広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
[携帯Top] [文字サイズ]

■春芽(7)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

《びゃくちゃん》はハッとしたようにして言った。
 
「じゃ、今ここにいる千里は?」
「私は千里2番。さすがに3人も日本国内にいると、とても調整がつかないから、私はほとんどの時間を海外で過ごしている」
 
「そうだったんだ!」
 
「だいたい春から夏にかけてはアメリカでWBCBLのスワローズというチームに所属してヴィクトリア(Victoria)という名前で活動している」
 
と言って選手証を見せる。
 
「金髪だ!」
「ついでにセミロング。その写真では私とすぐには気付かないでしょ?」
「うん。千里って、その長い髪でみんなに認識されているもん」
 
「そして秋から春にかけてはフランスのLFBのマルセイユというチームに所属してキュー(Queue)という名前で活動している」
 
↓ ↑ Bottom Top

この日は試合が20:00から組まれていたのだが、フランス時間の20:00は日本の10/18 AM 3:00 に相当する。千里2が常総に現れたのは10/17 15:00-18:00で、フランスでは(10/17)朝の8:00-11:00である。
 
「ずっと海外で活動しているのか。それかなり鍛えられるでしょ?」
 
「マッチングに強くなったし、中に進入していくのを覚えた。海外のチームではスリーだけでは勝てないんだよ。フィジカルも強くないとね。だから筋力では3番に負けない自信がある」
 

↓ ↑ Bottom Top

《びゃくちゃん》は考えていた。
 
「今日はわざと3人を見せたのね。3人は各々自分が3人いることを認識しているの?お互いの記憶とかを共有している?」
 
「私たちは完全に別人の状態。お互いの様子とかも伺えない。そして3人に分裂していることを知っているのは私だけ。ひょっとしたら3番は薄々感じているかも知れない気はする。霊的な能力の低い1番は全く気付いていないと思う。今日びゃくちゃんに3人の千里が見られるようにしたのは、きーちゃんの演出」
 
(実際には《きーちゃん》と《すーちゃん》の共同作業だが《すーちゃん》の行動を千里2はあまり把握していない)
 
「だけどなぜ今になってそのことを私に打ち明けたの?」
 
↓ ↑ Bottom Top

「実は協力して欲しいことがある。それが今日の本題」
 

それで千里(千里2)は和実が子供を妊娠しており、物理的には腹膜妊娠の状態にあること、それを出産まで何とか辿り着かせたいので、彼女の身体のメンテをずっとして欲しいと頼んだ。
 
「なぜ男の娘が妊娠する?」
 
「希望美ちゃんも、あれは和実から採取した卵子に淳の精子を掛け合わせたからね。だから和実には卵子があるんだよ」
 
「あの子、半陰陽?」
 
「ハイティング陰陽だと本人は言っている」
 
「ハイティング代数的なのか!」
 
理系に強い《びゃくちゃん》はそれだけで現在の和実の状態を理解したようである。
 
「だったらこれは大変な作業だ」
 
「びゃくちゃん1人では厳しいと思う。誰かあと1人か2人巻き込んでいいからやって欲しい。京平と緩菜は他の子に面倒みさせよう」
 
↓ ↑ Bottom Top


「だったら私と大陰(いんちゃん)の2人でやりたい。妊娠は大陰の担当だよ。今そのふたりで京平のお世話とか、緩菜の授乳の仲介をしているんだけど、京平と緩菜のお世話は・・・京平が玄武(げんちゃん)に懐いているから彼中心で、緩菜は女の子だから天后(てんちゃん)あたりに。でも交代要員が必要だから六合(りくちゃん)にも入ってもらえないかな?六合は男だけど、勾陳(こうちゃん)みたいに女に飢えてないから、女の子のお世話させてもいいと思う。搾乳だけは天后にやらせるということで」
 
「まあ男に搾乳させる訳にはいかないよね」
 
「うん。最悪どうにもならない時は六合でもいいけどね。若い玄武にはさせられないけど、枯れている六合ならまだマシ」
と《びゃくちゃん》は言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「こうちゃんって、りくちゃんと同じくらいの年齢のはずなのに、性欲が全然違うみたいね」
 
