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■夏の日の想い出・十二月(8)
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さて『十二月』の制作の方だが。
特殊な対応となった『トロピカルホリデー』を除いて、『十二月』の中で最初に着手したのが『泳ぐ人魚たち』である。
これはサーフィンっぽくしたいという方針から、このような体制で演奏した。
Gt.近藤・宮本・ケイ
B.鷹野
Dr.酒向
月丘さんと七星さんはお休みである。雰囲気を出すため、スタジオのスクリーンに海辺のシーンを流し(男性陣の要望で水着の女の子をたくさん映している)、それを見ながら演奏したので、結構シーサイドっぽい雰囲気が出たと思う。
これに私とマリの歌を乗せて完成である。
PVでは、この制作中に流した海辺のシーンに加えて、郷愁アクアリゾートでレジャープールの1つを貸切にさせてもらい、
「今からローズ+リリーのアルバムのPVを撮影するので、映ってもいいという方はプールに入って下さい」
と宣言してから、私とマリが水着を着て水浴びしているシーンの撮影をした。結構な人数が中に入ってくれて、ほんとに人混みの中で私たちが水遊びしているような感じの映像になった。
またこれとともに、一般開放していない50mプールで、青葉・幡山さん・筒石さん・千里、青葉の友人の竹下リルさん・金堂多江さん・広島夏鈴さん、そしてアクア!の8人に泳いでもらい、その映像を収録している。
(これは9月上旬の、インカレ直後に撮影した:アクアも映画制作は終了している)
ちなみに全員女子水着を着けているので、女子水泳選手が8人泳いでいるように見えるが、実は男子が1人(筒石さん)入っている。アクアをもし男子で数えたら2人かも知れない!?
泳いでいる選手は顔は映していない。しかしそれでも水面より上に見える体型から「6コースで泳いでいるのは、ひょっとしてアクアでは?」という噂が立ったのは、アクアのファン凄っ!と思った。
『砂の城』は季節的な問題があり、PVを先行して8月に撮影している。撮影場所は伊豆の白浜海岸である。白い砂浜が美しい。その波打ち際にマリが美空とふたりで2時間がかりで砂の城を作り上げ、それがやがて潮が満ちてきて崩されていくところを固定カメラで長時間撮影した。撮影中、マリは美空と2人で焼き肉を食べていた!
美空はKARIONの制作をしていたのだが、マリから「焼き肉食べよう」と言われて、和泉が編曲で悩んでいたのをいいことに伊豆まで出かけて、撮影と焼き肉、それに白浜の高級旅館で1泊して、満足したようであった。
また砂浜で戯れる男女の映像。寂しそうに1人で歩く女性の姿を映しているが、どちらも顔は出していない。∞∞プロに頼んで、若手の男女の俳優を出してもらい、撮影したものである。
この曲は音源製作したのは9月の下旬である。ここまでは新宿のXスタジオ分室で制作した。
今回の『十二月』の制作は、2年前に『郷愁』の制作をした郷愁村で行うことにし、上島先生の謹慎が解けた春頃から準備を進めていた。
最初に工務店を入れて、旧スタジオから(干渉が起きないように)数メートル空けて新スタジオを建ててしまった!旧スタジオの方も補修の必要な所が無いか、防音設備に問題無いかなどを工務店さんに調べてもらい、実際に若干の補修をした。
同時進行でアクア主演の映画の話が進んだので、結局郷愁マンションは先に映画関係者が使うことになった。7-8月は映画関係者で使用し、9-11月にこちらで使用するということにした。
(実際にはこちらは10-12月の使用になった。映画側も9月に若干の追加撮影をしたし、その後、ビデオ編集を泊まり込んでやるのに使用したのでちょうどよかった)
マンションは、6月にクリーニング業者を入れて一度バルサンを焚いた上で、きれいに清掃した。
旧スタジオの機器は有咲にチェックしてもらい、調子の悪い部品を交換したり、ソフトを更新したりしてもらっておいた。新旧2つのスタジオは同じシリーズの機器を入れ、同じヴァージョンのソフトを入れているので、どちらででも制作できる。両者は事故防止のため、完全にシステムを切り離している。また新スタジオは建物自体が金属板で東西南北上下完全に包囲されていて、つまり静電遮蔽されている。当然携帯はつながらない!しかしこれが“事故”防止のため必要なのである。
有咲の要請で“特定の”演奏者によるデータ破壊に備えるため、電磁シールドされたデータ保管庫をスタジオから離れた場所に作った!
