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■夏の日の想い出・十二月(7)
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そういう訳で『トロピカルホリデー』はケイ作詞・Havai'i99作曲ということで『十二月』の中で最初に制作することになったのである。
この作業は「ノってる内にやっちゃおう」ということで、この後7月24日までに『トロピカルホリデー』の歌詞にメロディーを合わせ付ける作業、マリのパートを書く作業をした上で、苗場ロックフェスティバルの直後、7月31日(水)に新宿のXスタジオ分室で収録した。強烈なトエレとパフが奏でるリズムの中、ウクレレとギターが奏でる和音に乗せて、私とマリの歌を入れた。マリは「頭をタヒチの頭にする」と言って、応援で撮影に行った美原友紀さんと彼女の男性助手(従弟らしい。ボディガードを兼ねる)が現地で録音してきてくれたヘイヴァ祭の映像と音を前日に丸1日見てから録音に臨んだので、ノリノリだった。
「マリさん、なんでそんなにタヒチっぽく歌えるんです?」
とHavai'i99のメンバーたちが驚いていた。
この曲ではスターキッズはお休みであるが、本格的なタヒチ音楽のバンドということで、ぜひ見学したいと言い、全員スタジオで見学した。他に世界選手権に行っていて29日に帰国したばかりの青葉、ちょうど青葉と会っていた千里も見学した。でも大勢に見学されていて Havai'i99のメンバーは無茶苦茶緊張したらしい。
7.17 青葉が韓国へ移動
7.21-28 韓国光州で世界水泳選手権
7.25 私が苗場へ移動
7.26-28 苗場ロックフェスティバル
7.29 私とマリが東京に戻る・青葉が帰国
7.30 マリが1日、タヒチのお祭りの映像を見聞きしまくる
7.31 『トロピカルホリデー』の歌唱録音
「では次は9月上旬にアクアの『Hei Tiare』の再録をしましょう。城野さん、近い内に富山の病院に行きます?実際の手術は来年以降でもいいと思いますけど診察だけでも」
「それなんですが・・・どう説明していいか分からないことが起きて」
と月は言った。
「ちょっと個人的に相談に乗ってくれたりはしませんよね?」
私はふと青葉の顔を見た。
「ここにいる大宮万葉は実は霊能者でもあって、不思議な出来事に関する相談とかもしているんですけど、もしかして役に立ちます?」
「もしかしたら、霊能者さんがいちばんいいかも。こんなことお医者さんとか心理カウンセラーとかに話しても信じてくれなさそうで」
「それ私も同席した方がいい気がする」
と千里が言った。(髪が長いので2か3だと思うが、どちらかはよく分からない)
「もしかしたら私は取り敢えず席を外した方がいいかも?」
と私は言った。
「うん。必要なら呼ぶよ」
と千里が言った。
それで、結局、青葉・千里、月さんと彼女の夫の村原宏紀さんの4人で、スタジオの空き部屋を借りて話を聞くことにしたのである。
4人の話し合いは1時間ほど掛かっていたようだが、やがて明るい表情で出てきた。
「どうだった?」
と私は訊いた。
「月さんは既に完全な女性です。射水市の病院に行く必要はないでしょう」
と青葉は言った。
「そうなの!?」
「どっちみち“性別訂正”の手続きを進めることになるかと思います」
「じゃ、やはり女性になるのね。入院はどのくらい必要?」
「必要ないと思いますよ。何も治療の必要はないですから」
「へー」
「村原さんも現在完全な男性ですね」
「・・・以前から男性でしたよね?」
「いや、それが・・・」
「まあ色々あったので。彼も治療の必要性はないですから」
どうも何かあったようだが、恐らく青葉と千里の共同作業で解決したのだろう。
「青葉、この件、見料は私が払うから、あとで請求書回して」
