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■夏の日の想い出・十二月(12)

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ローズ+リリーの方は、10月下旬には『草原の夢』の制作をおこなった。
 
このPVは夏の内に、草原で乗馬が出来る、アイランドホースリゾート那須で撮影した。乗馬が出来る20代の女優さん2人に行ってもらい、美原友紀さんに撮影してもらっている。女優さんは∞∞プロ所属の人にお願いした。私とマリは空いている時間に同じ場所に行って、散歩したり、停まっている!馬に乗ったりして撮影してもらった。このほか、日光の戦場ヶ原の風景も少し混ぜている。
 
美原さんが言った。
「この仕事って、四季の様々な映像を撮影してストックしておく必要がある気がします」
 
「そうなんですよね。こちらからの指示が無い時は、積極的にあちこちに出かけて色々な情景、花とか天候とか、祭とかイベントとかをどんどん撮影してもらえませんか?。出張費は常識的な範囲なら、どんどん使ってもらっていいですから」
 
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「俄然やる気出ました!」
 
「出張費をこちらが出す代わりに映像の著作権はサマーガールズ出版にあるという線で。個人的に作品展に出す場合は応相談」
 
「ええ。それでいいです」
 
こうやってこの後撮影してもらった映像はローズ+リリーだけでなく、アクアなど§§ミュージックの歌手のPV制作にもどんどん転用させてもらった。なお一部の撮影は1人ではたいへんかもということで、柳川さんと2人で行ってもらったものもある。しかし柳川さんは結果的に北陸だけでなく全国飛び回ることになってしまったようだ。
 

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『草原の夢』の音源製作は通常のスターキッズを基本にして、口琴を入れた。
 
Gt.近藤
B.鷹野
Dr.酒向
Mar.月丘
Pf.ケイ
Fl.七星
Cla.詩津紅
ホムス.干鶴子
 
以前KARIONつながりで、福留彰さんに北海道の口琴“ムックリ”を入れてもらったことがあるのだが、今回は干鶴子が「ホムス覚えたよ〜」と言っていたので入れてもらった。これはサハ共和国(シベリアの国。別名ヤクーチア)の民族楽器である。
 
「えっちゃん、今回だいぶ音源製作に関わってもらっているけど、2月のツアーにも同行してくれたりしないよね?」
と私は訊いた。
 
「旦那の許可が取れたら」
「なんならうちがお金出して家政婦さん雇ってもいいよ」
「あ、それなら行けるかも」
「あと、テンガもプレゼントするよ」
「それ覚えたら、私奥さんクビにされるかも!」
 
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11月に入ってから『ヴィオロンの涙』を制作した。
 
冒頭にヴェルレーヌ(1844-1896)の『秋の歌(Chanson d'Automne)』の朗読を入れている。
 
Les sanglots longs des Violons
De l'automne blessent mon coeur
D'une languer Monotone.
 
これを上田敏(1874-1916)はこのように訳した。
 
《秋の日のヰ゛オロンのためいきの身にしめて、ひたぶるにうら悲し》
 
「美しいなあ、どうしたらこんな美しい文が書けるんだろう」
とマリが本当に感心していた。演奏時間の問題もあるので、第1連のみを取り込んだが、全文はこのようになる。
 
●原文
Chanson d'Automne /Paul Verlaine
 
Les sanglots longs des Violons
De l'automne blessent mon coeur
D'une languer Monotone
 
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Tout suffoncant Et bleme, quand
Sonne l'heure Je me souviens
Des jours anciens Et je pleure.
 
Et je m'en vais Au vent mauvais
Qui m'emporte Deca, dela,
Pareil a la Feuille morte.
 
●大意
秋の歌/ポール・ヴェルレーヌ
 
秋のヴィオロンの長いすすり泣きが私の心を突き刺して
モノトーンの憂鬱を引き起こす
 
全てが息苦しく青ざめて、やがて時を告げる鐘が鳴り
私は思い起こす。古い日々を、そして私は涙する
 
そして私は落ちぶれて、悪い風に吹かれ、連れて行かれる。
ここかしこに、そしてやがて枯葉のようになる
 
●上田敏訳
落葉
 
秋の日のヰ゛オロンのためいきの身にしめて
ひたぶるにうら悲し。
 
鐘のおとに胸ふたぎ色かへて涙ぐむ
過ぎし日のおもひでや。
 
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げにわれはうらぶれて、こゝかしこさだめなく
とび散らふ落葉かな。
 

ヴェルレーヌの詩を朗読してもらったのは、○○プロ所属の40代の女優さんである。落ち着いた雰囲気で美しく朗読してくれた。ちょうど見学に来ていたアクアが「美しい!」と言って感動していた。
 
