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■夏の日の想い出・十二月(2)
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目次 8
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2005年1月、中学1年生の冬だった。
私は年末年始は風帆伯母から民謡の演奏会に呼び出されて三味線を弾く一方、所属して“いない”はずの、ζζプロからも$$アーツからも頻繁に呼び出されて、テレビ番組やライブの伴奏でピアノやヴァイオリンを弾いていた。この時期はミュージシャンの予定が詰まっており、うっかりダブルブッキングが発生することもあるらしい。それでピンチヒッターが必要になり、私のような初見・即興に強いミュージシャンは重宝がられる。
その年も1月2日から仕事が入っていたので、私はいつものように“セーラー服を着て”出かけた。私はこの時期、学生服を倫代に取り上げられており、やむを得ず2ヶ月ほどセーラー服で通学していた。でも先生たちから何も言われなかった!
それで麻生まゆりの新年ライブの伴奏のために中野スターホールに出て行くと楽屋口の所に蔵田さんがいて言った。
「おい、洋子。予定が変わった。ちょっと付き合え」
「まゆりちゃんの伴奏は?」
「ミタニ・コーイチとかいう奴に代わってもらった」
三谷幸司さんかな?と思った。彼なら安心だ。
「お前は俺たちと付き合え」
「分かりました」
それで停まっているワゴン車に乗り込む。乗っていたのはこういうメンツである。葛西樹梨菜(ドライバー)、蔵田(助手席)、大守清志・原埜良雄・野村博之(2列目)、未知の男性・松野凛子(3列目)。
「増田さんと滝口さんは?」
「性転換手術受けることになったから、入院中」
「女の子になるんですか!?」
「まさか。実際はダウンして寝てる」
「何か年末ハードでしたもんね!」
私は3列目に乗り込み、車は出発した。凛子の向こう側に乗っている男性が初対面だったので
「お初にお目に掛かります。ダンサーの柊洋子と言います」
と彼に挨拶した。
「あ、よろしく。ボクもダンサーに採用してもらった鮎川ゆま」
と彼は言った。
私は混乱した。
「ダンスチームに男性が入るんですか?」
「ああ。彼女はよく間違えられるらしいけど、女だから」
と凛子が言った。
「え〜〜〜!?」
「まあ普通に男に見えるよな」
と蔵田さんは言った。
その言葉の“行間”から、私は、蔵田さんが彼、いや彼女をナンパしようとして、男の子ではなかったことに驚き、そのままダンスチームに勧誘したのでは?という気がした。
「でもボク、生まれた時は男だったんだよ」
とゆまが言うので、
「性転換して女の子になったんですか?」
と尋ねると
「生まれてすぐに手術して女の子に変えられたんだよね」
「嘘!?」
ということで、ゆまが語ってくれたのが冒頭のストーリーである。
その後、私たちは目的地(どこだ?)に着くまで、彼(彼女?)と色々話していたのだが、ゆまはほとんど男の子に近いことを私は認識した。あまり女性が好むような話題が苦手のようである。野球とかサッカーの話、女性アイドルの話には乗ってくるが、男性タレントについてはほとんど無知な様子だった。
そういう訳で車が辿り着いたのは、関越を走って新潟市であった。今回来ていない増田さんと滝口さんの代わりのドラムス奏者とギター奏者を現地のミュージシャンで補い、またダンサーも地元の女性ダンサーを5人調達していて、それで新潟のテレビ局主催のイベントにゲスト出演したのである。
ちなみに代わりのギター奏者・ドラムス奏者は女性である! これは男性を調達すると“蔵田さんが危ない”ので、女性でドリームボーイズの曲を演奏できる人を探してもらった。ドリームボーイズは女性ファンが多いこともあり、無事見つかったようだが
「万一見つからなかった場合は、洋子ドラムス打って、ゆまギター弾け」
などと蔵田さんは言っていた。
「洋子ちゃん、ドラムス打てるの?」
「こいつは、ギター、ベース、フルート、ヴァイオリン、ピアノ、三味線、尺八、チター、バラライカ、バンドゥーラ、と何でも弾けるから」
「すみません。そのバンドーラとかいう楽器知りません」
