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■春想(12)

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3月11-12日(土日)には、ローズ+リリー、KARION, XANFUS, ゴールデンシックス及び§§ミュージックのアイドルたちが、宮城ハイパーアリーナで復興支援ライブをやった。2日とも午前中にアクアが登場するので、このチケットは抽選方式で競争率20倍。12日午後のローズ+リリー他4組のチケットも30分で売り切れ、11日午後の§§ミュージックのアイドルたちのチケットもお昼までには売り切れた。
 
キャパ7000人、PA・照明や見切席を除いて6800人の会場を使用しているので、27200枚×6000円=1億6320万円という“チケット売上げ”の全額が宮城・福島・岩手3県に寄付される。チケットの販売費用、イベンターさんや警備員の経費、会場代、著作権使用料などは、ケイ、マリ、和泉、千里の4人が個人的に負担するが、TKRの社員さんたちがボランティアで多数入ってくれたので、ひじょうに助かった。
 
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(なお会場内で販売しているグッズやCDの売上げは寄付の対象外だが、実際には一部寄付が行われた)
 

この3月11日には、若葉が東京都内に作った《トレーラー・レストラン》ムーランが開店したが、若葉本人は「お店を開店させる日に赤ちゃんを産むんだ」と言って、入院しており、実際にこの日、自身の2番目の子供である若竹(なおたけ♂)を産み落とした。
 
それで実際のオープニングイベントには、ムーランの常務である和実が仙台から出てきて、若葉の謝辞を代読したり、テープカットのイベントをしたり、そして実際のお店の運営の指示をしたりした。
 
(紺野君も病院の方が落ち着いたら出てきてくれた)
 
ムーランのスタッフがまだ客対応などに十分慣れておらず、そもそも想定以上に客が詰めかけてきたため、和実はエヴォンの永井オーナーに頼んでエヴォンのメイドたちをムーランの客対応や調理などにも投入した。
 
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永井も当面はムーランの運営に協力していいと言ってくれた。
 

3月11-12日に、クレールでは日中はまたボニアート・アサドのライブとTKRのアーティストのジョイントライブをやっていた。
 
ボニアート・アサドはまだデビュー前なのに、仙台の中高生・大学生に物凄い人気になっているようである。
 
そちらはもう何度もやっているので、和実が居なくてもライムとマキコが中心になってきちんと運用していたようである。
 
和実本人は、東京でムーランの開店で忙しかったため、結局12日夕方に仙台に戻って来た。
 

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千里は3月3日にフェイの子供出産(子妖精遊離?)に立ち会った後は、チーム練習などが自然休止になっているので、玲央美たちと日々基礎練習をしていた。
 
11-12日には仙台で冬子たちの復興イベントに参加する。自分で言い出してゴールデンシックスを参加させたので、千里もゴールデンシックスの1人として出演し、ついでにKARIONとローズ+リリーの伴奏にも参加した。
 
イベントが終わった後は出演者の中で30人ほどのメンバーがクレールに移動し、そこで打ち上げをした。
 
クレールはこの日の日中、椅子だけを並べてTKRのアーティストのジョイントライブをしたのだが(この日はTKRのスタッフは全員ケイたちの復興支援ライブに行っていたので、クレールのライブの方は、ボニアート・アサドが所属するζζプロのスタッフが代理で運用してくれた)、そのあと和実たちはその椅子を撤去して、床だけの状態にした。
 
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打ち上げに参加する人数がよく分からなかったことと、クレールのクルーがイベントの後で疲れており、月山家の部屋からテーブルを運び込むだけの体力が無いということで、風花と千里が話して床だけの状態にしたのである。
 

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また、お酒を飲みたいメンバーが当然たくさん居るが、クレールは営業形態上、酒類提供ができない。それで単にクレールの場所を借りるだけという形式を取る。食べ物や飲み物はほとんど持ち込みである。一部TKRのイベントで残ったジュース類を千里が買い取った上で、自分の持ち込みということにして提供してくれた。
 
メイドさんたちの大半は昼間のイベントだけで既に帰しているので、和実(赤ちゃんの希望美も一緒)と胡桃が対応してくれたが、千里も手伝っていた。千里が手伝っているので、長尾泰華と花恋も手伝う。風花もヘルプに入ろうとしたのだが、相沢海香につかまってしまい、ふたりで話し込んでいた。
 