この音源製作はこのような楽器編成で行った。
 
Vn.伊藤ソナタ、桂城由佳菜、佐藤典絵、生方芳雄
Vc.宮本 Bass.鷹野
Fl.七星、風花、ケイ
Cla.詩津紅
AGt.近藤 Mar.月丘
 
「やはり楽器の数を絞っていることでハーモニーが美しくなっている気がするよ」
という声もある。
 
「楽器の数はMax12というのでいいみたいね」
 
「『戯謔』ではMax10にしたけど、10まで制限するとやや足りない感じの曲もあった」
 
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続いて『雨の金曜日』の制作に進む。
 
これもPV先行である。7月下旬に台風が接近した時に雨の風景をたくさん撮影している。そのほか普通の雨の日に、目を付けておいた埼玉県某町のシャッター街!に出かけ、人がほとんど歩いていない中、私とマリが傘を差して歩いている情景も撮影した。それと合わせて埼玉県某駅で、金曜日夕方の多数の人が駅から出て、バスなどに乗り換えて帰宅する風景を、近くのビルの上から望遠で撮っている。
 
雨に濡れる紫陽花が映っているのは、6月の内に柳川さんに撮影してもらっておいたものである。
 
この曲は標準的なスターキッズの構成に風花と詩津紅を加えた編成で演奏した。
 
Gt.近藤 B.鷹野 Dr.酒向 Sax.七星 Fl.風花 Vib.月丘 Pf.詩津紅
 
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11月下旬、関東近辺でも紅葉が見られるようになったので、近郊の景勝地に出かけて、『紅葉の道』の撮影をした。秋らしいゆるやかなワンピースで、私とマリが紅葉の遊歩道を散策する所を美原さんに撮影してもらった。
 
美原さんには京都に行き、鹿威し、水琴窟などの映像・音なども撮影してもらっている。
 
この曲の音源製作にも和楽器を入れている。
 
篠笛.風花
龍笛.青葉
胡弓.今田七美花
尺八(西洋音階).今田三千花(七美花の長姉、=槇原愛)
箏(西洋音階).今田小都花(七美花の次姉、=篠崎マイ)
 
今田三姉妹の揃い踏みである。箏は西洋音階が出る位置に琴柱を置き、尺八はドレミ音階が出るものを使用している(これは千里が懇意にしている和楽器店が以前から特注品として注文生産に応じていた)。胡弓は七美花の優秀な音感で正確にドレミ音階で弾いてもらった。
 
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これに通常のスターキッズが加わっている
AGt.近藤
Bass.鷹野
Dr.酒向
Mar.月丘
ASax.七星
Pf.詩津紅
 
ちなみに AGt の A はアコスティック Acoustic Guitar だが、 ASax のA はアルト Alto Saxophone てある!
 
詩津紅は例によって有休(残っているのか?)を取って郷愁村まで来てくれている。
 
「詩津紅、会社の方はほんとにいいんだっけ?」
「最近諦められている気がする」
「クビになったら言ってね。お仕事はあるから」
「それ無茶苦茶忙しくなる気がする」
 

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今回の龍笛は、千里2と3がどちらもシーズンに入ってしまい、忙しいから無理ということで困っていたら、青葉が偶然東京に出てきたので
 
「私忙しいんですけど」
と言うのを無理に頼んで吹いてもらった。
 
青葉が来たので有咲が緊張していた。全てのデータをバックアップして、50mプールの地下にある保管庫に入れる。念のためもう1組コピーを作って、ちょうど来ていた玄子マネージャーに車で熊谷市街地に持って行ってもらった。
 
それで青葉に吹いてもらったら、モニタースピーカーが2個、録音システムのICが5本飛び、共演者の七美花の胡弓の弦が切れ、ここまでの録音データが全て蒸発した!
 
こんな経験は初めての録音技師の金崎が
 
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「データまで消えるなんて、嘘みたい・・・」
と驚いていたが、有咲は
 
「通常営業、通常営業」
と言って黙々と部品を交換していた。
 
「ごめーん。あまり精神的な余裕がないもので抑えが効かなかった」
と青葉は言っていたが、録音できた龍笛の音は物凄かった。
 
むろんデータは全て保管庫のバックアップから戻して、次の作業に進んだ。
 

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11月の終わり頃から『時の鏡』の制作に入った。
 
“時の鏡”というのは、1月 January の語源である Janus(ヤヌス)は双面神で前と後ろに顔を持ち、年の境目で昨年と今年を見ているという所から来たもの。つまり時の鏡とは年の境界を表している。
 
曲のPVは最初にヤヌスの姿を描いた木炭絵(描いたのは親友の麻央)を映した後、そこからのモーフィングで、背中を合わせて左右反対側を向いている私とマリのモノクロ映像を映し、そこからカラーを回復させた上で、私たちが背中を合わせたまま、この歌を歌う所を撮影している。
 
私たちの後ろでは近藤さんと鷹野さんが背中合わせでギターとベースを弾き、七星さんと風花が背中合わせで2人ともフルートを吹き、鈴木真知子と伊藤ソナタが背中合わせでふたりともヴァイオリンを弾き、月丘さんと詩津紅が背中合わせでマリンバと電子ピアノを演奏している。ドラムスの酒向さんだけは単独である。
 
