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■夏の日の想い出・神は来ませり(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-01-21
 
4人はその日賭け麻雀をしていた。負けた人は食卓の上に書いてある紙をめくりそこに書いてあることを実行する、というもので、ビール350cc缶一気飲みとか、あずきバー一気食いとか、逆立ち5分間とかは、まだ良かった(?)のだが、その内、裸でコンビニまで行ってビール買って来いとか(下着姿・自販機で勘弁してもらった)、みんなの前で****しろとか(みんなに目を瞑っていてもらうことで妥協)、かなり危ないネタが出てきて、スパゲティを鼻から食べろとか、目でピーナッツを噛めとか、無茶すぎるカードが出てくる(どちらもビールの一気飲み2本で勘弁してもらった)。
 
「誰だよ、こんな無茶なカード書いたのは?」
 
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筆跡が分からないように、ネットで登録してプリントしている。
 
「さて、次はいよいよラスト1枚だぞ」
「何が書いてあるか怖いな」
「投稿したのは全部プリントしたんだっけ?」
「いや、それでは最後に何が残ったか、書いた奴が分かるから、投稿してもらった分から適当な枚数を外してプリントしてる」
「ああ、それでか。俺が投稿したのがまだ2枚出てなかったから」
 
そして最後の勝負で負けたのは信一だった。
 
「がーん・・・・」
「じゃめくるぞ」
 
と言って最後のカードをめくる。
 
「女装して出雲までヒッチハイクで行き、神在祭の写真を撮ってこい!?」
「うっそー!?」
 

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4人は腕を組んで考えた。
 
「この際、これを誰が投稿したかは追及しないというのでいいよな?」
「うん、それでいい」
 
その件は全員合意する。
 
「信一、女装する道具とか持ってる?」
「女装なんてしたことないし、スカートも持ってないよ」
 
「誰か信一に貸せそうなスカート持ってる奴?」
と訊くが返事が無い。
 
「じゃこうしないか?」
とひとりが提案した。
 
「誰かひとりは信一の身体に合う女物の服を買ってくる。誰かひとりは化粧品を買ってくる。誰かひとりは美容院に付き添って行って、信一の彼氏の振りして信一の髪型を女の子らしい髪にしてもらうよう頼む」
 
「ちょっと待って。俺、女装するのは確定?」
と信一が訊くと
 
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「確定」
と他の3人は言う。
 
「三郎のお姉ちゃんか、清志の妹さんか、信一の女装とか化粧のアドバイスをしてくれないかなあ」
 
「ああ、俺の姉貴そういうの好きっぽいから頼んでみるよ」
と三郎が言う。
 
「洋服とか化粧品を買うのも、そのお姉さんにアドバイスしてもらった方がいいかも」
「それがいいかも。俺らはそもそも何を買っていいか分からん」
 
「女装費用と旅行費用は残りの3人で出し合うというのでどうよ?」
「OKOK」
 
「やはり俺女装で旅行に行ってこないとダメなの〜?」
「行ってくることは確定」
「何ならそのまま性転換してもよい」
「それは勘弁して」
 
「講義は代返しといてやるから」
「ノートも勝弘のやつをコピーしといてやるよ」
「確かに俺たちのノートじゃ役に立たん」
 
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「信一、カメラ持ってる?」
「スマホで撮れると思う」
「じゃそれでいいな」
 
「しかしだいたい、その『しんざいまつり』っての?いつあるんだ?」
 
と言って正隆は自分のスマホで検索してみた。
 

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私たちがアクアと知り合う1年前。
 
2013年11月10日、高岡から青葉が私のマンションにやってきた。桃香・千里、そして青葉の友人の清原空帆という女子高生も一緒であった。
 
昨日9日に出てきて、千葉で何か用事を済ませていたと聞いたのだが、神社を作ることにしたというので驚いた。
 
「先月冬子さんから頂いたお金を使わせて頂きます」
「それはちょうど良かったね!」
 
私はこの年自分の「創作の泉」の枯渇に苦しんでいた。それを9月30日から10月2日に至る青葉のセッションで「新たな泉」を見つけることができて、私は当時創作意欲が物凄く高まっていた。私はその謝礼に青葉に3000万円払ったのである。
 
「でも神社って勝手に作れるものなの?」
 
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「形式的には、いわゆる屋敷神に近いものですね。でも実は祭るべき神様があって、以前はちゃんと千葉市内の神社に祭られていたのですが、工事があって神社が移転された時に正しく移転の処理が行われなかったようなんです。それで神様はいらっしゃるのに、お社(やしろ)も祠(ほこら)も無い状態になっていたんですよ。その神様とちょっと御縁が出来たので、適切な場所を探してきちんとお祭りすることにしたんです」
 
「へー。そういうこともあるのか」
 
「土地の購入に1200万円、これは昨日払ってきました。今立っている古民家を解体して祠を建て鳥居も作り、玉砂利など敷いたりする工事を工務店と1000万円で契約しました。多分それ以外の様々な費用を入れたらちょうど3000万円くらいになると思います」
 
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「それご神体とか必要なの?」
と政子が尋ねる。
 
「それは神様がご指定のものがあったので購入しました。実は政子さんのお父さんから買ったんですよ」
 
「え〜〜!?」
「私、札幌**デパートのお得意様カード持っているんですよね。仙台の**デパートに行ってカード見せたら、政子さんのお父さんが案内してくださってそれで十四代柿右衛門の皿を買ったんですよ。それがご神体です」
と青葉。
 
