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■春芽(12)
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一方、土曜日の最終便で湧別まで来ていたアクアは撮影隊A班および瑞絵ちゃん・暢香ちゃんと合流。翌日朝8時の開園を待って、かみゆうべつチューリップ公園に入って風車小屋の前で撮影をおこなった。これは昨日構成を固めているので1時間ほどで終了する。瑞絵ちゃん・暢香ちゃんはこれでお疲れ様で、女満別空港から羽田に戻る。撮影隊A班は、使えるかも知れない画像を撮影して夕方の便で戻る。
なお撮影で使用したチューリップはそのままにしておいてもいいということだったので、月曜日に造花だけ回収したが、残された季節外れのチューリップは口コミで広まり、その週、結構な来園客があったようである。
さて、アクアは9時過ぎに公園を出て、山村マネージャーが運転するレンタカーのランドクルーザーに乗って、高村友香と一緒に旭川に移動する。到着したのは11時半頃である。山村の運転にしては慎重だが、これは千里から、きつく釘を刺されていたので、ちゃんと速度を守って運転したからである。アクアは道中ずっと後部座席で寝ていた。
旭川で撮影B班、西湖、ワルツおよび信貴君・昭恵ちゃんと合流し、一緒に軽くお昼を食べて休憩した後で旭岳に登る。この撮影はアクアを充分休ませて疲労の色が出ないよう気をつけた上で(美容液パックもされていた)、結局13時すぎから撮影するのだが、昨日西湖で撮った夕日の迫る時間帯の方が、光の加減が良かったという話になる。それで少し休憩した上で、15時すぎの夕日が近くなった時刻から撮影を再開する。
(10月28日の旭川の日没は16:27)
今日は、昨日西湖が演じたパートをもちろんアクアが演じているのだが、西湖は昨日桜木ワルツが演じた役をする。つまり、お姫様っぽい北里ナナ(アクア)の傍に、侍女役の西湖(やはりドレス)、サンタクロースの信貴、サンタガールの昭恵、という形で撮影するのである。
ところが15時半頃になってから、撮影を見ていた山村が唐突に
「侍女がもうひとりいた方がいい」
と言い出した。
「それって私がやるしかないですよね?」
とワルツが言う。
「うん。頼める?」
「いいですよ」
それで侍女2人バージョンで撮影を進めた。ここでワルツが昨日演じた通りの演技をして、西湖はアドリブで演技する。しかしアドリブでちゃんとした演技になる所が西湖の凄さである。
山村マネージャーは西湖にそれができるはずと信じてやらせたのだが、数回のNGを覚悟していた監督は思わず「すげー」と言っていた。西湖は全くNGを出さなかったし、監督が満足するクォリティであった。
念のため2度撮影した所で「もう撤収しないと最後のリフトに間に合いません」と撮影助手が言うので撮影を終了。大急ぎで撤収して、リフトに駆け込んだ。
しかし夕日が迫る中で最後に撮影した映像は光の加減がとても素敵であった。
一行は旭川からの最終便で東京に戻ったが、撮影隊B班は明日も旭岳で撮影して追加の映像を撮っておくということであった。
そういう訳で今回、西湖は男役は無かったのである!
11月1日(木).
