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■春芽(2)

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青葉は8月9-12日にパンパシフィック選手権に出るため東京に出て行ったのだが、この時、些細なことで彪志と喧嘩してしまった。しかしその怒りのパワーで!?金メダルを取ってしまった。青葉にとっては国際大会で取った初めての金メダルである。
 
彪志とは何度か和解しようとしたものの、なかなか直接会うことができず、電話しても、また喧嘩してしまって「もう別れる」などという話になるまでこじれてしまった。和実が心配していろいろアドバイスしてくれたのだが、青葉は素直になることができなかった。
 

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8月23日(木).
 
この日、大阪では緩菜が生まれ、千里1がそれに立ち会ったのだが、前日まで代表合宿をしていた千里3は朝から高岡の青葉の家までやってきた。青葉は千里の突然の来訪に驚くが、千里は言った。
 
「強盗だ。お前の身体をよこせ」
「私の身体が目的なの〜〜?」
 
「まあ性転換手術しよってんじゃないからこちらに任せてよ」
「性転換は困る!」
 
青葉が思わず笑った瞬間、千里は不可視状態で随伴していた《せいちゃん》を青葉に飛びかからせた。
 
そして青葉に取り憑いていた悪霊を剥がして処分してしまったのである。
 
青葉はスッキリしてしまったので驚く。
 
「あれれ?」
「青葉、紺屋(こうや)の白袴(*1)」
 
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「え〜〜〜〜!?」
 
そして青葉が除霊されてしまうと、《雪娘》と《姫様》が言った。
 
『青葉、私たちがずっと呼びかけていたのに全然反応してなかった』
『青葉、わらわの声も聞いていなかったから、罰として30kmジョギング』
 
そして千里は言った。
 
「青葉、彪志君と喧嘩したのは、変な霊に憑かれていたからだよ」
 
千里がこの日わざわざ高岡まで来たのは、実は《雪娘》が助けて欲しいと言いに来たからである。千里2は海外にいるので、国内にいる千里3に助けを求めたのである。
 

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(*1)紺屋の白袴とは、染め物屋が忙しすぎて自身の袴を染めることができず染めないまま穿いていることを言い、専門家なのに自分のことがお留守になっていること。医者の不養生も類義。ソフトハウスはしばしば自身の作業のコンピュータ化が遅れていたりする。
 

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千里は更に青葉を盛岡に連れていき、彪志・文月と“お見合い”をさせて、両者を和解させた。これも千里が前夜に彪志に連絡して、こういう席を設けることを決めていたのである。文月もさすがに反省していたので、青葉に謝らなければというので出てくれた。
 
「でも私、いつの間に変なのに憑かれたんだろう?」
「千里1の死の呪いと闘った時かもね」
「・・・それはあるかも」
 
「あの場に居た、他の人たちもチェックしてあげて」
「分かった!」
 
青葉はその日は“お見合い”をしたホテルに彪志と一緒に泊まり、翌24日に高岡に帰還した。信次の死の時に近くに居た人たちのメンテをしなければと思っていたのだが、予定が詰まっていてなかなかできない。
 
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8月25日は富山県水泳選手権に出場。28日は東京のテレビ局でセミナーに出席。29日は大阪のテレビ局でセミナー出席。そしてインカレが迫っているので、その後は金沢に戻って水泳部のメンバーたちと一緒に練習に励んだ。
 

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インカレでK大水泳部は、女子は昨年6位でシード校になっており、男子も中部選手権で2位になり団体出場している。それで標準記録さえ突破していれば出られるので男女8人ずつ、それにマネージャーとして、女子部長の布恋、男子部長の佐原、の2人を同行させようということになる。今年は男女の部長がどちらも標準記録を突破しておらず選手としては参加できないのである。
 
幸花は、その日、来春就職予定の会社の職場体験があるのでパスという話だった。ところが申込期限の8月7日になって
 
「不合格になって面接が無くなった。まだ参加できる?」
と言うので、本当にギリギリだったのだが、幸花をマネージャーとして追加登録した。
 

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「でも幸花さん、〒〒テレビにそのまま就職するのかと思った」
「あそこはあくまでバイト。正社員の枠は狭い」
「そういうものですか?いっそそのままバイトで勤め続けるというのは?」
「それは最後の手段だけど、バイトの給料は安いから」
「ああ」
 
「それにどうも神谷内さんがもしかしたら退職するかもという話で」
「え〜〜!?なんで?」
「テレビ局の幹部さんと衝突したみたい」
 
「あぁ・・・」
 
「じゃ青葉がやってる金沢ドイルシリーズは?」
「あれも終わるかもね」
「私あれずっとは、やっていきたくないけど、神谷内さんが退職するのは悲しいね」
と青葉は言った。
 

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インカレは横浜国際プールで9月6-9日に行われ、青葉たちは女子は再度シード権を獲得、男子も12位とまずまずの成績であった。水泳部のメンバーは9日夜遅く金沢に帰還した。
 

