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■夏の日の想い出・神は来ませり(4)

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「眠たくなったら寝るよ。私寝ててもお客さん来たら即起きられるし」
「偉い!」
 
「千里さんは勘がいいよ」
とゆまが言う。
 
「昨日も前方にモタモタ走ってるスカイラインが居たから追い越そうよと言ったら、あれは覆面パトカーだって言うのよね。それで追随してたら、後ろから来たプリウスが30km/hオーバーくらいの速度で追い越して行って。するとそのスカイラインが赤色灯出してサイレン鳴らしてその車追いかけていって捕まえたんだよね」
 
「おお」
「それで捕まっている車の横を通過してからこちらはスピードを上げる」
「うまい!」
 
「あ、それと似た話聞いたことある」
と政子が言い出す。
 
「冬って、中学生頃に自分の部屋で、こっそりスカート穿いていたりした時に、お母さんが来そうと思ったら、さっとズボンに穿き換えて、女装がバレないようにしてたんだって」
 
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すると
「それは嘘だ」
とゆまも千里も言った。
 
「冬子は、どうも色々な人の話を聞いていると、小学生の頃から女の子として暮らしていて、中学生の時は3年間セーラー服で通学していたっぽい」
などと千里が言うと
 
「それは間違い無いよ。私は冬子が中学2年の時にドリームボーイズのダンスチームに加入したんだけど、その当時既に冬子は女の子の身体になってたからね。中2で性転換手術まで既に終わっているのなら、とっくの昔にセーラー服通学していたはず。実際何度かセーラー服姿で仕事に来たこともあったし」
などとゆまは言っている。
 
「おお。その頃のことを色々聞きたいなあ」
と政子は興味津々であるが
 
「勘弁してよぉ」
と私は言っておいた。
 
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千里もゆまも、私と政子に寝ておくといいと言ったので、私たちは遠慮無く眠らせてもらった。
 
私が目を覚ましたのはもう朝6時半であった。政子にも指摘されたが、やはり疲れが溜まっているようである。私が起きたのに気付いた助手席のゆまが声を掛ける。
 
「おはよう。眠れた?」
「うん。ありがとう。ぐっすり寝過ぎた感じ」
「冬はほんとにオーバーワークっぽいからできるだけ休んだ方がいいよ」
「休めたらいいんだけどねぇ」
 
「ここだけの話さ、ローズクォーツの方は辞められないの? 無理だよ両方を兼任で音楽活動をした上で、様々な歌手に楽曲提供もってさ」
と、ゆまは言う。
 
「悩んではいるけど、私が抜けたら、彼らたぶん食っていけなくなる。元々政子が音楽活動できない状態だったから、私と組ませるのに仕事も辞めてもらってローズクォーツ作ったんだから私には責任があるし」
 
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と私は政子が熟睡しているふうなのを見ながら言った。
 
「それもう3年も前のことじゃん。もう充分冬は頑張ったと思う。ローズ+リリーが復活した時点でローズクォーツの存在意義は消えたと思う。なんなら4人に退職金で2000万円くらいずつ渡したっていいじゃん。もっともケイ抜きのローズクォーツが採算取れないということ自体が私は信じられない。本当なら営業の仕方が悪すぎると思うなあ」
とゆまは言う。
 
実はローズクォーツは町添さんの工作などもあり、この夏以来4ヶ月ほど、私抜きで活動している。プロジェクトはかなり赤字を出しているので、彼らが食うに困らないよう、曖昧な名目でサマーガールズ出版(私と政子の会社)がその赤字を補填してあげている。
 
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「まあ若干現在の営業には疑問もあるけど、あまり口を出さないようにしている。だって口を出したら、よけい向こうに私自身がのめり込むことになる」
 
「その件、ちょっと私が裏工作してもいい?」
とゆまは言った。
 
「うーん・・・裏工作ね・・・・」
と私はどう答えていいか悩んで言葉を濁した。
 

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まだ日出前のようだが空はもう完全に明るくなっている。その朝の光が路面の雪に反射してややまぶしい。助手席のゆまも運転している千里もサングラスをしている。裸眼では辛い状態だ。
 
「やはりこちらは雪になったんだね」
「中国道に入ってすぐあたりから結構降ってきた。それでそこで雪道に慣れてる千里さんに運転交代したんだよ。浜名湖SAから西宮名塩SAまでを私が運転した。まあ私はその後、ついさっき米子(よなご)道に入る頃まで眠ってたけどね」
 
「今、米子自動車道?」
と私は訊いた。
 
「うん。もうすぐ韮山高原SAに着くから、そこで休憩しよう」
と千里が答える。
 
「ああ、それがいいね」
 
それで千里の運転するインプレッサ・スポーツワゴンは韮山高原SAの駐車場に駐まる。ちょうどここで日の出となった。
 
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私は政子も起こしたが、政子は眠いと言ってトイレに行ったあとそのまま車に戻ってしまったので、車はアイドリングして暖房を入れた状態にしておき、毛布と布団も掛けてやって、私と千里とゆまの3人でSAのレストランに入り、朝食を食べた。
 
「しかし美事な雪景色だね」
「うん。完璧に雪が積もった」
 
「湯原ICからチェーン規制が掛かってたよ。1台1台停めては、懐中電灯でタイヤを照らして冬用タイヤかどうか確認してた。ノーマルタイヤなら、チェーン付けてくださいと。そばでチェーン装着頑張っている車もあった」
 
「チェーン持ってなかったらそのまま下道へどうぞか」
「事実上、中国道上りに乗り直して、津山あたりまで戻ってどこかに泊まるしかないよね」
 
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「うん。チェーン持たないのに、夜中や早朝に高速より道の状態の悪い下道をノーマルタイヤで走るのは自殺行為」
 

