広告:まりあ†ほりっく 第6巻 [DVD]
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■春芽(6)

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青葉はこのセミナーが終わった後、東京に向かい、夕方から淳のアパートで和実の妊娠に関する会議に出席した。
 
淳から説明があった上で、会議の大勢は色々不安はあるが、みんなで見守っていこうという方向になる。
 
そしてこれまで淳と和実の最初の子供・希望美(2016.7)の誕生にも手助けをしてくれた青葉と千里に今回もメンテをお願いしたいと淳が頭を下げて頼んだ。
 
2人は実は千里の最初の子供・京平(2015.6)で協同したのが、妊娠維持作業の最初である。その後、フェイの子供・歌那(2017.3)の妊娠維持と出産でも協同している。千里の2番目の子供・緩菜の場合は、千里自身が2度目の妊娠だったことと、仮親?の美映が自身バスケット選手であり、健康そのものの身体であったことから、特にメンテ作業をしなくても妊娠が維持できた。
 
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京平の場合、仮親の阿倍子の脳下垂体が壊れていて、千里の脳下垂体が妊娠のコントロールをしたが、千里の脳下垂体も“普通の女性とは違う”ので大変だった。希望美の場合は卵子自体の存在性が微妙で、最終的に桃香の能力?で胎児を現実世界に帰着させた。フェイの場合も本人の脳下垂体があまりマトモではないので、ホルモンコントロールにかなり苦労した。
 
しかし今回は卵子・胎児の存在性が曖昧な上に妊娠コントロールの能力が無いはずの和実の脳下垂体を使い、子宮ではなく腹膜で妊娠している胎児を維持するという、これまでで最も困難な妊娠維持作業となることが予想された。
 
千里は淳に「子供が無事生まれることも、和実が死なないことも、どちらも保証できない。それでもいいならやってみる」と言い、淳も「それでいい。私も覚悟はしているから頼む」と言ったので、最終的に引き受けた。
 
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冬子はその件をきちんと文書にまとめて、淳に署名捺印させた。そうしておかないと万一の時に、訴訟沙汰になりかねない。
 

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10月17日(水).
 
その日《びゃくちゃん》は《すーちゃん》から
 
「今日も千里の練習パートナー代わってくれない?」
と頼まれ、常総ラボに向かった。
 
「なんか朱雀も忙しくしてるなあ。何やってんだろ?」
などと言いながら、鉄道で常総市に向かった。
 
千里(千里1)は8月26日以降《すーちゃん》に連れられて常総市に千里自身が所有している体育館“常総ラボ”に通い、2人でバスケットの基礎練習をしていたのだが、これまでも何度か
「急用ができたので、パートナーを代わって欲しい」
と頼まれ、千里につきあっていた。
 
この時点で千里1はこの体育館が自分が所有しているものであること自体をまだ思い出していない。
 

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常総ラボでは6年ほど前、数人の眷属で《女装ビーツ》と称してバスケットのクラブチームを装い、日本代表候補に選ばれたばかりの頃の貴司君を鍛えた。ちょっと懐かしいよなと思う。貴司は2012年から2017年まで日本代表に参加したが基本的に“スーパーサブ”という使われ方であった。現在29歳。体力的にはピークになる年齢。彼ももっとまともなチームに移籍すればもう一度花を咲かせられるのに、と《びゃくちゃん》は思っていたが、たぶん千里も同じ思いだろう。
 
などと考えつつも《びゃくちゃん》は千里が川島信次と結婚したこと自体を理解できない。実は早く別れるように信次の恋人、水鳥波留を密かに支援していたのは他の眷属には内緒である。
 
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波留はあの後、会社を辞め、久喜市に住むお姉さんのところに身を寄せている。事情を察していた高橋課長がボーナス支給日まで在籍したことにしてくれたおかげで雀の涙程度ボーナスが出て、何とか引越費用はまかなえたものの、勤務期間が短く退職金は出なかった。それで《びゃくちゃん》は彼女を受取人とする信次の保険がおりたと称して500万円渡して来ている。これで何とか出産までの費用はまかなえるだろうと考えた。実際最初迷惑そうな顔をしていたお姉さんの夫も、保険金500万円を波留がそのまま姉に渡したと聞いて受容的になってくれた。
 

