いし」
「1番は男の子とするよりビアンの方が好きみたいだけど」
「信次さんとは結局、1番が男役、信次さんが女役というセックスしかしていなかったみたいね」
「なぜあの子が男性同性愛者の信次さんと結婚できたのか謎だったけど、やっとメカニズムが分かった」
などとも言っている。アクアたちが興味深そうに聞いているので、教育によくないなあと私は思った。
そして千里がワゴン車に積んで持ち込んできた“もの”は、千里が言うには《ソーシャブル・バイク》というもので、少なくとも日本国内にはたぶんこれ1台だけだろうということであった。
一般的な《2人乗り自転車》は前後に座って2人とも自転車を漕げるようになっている。これをやはりバイクの“一般的な”2人乗りと同様にタンデムtandem bicycle いう。ところが19世紀の終わり頃に、通常の2輪の自転車の左右に座席があり、タンデム型と同様、2人のどちらも漕ぐことができるようになった自転車が作られ、ある程度売れたらしいのである。これを、乗っている人同士が会話しやすいという意味で sociable (bicycle) と呼んだ。
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