十四代酒井田柿右衛門(人間国宝)は今年6月15日に亡くなっており、現在“柿右衛門”の名称は空位である。来年2月4日(立春)に息子さんが十五代を襲名予定である。
 
「ああ、鏡とかよくご神体になってるけど、有田の皿とかも鏡に似てるよね」
と政子は言う。
 
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「柿右衛門の皿とか高そうだ」
「そうでもないです。30万円でしたから」
と青葉が言うと
「きゃー!さんじゅうまんえん!?」
と空帆が悲鳴を上げていた。
 
「皿ごときに30万円とは、信じがたい」
などと桃香も言っている。
 
私は、その「皿を政子の父から買った」というのは、いつのことだろうと訝る。政子の父は政子の芸能活動にずっと反対していて、年間のライブ数も制限があったのだが、先月、ちょうど私が青葉のセッションを受けた直後に仙台から出てきて私のマンションを来訪し、政子の芸能活動を全面的に解禁すると言ったのである。これでローズ+リリーは、やっと自由に活動することができるようになった。
 
もしかして青葉は政子の父と何か話したのだろうか?
 
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しばらく話している内に、七星さんが来て、青葉が居るのを見るとスターキッズの音源製作に協力して、などと言い出す。そこで、そこに居たメンバー全員(私・政子・青葉・空帆・千里・桃香)でスタジオに移動。夜遅くまで制作を続けた。七星さんは鮎川ゆまも呼び出していた。
 
終了したのが10日(日)23:00だったので、青葉と空帆は今夜は泊まって明日は学校を休もうかと言っていたのだが、鮎川ゆまが「自分のPorsche Panameraで高岡まで送っていくよ」と言い出した。
 
しかしゆまの暴走を心配した私と七星さんは「監視係兼交代ドライバーがいた方がいい」と言った。すると千里が、私が運転するよと言ったのである。
 

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千里は昨年夏に性転換手術を受けたのだが、昨年夏は性転換ラッシュであった。2012.7.18に青葉が富山県内で、同日、千里はタイのプーケットで手術を受けており、一週間後の7.25には和実が、青葉と同じ病院で手術している。更に8.15にはスリファーズの春奈がアメリカの病院で手術を受けた。
 
実はその中で千里が一番大変だったようで彼女は手術直後に容態が悪化して死にかけており、その後の回復にもかなり時間が掛かっているように見えた。ここ1年ほどの間に何度か会った千里は、いつも青い顔をしていた。今年の8月に青葉が千里にヴィッツ(CVT車)の運転を頼んだときも、自信が無いと言って断ったと桃香から聞いた。
 
性転換手術を受けた後の回復期間は個人差が大きい。1〜2ヶ月で通常生活に復帰してしまう人もいるが、やはり千里のように1年くらい回復に時間が掛かる人もいる。千里はそこまで酷くはなかったようだが、一部の組織が壊死したりして、再手術が必要になる人もあるし、壊死までしなくても人工的に設置した尿道口でどうしても起きやすい炎症に苦しむ人は多い。
 
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それで私も彼女の健康状態には心配していたのだが、千里は特にこの夏は調子が悪いようであった。夏は体力も消耗するし辛いのかなとも思っていた。
 
それが10月に3万円!で売られていた中古のミラを衝動買いし、それで全国、青森から鹿児島まで走り回ってきたらしい(お土産を買いすぎたと言ってお裾分けをもらった)。そしてその全国行脚で運転の自信も回復したようだし、体調もかなり回復しているようであった。実際今日昼過ぎにうちのマンションに来た千里を見た時、随分顔色が良くなっていると思ったのである。
 
実際この日は千里は本当に気分が良かったみたいで「桃香には内緒ね」などと言って、私と青葉だけに彼女の“女子高生”時代の写真まで見せてくれたのである。
 
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「千里、この写真について私は追及したい」
「ちー姉、この写真の頃について詳しく知りたい」
と私も青葉も言ったものの、千里は笑ってごまかそうとしていた。
 
どうも千里の「大学に入ってから桃香に唆されて女装を覚えてそれが高じて性転換までしちゃった」という話は大嘘だったようである。ただし彼女は「高校時代バスケ部に入っていたから丸刈りにしていた」というのは嘘では無いといい、私たちに見せてくれた写真も髪はウィッグだと言っていた。
 
「バスケはその後やめちゃったの?」
と私が訊くと
 
「大学に入ってから趣味のクラブに誘われてしばらくやってたけどね。それも性転換手術の前に退団して今では何もしてないよ。そもそも私、もう男子バスケ部に入れてと言っても拒否されるだろうし、女子バスケ部には元男性である以上入れないし」
 
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と千里は答えたのだが、これも大嘘であったことを、私は1年後に知ることとなる。全日本選手権に出場するようなチームが「趣味のチーム」の訳がない!!ただ男子バスケ部か女子バスケ部かという問題についてはいまだによく分からない部分が多い。千里自身、合理的に説明するのは不可能だと言っていた。
 

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私は往復のガソリン代・高速代・食事代にと、ゆまに概算で10万円渡した。
 
「足りなかったら、追加で渡すから」
「OKOK」
 
青葉と空帆を後部座席に乗せ(2人には寝ているように言った)、千里とゆまが交代で運転したパナメーラは夜12時前に東京を出発したのだが、午前4時半には高岡に着いたらしい。どう考えてもスピード超過している!しかし最初ゆまは3時までにはおうちに帰してあげるよ、などと言っていたから、千里が付いていったことで、かなり安全度は上がったのではという気がした。
 
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夏の日の想い出・神は来ませり(1)

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