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■春芽(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-10-07
 
アクアのお仕事は8月で映画の撮影が終わってから、ドラマ『少年探偵団』の撮影が始まる11月までの間は少しゆとりが出ていた。西湖の方も9-10月は学校をあまり休まなくて済み、日々勉強に励んでいた。
 
それでもアクアのテレビやラジオへの出演(歌番組・ドラマ・バラエティ・クイズ番組等)のための撮影・録音はほぼ毎日あるので、そのリハーサルに出る西湖も学校が終わってから桜木ワルツか河合友里が運転するミラココア(但し9月下旬以降は後述の理由によりAudi A3 ETRONに変更される)に乗り、テレビ局やスタジオなどを回っていた。
 
放課後に移動することになる場合、クラスメイトの芸能人が
「新宿に行くの?一緒に乗せて」
 
などと言って同乗してくることもある。わりと売れている歌手の青島瀬梨香(芸名:田川元菜)、比較的安定した人気のFireFly20のメンバー酒井水希、などはよく同乗するが、ある日は紀子が
 
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「今日は久しぶりにスタジオμに出るのよ。赤坂まで行ったりしないよね?」
などと言って乗り込んできた。
 
「時間に余裕がありますから、赤坂の##放送に寄ってからΛΛテレビに回りますよ」
と河合友里。
 
「すみませーん!助かります」
「そうだ。##放送に行くのなら、高柳ディレクターにこの資料を渡してもらえません?ご不在だったら本人の机の上に置いておくのでもいいですから」
「分かりました。お預かりします」
 

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この日は紀子は番組で着る“Flower Lightsの制服”に着替えなきゃと言って車の中で制服を脱いで下着姿になり、そちらの制服に着替えていた。
 
「楽屋で着替えるんじゃないのね」
と友里が言うと
「うち楽屋もらえないんです」
などと言っている。
「あらら」
 
「だから駅のトイレで着替えてから入ることもありますよ」
「大変ね〜」
「そもそも衣装代が掛からないように制服が定められているんですよねー。うちは低コスト運用なので」
「なるほどー」
 
制服の背中のファスナーは西湖が上げてあげた。
 
「さんきゅ、さんきゅ」
「トイレの中で着替えたりした時はどうすんの?」
「たまたまトイレに入って来た人に頼む」
「すごーい」
「トイレの中は女性しか居ないから割と安心」
「確かに」
「まあ男がいたら即通報かな。オカマさんまでは容認」
「ほほぉ」
「痴漢女装男は蹴りあげた上で通報」
 
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「それ見分けつく?」
「おどおどしてるから分かりますよ。それに雰囲気も違うし」
「ああ」
「オカマさんは外見が男っぽくても雰囲気が女だもん」
「なるほどー」
 
「でも雰囲気が完全な男で服装も男にしか見えなかったから悲鳴あげたら、本当におばちゃんだったことあった」
「まあ、たまにはそういうこともあるでしょう」
「女捨ててるおばちゃん居るもんね〜」
 

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青葉は9月18日に東京の◇◇テレビの面接を受けたのだが、25日になって同社からお手紙が来た。開けてみると「選考結果のご連絡」とある。
 
《入社御志望につきまして、慎重に選考を行いました結果、誠に不本意ですが、貴志に沿い難いことになりましたので、ご連絡申し上げます。折角の御意志にお応えできず、大変申し訳ございません。末筆ですが、貴方様の今後のご発展をお祈り申し上げます》
 
あはは。落ちたか!
 
まあ競争率高いもんなぁ。
 
と青葉は感触があったゆえにショックながらも、気持ちを切り替えて、大阪・名古屋の方で頑張ろうと思った。
 
夕方、響原取締役から直接メールが来ているので仰天する。
 
《川上さん、ごめんね。最終面接のあと、僕はぜひにと推薦したんだけど、投票次点だったんだよ。これに懲りず、また色々よろしくね》
 
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青葉はすぐに返信しておいた。
 
《わざわざご連絡ありがとうございます。また頑張ります。そちらに色々お世話になることもあると思いますが、よろしくお願いします》
 
しかしこないだのは最終面接だったのか!!
 

