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■夏の日の想い出・6年間のツケ(8)

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布団は台所の近く、ちょうど東側の窓のそばに敷きっぱなしになっている感じだが、目覚ましが6個も並んでいる。
 
「なんか6個並べても、みーちゃんほとんど意味が無いかも」
「最初は1個だったんだけど年々増えていった」
「6年分か」
「でも私、鳴っても気付かないみたーい」
「もう目覚ましの音を聴いても安眠していられる体質になってるんだな」
 
「この目覚ましなんて、どんな寝坊助でも起きられるって書いてあったのに起きられないんだよ」
 
「たぶん上の階の住人が目が覚めて『うるさいから目覚まし停めろ』って文句言いに来て起きるんだ」
 
「これって、みーちゃんを起こす係を雇った方がいいかも」
「あ、御飯も作ってくれたら嬉しいな」
「マジで募集出す?」
 
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「いっそ小風が泊まり込む?起こし賃もらって」
「私がここに住み込むと、織絵(音羽)たちから、とうとう目覚めたかと言われる」
「ああ、絶対言われる」
「小風でなくても女の子を住まわせると言われる気もする」
「じゃ男の子を雇う?」
と美空が言うので
 
「それはだめ!!」
と私たちは一斉に言った。
 
私たちは取り敢えずタンスとテーブルくらいは買えと言い、通販で買っても受け取る人が必要というので、取り敢えず代わりに誰か受け取ってくれないかと実家に連絡させると、お父さんが自分で買って持って来てくれるということだった。
 
「すみませーん。娘が寝るだけでいいからタンスもテーブルも要らんなどと言うもので」
などとお父さんは言っていた。
 
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小風と美空のお母さんが直接電話で話して、今度の土日に、美空の母・姉・妹の3人で来て、服の分類作業をしてタンスに収納するという話もまとまった。
 
調理器具も最低そろえておくべきと言って、和泉のパソコンでネットにつないで、取り敢えずAmazonで包丁セット・マナ板に、圧力鍋、ノンフライヤー、ホットプレート、食器洗い乾燥機に皿や茶碗なども注文した。本人のたっての希望で電気式タコ焼き器も注文する。
 
「フードプロセッサとかあったら使うかな」
「いや、みーちゃんは使ったまま放置しそうだから買っても無意味」
「確かにフードプロセッサの問題は後片付けなんだよね」
 

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「美空、ドレッサーとかは無いの?」
「うん。洗面台の所の鏡でお化粧してる」
「実家でもそんなんだった?」
「お母さんの借りてた」
「女の子の嗜みとしてドレッサーも買っておくといいよ」
「私は中学生になった時に部屋に小型の鏡台置いてもらった」
と小風。
「あ、私もー」
と私が言うと
 
小風と和泉が顔を見合わせて
「なるほどねぇ」
とうなずくように言った。
 
「やはり中学に入る時点で既に女の子だった訳か」
「そんことないけど」
「いや、マリちゃんじゃないけど、冬が男の子であった痕跡が見いだせん」
 

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次の週末。6月28日(土)。
 
友人の礼美が結婚式を挙げた。彼女とは考えてみるといちばん交流があったのは高校3年の時だ。仁恵や琴絵たちと一緒の勉強会に彼女はよく出席していて、それで実力を付けていったのである。しかし大学に入った後は、彼女はひたすらバイトをしていて、大学の教室で彼女を見ることは稀であった。よくあれで単位を落とさずに卒業できたものである。
 
そして大学を卒業したと思ったら速攻で妊娠し、結婚することになってしまった。
 
私と政子は直前まで予定が分からなかったのだが、彼女の披露宴の時間帯には取り敢えず動かせない予定は入っていなかったので一緒に出席することにした。
 
「冬、御祝儀の額間違えるなよ」
と前日に政子が言った。
 
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「うん。30万円入れたけど」
「だから、それって芸能界相場なんだって」
 
