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■夏の日の想い出・6年間のツケ(6)

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6月20日金曜日。KARIONのメンバー4人が事務所に集まった。ベストアルバムに収録する曲はファン投票の上位13曲+KARIONが選ぶ1曲ということになっている。その1曲を決めるためである。
 
会議に出席したのは、KARIONの4人、畠山社長、三島さん、花恋、★★レコードの加藤課長と滝口さん、それにトラベリングベルズの相沢さん・黒木さんである。
 
「まず、投票上位13曲はこれです」
と言って畠山さんがホワイトボードにプロジェクターで投影する。
 
1.『アメノウズメ』(泉月) 2.『雪うさぎたち』(泉月) 3.『あなたが遺した物』(福留) 4.『Crystal Tunes』(泉月) 5.『僕の愛の全て』(福孝) 6.『四つの鐘』(雪鈴) 7.『海を渡りて君の元へ』(泉月) 8.『鏡の国』
(広花) 9.『Shipはすぐ来る』(樟南) 10.『魔法のマーマレード』(照海) 11.『恋のブザービーター』(泉月) 12.『星の海』(泉月) 13.『サダメ』(甘香)
 
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「でもこれ票を誰かがチェックする訳でもないし、多少操作してもいいですよね?」
などと滝口さんが言ったが
 
「そういうことをするのはファンに対する信義に反する。いけないよ」
 
と加藤課長が釘を刺す。小風が不快そうな顔をしている。
 
「この13曲は特に問題のある曲もないので、これで確定させたいと思います。よろしいでしょうか?」
 
と畠山さんが言うので、私たちは拍手で答えた。加藤さんが拍手しているので滝口さんも渋々拍手した。
 
「『恋のブザービーター』も『魔法のマーマレード』も後半随分上昇しましたね」
と和泉が言う。
 
「『恋のブザービーター』は櫛紀香さん効果、『魔法のマーマレード』は遠上笑美子ちゃん効果だね」
と私は言う。
 
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「で、最後の1曲なのですが。特に思い入れのある曲とかありますか?一応、投票のこのあとの順位はこうなっています」
と言って畠山さんは下の順位を表示させる。
 
14.『歌う花たち』 15.『雪のフーガ』 16.『スノーファンタジー』 17.『スターボウ』 18.『金色のペンダント』 19.『Snow Squall in Summer』 20.『コスモデート』 21.『水色のラブレター』 22.『秋風のサイクリング』 23.『優視線』
24.『白猫のマンボ』 25.『食の喜び』 26.『Earth, Wind, Water and Fire』 27.『コルドバの風』 28.『春風の告白』 29.『ムックリモックリ』 30.『月に想う』
 
「『歌う花たち』『雪のフーガ』『水色のラブレター』『秋風のサイクリング』
『白猫のマンボ』『月に想う』。いい曲ばかりだけどなあ」
 
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「ほんとに選に漏れたのが惜しいよね」
 
「『幸せな鐘の調べ』はここにも入ってないんですね?」
と相沢さん。
 
「34位です」
 
「『金曜日はカレー』は?」
と美空が訊く。
 
「131位だね」
「そんなに低いの? 金曜日はカレーって、どこの家でもやらない?」
「うーん。海軍さんの家はそうかも」
 
「ああ。美空のお祖父さんが海上自衛隊員だったよね?」
「うん。掃海艇『りしり』とかに乗ってた」
と美空、
 
「そういえば『りしり』『れぶん』って姉妹船がありましたね」
と黒木さん。
 
「掃海隊ってのは日本海軍から継続している自衛隊で最も古い部隊ですね」
と加藤さんが言う。
 
「日本海軍って終戦で解散したんじゃないんですか?」
「ところが戦争で大量に日本周辺に機雷が設置されていたので、それを除去する作業のために掃海隊だけが生き残ったんですよ」
「それは知らなかった」
 
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「だからうちは金曜日はカレー。私も金曜日はカレー。レトルトだけど」
と美空。
 
美空は5月から実家を出て、中央線某駅近くの賃貸ワンルームマンションでひとり暮らしを始めている。遅刻魔の美空だが、そこからなら家を出てから30分程度で事務所まで出て来られるはずである。
 
「みーちゃん、レトルトカレーは割高になるのでは?」
「ううん。業務用のレトルトカレー10袋入り500円の買ってるから」
「安い!」
「でもそれ1度に何個食べるの?」
「10袋入りは10袋でしょ?」
「もしかして10袋食べるの?」
「え? そのくらい食べない?」
 