12月11-16日に中国の杭州(Hangzhou,ハンジョウ)でおこなわれる世界選手権(25m)に派遣される代表選手が発表になった。女子長距離選手は結局、ジャネ、青葉、南野さんの3人ともが選出され、各々次の競技にエントリーすることになった。
400m自由形 南野(21)、ジャネ(25)
400mメドレー 青葉(21)、南野(21)
800m自由形 ジャネ(25)、青葉(21)
青葉は優勝した400mメドレーと2位の800mに出る。400m自由形では優勝した南野と3位のジャネが選ばれた。800mで優勝し、日本記録保持者でもあるジャネを800mで派遣しない訳にはいかないが、1種目だけでは・・・ということで強化部でもかなり議論したのではないかという感じである。
ジャネから青葉に電話が掛かってきて
「私が負けたのに悪いね」
と言っていたので、青葉は
「ジャネさんも最後の大会ですから、譲っておきますよ」
と言う。するとジャネは笑って
「青葉もだいぶ言うようになったね。じゃありがたく2年後の短水路世界選手権の代表も東京五輪代表も頂くから」
と言っていた。
2020年の短水路世界選手権はアラブ首長国連邦のアブダビで行われる予定である。
11月2日(金)の夕方、東京のテレビ局のスタジオに『少年探偵団II』の出演者とスタッフが集まった。
メインキャストは昨年と同じである。
小林芳雄:アクア、花崎マユミ:元原マミ
明智小五郎:本騨真樹、文代:山村星歌、怪人二十面相:大林亮平、中村係長:広川大助
少年探偵団が少しメンバーが入れ替わっている。
少年探偵団:遠山良太、坂口芳治、鈴本信彦、松田理史、内野涼美、今井葉月
男女比は昨年同様、男4・女2である。
(葉月は昨年も今年も女優としてカウントされている。そもそもほとんどのスタッフ・共演者が葉月を女の子だと思い込んでいる。元原マミなどは知っていたはずだが、葉月クラスの端役俳優は数が多いので記憶が曖昧になっている)
小池プロデューサー、河村監督からお話があった上で早速、第1回のドラマの撮影が始まった。撮影は一応2月下旬で終わる予定にはしているものの、実際には様々な要因で遅延することは考えられる。実際昨年もクランクアップが3月中旬までずれこんでいる。
この日撮影されるのは、このようなストーリーであった。
不動産王・鳥越明次郎氏が所有する大粒のダイヤ《ガンジスの星》を盗み出すという予告状が二十面相から新聞各社に送られて来た。鳥越氏は警備員を屋敷に常駐させた。
二十面相は年内に盗み出すという予告をしていたのだが、その後、度々屋敷に侵入しようとする怪しげな賊が見つかり、警備員が捉まえようとするも、すんでで取り逃がすという事件が続く。
鳥越氏は明智小五郎に宝石を守って欲しいと依頼。明智は警備のため小林少年に女装して秘書に化けて屋敷に潜入するよう言う。
「また女装ですか?」
とアクアが嫌そうな顔で言うのに対して、文代さんが
「好きな癖に」
とつぶやくシーンがある。
ところが小林少年が潜入した後も、賊が侵入しようとする事件が起きた。また警備員が賊を捕まえきれなかったという話を聞きながら、レディススーツで女装した小林少年は腕を組んで何か考えていた。
小林君が少年探偵団のリーダー(鈴本信彦)に連絡し、彼が団員を集めて何か指示するシーンが映る。
小林が潜入してから半月ほど経った時、鳥越氏が驚くべき声明を出した。
「《ガンジスの星》は貴重な芸術品であり、本来個人が独占すべきものではない。それでこれを宝石を多数展示している中山美術館に寄託する」
というのである。驚いて駆けつけた警視庁の中村警部が
「ほんとに寄託していいんですか?」
と訊く。
「だってあのダイヤは本当に美しいんだよ。ボクが親しい友人に見せるだけというのはもったいない。美術館に置いてみんなに見てもらうのがいい。美術館なら、個人宅と違って警報装置とかも厳重だし、いくら二十面相でも、そう簡単には盗めないだろうからね」
と鳥越氏は言う。
「それにね。僕は思ったんだよ。何か今にも盗られそうなものを安全に保護するいちばん良い方法は、それを自分の所には置かないことだってね」
その台詞を聞いてこれ何か意味深だぞ、と西湖は思った。
それで寄託の当日、屈強な警備員を乗せた警備会社の現金輸送車と、中山美術館の館長がやってきて鳥越氏と握手する。
それで現金輸送車の金庫の中に《ガンジスの星》の防弾ガラス製のケースを納め、警備員2名、美術館長、鳥越氏、鳥越氏の秘書(小林少年の女装)が乗り込んで輸送車は出発する。ところが少し走った所で美術館長は車を停めさせた。
「どうしました?」
と鳥越氏が訊く。
