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■夏の日の想い出・神は来ませり(7)

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松明の燃え残りの縄や灰をもらっていっていいということだったので、何か入れ物がなかったかな?と思ったら、千里が「はいどうぞ」と言ってビニール袋を全員に配ったので、私たちはそれに縄の一部と灰を少し入れた。
 
「これどうすればいいの?」
「家の四隅とか、あるいは吉方位とか恵方に撒いたりするといいよ。あるいは近い内に引っ越すなら、その引越先のお清めに使うといいし」
 
「引越かぁ」
「きっと冬子、来年引っ越すと思うから、取っておくといいよ」
と千里。
 
私は目をぱちくりする。
 
「まるで青葉みたいなこと言ってる」
 
千里は何も答えずに笑っていた。
 

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“龍蛇様”を先頭にする神職さんたちの列、その後に続く参列者の列はゆっくりと真っ暗な道を歩き、出雲大社に戻った。
 
「トイレに行っておいた方がいいよ」
と千里が言うので、私たちは神楽殿近くのトイレに行ったが、さすがに長蛇の列であった。
 
「男子トイレにも行ってみたけど向こうもふさがってた」
などと言っているおばちゃんまで居る。
 
トイレが終わってから、4人で神楽殿の中に入る。もう大勢の人が中で待機している。
 
やがて神様を迎え入れるという報せがある。私たちは心静かに待った。「おーーーーーーーーーーーーーーー」という男性神職さんの長い声を合図にやがて“龍蛇様”を掲げた神職さん、そしてそれに続く数人の神職さんが入ってくる。
 
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結構(フラッシュ無しで)写真を撮っている人たちもある。むろん私たちは写真など撮らずに心を無にして儀式を見守った。
 
と思っていたら、ひとりの観光客っぽい人がフラッシュを使って“龍蛇様”を先頭にした神職さんたちの列を撮影した。周囲がざわめく。冷たい視線がその人に突き刺さる。当人はみんなから睨まれて居たたまれなくなったのか、自主的に立って退去した。
 
「馬鹿だね。あれでかなり寿命が縮んだね」
と千里が冷たく言う。
 
こんな冷たい言い方をする千里は初めて見た。きっとかなり怒っているのだろう。いつも温和な千里にしては珍しい。
 
儀式は静かに進行していく。とりたてて盛り上がりのようなものも無いので政子は眠ってしまった。まあ、人に迷惑を掛けなければよいであろう。
 
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ちょっと困った人は出たものの、それ以外の大半の参列者は敬虔な気持ちでその儀式を見つめていた。
 

やがて儀式が終わって、全員神楽殿から退出する。車に戻ってアイドリングしながら、私たちの前に駐めているクラウンが動いて、私たちが出られるようになるのを待つ。
 
「この後どこに行くの?」
と政子が訊く。
 
「いったん、湯ノ川まで待避する。そしてまた明日の朝、こちらに来る」
と千里は答える。
「湯ノ川って?」
と政子。
「道の駅。車中泊には便利だよ」
と千里。
「車中泊なの〜?」
と政子。
 
「まあ、出雲付近の旅館ホテルは全部満杯だったから」
と私は言う。
 
「道の駅なら、さっきのご縁広場は?」
「あそこは車中泊の車で既に満杯」
「うむむ」
 
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少し待っていたら、赤いコートの女性が運転席の窓をトントンとした。最初、前に駐まっているクラウンの人がこちらに声を掛けて謝りに来たのかなと私は一瞬思ったが、違ったようである。
 
「すみません。そちらが品川ナンバーなのを見て。私、東京からヒッチハイクで来たんですが、このままお帰りになるのでしたら、もし良かったら東京まででなくてもいいので、岡山か京都付近あたりまででも乗せて頂けないかと思いまして」
と“彼女”は言った。
 