小風も和泉も私も笑っているが、滝口さんはポカーンとしている。
 
「みーちゃんとマリの2人が主宰する食べ物番組とか企画持ってったら響原さん興味持ってくれないかな?」
と私は言ってみる。
 
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「いや。それは主宰者がひたすら食べてて番組成立しないと思う」
と黒木さん。
 

「で、話を戻して、どれを入れます?」
と畠山さんは訊く。
 
「次点の『歌う花たち』に1票」と相沢さん。
「凄く美しい曲なので『月に想う』に1票」と三島さん。
「『みんなの歌』でも流されて広い層に知られている曲で『白猫のマンボ』」と滝口さん。「私は『Earth, Wind, Water and Fire』 結構好きだなあ」と小風。
「『食の喜び』がよい」と美空。
 
「花恋は?」
「私も言っていいんですか?『秋風のサイクリング』好きです」と花恋。「うん。言うのはみんな好きに言って」と畠山さんは言う。
「蘭子は?」
「その中に入ってないけど『嘘くらべ』」と私。
「SHINさんは?」
「『金色のペンダント』。いい曲だと思うんですよねー」と黒木さん。
 
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「和泉は?」
と小風が訊く。
 
「『スノーファンタジー』。超絶ヴァイオリンプレイと超絶ピアノプレイが凄かった」
と和泉が言う。
 
「何か完璧に分散しましたね」と三島さんが言う。
「ジャンケンでもする?」と相沢さん。
 
「いや。票が割れたから、ここはリーダーの意見でいいと思う」
と私は言った。
 
「えーー!? じゃ、私たちの意見は?」
と小風。
 
「まあ、意見はみんな言っていいということで」
と加藤さんが笑って言う。
 
「じゃ、和泉ちゃんの選定で『スノーファンタジー』」
と畠山さんは言ってから
 
「この追加曲だけは新録音ね」
と付け加えた。
 
「新録音!?」
「アレンジ変えるんですか?」
「特に変えないけど今の君たちの歌声も入れようということで」
 
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「ちょっと待ってください。その演奏のヴァイオリンとピアノは誰が弾くんですか?」
と私は訊いた。
 
「こーちゃん、うちのヴァイオリニストって誰だっけ?」と和泉が訊く。「蘭子だね」と小風。
「みーちゃん、うちのピアニストって誰だっけ?」と和泉は訊く。
「蘭子だよ」と美空。
 
「ということで蘭子が超絶ヴァイオリン、超絶ピアノを弾く、と」
と和泉は言った。
 
「ひゃー」
 
「蘭子は和泉の意見で良いと言ったはず」
と小風は楽しそうに言った。
 
「2〜3日練習させてください」
 
「じゃ録音は月曜日に」と畠山さん。
「じゃ発売は半月後の7月9日に」と加藤さん。
 

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日曜日。私はアスカからリースしてもらっているヴァイオリンAngelaを持って、新幹線に乗って某市まで出かけた。4月に参加したヴァイオリンコンテストの決勝がこの日行われるのである。4月の予選では弦楽四重奏をバックに協奏曲を弾いたのだが、今日は本物のオーケストラをバックに演奏するのである。
 
見学は自由なので、私が席を外したりした時のヴァイオリンの管理役込みで、鈴木真知子ちゃんに付いてきてもらった。彼女としてもレベルの高い大会の本選を見ておきたいというのもあったようである。
 
本選に出場するのは予選を勝ち上がった6人である。1人20-25分ほどの演奏で、休憩を入れながらなので3時間半ほどかかる。昼1時から始めて結果が発表されるのは5時である。
 
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予選の順位とは逆に弾くということだったので、私は最初に壇上にあがった。
 
私は中学から高校1年の頃に掛けて、中高生で組織する市民オーケストラにいて、何度か演奏会でコンサートマスターまでやらせてもらったので、かえって弦楽四重奏と一緒に演奏するよりオーケストラと一緒に演奏する方がホッとする感じである。
 
ステージ上で、観客、指揮者、コンマスさんに挨拶してからヴァイオリンを構える。そして指揮者の合図で弾き出す。
 
私の音にオーケストラの重厚な音が付いてきてくれる。快感!
 