実はイナバの物置なのだが、金属製なのでそもそも電磁遮蔽性がある。それを微妙にサイズの違う2個(外側はナイソー、内側はNEXTA+)を入れ子にして、二重にして使用した。エアコンを入れて室温10-15度、湿度40-50%に維持するようにした。これを地下に埋めて!直射日光による気温上昇を防ぐ。これは実はちょうど工事することになった50mプールの地下に埋めさせてもらったのである。工事については千里が「任せて」と言ったのでお任せした。それでプールの水の浄化系パイプをそばに這わせて、これでも温度変化の鈍化を図る。そういう訳で、物置本体は定価70万だが、工事代まで入れると、入口の地下階段も含めて200万ほど掛かった。
(200万で済んだというべきか。千里が穴を掘ってくれたのは本人が30万でいいというので30万払った。本来は300万掛かるのではないかという気はしたのだが。しかも普通は数日掛かりそうなのを一晩でやってくれた)。
今回の制作でメインのサウンド技術者をしてもらうことになったのはXスタジオの金崎さんという今年24歳の人である。できるだけ若い耳で音を管理して欲しいという私の要請で麻布先生が推薦してくれた。大学を出てからここに入り今年は2年目だが、これまでロックバンドの制作を中心に仕事をしてきている。彼には通勤でも郷愁マンション泊まり込みでも都合のいい方でと言ったのだが、泊まり込みを選択した。
「なんか生活費が安く済みそうだし、仕事が終わったらすぐ帰って寝られそうだし」
などと言っていた。
むろん有咲もサポートとして入ってくれる。
ローズ+リリーのマネージャーの中で鱒渕さんには郷愁村にほぼ常駐してもらい、玄子さんにはPV制作班に同行してもらうことにした。竜木さんは恵比寿のマンションを拠点に、活動してもらい連絡係とする。
私たちが郷愁村に長期間泊まり込むので、その間恵比寿のマンションが留守になってしまう。一応竜木マネージャーに居てもらうものの、外出も多い。それで、誰か留守番をしてくれる人がいないか探していた所、青葉の友人で、大谷日香理(彼女とは過去に会ったことがあった)、および左倉アキという人が泊まり込んでお留守番をしてくれることになった。
大谷さんは大学4年で調布のほうに住んでいるらしいが、調布飛行場のそばで大きな道路のそばでもあり騒音が凄まじいらしい。それで静かな場所で集中して卒論を書きたかったということであった。
(日香理は実は“松本葉子”の中心人物だったのだが、そのことを私はこの時点では知らなかった。ついでに日香理が和泉から作詞のレッスンを受けていることも知らなかった!)
左倉さんは大学1年だが“私はサボリ学生だから”ゲーム三昧でずっと居ますよということだった。左倉さんは双子で、妹のハルさんがバスケットのスポーツ推薦でW大学に入ったらしいが、アキさんは「名も無い大学なので」と言って大学名は言わなかった。「過去に授業料不払い以外で留年や退学になった学生はいませんから」などと言っていた。そういう大学も結構ありそうである。ハルさんの方にも会ったが、区別が付かないくらいそっくりなのに、性格はかなり違う感じだった。私はアキさんのほうが運動能力高そうなのにと思った。
青葉は「アキちゃんは霊的な能力が高い」から、呪いの掛かった郵便物とかあればすぐ気付きますよと言い、見つけた場合は処分していいかと訊かれたので、それはすぐやって欲しいと言った。この霊的な能力はハルにもあるがアキの方がずっと強いのだと青葉は言っていた。
青葉は
「アキちゃんが猫を飼っているんですけど、連れてこさせていいですか?おとなしい猫で躾けもよくできてるから、壁をひっかいたり、粗相をしたりはしませんから」
と言った。
「そういう猫なら問題無いよ」
と私は答えておいた。
そういう訳で、10月以降は私たちもミュージシャンの人たちも全員郷愁村の郷愁マンションに泊まり込んでもらい、そこで集中的に制作をしていくことになった。
最初に制作したのは『メイクイーン』である。これは既にPVが制作されていたので、それを最初に見てもらった。
これは5月に小浜のミューズタウンで撮影しておいたものである。撮影したのは、若葉が推薦してくれた地元のテレビ局に勤めていた30代の女性カメラマン・柳川さんで、藍小浜の広告用のビデオなども撮影しているということだった。テレビ局の女性カメラマン、特に地方局でというのは珍しい。美原さんを見つける前だったので、うちの専属にならないか誘ったのだが、あまり福井県を離れたくないということだったので無理は言わなかった。でも近畿北陸方面で撮影がある時は協力してくれるということだった。