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1時間ほど休んでから車に戻る。政子は熟睡している。一応おにぎりとサンドイッチに暖かいミルクティーは買ってきている。そのミルクティーを暖房の吹き出し口に置き、今度はゆまの運転で出発する。
 
「ゆまさんスピードは控えめにね」
「OKOK。控えめって120くらい?」
「50-60km/hで」
「そんなに遅くていいんだっけ?」
「出雲大社ではなくて、常世の国に行きたければ出してもいいけど」
「それはまだ未練があるな」
 
と言って、ゆまは60km/hくらいで走って、米子道から山陰道に進行。9時半頃出雲ICを降りた。幸いにもこの付近は積雪していない。しかし車が多い!ゆまは車の流れに沿って9kmほど走り、出雲大社近くの道の駅《大社ご縁広場》に車を駐めた。
 
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「ここが神社の駐車場?」
「違うけど、ここから歩いて行った方がいいんだよ」
「へー!」
 
それで政子も起こして参拝に行く。
 
「まだ眠いよぉ」
などと言っていたが
「参拝してから出雲そば食べるよ」
と言ったら起きた。
 
道の駅のトイレを借りてから、神門通りを上って行く。
 
「大きな鳥居!」
 
「ここが出雲大社の《一の鳥居》なんだよ」
と千里が言う。
 
「へー!」
「神社の駐車場に駐めてしまうと、ここを通れないんだよね。だからご縁広場に駐めた方がいい」
「なるほどー」
 
私たちは堀川に掛かる宇迦橋を渡る。
 
「ね、川が仕切られてるね」
 
川の中央にコンクリート製の仕切りがあるのである。
 
「手前側が古内藤川、向こう側は高浜川。合わせて堀川。多分氾濫対策か水の権利問題かだと思う。愛知県の方にもこういう所があるね」
 
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「そういえば八岐大蛇(やまたのおろち)って、川の氾濫の象徴だという説があったね」
「そうそう。須佐之男命(すさのおのみこと)は治水工事をやった伝説の人という説がある」
 
この橋を渡った向こうの袂(たもと)に大きく真っ白なコンクリート製の大鳥居が立っている。私たちはそこで立ち止まった。
 
「日本一の大鳥居か」
 
《鳥居の高さ23m 柱の周囲6m 柱の直径約2m 中央の額面六畳敷》と書かれている。大正四年に九州小倉の敬神家、小林徳一郎の寄進、とも書かれている。
 
「まあ正確に言うと、建てられた時に日本一だったんだけどね」
と千里は言う。
 
「今は違うの?」
「これが建てられたのが大正4年で、大正天皇御大典(即位の礼+大嘗祭)を記念して寄進されたもの。ところが昭和3年に昭和天皇の即位の礼を記念して平安神宮に建てられた大鳥居がこれよりわずかに大きい」
 
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「へー」
「その後もっと大きい鳥居がたくさん作られて今は全国十位になってしまった」
「なるほどー」
 
「今、一番大きな鳥居はどこ?」
とゆまが訊く。
 
「熊野本宮大社の鳥居で34mくらいだったはず」
と千里は答える。
 
「ひゃー」
 
「厳島神社のは?」
と政子が尋ねる。
 
「あれは17mくらい」
「この鳥居はあれより大きいのか」
 

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「この鳥居を寄贈した小林徳一郎さんというのは立志伝中の人物なんだよ。最初は炭鉱夫として働いていて、その内建築工事の現場監督、やがては建築会社の社長になった」
と千里が説明する。
 
「へー」
「それで大きな工事をたくさん請け負う内に、どんどん事業を大きくしていき運送業なども始めた」
 
「なんか凄いね」
 
「社会的にも色々貢献していて、奨学金を設立したり、消防団を設立したり。この出雲大社の大鳥居と道路沿いの多数の松も寄進したし、そのほか稲田姫の故郷に稲田神社も創建してる。小倉の市会議員も務めてる」
 
千里は何か左後ろの方に気を向けるような感じで説明をした。まるで誰かから聞きつつ、それをそのまま話しているかのように私には見えた。
 
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「炭鉱夫からそこまで出世したのは本当に凄い」
とゆまが言う。
 
「この鳥居、いくらくらいしたのかなあ」
などと政子が訊く。
 
「たぶん1億円くらいじゃないかな、今のお金にして」
「ほほお」
 
「平安神宮の大鳥居の工事費は当時のお金で3万円だったらしい。現在の物価は当時のだいたい3000倍くらいだから1億円程度。これもだいたい同じ規模だから工事費も同じくらい掛かったと思う」
 
「なるほどー」
 
「今性転換手術を受けるのに100万円掛かるから、昭和3年なら300円で性転換手術受けられたのかなあ」
と政子が言い出す。
 
「なぜそんな話になる!?」
 
「そもそも昭和3年に性転換手術があったんだっけ?」
とゆまが訊く。
 
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「世界初の性転換者と言われているリリー・エルベ(Lili Elbe)が性転換手術を受けたのは1930-1931年。つまり昭和5-6年」
と千里。
 
「だったらその頃受けていたらそのくらいで済んでいたかも」
 
「リリー・エルベって手術代、どのくらい掛かったんだろう?」
「当時のお金で5000クローネで今のお金にすると200万円くらいになるみたい」
と千里は言う。
 
「じゃ今のお金で200万円なら昭和3年なら600円くらい?」
「まあどっちみち大金だよ」
 
 
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夏の日の想い出・神は来ませり(4)

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