予選の時は弦楽四重奏の人たちにちょっと悪戯されたりもしたが今日はそんなこともない。オーケストラは正確に演奏してくれる。こちらも正確にそして情感を込めて演奏していく。指揮者さんが凄く入魂して指揮している。指揮棒はそのうちリズムより指揮者自身の興奮の象徴であるかのような振られ方をする。でもそのリズムを半ば無視したかのような指揮棒の動きの中から、内在されているリズムを読み取って私は演奏していく。
 
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最後の方は指揮者もオーケストラも乗りすぎて、若干アップテンポになってしまったが、気持ちよく終曲までいくことができた。
 
終わると同時に物凄い拍手が客席から響いてきた。私は深々とお辞儀をした。そして笑顔でステージを降りて自分の席に戻るが、その時、物凄く鋭い視線を感じた。視線を合わせないように、目の端でそちらを確認すると、予選で1位になった竹野さんだった。
 

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席に戻ると真知子ちゃんが
「凄かったですよ。冬子さん、随分腕をあげましたね」
と言った。
 
「そうかな? でも私は露払いだからね。この後、どんどん凄い人が出てくるよ」
と私は言う。
 
私の次に予選5位の人が弾いたが、彼女はあがってしまったようで、かなりミスを繰り返した。最後の方は涙ぐんでいたが、それでも頑張って最後まで弾き通した。泣きながら最後の挨拶をしたが、みんな暖かい拍手をしてあげた。
 
予選4位の田中さんという人がステージに上がったのを見て私はあれ?と思った。
 
「どうしました?」
と真知子ちゃん。
 
「いや、この人、前回はセーターにズボンだった気がして・・・」
「男の子?」
「と思い込んでいたのだけど。決勝進出は男性が1人と女性5人と思い込んでいたんだよね。でも今日はドレスだね」
「男の娘?」
「うーん。前回が単にボーイッシュな服装していただけかも」
「この名前は男女どちらもあり得る名前ですね」
「うーん。謎だ」
 
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この人は無難に弾きこなす。多少音を外した所はあったが、目立たない。巧く弾く人だなと思った。
 

次の佐藤さんという人は予選の時もドレスだった。今日もドレスである。多分女性だろう!?この人の演奏は正確ではあった。しかし私は聴いてて、可も無く不可も無い演奏かなという気がした。
 
「解釈ができてないと思いません?」
と真知子ちゃんが小声で言う。
 
「そこまで弾きこなしてないのかな」
「いや。解釈って何も考えてないと、結局いつまでもその曲を理解できないんです。理解しようとしなきゃ。好きな人のこと、ただ眺めているだけではその人のこと全然分からない。その人のことを分かろうと日々努力して初めて、その人の理解者になれるんです」
 
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私は彼女の意見に頷いた。
 

やがて予選2位になった溝上さんという人がステージに上がる。彼女のヴァイオリンもかなりの値打ちもののようである。恐らく19世紀の作品とみたが出来はかなり良い。そして溝上さんの手にかかると素敵な音を出していた。
 
彼女の演奏は予選ではそんなに凄いという感じではなかったのだが、この日の彼女は予選とは見違えた。
 
指揮者のタクトに敏感に反応する。オーケストラが持っている波動をそのまま受け止めて、そして大胆に自分の解釈を入れて演奏していく。それはまるで、卓越したジャズプレイヤー同士のセッションを見ているかのようだった。
 
「この人凄い」
と私は途中で呟いてしまった。
 
「この人たぶん・・・」
「うん?」
「冬子さんと同じでオーケストラとの共演経験をかなり持っているんですよ」
「ああ。それはあり得る。みんな普段はピアノ伴奏で練習してる。でも弦楽四重奏との共演って意外に経験無くて、予選では戸惑ったのかもね」
 
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演奏はノーミスだった。非の打ち所が無い気がした。演奏が終わると、物凄い拍手である。演奏した本人も満面の笑み。やはり会心の演奏だったのだろう。
 

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溝上さんの演奏が終わると、最後は予選一位の竹野さんである。アスカの生徒のひとり、凜藤更紗のライバルの子だ。
 
「この人は格が違うから、真知子ちゃんもよく聴いておくといいよ」
と私は言った。
 
ところが最初から躓いた。
 
いや、本当に彼女は躓いたのである。
 
ヴァイオリンを持って壇上に上がろうとした時、足を踏み外して転んでしまった。近くに居た運営の人が駆け寄る。
 
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■夏の日の想い出・6年間のツケ(6)

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