私たちはつい先日も知り合いの歌手の結婚式にお呼ばれして、御祝儀を30万ずつ包んできた。
 
「あれ? そうだっけ? 普通幾らくらい入れるもん?」
「私もちょっと自信無かったから、お母ちゃんに訊いたら、お友だちなら3万か多くても5万じゃないかと言われた」
「えーーー!? そんなに少なくていいんだっけ?」
 
「ああ、完璧に冬の常識は破壊されているな」
 

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ところがそんなことを言っていた結婚式前夜。博美から緊急メールが回ってくる。
 
「礼美の結婚式の御祝儀は1万円通しで」
というのである。
 
何でもお金がないので超格安予算で披露宴をするので、それ以上もらったら申し訳無いということらしい。
 
「お料理は5000円の予算で用意してもらってお土産無しです。ごめんなさいだって」
「いや。無駄にお金掛けることないよ。5000円でも充分良い料理だと
思うけどな。お土産ってむしろ邪魔」
 

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礼美は結婚式は都内の神社で3万円で挙げて2万円で記念写真を撮ってきたらしい。新郎新婦の貸衣装も2人合わせて5万円だったらしい。披露宴はホテルの部屋を料理込み20万円で借りたと言っていた。出席者は新郎・新婦、友人・親戚をあわせて26人である。妊娠中でもあり新婚旅行もしない。
 
新婦側は御両親と叔母夫婦、それに私たち・小春・博美、それにバイト先の店長さんと同僚の女性3人であった。
 
新郎側は御両親とお兄さん・お姉さん、伯母夫婦、従兄2人、会社の同僚2人、大学時代の友人4人であった。
 
受付は新郎のお姉さんがやってくれていた。私たちは1万円通しとは言われたものの3万ずつ入れた御祝儀袋を渡した。博美も
 
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「まあ冬たちはお金持ちだというの分かってるから多めに入れても受け入れてくれるよ」
と言ってくれた。
 

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私たちが披露宴会場まで行くと、
 
「おお、庶民的な服を着ている」
と小春に言われる。
 
「最初着ていこうかと思ったドレスは、政子からダメだしくらった」
「そりゃ花嫁さんの衣装より高そうな服を着てきたらひんしゅくだし」
 
「芸能界の結婚式とかとは相場が違うからね」
と言っている博美はレンタル屋さんで5000円で借りてきたドレスだと言っていた。
 
「いや芸能界のも結構難しいんだよ。花嫁さんがどのくらいのを着るのか把握してないと、その相場に合わせないといけないからさ」
「確かに安すぎてもひんしゅくかもね」
 
「まあ女はこういうの面倒だよね」
「ほんとほんと。男の人はブラックスーツで全部押し通せるから」
 
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司会は新郎のお兄さんがやってくれた。
 
こじんまりとした披露宴であったが、なごやかなムードで、ひとりひとりのスピーチも感じがよくて、肩もこらない宴だった。お料理も5000円の予算で用意したとは思えない、結構充実したもので、美味しかった。
 
「ここでどなたか出し物とかしていただけましたら」
などと言う。
 
博美がこちらを見る。
 
「歌う?」
と私は政子を見て言う。
 
「うん」
 
と政子も言って、私たちは席から立ち上がってその場で無伴奏で木村カエラの『Butterfly』を歌った。
 
「すごーい。うまーい。プロみたい」
と礼美の同僚の女子が声をあげたので
 
「いや、この2人プロです」
と新婦が言う。
 
「あ、有名な人?」
「ローズ+リリーですよ」
と言うと
 
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「キャー! なんでレミちゃん、そんな人たちと知り合いなの?」
と彼女。
 
「いや、高校時代からのお友だち。大学の同級生」
と私が答えると
 
「あのぉ、後でサイン頂けますか?」
などというので
「じゃ、後でね」
と私は応じた。
 
その後、博美と小春も一緒に歌を歌ったし、新婦の叔母さんは民謡をやるようで「めでた」を歌った。新郎のお姉さんはフルートの演奏を披露した。披露宴はほんとに素敵な雰囲気で2時間ほどで終了した。
 