「勾陳は5〜6回去勢した方がいいと思う」
などと《びゃくちゃん》は言っている。
 
「じゃ、各々への連絡はびゃくちゃんからしてくれない?私は、きーちゃん・こうちゃん以外との通信キーが無いんだよ」
 
「分かった。じゃ私とは通信キーを交換しておこうよ」
「お願い」
 
それで手を握り合って通信キーを交換し、千里2は《びゃくちゃん》とも直接心の声で話せるようになったのである。
 

↓ ↑ Bottom Top

「和実は取り敢えず外出禁止にしている。監視役としてお母さんがしばらく同居する。5ヶ月目に入る12月18日から入院させて、厳重監視。トイレにも行かせない」
 
「トイレもダメ?」
「歩くのも危険なんだよ。だからおしっこは導尿して、大はベッドそばに置いたポータブルで」
「大変だ」
 
「和実も赤ちゃんを守るためなら何でも我慢すると言っている」
「それが必要だろうね」
 
「青葉もたぶん眷属を交代で付けておくと思う。だからこちらもびゃくちゃんといんちゃんで見ていてくれるなら、万が一にも誰も見ていない瞬間は発生しないと思う」
 
「まあ24時間監視が必要だろうね」
 
「私も青葉も週に1度は病院に行く」
「大変だ!」
 
↓ ↑ Bottom Top


「お店の方はどうするの?淳さんもまだ体調回復してないんでしょ?」
 
「チーフのマキコちゃんという子がしっかりしているから、ほぼその子が仕切ってくれる。それに和実のお友達の照葉ちゃんとか、伊藤君とかが頻繁に顔を出すようにするらしい。梓ちゃんも学校の先生だから平日は出られないけど、休みの日には盛岡から新幹線で仙台まで来ると言っている。彼女の交通費は私が出すことにした」
 
(照葉が店長代行を名乗ったので、梓は社長代行を名乗った。伊藤君はすっかり“代行”のつかない“会長”と呼ばれていた)
 
「あの子、けっこう高校時代の友人が多いね」
「大学時代は授業時間以外はずっとメイド喫茶に勤めていたから友人ができなかったんだよ」
「なるほどね〜」
「だからメイド仲間は多い」
「ああ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「メイド仲間といえば若葉だけど、若葉自身この11日に赤ちゃん産んだんだよ」
「わっ」
「だから本人は今動けないけど、彼氏の紺野君が時々顔を出すと言っている」
「ふーん」
「彼は和実の元思い人でもあるんだけどね」
「へー!」
 

↓ ↑ Bottom Top

それで《びゃくちゃん》はこの日は仙台まで新幹線で移動してから和実の様子を見た上で監視体制に入ってくれた。その上で次のような手筈をした。
 
(1)《てんちゃん》に連絡して大阪に行ってもらう。
(2)大阪に居た《いんちゃん》が仙台に来る。
(3)《びゃくちゃん》が東京に戻って千里1の搾乳をして大阪へ。
 
以降、《びゃくちゃん》と《いんちゃん》が交替で和実をずっと見守ることにする。青葉も眷属の紅娘・小紫・笹竹の3人を交替で派遣して監視していたので、《びゃくちゃん》が紅娘と交渉し、お互いのことはお互いの主には言わないという“淑女協定”のもとで、双方の眷属が交替で休憩を取りながら和実の体調・ホルモン状態の監視を続けることにした。
 
↓ ↑ Bottom Top

眷属といえども休まずにずっと活動を続けることはできないし、長時間起きていると、さすがにパワーダウンするし注意力も落ちる。
 

↓ ↑ Bottom Top

また《びゃくちゃん》は《りくちゃん》と《げんちゃん》に連絡し、女性眷属だけでは手が回らないので、ふたりにも京平・緩菜のお世話を少し分担して欲しいと頼んだ。《りくちゃん》は最近多くの眷属が千里から離れて独立行動している現状に不安を訴えたが《びゃくちゃん》は言った。
 
「千里はかなり霊的な能力も体力も回復してきている。騰蛇さん(とうちゃん)と大裳(たいちゃん)が付いていれば何とかなると思う。万一の場合は天空さん(くうちゃん)が私たちを召喚するだろうし」
 