と私は言った。
「分かりました」
Havai'i 99 のメンバーには、渡航前の約束のひとつでこちらにタヒチの楽器や音楽を教えて欲しいと頼んでいたので、ローズ+リリーのアルバムの制作が本格化する9月までの期間を利用して指導をお願いした。
最初に音階の話をしたのだが、タヒチを含めてポリネシアン音楽で特徴的なのはラの音を半音下げる音階(sus6)である。普通の西洋楽器ででも、ドレミファソ♭ラと弾いてみると、それだけで随分ポリネシアンっぽくなる。この音階は、Havai'i 99 のメンバーもまねごとのハワイアンを演奏していた頃から、よく使用していたという。
彼らに楽器を習ったのはこういう面々である。
スターキッズ 近藤・鷹野・酒向・月丘・七星
フレンズ 宮本・香月 (山森は多忙につきパス)
ローズクォーツ マキ・タカ・サト・ヤス・マリナ・ケイナ
§§ミュージック 西宮ネオン・白鳥リズム・東雲はるこ・町田朱美
その他 秋乃風花、川原夢美、山下響美(夢美の姉)
トラベリングベルズ 黒木信司・木月春孝・鐘崎大地・児玉実・相沢海香
授業料は1人2万円で当面毎月50万円を、サマーガールズ出版からHavai'i99に払うことにした。
まず打楽器組(男性全員−マリナ・ケイナを含む−と夢美・海香)は全員タリパラウから始める。
「私たちも打楽器組?」
とマリナが尋ねたが
「あんたたち男でしょ?」
と海香から言われる。
「まあ法的には」
「それとも手術して女になる?女になるなら、要らないちんちん譲って欲しい」
「ちんちんはヴァギナ作る材料にするから、あげられないんだけど」
「やはり手術するんだ?」
「しない、しない」
「でも女の子になりたいんでしょ?」
「なりたくないよ。女装はただの芸だよ」
「誤解している人多いけどね」
「Wikipediaにまで、メンバーは2人ともMTFって書かれていた」
「性転換手術はまだだが、豊胸・去勢済みと書かれていた」
「豊胸だけしてるんだっけ?」
「してない!」
「毛の処理が大変だからレーザー脱毛だけはした」
「でもあんたたち、もう男には戻れない気がするけど」
「そういう指摘はある」
「もう“俺”とか“僕”って自称使えないし」
「男物の服なんて、もう持ってないし」
「友だちの結婚式とかもドレスで出てるし」
「彼女には自分はレズじゃないからって振られたし」
「男子トイレにはもう10年以上入ってないし」
「男湯に入ろうとすると追い出されるし」
「じや女湯に入るの?」
「それは企業秘密で」
「プールでは女子更衣室使ってビキニとかも着てるし」
「女性の裸を見ても何も感じないんだよね」
「じゃオナニーする時は男性の写真とか見るの?」
「そのあたりは企業秘密で」
「母親からまで、いつ性転換手術するの?って訊かれた」
「私の母親は『あんたまだ戸籍に二男って書かれているけど』と言ってきた」
「私は兄貴が結婚したとき交換した家族票に妹と書かれていた。結婚式の時は色留袖着せられた」
「あんたたち手術してなくても既に社会的には性転換済みという気がする」
「うーん。。。」
ともかくも彼らを含む男性組(+夢美・海香)はタリパラウを2週間やって、合格した人だけが、次のファアテテに進む。これを2週間やって、合格した人だけがトエレに進む。結局このメンツの中でトエレを習うことを認めてもらったのは、
近藤・鷹野・タカ・リズム・黒木・木月・海香
の7人だけであった。まさかのドラマー3名不合格で酒向さんもサトも鐘崎さんも悔しがっていた。3人ともファアテテには進めた。
「ドラムスの技法が身につきすぎているのかも知れないですね。でも現段階では合格は出せません」
と中橋さんは言っていた。
夢美・ネオンもファアテテまでだった。女性では海香とリズムだけがファアテテを卒業できたが
「2人ともスポーツする男性並みの筋力」
と言われていた。