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この時期はいくつかの事象が同時進行している。
 
10.07 信次の百ヶ日法要(千里1が喪主)
10.08 千里(千里1)が桃香のアパートで暮らし始める
10.11 若葉が第三子・政葉を出産。
10.13 フランスでLFB開幕(千里2が参加)
10.14 ローズ+リリーのツアー千秋楽。政子(マリ)は産休に入る。
10.15 和実が妊娠していると診断される
10.16 和実妊娠の件についてクロスロードのメンツが東京に集まって会議
10.19 日本でWリーグ開幕(千里3が参加)
 

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10月17日の朝《びゃくちゃん》が千里が来る前に少し身体を暖めておこうと思い、体育館(常総ラボは普通の学校体育館などの半分のサイズ35m×21mしかないので一周は112mである)の端を軽く走っていたら、9:30頃千里がやってきた(千里1)。千里1は早月をミラに設置したチャイルドシートに乗せて走ってきている(首都高→外環道→常磐道→圏央道)。
 
それで常総ラボの一角に設置しているベビーバリアの中に早月を入れ、早月が勝手に遊んでいる間に千里と《びゃくちゃん》が練習した。
 
「千里、だいぶ回復してきている。これならレッドインパルスの2軍の人たちと一緒に練習してもいいくらいだと思うよ」
と《びゃくちゃん》は言う。
 
「そうかな。でもあそこ行くならその間、早月はどうしよう?」
「それなら私でも鈴子でも見ていられると思うよ」
「じゃ考えてみる」
 
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それで千里(千里1)は12時前に早月をミラのチャイルドシートに乗せて帰って行った。《びゃくちゃん》は鉄道で帰ろうと思い、軽く掃除をし、お昼用に買っておいた牛丼をチンして食べてから、戸締まりをし、常総線の駅の方に向かった。ところがそこに赤いアテンザが通りかかるのでびっくりする。車は停まって、窓が開き、千里が声を掛けてきた。
 
「びゃくちゃん、今暇?」
「えっと、東京に戻ってから新幹線で大阪に行って京平と緩菜を見てこようかと思っていたけど」
 
この時《びゃくちゃん》は千里が自分に“びゃくちゃん”と呼びかけたことに気付くべきであった。千里1は彼女が自分の眷属であることを思い出しておらず「白鳥さん」と呼んでいたのである。
 
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「それ遅くなってもいいよね?少し練習の相手してくれない?」
「まだやるの?いいけど、早月ちゃんは?」
「早月?てんちゃんが見てるって言ってたよ」
「へー!」
 

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ともかくも《びゃくちゃん》は千里のアテンザに同乗して常総ラボに戻る。そして練習を始めたのだが、うっそー!?と思った。
 
「千里凄すぎる。全然私の相手ではない。午前中とまるで違う。千里、こんなに回復したの?」
「びゃくちゃん疲れているのでは?じゃ私シュート練習するから球拾いしてよ」
「いいよ」
 
それで千里はシュート練習を始めたが、実際問題として《びゃくちゃん》のお仕事は「球拾い」というより「返球係」である。千里のシュートは全てがゴールするので、ゴールネットから落ちてきたボールを拾って千里にパスで返すだけである。
 
これが午前中の千里なら、シュート練習する玉は半分程度しか入らないので、本人が自分で走っていって玉を拾っていた(千里がシュート練習する間、びゃくちゃん自身は早月の相手をしていた)。
 
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「千里見違えた。いったい何があったの?」
「え?別に何もないけど。私は普段通りだよ」
と千里は言う。
 

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それで結局千里は12:30頃から14:30くらいまで練習してから
 
「今日はこのくらいにしておこうかな」
と言った。
 
それで帰ることにする。掃除をしようとしたら千里が「私がやるよ」と言い、モップを持って走って床掃除をする。《びゃくちゃん》は腕を組んでそれを見ていた。午前中の千里は体力が無く、走ってモップ掛けができないようなので「早月ちゃんもいるし先に帰りなよ」と言って帰して《びゃくちゃん》が床掃除をしたのである。しかし今見ていると千里は走って床掃除をしていても、全く息が上がっていないようである。
 
(この走ってモップ掛けをするのはかなりの重労働なのである)
 
一緒に戸締まりをする。千里は「電車(*2)の駅まで送っていくよ」と言って、びゃくちゃんをアテンザで常総線の駅まで送っていき、それから帰って行った。
 
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なおこの駅から東京に出るには、常総線で守谷に出てから、つくばエクスプレスに乗り、秋葉原(または南千住)でJRに乗り継げばよい。
 