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「ああいうこじんまりした披露宴もいいね」
と帰宅してから政子は言った。
 
「私たちには許されないだろうけどね」
と私は応じる。
 
「やはり億単位掛けた披露宴になっちゃうんだろうね」
と言って政子は溜息をつく。
 
「まあ、しょうがないね。有名税。マーサ、貴昭君とは何歳くらいで結婚するつもり?」
 
私の問いに政子は少し悩むような顔をした。
 
「貴昭、大阪本店に異動になったのよ」
「え?なんで?」
「大阪で採用していた技術者が何人も辞めちゃって人手が足りないって」
 
「うーん。入社早々転勤なんてね」
「確かに珍しいケースだけど転勤はサラリーマンの宿命だから仕方無いと言ってた」
 
「でも東京と大阪なんて新幹線で2時間だし。オフの日には会いに行けばいいよ」
「でも土日は私たちほとんど休めないよ」
 
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「うーん。。。そうかも知れないな」
「それに私と貴昭、今のところ恋人ではないから」
 
「充分恋人に見えるけど」
「冬と正望君だって恋人ではないという立場じゃん」
「それはそうだけど・・・」
 

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6月30日、月曜日。
 
私は、そういえば今回のKARIONのツアーのギャラ、今月末に振り込んでおくよと言われていたことを思い出し、ネットで銀行の口座明細を見た。
 
そして絶句する。
 
私はしばし考えてから、畠山さんに電話した。
 
「社長、今日ツアーのギャラを入金して頂けるということだったのですが」
「うん。入ってなかった? 今朝着金するように手配してたつもりなんだけど」
 
「いえ。入っているのですが、金額が変なんですけど?」
「あ、足りなかった?」
「いえ、明らかに多いです!」
「そう?」
 
「1560万円も振り込まれているんですが。今回のツアーのギャラは1公演25万円とおっしゃってましたよね。公演20回で500万円になります。1060万円多いんですよ。ひょっとして頭に1を間違って付けちゃったということありませんか?」
と私は言う。
 
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「ああ、それは過去のライブの分のギャラもまとめて振り込んだからだよ」
「へ?」
「君が、表に立って歌ってないのにギャラもらえない、なんて言うからさ。だからずっとプールしてたんだよ。未払い金で処理してた。まあ運転資金にも転用させてもらってたけどね。今回は受け取ってくれるというから、ついでに6年間のツケ精算」
 
「私はこれまでのは友情出演扱いと思ってました!!」
「君は間違い無くKARIONの正メンバーだからギャラは普通に払うよ」
「うーん・・・」
 
「明細はそちらに郵送したけどね。今日到着するかな?2008年は12回出演した内、7月までの4回分は支払い済み。11月のツアー8回に出たのが1回1万円で8万円未払い。2009年は34回出演してくれていて、1回3万円で102万円、2010年から2012年までの3年間はギャラは10万円、この間に74回出てくれているから740万円。昨年はギャラが15万円に上がって14回出てくれているから210万円。合計で1060万円」
 
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と畠山さんは明細を説明した。そういえば和泉が畠山さんと一緒に、私が何回出演したかを数えたと言っていた。それでこの金額を算出したのか!?
 
「いや、もらえるのは嬉しいですけど」
「あっと、その中から、あとで欠席した分の罰金、220万円払ってね」
「あ、はい!」
 
私が戸惑いながらも電話を切ったら、ベッドの中でまだ半分目をつぶったままの政子が言った。
 
「冬、ギャラを多くもらったの? 私、しゃぶしゃぶ食べたいなあ」
 
私は笑って
「まあ、そのくらい連れてってあげるよ」
と答えてキスをした。
 
すると政子は言った。
「みーちゃんも呼んでいい?」
 
何だと〜〜〜!?
 
 
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■夏の日の想い出・6年間のツケ(8)

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