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K大水泳部の今年の活動は、希美と夏鈴が国体(9月15-17日福井県敦賀市)に参加したので、だいたい終了する。一応大学のプールは10月中旬まで使用できる。
 
青葉は9月18日に東京で◇◇テレビの面接、19日に大阪でЭЭテレビの上級セミナー、20日に名古屋でЧЧテレビのセミナーに参加した。
 
それで9月21日(金)に水泳部に顔を出したら
 
「青葉、あんたが次の部長に決まったから」
と杏里から言われた。
 
「杏里がやるんじゃなかったの!?」
 
なんか以前の話では杏里が部長になって、青葉が提出している「退部届」を握り潰すという話だったのである。
 
「やはり日本代表になるような選手が部長しなきゃということで」
「うっそー!?」
と言ってから、青葉はハッとして言った。
 
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「だったら私が提出したまま保留されていた退部届は私が受け継いでいいんだよね?」
「ああ、あれね」
と言って杏里は見覚えのある退部届の封筒を取り出したが、その場で破いてしまった。
 
「ちょっとぉ!」
「部の規定で部長は、その任にある間、退部することはできない」
「そんなぁ」
「あと1年よろしくね〜」
 
ちなみに男子の部長は吉田君になったということだった。
 
「(奥村)春貴だと、任期中男子部員でありつづけるかどうかが怪しいから」
 
「むしろすぐ女子選手になれるんじゃないの? あの子、男性ホルモン濃度のモニターしてると言ってたけど、それ始めてからそろそろ1年経つんじゃないかなぁ」
 
「私もそんな気がするんだよね。1年間の数値があれば女子選手になれると思うんだけど」
 
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「やはり女子選手になる前に性転換手術受けたいのかなあ」
と杏里が言う。
 
「もし手術受けるなら秋かもね。オフシーズンに身体を休められるから」
と青葉。
 
「なるほどねー」
と言ってから、杏里は可笑しそうに笑って言った。
 
「そういえば吉田が所属していた笑劇団だけどさ」
 
「うん?」
 
「吉田たちが入った時、4年生の前部長は性転換済み、3年生の部長は文化祭が終わって部長を退任した2016年秋に去勢手術を受けて翌年秋に性転換手術を受けて、どちらも女子として就職したらしいのよね」
 
「ああ。そのあたりまでは聞いた」
「その下の学年、今の4年生の楡木さんという人は1年の時にシンデレラを演じて、2年生でアリババを演じてから部長を引き継いだ頃から、学校では常時女装しているようになって、3年生のゴールデンウィークに去勢手術を受けたらしい。そして今年は来月の文化祭が終わったらタイで性転換手術を受ける予定らしい」
 
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「なるほど」
 
「それで吉田たちの学年で1年の時にカシムの妻、去年は白雪姫の王子の役をした楢山君が部長を務めていて、今年は坊ちゃんの赤シャツを演じているらしいけど、最近日常的に女装しているらしい。夏休み中に去勢手術を受けたという噂もあるんだって」
 
「ああ、吉田は逃げ出して正解だったね」
「吉田の顔では女になってもお嫁さんにしてくれる男の人あまり居なさそうだしね」
「そういう問題!?」
 

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10月1日(月).
 
西湖が眠気を我慢しながら0時間目の授業を聞いていた時、唐突にお腹の付近に今まで感じたことのない感覚があった。え?これどうしたらいいの?
 