小浜市内で広告を出して人を50人ほど集め、ツツジ満開の中、“メイ・パレード”をしてもらった。またパレードに参加しなくても、見物する人も募集したら、これが200-300人集まってくれた。
パレードでは、政治的なメッセージでない限り、仮装しても、自分の応援するスポーツチームのユニフォームを着たり旗を持ったり、楽器や仕事の道具などを持って歩いてもらってもいいとした。
実際、福井ミラクルエレファンツのユニフォームを着た人、自分の所属する高校の様々な競技のユニフォームを着た人、コスプレをしている人、着ぐるみを着ている人などもいた。男子高校生3人の女装コスプレ(小泉花陽・南ことり・西木野真姫)が美しすぎた。てっきり女子高生と思ったので男子と聞いて驚いた。小浜市のゆるキャラ・さばトラななちゃんも参加してくれた!(定員外の特別参加)
このパレードの先頭を歩いたのは、デビューしたばかりの原町カペラ(高2)であった。白いドレスにティアラをつけたメイクイーンの衣装である。「可愛い!」という声が飛び交うので、笑顔で手を振っていた。
行列の最後にやはり白いドレス姿の私とマリが映っている。マリはじゃがいもを手にたくさん持ち、私は大きな猫を抱えていた。
「あのオチはたぶん、みんな分かったよね?」
「まあ、じゃがいものメークイーンの語源は、メイデイの主役メイクイーンから来ているから、たぶん」
「たぶんってハッキリしないの?」
「日本以外では見られない品種だから、よく分からない」
「日本の固有種?」
「いや外国から入ってきたものだけど、日本以外では育てられなくなったから日本だけに残っている」
「カレーやシチュー作るのに、よく合う品種なのに!」
「でもメイデイって労働者の祭典ってイメージあるよね?」
「元々は春の農業祭だよね。日本だと“さおり”と言って、秋に山に還っていた神様が村に降りてきてくれたのを祝う祭をしていたのだけど、これは現在は田舎のほうにぽちぽちと残っているだけで、かなり忘れられている。でもヨーロッパでは5月に農業祭をする習慣はかなりある。労働者の祭典はその春のお祭りにぶつけて、労働者の集会やデモ行進をしただけ」
「SOS信号のメーデーは?」
「あれは全然違う。フランス語の M'aidez で、英語に訳したらHelp meだよ」
「007 A View to a Kill でグレース・ジョーンズが演じたメーデーはどっち?」
「あれはMay Day。女殺し屋が『助けて』なんて言わないもん」
「あの役、格好よかったね〜!」
「ケイが抱えていた猫はメインクーンだよね」
「メイクイーンとメインクーンはお互いに空目しやすい」
音源製作では、マーチっぽくするため、このような楽器構成で行った。
Dr.酒向
Tp.香月
Tb.宮本
Horn.今田七美花(私の従姪)
Tuba.鳥野干鶴子(カチューシャ)
SSax.ケイ
ASax.七星
TSax.鮎川ゆま
MarchingBell.月丘
MarchingKB.詩津紅
Pu'Ili.村原月(ハヴァイ99)
近藤さんと鷹野さんはお休みである。
マーチングベルというのは時々ベルリラと混同されるが、ベルリラが縦に持ち片手で打つのに対して、マーチングベルは水平にしてネックストラップで保持して両手で打つものである。音域も広く、より多彩な表現が可能である。音板は軽いアルミニウムである。これが意外に音量がある。
夏フェスの時点では宮本さんのトロンボーンはやや怪しかったのだが、本人がその後、猛練習して、かなり上達していたので、音源製作でも吹いてもらうことにした。私が演奏したパートはスコア上はSSax(ソプラノソックス)だが、実際にはEWI5000(ウィンドシンセサイザー)を使用している。
プイリというのは実はハワイの打楽器である。フラを踊る人が両手に持ち、これを打ちながら踊ったりする。彼女は実はフラも得意である。月はこれが元々得意だったということだったので、パーカッションの一種として入れてもらった。干鶴子に付いてきて見学していたカチューシャの広夢ちゃんが
「それ覚えたーい!」
と言ったので、月から習うことにしたようである。広夢ちゃんが使うトレショコラにも通じる楽器である。
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夏の日の想い出・十二月(8)