「まあボクはテニスで鍛えてるし、音響設計の実習では建設現場とかに入って建材を抱えたりしてたし」
と海香。
「私、腕立て伏せノンストップで300回できるよ」
とリズム。
マリナとケイナはタリパラウから先に進めなかった。
「2人とも箸より重たいもの持ったことない女性並みの腕力だ」
などと言われた。
「女らしく見えるように腕や足が太くならないように気をつけていたから筋力は落ちてるかも」
「やはり女性ホルモン摂っていると筋肉は落ちるみたいね」
「女性ホルモンなんて飲んでないよ!」
プーを習ったのは、トランペットが吹ける、香月・酒向・児玉の3人だが、3人とも最初から音が出せたので、習うのは主として楽曲の中で音を入れるタイミングだけの問題になった。
「みなさん私よりうまくなりました。私が習いたいくらい」
と酒田さんが言うので、本当に香月さんが色々教えてあげていた!それで本当に酒田さんのプーが進化した。
「それだけ吹けたら合格にしてもらえるかもね。もう一度タヒチに行って先生に見てもらう?」
と中橋が訊いたが酒田は
「次行くと1年くらい帰ってこられない気がする」
と言っていた。
ヴィーヴォを習ったのは木管組の七星・風花・黒木に、ぜひ覚えたいと言った新人の東雲はるこ・町田朱美である。
「鼻で吹くって面白ーい」
と朱美は興奮していた。
全員すぐ吹けるようになり、ポルタメントやトリルなどもすぐマスターした。だいたい吹けるようになった人にはフラジオレット(倍音を出す奏法)も指導したが、元々木管を吹く3人は何も指導しなくてもフラジオレットができた。はるこ・朱美もすぐに音を出したが、安定した音を出せるようになるには数日を要した。
「プロの3人はさすがですけど、中学生の2人も音感いいね」
と月が言うと
「はるちゃんは絶対音感持ちです。私はなんちゃって音感ですけど」
と朱美が言う。
「いや、朱美ちゃんは相対音感が発達しているタイプだと思った。ケイちゃんなんかと似てる」
と七星は言っていた。
ウクレレは女性全員と、ギタリスト組、ネオンが習ったが、後に打楽器組の中でトエレに進んだ人たちが練習の負荷の問題から離脱、代わりにファアテテに進めなかった人たちがこちらに合流した。
「見た目はまるでエレキギターだね」
「奏法がほんとにバンジョーを思わせる」
という声があがっていた。
ハワイアン・ウクレレも未経験の人たちからは
「アップでもダウンでも高音から入るのが面白い」
という声が出ていた。
ウクレレのチューニングは上(8,7弦)から順にG4 C4 E4 A4とする(C4=Center C)ので、弦を全く押さえていない状態で、上から弾く(ダウンストローク)とソ↓ド↑ミ↑ラ、下から弾く(アップストローク)とラ↓ミ↓ド↑ソとなり、どちらから弾いても、高音で始まり高音で終わるのである。こういうチューニングを凹型チューニング(reentrant tuning)という。
このチューニングもウクレレの音を特徴付ける要素のひとつだ。
なお、アクアにもこのタヒチの楽器を習わせたのだが、これは負荷が掛からないように、映画の撮影が終わった後、9月からアクアNに習わせた。それで通常の仕事はMとFでやってもらう体制である。
「やはり3人分、仕事させられている!」
と文句言っていたが。
あまり時間が取れないのと、彼の筋力を考えて最初から打楽器は諦め、ヴィヴォとウクレレに限定して教えた。彼に渡したヴィヴォは特製のもので、現地の名人さんが作った、装飾の彫りが美しいヴィヴォである。サイズの違う3本セットを進呈したが、いちばん小さいのをF、中くらいのをN、いちばん大きいのをMが取ったようである(代金は私が個人で払った)。
しかし元々楽器の才能が高い彼なので、ほんの5分ほどでヴィヴォの音を出してみせて、指導係の月を驚かせた。
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