「今、蔵田が言った中にドラムスが入っていなかった」
「何でも弾けるから、きっとドラムスも打てる」
「万一の時は頑張ります」
「よしよし」
「ゆまさんはギター弾くんですか?」
「ボクは管楽器が専門なんだけどね〜。まあギターも弾けないことはない」
「じゃそれで」
しかしうまく女性のドラマーとギタリストが調達できていたので、私とゆまは楽器は弾かなくて済んだ。
ちなみにライブの時、アナウンサーから
「ドラムスの人とギターの人がいつもと違う気がするのですが」
と言われて
「ああ、間違い無く滝口と増田だよ。正月の間に性転換したんだよ」
と言って笑いを取っていたが、一部本気にした観客もいたのではという気がした。
イベントでは蔵田さんが審査員も務めていて、私たちは控室でモニターで様子を見ていた。私たちにまで豪華なお弁当が出たので、新潟まで来た甲斐があったなあと思った。
イベント終了後は、温泉に泊まると言われ、磐越道方面に向かう。泊まりになることを母に連絡する。途中で大守さんに代わってもらい、了承を得た。大守さんは!わりと母に信用がある。
私は着替えを持って来ていなかったので、そのことを言うと、しまむらに寄り、樹梨菜さんが私の着替え(下着3組・Tシャツ2枚とロングスカート)とそれを入れるバッグを買ってくれた。
それで磐越道に乗るものの、帰省Uターンの車が多く、所々で渋滞も発生した。しかしその間は車中のメンバーでリレーでたくさん歌を歌い、飽きることは無かった。
「ゆまさん、歌がうまい。歌手になれるよ」
と凛子が言っていたが
「ボク、女の歌手にはなりたくなくて」
「ああ、その気持ちは分かる」
と私は言った。
「私も男の歌手にはなりたくないもん」
と私が付け加えると
「そりゃ女の子が男の歌手になる訳無い」
とゆまから言われる。
「いや、こいつ実は男なんだよ」
と蔵田さん。
「え〜〜〜!?」
「でもセーラー服着てるのに」
「学生服取り上げられちゃったから」
「何それ?」
「そいつに、ちゃんと、ちんこが付いていることは確認済み」
と蔵田さんは言ってから
「もっとも俺が確認した後で取っちまってたら今は分からないが」
と付け加えた。
「信じられない。女の子にしか見えないのに」
とゆまは言っていた。
やがて車は三川ICで降りるが雪道である。ここでドライバー交替し、大守さんが運転して慎重に走り、20分ほどで今夜の宿に到着した。駐車場の枠が狭かったが大守さんは美しく枠に駐め「さっすが」と言われていた。
ドリームボーイズで遠征する時の運転は樹梨菜がすることが多いが、彼女は雪道の経験が少ない。それで大守さんに代わったのである。
部屋はこのように取ってあった。
蔵田部屋 蔵田・樹梨菜
男部屋 大守・原埜・野村
女部屋? 凛子・私・ゆま
「なんか性別が微妙な人が多い」
と凛子が言っていた。
「そうですね。私は男だけど女に見えるし、ゆまさんは女性だけど男性に見える」
と私。
「どっちみち性別が混在しているように見える気がする」
とゆま。
「でもゆまちゃんは物理的には女の子だし、洋子は男性能力は既に無いはずだから、まああまり大きな問題は無いかな」
と凛子は言った。
「男性能力無いって、ちんこ除去済み?」
「この場だから言いますけど、女性ホルモンを摂取しているので、既に勃起能力は無いです」
「なら問題無い」
ゆまは私の胸に触り
「少し胸あるね」
などと言っていた。
「女性ホルモンの影響で少し膨らんでいるんですよ」
「ああ。それなら高校生くらいになるまでには、もっと膨らむよ」
とゆまは言った。
山の中の温泉宿ではあるが、料理は美味しかった。この温泉は鯉料理が有名という話で、鯉のあらい、甘煮、天麩羅などが並んでいた。その他、ちょうど猪が捕れたということで、ボタン鍋、猪肉の生姜焼き、角煮なども並んでいた。
鯉のあらいはずっと以前に風帆伯母に食べさせてもらったことがあったものの、ここの旅館のほうが美味しい気がした。ゆまは鯉のあらいを1切れ食べてから「苦手かも」と言って、私の猪生姜焼き・ボタン鍋と、彼女の鯉料理全部とを交換した。
メンバーの中で未成年は私だけなので、他の人は全員お酒を飲んでいた。地元の酒蔵が製造したものだそうで「きりんざん」とひらがなで瓶に銘が書かれていた。
「やはり地酒はいいねぇ」
などと大守さんが言っている。