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(*2)常総線を走っている列車はディーゼル車(キハ2100型など)である。常総線は非電化である。しかし電車に慣れている人は、つい電車と言ってしまうことがある。
 

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《びゃくちゃん》は何かおかしなことが起きている気がして、腕を組んだままそのアテンザが走り去っていくのを見ていた。
 
取り敢えず東京駅まで行くかと思い、券売機で守谷までの切符を買おうとしていたら、列車が到着するが、そこから降りてきた人物を見て仰天する。
 
「千里!?」
 
“千里”はこちらを見て笑顔で手を振りやってくる。
 
「待って。これどうなってんの?」
と《びゃくちゃん》は半ばパニックになって言う。
 
「どうかした?」
 
「私、午前中に千里とバスケの練習して帰ろうとしていたら、また千里が来て練習して、それが終わって今帰ろうとしていたらまた千里が来て・・・」
 
「びゃくちゃん、ちょっと私の練習相手務めてくれない?」
「うっそー!?」
 
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「まあちょっと常総ラボまでウォーミングアップ代わりにジョギングしてからかな」
 
「ジョギングくらいはいいけど!?」
 

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それで2人で体育館までジョギングし、中に入る。
 
「びゃくちゃん、疲れたろうし、休んでていいよ」
と言って、千里は軽くシュート練習を100本ほどやったが、外したのは5本だけだった。
 
「休憩〜」
などと言ってこちらに来てアクエリアスを飲む。
 
《びゃくちゃん》は腕(前足?)を組んでじっと千里を見ていた。
 
「さすがに疲れたのかな。少し外したね」
と《びゃくちゃん》は言った。
 
「ふーん。お昼過ぎに来た千里はどうだった?」
「200本撃って全部入れた。1本も外さなかった」
 
「凄いな。向こうはひたすらスリーばかり撃っているだろうし。私は必ずしも全てスリーではなくて、相手に的を絞らせないようにミドルシュートやランニングシュートも撃っているから」
 
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《びゃくちゃん》は困惑するような顔で言った。
 
「まるで他人事みたいな言い方を・・・・あっ!」
 
「気付いた?」
 
「まさか午後から来たのは千里じゃないの?」
「千里だよ」
「・・・じゃ、今ここに居るのは?」
「千里だよ」
 
《びゃくちゃん》はしばらく考えた。
 
「まさか千里って2人居るの!?」
 
「3人だよ。午前中にも別の千里を見たでしょ?」
 
「え〜〜〜〜〜〜!?」
 
「2人は女の子だけど、1人は性転換した元男の娘」
などと千里は言っている。
 

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「去年の春に落雷にあった時、4つに分裂してしまったんだよ」
「4つ!?」
 
「でもその内の1つ“0番”は肉体だけで魂が無かった。それで1番が合体して、新1番ができて、それ以来、私は3人に別れて行動している」
 
「うむむむ」
 
「それで昨年7月に一度死んで、眷属とのコネクションが切れてしまい、その後川島信次と結婚したのが1番だよ。一度死んでいるから第3世代の千里1というべきかな。この1番は死んだ時に霊的な能力をいったん失ってしまった。でも少しずつ回復してきたところで、また信次の死に遭遇して、ブレーカーが落ちた状態になっていた。でも緩菜の誕生でブレーカーは戻った」
 
「お昼過ぎに来たのは?」
「あの千里は3番。彼女は日本代表を務め、Wリーグのレッドインパルスの1軍選手として活動している」
 
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「待って。千里ってレッドインパルスの2軍に落ちたんじゃなかったの??」
「だからそれは1番なんだな」
 
「じゃレッドインパルスに千里1番と千里3番が属している訳?」
 
「そういうこと。1番は背番号66“村山十里”の名前で昨年後半は2軍で活動した。でも3番は背番号33“村山千里”の名前で1軍選手で日本代表でもある」
 
「知らなかった!」
 
「レッドインパルスの首脳陣はふたりを二重人格と思っている。だからふたりが同時に姿を現さないように《きーちゃん》が頑張って調整している。3番の海外遠征中は1番は絶対に公の場に出さない」
 
「貴人はそんなことしてたのか」
 

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