「いや、申し訳無い。私はヘビースモーカーで実は煙草を5分吸わないと気分が悪くなるんですよ。秘書さん、申し訳無いけど、そこの自販機でメビウスを1箱買ってきてくれない?」
と言って千円札を渡す。
「健康によくないですよ」
と鳥越氏は言うが、小林少年は素直に千円札をもらうと車を降りて自販機の所に行く。ところが小林が降りて自販機の所まで行った所で現金輸送車は発車してしまう。
「ちょっと秘書がまだ戻っていないのに」
「あいつは明智の助手の小林だ」
「え?そうなんですか?でも女の子ですよ?」
「あいつは女装がうまい。本当は本物の女の子じゃないかというくらいうまい。だから邪魔者を排除した」
「ちょっと意味が分からないんですが」
と鳥越氏は走る車の中で狼狽したように言う。
美術館長はいきなりピストルを出して鳥越氏に突きつける。
「何するんです?」
「携帯電話を出せ」
それで鳥越氏はスマホを美術館長に渡す。
「命までは取らない。今車を停めるから車を降りなさい」
「あなた誰です?」
「まだ分からないのかい?僕が二十面相だよ」
「え〜〜〜!?」
「ボンクラな探偵に依頼して失敗したな。本物の美術館長は美術館の館長室の椅子に縛り付けてきたよ」
やがて車は寂しい田園地帯で停まる。そして鳥越氏を下ろして現金輸送車は走り去った。大笑いして二十面相は変装を解いて素顔(大林亮平)に戻る。
やがて郊外のアジトらしき建物に到着する。大林亮平演じる二十面相が警備員に化けた部下たちと一緒に降り、荷室の所に回ってドアを開けた。
ギョッとする。
「やあ、二十面相君。お疲れ様だったね」
と言っているのは金庫の前に立っている小林少年(アクア)である。レディススーツを着てお化粧をしたままである。
「貴様!いつの間にここに入った!?」
「最初から入っていたのさ」
「何!?」
「ボクの女装が君にバレるのは当然分かっていたから、少年探偵団の山口あゆか(今井葉月の役名)に代わってもらっていたのさ。だから自販機の所に置き去りにされたのが山口だよ。そしてボク自身は君たちが中村警部たちと立ち話している間にここに忍び込んでいた。ボクも山口も同じレディススーツを着ていたし、ボクと彼女は背丈も同じだし、同じような雰囲気になるようにお化粧していたから、君も入れ替わったのに気付かなかったようだね。女性はお化粧していると結構顔を誤魔化せるんだよね」
ここで自販機のそばに立っていたレディススーツを着た葉月が、救援に来た文代さんの車に回収されるシーンが映る。
「じゃ次は鳥越さんを回収しなくては」
「発信器を付けておいたからすぐ場所は分かるね」
という会話がある。
「おい、これが目に入らないか?」
と言って二十面相はピストルを小林少年に向ける。
「ふーん。あれが聞こえないのかい?」
遠くにウーーーという音が聞こえ、少しずつ大きくなってくる。
「貴様・・・」
「ボクはGPS発信器を付けているからね。後からちゃんとパトカーが追いかけてきているよ。おとなしく縛につきなよ」
「うるさい。こうなったら貴様を人質にして」
と言って二十面相が小林に近づこうとした時。
「動くな、二十面相」
と言って後ろで声がして、二十面相はピストルを背中に突きつけられた。
「権藤?貴様気でも狂ったか?」
「僕は君の部下ではない。僕が分からないかい?」
「貴様明智か!?」
「ちなみにこちらにいるのもボクの助手の赤堀だよ」
「じゃ明智、貴様ら、俺を手伝って宝石を盗む手伝いをしたのか?」
と言って二十面相は笑っている。
「まあねずみ取りに大物鼠をひっかけるためにね。あ、そうそう、ダイヤだけどね。赤堀君、金庫を開けて」
「はい」
と言って赤堀助手が金庫のロックを外す。そして《ガンジスの星》の入ったガラスケースを取り出す。
「この《ガンジスの星》はレプリカだよ」
「何だと〜〜〜!?」
「キュービックジルコニアの表面にダイヤの薄板を貼り付けたもの。いわゆる、ダブレット(doublet)だね。表面は本物のダイヤだからプロでも肉眼では簡単に見分けられない。宝石鑑定用の光を当ててみれば一目瞭然だけど、この石は厳重にガラスケースの中に納められているから、そんなこともできない。制作には結構時間が掛かったけど君がゆっくり盗もうとしていたから間に合った。これを昨夜の内にボクが小林に命じて、すり替えておいたんだよ」
「うっ・・・」
「物が盗まれそうな時はそれを別の物と交換しておくのがいちばんの対策だからね」
と明智は言っている。
「取り敢えず君には20日間の勾留を体験してもらおう。余罪も追及するから覚悟したまえ」
うなだれる二十面相の所に、多数のパトカーが到着。中村捜査係長が駆け寄ってきて、二十面相に手錠を掛けた。
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