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季節の移り変わりを表す様々な風景もバックに流れ1年12月の映像が流れる。
 
そして最後に私とマリ、近藤と鷹野、七星と風花、鈴木と伊藤は向き直ってお互い相手の顔が見える状態で演奏する。月丘さんと詩津紅も両者を映像処理で180度回転させ、向かい合って電子ピアノとマリンバを演奏するようにした。
 

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『雪が白鳥に変わる』のPVは私がこの曲を書いた時に見た夢を再現してもらった。雪の中を走る気動車というのを北海道で撮影成功(美原さんが1週間粘って撮影できた)したので、雪から白鳥に変化する所はデジタル的に処理している。これはマリンバとピアノを回転させたのと同様、則竹さんの腕の見せどころであった。
 
雪が白鳥に変わるのを見つめる、少女に変身する少年、というのは最初は私が夢で見たとおり白鳥リズムにやってもらおうかとも思ったのだが、彼女は割と忙しいので、スケジュールが合わなかった。リズムが東雲はるこを推薦したが、彼女が言われて躊躇するような顔をしたところに、一緒に居た町田朱美が「私がやりたいです」と言ったので、結局朱美にやってもらった。
 
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いつも元気な朱美ちゃんなので、凄くいい雰囲気の映像が撮れた。少年の姿が本当に男の子っぽい。その姿から少女の姿への変化は、むろん則竹さんによる映像処理であるが、不自然にならないよう、実は男子衣装・女子衣装だけでなく、中間の衣装も着せて撮影したので、彼女には5種類の衣装を着てもらっている。
 
色々な髪の長さのウィッグもつけてもらったが、ズボンの途中からスカートになる服とか、右前ボタンと左前ボタンが混じった服とか、不思議な衣装があり、結局見学していた東雲はるこが面白がっていた。
 
この曲の音源製作では、スターキッズのほぼ基本に近い構成で演奏している。
 
AGt.近藤
Bass.鷹野
Dr.酒向
Mar.月丘
ASax.七星
Pf.詩津紅
Fl/Pic.風花
 
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最後に制作したのが『青女の慟哭』である。これは『雪女の慟哭』のタイトルで私が中学生時代に書いていた曲だが、この夏にマリに教えられて雪や霜をもたらす“青女”という概念があることを知り、それを使用して『青女の慟哭』と改題したものである。『雪が白鳥に変わる』の、雪の中を走る気動車の撮影に成功した美原さんが、更に半月北海道で粘って、本当に凄い吹雪を撮影することができたので、その映像を使用している。○○プロと関係のある北海道ローカルのタレント事務所に所属している俳優さんたち数人にその吹雪の中を歩いてもらった映像なども撮ることができた。
 
雪に完全に覆われた道路、雪掻きをしている人たちの映像、チェーンを着けて道路を走るトラックなども撮影している。
 
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音源製作では、この曲だけ今回の方針である“Max12”を破って、多数の楽器を使用して、音の“うねり”が生じてもいいようにしている。
 
Gt.近藤
B.鷹野
Dr.酒向
ASax.七星
TSax.鮎川ゆま
Fl.桜野レイア
Tp.香月
Tb.宮本
Cla.詩津紅
Vn.川原夢美
Pf.ケイ
KB.山下響美
龍笛.林田風希
篠笛.風花
笙.今田七美花
尺八.今田三千花(槇原愛)
琵琶.田淵風帆(若山鶴風)
箏.今田小都花(篠崎マイ)
 
18種類の楽器を使用しているが、調律が変更できる楽器の調律をわざと微妙にずらしたので、うねりがたくさん発生した。そのうねりも“慟哭”を表す、激しい吹雪の表現として使用しているのである。七美花の吹く笙などはそもそも和音階のものなので、ここでもうねりが起きる(他の楽器は一応西洋音階のもの)。
 
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「私の出番はまだか?」と何度も電話して来ていた風帆伯母は満を持しての登場となった。風帆伯母は、名古屋からやってきて、演奏に参加したが、
 
「待って。狼が吠えてる(*2)」
と言った。
 
(*2)“うねり”は英語ではWolf(狼)という。狼のうなり声にたとえたもの。うねりは例えば和楽器の“壱越”292.7Hz と西洋楽器の“レ” 293.7Hz では1Hz違うので同時に鳴らすと1秒に1回のうねりが生じる。多数の楽器が入った場合は、うねりの生じ方は複雑怪奇になる。
 
しかし伯母に仮ミックス音源を聴かせると
 
「なるほどー。冬子の意図が分かったよ」
と言って、思いっきりうねりを発生させてくれた!
 
この音源を聴いたマリは
「あ、いつものローズ+リリーの音だ」
と言い、
「まあアルバムの中に1曲くらいはこんなのがあってもいいよね」
と言った。
 
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この音源製作で『十二月』の録音作業は完了した。
 
 
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夏の日の想い出・十二月(12)

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