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西湖は9月5日,6日に行われた水泳の授業にはうまく参加できて「かなり泳ぐね!」と言って、先生から褒められた。やはり女子の中にはそもそも泳げない子とか、少しは泳げるが25mの端までたどり着けない子が多い。
 
「私はとっくりだと言われた」
などと紀子が言っている。
 
「何それ?」
 
「カナヅチは水に飛び込むとそのまま沈んでいく。とっくりは一瞬浮くけど、やがて沈んでいく」
 
「つまり少しは泳げるんだ!」
「飛び込んで5mくらいかなあ」
「それは飛び込んだ勢いで進む距離では?」
 

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結局水泳大会で、西湖は200m(25mプール4往復)と、100mリレー(25m×4)に出場することになった。
 
西湖たちのクラスは30人だが、クロールで25m泳げる子が実は西湖を含めて4人しかいないので、その4人でリレーのメンバーを組んだのである!
 
西湖は自分がここしばらく水泳の特訓をしていなかったら、リレーのメンバーが組めなかったじゃん!と思った。一応途中で立ち上がってまた泳ぎ出したり、最悪水中歩行で向こうまで到達してもいいことになっているらしい。
 
紀子は5mしか泳げないということで潜水に参加することになった。潜水で何秒水中に居られるかを競うものである。
 
「潜水の世界記録更新を狙おうかな」
「それって永久に浮かんでこないという奴?」
「ソビエト連邦の潜水艦ノブゴロドは1950年に潜水して以来潜水記録を更新中」
「むむむ」
 
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他に、平泳ぎ、背泳ぎ、横泳ぎなどの種目もあるので、クロールであまり長距離泳げない子はそういうのに参加したりもする。
 

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当日は多数の生徒が着替えるので、プール付属の更衣室ではとても足りない。それで3年生はプール付属の“男女”の更衣室で着替え、1〜2年生はプールの上にある第2体育館で着替えることになった。
 
「そういえばうちの学校は女子校だけど男子更衣室もあるんだよね」
「まあここで中体連・高体連の水泳大会がおこなわれることもあるから、その時のための設備なんだけどね」
「男子にとっては女子高に入れる数少ないチャンス」
「そういう場合と、校内水泳大会の時しか使わない」
 
なお男性教師は管理室の中で着替えているようである。女性教師は生徒たちと一緒に女子更衣室で着替える。
 
西湖たちは体育館のクラスの立て札のある付近で適当に集まり適当におしゃべりしながら着替えたが、最初から水着を制服の下に着ていた子も結構いた。西湖もその方式である。
 
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「それ、トイレたいへんだったでしょう?」
「トイレに行く時は全部脱いだ」
「それしかないよね」
「男の子だと、水着をちょっとずらせばできるよね?」
「あれ?男子の水着ってちんちん出す所ついてるんじゃないの?」
「そうなんだっけ?」
「あれってずらさなくても、そのまま出せないの?」
「そのまま出せるのなら、泳いでいる最中に飛び出してくる気がする」
「確かに!」
 

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みな男子の水着の構造がよく分からないので妙な議論をしている。しかし弟がいる子があっけなく答えを出す。
 
「男子の水着は全体を少し下にずらせばできる」
「なるほど!」
「その手があったか」
 
「だって女子のビキニだって下にずらせばできる」
「あっそうか!」
「ビキニ着たことなかった」
 
そんなことを言っていた時、ざわっと声がするのでそちらを見ると、なんと紀子がビキニを着ているのである。
 
「あんたそれで泳ぐの?」
「私は潜水に出るだけだからこれで問題ないはず」
「それ校則違反じゃないんだっけ?」
「生徒手帳を確認したけど、ビキニを着てはいけないという規則は書かれていなかった」
 
やがて小川先生が回ってくるが、案の定、見とがめられる。
 
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「立花さん、そんな水着着てきたの?」
「校則違反ですか?」
「おっぱい出したりとか、丸裸とかは『本校生徒にふさわしくない服装』ということで違反だけど、ビキニは違反とは言い切れない。でもそれ取れても自己責任だからね」
 
「でもどうせ女子ばかりだし」
「男の先生もいるよ」
「女生徒の実態を知ってもらうということで」
 

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小川先生は寛容なので、結果的には黙殺に近い形で容認してくれたようである。しかし先生が行った後で議論した。
 
「おっぱい出してたら違反ということは、男子水着を着て参加したら、違反になるのかな」
「そもそも、おっぱいの無い子はそれでも違反にならないかも」
 
「ということなら、生徒の中にひょっとして男子が混じっていたら、男子水着で参加してもいい?」
 
「でももし男子が混じっていて、ここでみんなと一緒に着替えていたりしたら、やはり死刑だよね」
 
「当然。下半身生き埋めにして石撃ちの刑だな」
「それ、逆さまにして上半身を生き埋めにして石撃ちの刑の方がよくない?」
「あれめがけて投げる訳?」
「当然。あれがついてるのに女子と一緒に着替えていたなんて、そのくらいされて当然」
 