私たちは「おっ」と思った。
 
その“彼女”の声が明らかに男声だったのである。
 
政子が私の服の脇を引っ張る。
 
そして、私はその人の顔を見て、あれ?この人、稲佐浜で隣に居た人だと私は思った。そうか、あの時、男の娘の話題に反応したのは、本人がそうだったからなのかと思う。しかしこの人、声さえ出さなければ、女ではないとはまず気付かないくらいに自然な女装である。
 
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千里が答えた。
 
「すみません。私たち、まだ明日の神在祭(かみありさい)も見ますので」
「あらぁ。そうでしたか。あれ?神在祭って、今あったのがそうじゃないんですか?」
「今やったのは、神迎祭(かみむかえさい)で、神在祭は明日の朝10時からですよ」
「ほんとですか!?」
「まあ名前が紛らわしいですよね」
 
「良かったぁ!神在祭の写真をヒッチハイクで撮ってこいという罰ゲームだったんですよ」
と“彼女”は言っている。
 
「気付いて良かったですね」
と助手席のゆまも言うが、ゆまもその“彼女”にかなり興味津々な様子である。
 
しかし罰ゲームで東京から出雲までヒッチハイク!? なんて鬼畜な罰ゲームなんだ!
 
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それで“彼女”が
 
「ありがとうございました。でしたらどこかで野宿して明日を待ちます」
と言って車を離れようとしたのだが、政子が声を掛けた。
 
「待って。雪も降っているのに、野宿は辛いし、女の子は襲われますよ。私たち道の駅まで行くんですけど、そこまででも乗って行かれません?」
 
「いいんですか?」
 
千里は一瞬ゆまと顔を見合わせた。しかし頷き合う。
 
男性をこの車に乗せることに抵抗を感じたのだろうが、まあ男性でも女装っ子ならいいかと判断したのだろう。
 
それで私が後部座席の中央に寄って、その隣に“彼女”を乗せた。
 
「お世話になります。鹿島信子(かしまのぶこ)と申します」
と言ってぺこりとこちらにお辞儀をしてから乗ってきた。
 
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「信子ちゃん? 私は冬子、こちらは政子、運転席に居るのが千里、助手席に居るのはゆま」
と私はこちらの4人を紹介した。
 
「女の子同士だから、名前呼びでいいよね?」
と政子が笑顔で言う。
 
「そ、そうですね」
と言いつつも信子は照れている。この子、まだ女装外出初心者かな?と私は思った。
 

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「信子ちゃん、稲佐浜で私たちの隣に居たよね?」
と私は尋ねる。
 
「はい。私も今お声を掛けてから『あっ』と思いました」
と信子。
 
「女子大生さん?」
と政子が訊く。
 
『大学生さん?』と訊いてもいいだろうに、わざわざ『女子大生さん?』と尋ねるところが、政子だ。
 
 
「は、はい。△△△大学の1年生です」
「あら、私たちも△△△大学ですよ。4年生だけど」
「わっ。先輩でしたか!」
「学部は?」
「法学部なんです」
「法学部って凄いね。弁護士志望?」
「あ、いえ。国際公共政策コースで、将来はマスコミ関係とかに入れたらなあとは思っているんですが、一般企業になるかも」
 
「なるほどー。でもキャンパスが違うんだね。私たちは文学部」
「わぁ。4人ともですか?」
 
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「△△△は私たち2人だけ。運転席の千里は千葉のC大学理学部、助手席のゆまは♭♭音大のOG」
 
「へー。理学部とか凄い。あれ?♭♭音大って女子大じゃなかったんですか?」
と信子は訊いた。
 
「ぷっ」と運転席の千里が吹き出してしまった。ゆま自身もどう答えていいか悩んでいる。それで私は言った。
 
「あそこ課程によっては男子も入れるみたいだよ」
「へー。そうだっのか。知らなかった」
 

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「F女子大の音楽科に入った男の子、私知ってる」
と政子が言い出す。
 