「確かに一時期に比べればかなり回復してきているもんなあ」
「千里が私たちのことを思い出すのはもう時間の問題だと思うよ」
 
「そうかも知れんよな。だったら緩菜の面倒を見てやるよ。どうもあの子には勾陳が色々“おいた”をしているようで気になっていた」
 
↓ ↑ Bottom Top

それで《げんちゃん》が主として京平、《りくちゃん》が主として緩菜の世話をすることにした。《げんちゃん》は最近《せいちゃん》と一緒に北海道にいることが多いようだったが、飛行機で!大阪と北海道を行き来することにした。
 

↓ ↑ Bottom Top

さて、青葉の方は10月16日の会議の後、17日朝から新幹線で仙台に向かい和実に会って、眷属の紅娘を取り敢えず置いて来た。適宜、笹竹や小紫と交替させることにする。
 
雪娘や海坊主のようなパワフルな眷属を動かすにはかなり自分自身の体力を削がれるのだが、紅娘・笹竹・小紫あたりは比較的小さなパワーで動かすことができるので長期間監視向けなのである。
 
なお、交替は新幹線での移動とするが、彼女らはふつうの人間の目には見えないので、実は無賃乗車である!
 
これに対して千里の眷属たちは独立行動している時は、その姿を見せることも隠すこともできる。しかし隠していても霊感の強い人には結構見えるので、新幹線や飛行機に乗せる時はふつうに運賃を払っている。
 
↓ ↑ Bottom Top


なお、和実は5ヶ月目に入る12月18日から入院させようと最初は話していたのだが、自宅に居た場合、淳はまだ療養中だし、胡桃はそうそう休んでもいられないし、お母さんでは何かあった時対処できないということで結局、即刻入院させることになった。本人は嫌がったが、胡桃から「あんたのためにどれだけの人数が動いていると思っているの?」と叱られて、入院を受け入れた。
 
和実のホルモンその他の状態は、千里(千里2)と青葉の眷属が交替で24時間チェックするのだが、操作が必要と思われた場合、双方の操作がぶつからないように、タッチセンサー式の“信号機”をベッド傍に用意することにした。
 
信号機は通常は黄色の状態にしておく。そして青葉が操作する場合は信号機を青に変更してから操作する。操作が終わったら黄色に戻す。千里が操作する場合は赤に変更してから操作する。操作が終わったら黄色に戻す。これで両者の操作がぶつからないようにするのである。
 
↓ ↑ Bottom Top

押しボタン式だと大変だが、タッチセンサー式ならリモートで変更するのはわりと易しい。
 
なお信号の切り替えを見落とした場合に備えて、一度青になった後3分間は赤にできず(再度青にはできる)、一度赤になった後3分間は青にできないようにプログラムしておく。また操作した履歴は自動的に記録されるようにしておく。このあたりは青葉がプログラムを組んだ。
 
「これフェイの時に使いたかったね」
と千里は言ったが、
「いや信号が勝手に変わるのを一般の人にあまり見られたくない」
と青葉は言った。
 
「確かにそうだね。特に芸能界関係の人に見られるとやばいね」
 

↓ ↑ Bottom Top

10月23日(火).
 
大阪のЭЭテレビからお手紙が来ていて、青葉は不合格ということであった。
 
まあ仕方ないかな。やはりお笑いセンスが足りなかったかな?と思って気持ちを切り替えることにした。残りで進行中なのは名古屋だけだが、その後、福岡・仙台・札幌・金沢・高松など主要地方都市のテレビ局の募集が始まるのではと考えている。これらの局の募集情報が出ていないかは毎日チェックしている。
 
ただ青葉としては、福岡・仙台・札幌・高松などは受けないか、途中で辞退するかもと思っていた。本命は金沢か富山の局である。
 
東京は現状しばしば仕事で往復しているので東京に住むと移動の手間が不要になるし、彪志と一緒に暮らせるという気持ちがあった。大阪は千里姉がしばしば大阪に来ているようなので心強いというのがある。千里姉はいづれは貴司さんを取り戻して結婚するつもりなのだろう。名古屋は母の住む富山、千里姉がいづれ定住するかも知れない大阪、仕事もあるし彪志のいる東京のいづれにでもすぐ行けるというメリットがある。
 
↓ ↑ Bottom Top

そういう訳で青葉は名古屋でもし落ちた場合は、金沢と富山に絞るつもりである。
 

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
春芽(7)

広告:リバーシブル-わぁい-コミックス-すえみつぢっか