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こっわぁ〜!と西湖は思った。
 

大会はクロールの距離の短い方から実施された。
 
最初はクロール8m!である。ここに出てきている子たちはあまり水泳の得意ではない子と思われるが、それでもその8mに到達できず、途中で立ち上がって泳ぎ直す子も多数いた。
 
その後、クロール16mをやって、やっとクロール25mになる。
 
この参加者が50名ほどいたようで、7組やったが、タイムで上位8組がA決勝、それに続く8名がB決勝に進む。しかしこの25mでも結構途中で立ち上がって泳ぎ直す子が居た。
 
ここでいったん他の泳法が入る。
 
平泳ぎ25mが行われるが、顔を出したまま泳いでもよいということだったので、それで頑張って泳ぐ子がかなり多かった。どうも事前の泳ぎを見てまともに泳げる子を最後の方に集めたようで、最後の2つの組の参加者はちゃんと顔をつけて本来の平泳ぎの形で泳いでいる子が大半だった。これもタイムレースで上位16名がA決勝・B決勝に進む。
 
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更に背泳ぎ25mが行われる。これは息継ぎの必要がないので、身体をまっすぐ伸ばすことができさえすれば泳げる。そもそも女子には背泳ぎがわりと得意な子は多いので、参加者は平泳ぎより多かった。
 
更に横泳ぎ25mが行われる。これも息継ぎが必要無いので、結構な参加者が居た。
 

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クロールに戻って、50m, 100m, 200m が行われる。
 
50mは3組行われタイム決勝である。これはいわゆる「平均分け」をしていて、事前に測定したタイムにより、3つの組の平均タイムが揃うようにしていた。さすが50mに出てくる子たちはしっかり泳ぐ。ただしターンが出来る子は全くおらず、全員向こうでいったん立ち止まり、それからこちらに泳いで戻って来た。
 
100mは2組でこれもタイム決勝・平均分けである。これに出た子はほとんどの子がターンができるので、向こう側でくるっと回って壁を蹴って泳いで戻ってくる。それでも何人か壁の前で立ち上がってから泳ぎ直す子もいた。
 
そして西湖が出る200mになる。これは1組のみである。実際問題として参加者は7名。西湖は事前のタイムが最も悪かったらしく右端の1コースである。コースの割り当ては事前タイム順に4→5→3→6→2→7→1→8らしい。やはりボクはこないだやっと泳げるようになったばかりだもんなあと思う。
 
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ブザーとともに飛び込んでスタートする。西湖は気持ちよく泳いでいた。どうせボクが一番遅いんだからと思い、勝敗は考えていない。ほんの半月前までは全く泳げなかったのが、合計6日間の特訓で400mくらい泳げるようになっている。我ながら凄いなと思ったが、その半月前はボク男の子だったんだよね、と思うと可笑しくなってきた。今は自分が女の子であることを自然に受け入れている。でもまだ女の子になりたてで「芽」くらいかなという気もする。その内、葉が出て茎や枝も育って、やがて女として花咲けば・・・と考えてから、あれ〜?ボク1年後に男の子に戻るのにと思う。その時誰かがクスクスと笑った気がした。
 
でも女の子の身体って結構いいよね!ね?
 
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水中に設置されている残り回数のカウンターがゼロになっている。タッチ板にタッチする。結構疲れたなと思って少し息を整えている内に拍手が聞こえた。どうも最後の泳者がゴールしたようだ。なにげなくタイム表示板を見る。
 
1.Sakai_ 2:19.27
2.Nakata 3:40.62
3.Amagi_ 4:31.02
4.Manaka 5:12.33
5.Yamada 5:38.67
6.Kawai_ 5:51.36
7.Tamae_ 6:42.98
 
え?ボクまさか3位に入っちゃった? うっそー!?
 
これが半月前の西湖なら、男の子の身体で女子の競技の上位に入るのは申し訳無いと思い、辞退していたのだろうが、今は西湖は本当の女の子に身体になってしまったので、特にうしろめたさは感じない。
 
それで笑顔で退水してプールサイドに置かれた表彰台に登る。そして3位の賞状を受け取って、みんなに手を振った。
 
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なお西湖の“性別問題”について小川先生は後から
 
「ごめんね。ハンディキャップ代わりに条件の悪い1コースにした」
と言った上で
 
「優勝した場合はさすがに純粋女子たちに悪いからフライングがあったことにして失格にしようかと思ったけど、3位なら、まあいいかということにしたから。もっとも亜里沙ちゃんがいるから大丈夫とは思ってたけどね」
 
と言っていた。優勝した坂居さんは圧倒的な速さだが、実は水泳部の子である。
 
レースが終わった後で彼女に
「さすが速いですね」
と西湖が言ったら
 
「ありがと。でもせめて2:12を切らないと大会では決勝に残れないのよね」
などと言っていた。
 
西湖はその倍の時間掛かっている!
 
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水泳選手って凄いなと思った。
 

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