と思っていた時、唐突に隣の席の紀子が
「先生」
と言って手をあげた。
 
「何ですか?立花さん」
「天月(あまぎ)さんが気分が悪いみたいです。トイレに行かせてあげて下さい」
 
すると先生が言う。
「天月さん、調子悪いの?」
「すみません。昨夜仕事が遅くまでかかったからかも。少し休んでいればいいと思うのですが」
 
「保健室行く?」
「いえ、トイレに少し籠もっています」
「じゃ行ってらっしゃい」
「すみません」
「気分がどうしてもすぐれなかったら携帯で誰か呼んでね」
「はい」
 
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それで西湖は立ち上がりポーチを持ってトイレに行こうとした。その時、紀子がそのポーチに何か放り込んでくれた。
 
「ありがとう」
と言って西湖は教室を出てトイレに入り、個室に入った。
 
パンティを下げてみたら、やはり思った通りだった。
 
「とうとう来たんだ」
と思い、西湖はティッシュでそこを拭いた。
 
昨夜寝る前にも少しお腹が変な気分だったので、ひょっとしてと思い、予め買っておいた、あれをつけておいた。おかげでパンティは無事っぽい。西湖はそれを取り外した上で、紀子がくれたナプキンをパンティにセットした。
 
一応持っていたけど、せっかくもらったから使わなきゃ悪いしね。
 
「でもボクこれで本当に女の子になったんだなあ」
と思うと、戸惑いと楽しみが入り交じった気分になった。
 
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でもボクほんとに1年後、どうしようかなぁ。
 
しかし取り敢えず生理は辛い! 毎月これやってる女の子って偉いよ!
 

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10月9-11日。10月頭の連休の直後、西湖の学校では宿泊研修が行われるということであった。西湖は仕事はあるのだが、事務所に打診したら
 
「今はわりとスケジュールに余裕があるし、うちのアーティストも松本花子さんから楽曲を頂いて一斉に制作したのが仕上がってきつつあるから、アクアのリハーサル役はスピカかポルカにやらせるよ」
 
とゆりこ副社長が言うのでお願いすることにして、9-10日はお休みを頂いた。
 
これが休日ならスケジュールが詰まっているので絶対無理だったが、平日の行事だったので何とかなった感じだ。
 
「今アクアが156cm, スピカは162cm, リズムが157cm, ポルカが155cm。スピカは少し大きいんだけど、あの子まあまあの演技力があるし、雰囲気がアクアに近いのよね。リズムは背丈は近いけど忙しいから、ポルカを使う機会が多い」
 
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「そうだ。こないだから気になってた。ちょっと西湖、背丈を測らせてよ」
と桜木ワルツが言う。
 
それでメジャーで測ってみる。
「156cmだ」
 
「アクアとジャスト同じ背丈だね」
と川崎ゆりこ。
 
「以前よりあんた少し縮んでない?」
とワルツが心配そうに言う。
 
「学校の身体測定でも155.8とか156.1とか言われました。夏バテで縮んだのかも」
「夏バテで体重が減ることはあるかも知れないけど、身長が縮むって聞いたことない」
「余分な水分が抜けたのかも〜。足のサイズが小さくなる人もいますよ」
「ああ、それは時々あるけどね」
 
「でも身長が縮むなんて何か病気か何かだったら大変。あんた今度時間が取れる時に健康診断行っておいでよ。あんたも忙しすぎるもん」
とワルツは言った。
 
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「あ。はい」
 

10月15日に青葉は大阪でЭЭテレビで面接を受けた。
 
今年の青葉の交通費は凄まじい。実際問題として今年の青葉が書いた楽曲の半分くらいが、北陸新幹線・東海道新幹線・東北新幹線・サンダーバード・しらさぎ、の中で書かれたものである。
 
今回面接を受けに来たのはおそらく5〜6人ではないかと思われたが、全員個室の控室に案内され、1人ずつ中年の男性社員に呼ばれて面接室に案内されているようだった。ひょっとしたらこれが最終面接だったりして、と思ったが、質問されたことに明るく答えて言った。青葉の答えに並んでいるお偉いさんっぽい3人が結構笑っていたので、感触は悪くないかなと思った。
 
でももしここに合格したら、私、漫才とか勉強しなきゃ!?
 
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翌日16日には名古屋のЧЧテレビで上級セミナーに参加した。ここも前回参加した時よりかなり人数が減っている。やはりセミナーをやりながら絞り込んで行っているようだ。
 

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