「入れたんですか?」
と言って信子が驚いている。
 
「その子は高校にも女子として通っていて、高校の書類が女子になってたんだって。それで大学も女子学生として受け入れてくれたらしいよ」
 
「へー!」
「まあ卒業する時はもう戸籍上も女子になっていたんだけどね」
 

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そんなことを話しているうちに私たちの前にクラウンを駐めていた人が戻ってきて、こちらに「すみませーん」と一言言ってから車を出した。
 
それで千里がインプレッサを発進させる。
 

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「化粧品はどんなの使っているんですか?」
と政子が信子に尋ねる。
 
「私お金無いから、安物ばかりなんですよ〜」
と彼女は言う。
 
「化粧水と乳液、ファンデーション、チーク、アイライナーとアイブロウ、マスカラ、それにマニキュアまで全部ダイソーなんです。唯一アイカラーだけがドラッグストアで500円のキスミー・フェルムで。口紅は友だちのお姉さんのお下がりだし」
 
「あ、口紅は発色がいいと思った」
「一応エスティ・ローダーで」
「おお」
 
「色物だけ良い物を使うというのはセンスいいと思うよ。色物はやはり100円ショップのはどうも見劣りするんだよね」
と運転している千里が言う。
 
「友だちのお姉さんもそういうこと言ってました」
 
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ああ、千里も化粧品代とか節約してるんだろうなと私は思った。
 

車は20分ちょっと走ってから道端のローソンに駐める。
 
「晩ご飯買って行こう」
と千里。
「あ、私も」
と信子も言う。
 
それでみんな降りて各自食べたいものを私が持つ買い物カゴに入れてということにする。その他にみんなでシェアできるウィンナーとか唐揚げとか助六とかを買った。信子は別の買物カゴで商品を選んでいたのだが、レジに並んだところで
 
「ヒッチハイク旅行とかで大変でしょう。それ私がおごってあげるよ」
と言ってそちらのカゴも取る。
 
「わっ、すみませーん」
と信子。
 
「この人はお金持ちだからおごってもらうといいよ」
とゆまが言っていた。
 
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みんなが買い物カゴに入れたものを全然見ていなかったのだが、雑誌とか電池とかトランプ!?とかもあり、ナプキンまであって、これはレジの人がそれだけ紙袋に入れてからエコバッグに入れてくれた。あれ?ナプキンなんて誰が買ったのかな?とも思った。
 
政子はまだのはずだからゆまかな?
 
ローソンから1分も走ると、道の駅・湯ノ川に到着する。ここも車が多いが、まだ半分くらい枠が空いていたので、施設からできるだけ遠い所にある枠に駐める。長時間駐める場合、遠い所に駐めるのは道の駅利用者としての基本的マナーである。
 
「お腹空いた」
と政子が言う。
 
「さあ食べよう食べよう」
 
道の駅の施設内に空いているテーブルがあったので、そこで買ってきたものを広げ、みんなで食べることにする。電池はゆま、トランプは政子、ナプキンは千里がさりげなく自分のバッグに入れたので、へー!と思った。
 
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お弁当は全員分ある。むろん政子は2人分食べる。その様子を見て信子が呆気にとられていたようであった。
 
「カップ麺は朝御飯にしようかな」
「お湯はどうすんの?」
「沸かす道具を乗せておいたよ」
「おお、凄い」
 
食べ終わってお茶を飲み少しおしゃべりした。信子はどうもガールズトークに慣れていないようだったが、それでも頑張って話に付いてきていた。23時頃、そろそろ寝ようかということになる。私たち4人は車に戻る。
 
「信子さんはどうするの?」
「この施設内の隅で寝せてもらいます。これ持っているから」
と言ってアルミ製の断熱防寒具を出す。
 
「これコートの上に巻いて寝ると結構暖かいんですよ」
「おお、なるほど」
「じゃ私たちは明日朝早いから、これで」
「はい、ありがとうございました。お気を付けて」
「そちらも気をつけてね」
 
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と言って別れる。別れ際におにぎり・パン・おやつ・お茶などを少々プレゼントしておいた。
 

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■夏の日の想い出・神は来ませり(7)

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