「ゆまさんも20歳以上?」
と私は訊いた。
「うん。20歳と9ヶ月くらい」
「へー。まだ18-19歳くらいかと思った」
「女性的発達を抑え込んでいるから若く見えるのかもね」
「なるほどー!」
ごはんをお腹いっぱい食べてから、いったん部屋に戻る。それでしばらくおしゃべりしてから「お風呂行こうか」ということになる。
「お風呂行くのにセーラー服は無いよ」
と言われて旅館の浴衣に着替えた。他の2人も浴衣に着替えたが、ゆまは男物の下着を着けていた。
全員着替えとタオルを持って浴場のある1階に向かう。私もブラとパンティにTシャツを持って行く。
浴室は別棟になっている。渡り廊下を通ってそちらに行き、左が男湯、右が女湯である。私は「じゃまた後で」と言って、男湯に行こうとする。
凛子にキャッチされる。
「待て、どこに行く?」
「えっと、私物理的に男なので男湯に」
「洋子は女湯でよいはず」
「それまずいですよ〜」
「だっておっぱいあるのに」
「ちんちんがあるので」
「隠しておけばいいじゃん」
「逮捕されますよ〜」
多少の押し問答があったのだが、凛子は私を放してくれたので、それで私は男湯に向かった。凛子とゆまは女湯に向かったが、入口の所で
「お客さん、男湯は向こうですよ」
と言われて
「この子、男に見えるけど女なんです」
と凛子が言っていた。
私にしても、ゆまにしても面倒くさい!
私は男湯の脱衣場の戸を開けて中に入った。
蔵田さんがいた。
「洋子、こちらに入るの?」
「不本意ですが、物理的に男だから」
「ふーん。まいっか。今男湯は誰も居ないみたいだから、ふたりでゆっくり入ろうか」
と蔵田さんは言った。
「・・・今ほかには誰も居ないんですか?」
「うん。大守も原埜も野村も飲み過ぎでダウンしちまって。俺ひとりで来た。他の客もいないみたいだし、洋子におっぱいがあっても大丈夫だよ」
私は“身の危険”を感じた!
「すみません。私、女湯に行きます」
「ちんこ付いてるのに女湯に入ったら痴漢と思われるぞ」
「何とか誤魔化します」
それで私は男湯の脱衣場を出ると、女湯の方に向かった。
「あんた何やってんの?」
と女湯の入口の所にいる仲居さんに言われる。さっきゆまに「男湯は向こう」と言った人である。
「すみません。間違って男湯の方に行っちゃって」
「あんたみたいな可愛い女子中生が男湯に入って行ったら、中の人たち仰天したでしょ?」
と言って仲居さんは笑っている。
「中見てびっくりしました」
それで私は女湯の脱衣場に入った。
「あれ?こちらに来たんだ?」
と凛子から言われる。凛子にゆま、それに樹梨菜が居た。
「こちらに入れて下さい。男湯は蔵田さん1人だけだったんです」
「ああ」
「それは間違いなく“やられる”な」
と言って樹梨菜は笑っている。
「貞操の危機だったね」
と凛子も笑っていた。
そういう訳で私はこの温泉宿では女湯に入ったのであった。
「そもそも女子下着を着けてて男湯はない」
と樹梨菜が言うと
「ごめーん。ボク男下着を着けて女湯入って」
とゆまが言っていた。
それで私は彼女たちと一緒に女湯に入ったが、お股の付近はしっかりタオルで隠していた。そのまま身体を洗ってから浴槽に入る。浴槽の中はタオルが使えないので、お股の所に手を当てておく。
「洋子、その手をちょっとのけてみない?」
「地球の平和のために、見逃してください」
「今、私たち以外に客は居ないから大丈夫だよ」
食堂では他にも数組の客がいたが、男性客が多く、女子大生っぽいグループは既にお風呂に入っていたようだったから、本当に私たちだけかも知れない。
「それでも勘弁して下さい」
「まあいいか」
ということで、凛子たちもあまり深くは追及せず、私たちはガールズトークを楽しんだのであった。
それで私は“油断”してしまった。
いきなりだった。
「わっ」
と声を挙げる。何が起きたか分からなかったが、私は足をつかまれ、逆さにされていた。
一瞬「溺れる!」と思ってから体勢を立て直す。
「見た?」
「見た」
「お股には何も無かった」
「縦筋もあった」
「洋子、やはり既に手術して女の子の身体になってたのね?」
「手術なんかしてませーん」
「今更隠しても意味無いのに」
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