「このウィンナーはお店の物では?」
「後で精算しておくから問題無い」
と言って、どうもちゃんと伝票を切っていたようである。
 
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なお、このお店は基本的に禁煙ということであったが、和実が
「これなら吸っていいよ」
 
と言って、新型電子タバコのプルームテックを吸いたい人に配っていた。この配る原資は「赤ちゃんのいるお母さん同盟」で千里が出したらしい。そもそも千里はこのクレールに出資したという話も聞き、冬子たちが驚いていた。
 
結局、クレールの株主構成は、和実51%、淳21%、若葉19%、千里9%となり、資本金3000万円に増資したらしい。
 

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途中で、イベントが終わった後仮眠していたというマキコが起きてきてヘルプに入った。和実が
 
「この子のラテアートは私のとはまた違って可愛いんだよ」
と和実が言うので、頼む人が出る。
 
それで猫、熊、羊、犬、ライオンなどの顔を自在に作って出すと
 
「すごーい」
と言って、写真に撮っている人もいた。きっとinstagramやmixiなどにあげるつもりだろう。
 

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「そうだ、千里さん、後でよかったら少しお話がしたいんですが」
とマキコが言うので
 
「うん。じゃ後でね」
と千里は約束していた。
 
それで打ち上げが終わった後、店舗2階の楽屋に入って、話を聞いたのだが、最初の青葉に夢の中で去勢してもらったという話には
 
「ああ」
と言っていた。
 
「それは青葉の確信犯(誤用)だな」
などと言っている。
 
「あの子、おせっかいの焼きすぎなんだよ」
「だったら、あれ本当の青葉さんだったんですか?」
「今度会った時訊いてごらんよ。きっと『ごめーん』とか言うから」
「いや私は去勢してもらって良かったんですけどね」
 
それでその後、千里に会って、性転換されちゃったということを言うと、千里は笑っていた。
 
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「それはたぶん誰かが私の姿を勝手に借りてやったんだよ」
「それは千里さんじゃないんですか?」
 
「なんか似たような話が時々あるんだけど、私の姿って真似しやすいんだよ。このくらい髪が長い人はみんな私に見えてしまう」
 
「あ、それはあるかも」
 
「私が東京にいる時に、誰かが私の格好して、沖縄で人に御飯食べさせていたり、北海道で人を車で送って行ったり、金沢で女の子になりたがっていた子を性転換したりしてるんだよね〜」
 
「御飯食べさせるのも、性転換しちゃうのも同レベルですか!?」
 
「まあ余計な親切かもね」
「いえ。私は助かりました。だって、私バイクの趣味でたくさんお金が掛かって、いつ性転換手術代貯められるか、見当もつかない状態になってしまったので」
 
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「ああ、そういうお金のかかる趣味を持つと辛いね。性転換手術代って高いし」
「そうなんですよね〜」
 
千里は青葉が手術代を請求することはありえないし、千里の振りをしたどこかの誰かさんが代金を請求してくることもあり得ないと断言した。
 
「私の本物と偽物の見分け方1」
「はい?」
「私は微かに乳の匂いがする。偽物はしない」
 
「あ・・・何か臭うけど、牛乳を服にこぼしたのかと思いました」
「私、一昨年子供産んで、まだその子が完全にはおっぱい卒業してないから、おっぱいが出るんだよ。一応デオドラントの乳パッドしてるけど、どうしても完全に臭いをカットすることはできない」
 
と言って、ブラジャーの中から乳パッドを取りだしてみせる。
 
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「臭いかいでみる?」
と言って手渡す。
 
「ああ。この臭いをさっきから微かに感じていました」
と佐織は言ってそれを返す。
 
「私の本物と偽物の見分け方2」
「はい」
「私はガラケーを使っている。偽物はスマホを使う」
 
と言って、千里は愛用のAU TOSHIBA T008 Rose-Pink 折り畳み携帯を取り出して、パッと開けてみせる。
 
「ああ、あの千里さんはスマホを使ってました!」
 
千里の携帯のボディがキラキラと星のように輝いている。きれーい!と佐織は思った。
 
「私は静電体質だから、スマホが使えないんだよ。ショップでうっかり触ったら2度とその端末は起動しなかった」
 
「わぁ」
 
「銀行のATMを落としちゃったこともある。基本的にはATMに触る前にどこか金属に触って放電させるようにはしているんだけどね。うっかりやっちゃったことはある」
 
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「だったら最近の駅の自動販売機も危なくないですか?」
「うん。だから必ずどこか金属に触るように気をつけている」
 
「大変ですね!」
 

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両親にどうやって性転換してしまったことを話そうか悩んでいると佐織が言うので、1年くらい経った所でお金が貯まったのでタイで性転換手術を受けたいとか言って、何とか両親を説得して、実際にはタイには観光旅行にでも行ってくるといいと言った。
 
「ローズ+リリーのケイなんかも実際には小学生の内に性転換手術を受けていたのを、大学生になってから性転換したみたいなこと本人は言っているけど、実際は大学生の時にタイに行った時は単に観光していたらしいから。これマリちゃんから聞いた話」
 
「ああ、やはりそうだったんですね。でも小学生の時って凄い!」
「レインボウ・フルート・バンズのモニカも小学生の内に性転換手術を受けているし、そういう人は稀に良くある」
 
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「いいなあ。私も小学生で性転換したかった」
 
「結果的に性転換して女の身体になっちゃった場合、いつ手術したかなんて、分からないじゃん。その後であらためて国内のどこかの病院で診断書取って戸籍の変更をすればいいんだよ」
 
「そっかぁ。これから性転換するみたいな振りをすればいいのか」
 
「しばらく仮想男子を両親の前では演じておくんだね」
「それはできそうな気がする。作り物のおちんちん買っておこうかな」
「ああ、それは結構誤魔化すのに使える」
 
その時、佐織は、まさかアクアって実は性転換手術していて、偽物おちんちんで誤魔化しているなんてことはないよな?などと思ってみた。
 
「まあ正面突破する手もあるけどね。例えば結婚したい男性とか出てきた場合は早く戸籍を直したいだろうから、もう正面突破しちゃう」
 
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「当面、ボーイフレンドは要りませんけどね〜。私バイクが恋人みたいなものだし」
「たくさん貢いでいる恋人ね」
「そうなんですよ!」
 
「でも明日人間の男の子に恋をするかも知れないよ」
「もう少し考えてみます」
「うんうん」
 

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そのアクアこと龍虎の自宅には3月上旬、
「C学園の制服が仕上がりました」
という葉書が、《田代龍子様》宛てに届いていた。
 
それを見た田代母が龍虎に訊く。
 
「あんた、もしかして女子制服作ったの?」
 
「それなんだけど、制服採寸会が生徒手帳の写真撮影会を兼ねていたんだよね。それでボク、写真撮影だけするつもりだったんだけど、写真撮影する時に制服を着てもらいますから、どのサイズのが合うか寸法を測らせてくださいと言われて。それでお姉さんからもらうとかで、制服自体は作らなくてもいい場合は言って下さいと言われたんだけど、それ結局言いそびれちゃって」
 
ほとんど言い訳である。
 
「言いそびれたならあとで電話でも掛けてキャンセルすれば良かったじゃん」
 
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「いやそれが彩佳に唆されて・・・・着なくても作るだけならいいかな、と思っちゃって」
 
「なあんだ。着たかったのなら、恥ずかしがらずにそう言えばいいのに」
 
「え〜!?でもさすがにボク女子制服で通学したりはしないよ」
「女子制服を着たかったんでしょ?」
 
「うーん。。。それはそうだけど・・・。でもボクの通学途中なんて絶対写真撮られるから、女子制服のブレザーとスカートで通学していたら騒がれちゃう」
 
「それ今更だと思うけど」
 
その時、龍虎は唐突に思いついた。
 
「そうだ!女子制服のブレザーにさ、同色系のズボンを組み合わせて穿くとC学園の男子制服っぽく見えないかな?」
 
「はぁ!?」
 
「学生服でもいいけど、ブレザー着れば他の子ともお揃いだし。でもボクは男子だからスカートじゃなくてズボンということで、どう?」
 
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母はちょっと呆れているようであったが
 
「まあそれでもいいんじゃない?仮想男子制服ね」
と言った。
 

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「でも女子のブレザーなら、左前合せじゃないの?」
「ボクそれ全然気にしないし」
「そうね。“あんたは”気にしないかもね」
 
と母は投げ遣り気味に言った。
 
 
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