広告:ヌーブラ・ビーチ-キュート
[携帯Top] [文字サイズ]

■春想(5)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

(C)Eriko Kawaguchi 2017-09-09
 
8日にオールジャパンが終わった後、普段の生活パターンを取り戻した千里は13日は桃香と朝御飯を食べてから、午前中のいつもの練習の後、お昼に東京駅に集合した。松前乃々羽・湧見絵津子・渡辺純子・翡翠史帆・鞠原江美子と6人で一緒に上越新幹線に乗る。
 
純子とはチームメイトなので一緒に行こうかと言っていた所に純子の親友の湧見絵津子が乗っかかり、絵津子がチームメイトの史帆を誘った。乃々羽は午前中千里と一緒に練習していたので、その流れで一緒になり、江美子は実は最初から千里が誘っていた。
 
「こないだのオールジャパンの後で、ルナと話したんですよ。乃々羽さんとルナとで特訓やってたんですね」
と史帆が言うが
 
「それ内緒でね」
と乃々羽が言っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

ルナこと雨地月夢(あまち・るな)は現在乃々羽のチームメイトであるが、高校時代は史帆のチームメイトであった。高校時代のチームメイトというのはやはり特別な存在である。
 
「でもオールスターの発表があった時、私はネットで『なぜこんな選手を選ぶんだ?』とか、無茶苦茶書かれていたけど、オールジャパンで私の評価は変わった感じだね」
 
と乃々羽は楽しそうに言っている。
 
「ノノちゃんが変えたんだよ。オールスターにふさわしい選手だよ」
と江美子は言っていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

今年のWリーグ・オールスターは昨年と同じく、新潟県長岡市のシティホールプラザ《アオーレ長岡》でおこなわれる。選手は13日の夕方にいったん集合し、簡単な打合せをした。
 
14日は朝からイベントが始まる。
 
千里たちは朝食後、7時から会場で公式練習をする。この様子をSS1席(2万円)の購入者に特別公開するのである(このイベントは自由席なら2000円)。この手の「観客に見せる練習」は日本代表の活動でも散々やらされているが、お客さんに楽しんでもらうのもお仕事である。千里が遠投して夢原円がアリウープでゴールする、などといったこともやってみせ、観客から思わず「おぉ!」という声があがっていた。
 
午前中も色々行事は行われているものの、千里たち東軍のメンバーは近隣の体育館で軽く連携練習をした後は、各自ホテルに戻り仮眠を取った。
 
↓ ↑ Bottom Top

様々なチームからの混成になっている西軍に比べて、東軍はほとんどがサンドベージュとレッドインパルスの選手なので、連携がひじょうにうまく行きやすい。(この2チームと他チームの実力差が大きすぎるのでこういうことになってしまう)
 

↓ ↑ Bottom Top

12:00からスリーポイントコンテストが行われる。
 
今回の出場者はこの7名である。
 
中井翔子(CS) 佐伯伶美(BR) 翡翠史帆(SB) 石川美樹(SS) 広川妙子(RI) 村山千里(RI) 花園亜津子(EW/昨年優勝者)
 
スリーポイントライン上に設置した5ヶ所のラックに乗せられた5個のボールを1分間の間にできるだけたくさんゴールに放り込む。各ラックには4個のオレンジ色のボールと1個のカラーボール(赤・白・青に色分けされたボール)があり、オレンジ色のボールは1点、カラーボールは2点である。但しラックの内1個は全てカラーボールで、このラックは各参加者がどこでも好きな所に置いて良い。つまり最大点数は(1x4+2x1)x4 + (2x5) = 6 x 4 + 10 = 34点である。
 
↓ ↑ Bottom Top

最初に地元選出の中井さんが挑戦したが1分間では4番目のラック途中で時間切れとなり、9点であった。西軍の佐伯さんが挑戦したが彼女も最後のラックまで辿り着けずに8点、東軍の史帆が最後まで投げきって12点、西軍の美樹が11点、東軍の妙子が14点、と盛り上がった所で千里が登場する。
 
背中に亜津子の視線が焼き付くかのようである。
 
千里は最後のラックにカラーボールを5個置いた。一番不利な置き方である。万一そこまで辿り着けないとボーナスチャンスを無駄にしてしまう。
 
時計がスタートする。最初のラックを全部入れて6点。次のラックへ走る。そのラックも全部入れて12点、次も全部入れて18点。会場が騒然としている。次は1個だけ外して23点。そして最後5個のカラーボールを全部入れ10点を重ねて33点とした。消費時間は50秒である。
 
↓ ↑ Bottom Top

花園亜津子とタッチして端に並ぶ。妙子も美樹も史帆も「さっすが」と言っているが、中井さんは信じられない!という顔をしている。
 
花園亜津子も千里と同様カラーボールだけのラックを最後に置いた。千里も亜津子も「60秒も要らない」のでどこに置いても同じなのである。それなら盛り上がる最後に置くのがプロの流儀だ。
 
亜津子が撃つ。走る。撃つ。走る。撃つ。走る。撃つ。走る。撃つ。
 
この間ひたすら入り続ける。観客が息を呑んで見つめている。パーフェクト行くかと思ったら最後のカラーボールがいったんリングの中に入ったのに、そこから飛び出してしまった!
 
それで32点である。
 
物凄い拍手がある。
 
しかし亜津子は両手を頭にやって、物凄く悔しそうな表情であった。戻ってきて「負けた〜」と言って、取り敢えず千里とハグした。なお亜津子の消費時間は53秒であった。
 
↓ ↑ Bottom Top

上位3人が表彰されるのだが、3位の妙子は
「上の2人とレベルが違いすぎる」
と言って、辞退してしまい、千里と亜津子だけがゲストで来ていた三木エレン(昨年春で引退)から表彰された。3位賞金は妙子の希望で、赤い羽根共同募金に寄付された。
 

↓ ↑ Bottom Top

13:00からは今度はスキルズチャレンジが行われる。今度はドリブル・パス・シュートの総合プレイをタイムで競うものである。
 
ボールを持ってまずはレイアップシュート。横向きに置かれた丸い枠の中にダイレクトパスとバウンドパスでボールを放り込む。その後、コート内に置かれた障害物(敵選手に見立てる)をかわしてドリブルしていき、フリースローの距離からジャンプシュート。その後スリーポイントを決めて終了。シュートやパスは失敗したら成功するまでしなければならない。
 
出場したのはこういうメンツである。
 
加藤絵理(EW) 渡辺純子(RI) 鈴木志麻子(BM) 湧見絵津子(SB) 大野百合絵(FM) 夢原円(SB) 馬田恵子(EW/昨年優勝者)
 
先頭に純子たちの世代の《四天王》が並んでいる。
 
↓ ↑ Bottom Top

最初に観客にルールを説明するために、地元新潟の女子高校生選手・奥野黎美(新潟G学館)がデモンストレーションをしてみせた。彼女は1つも失敗することなくスリーも1発で決めて33秒で回って観客から凄い拍手を受けた。
 
そして本番である。
 
絵理はパスを1回失敗、スリーが3回目に決まって44秒である。純子はいきなりレイアップを失敗してそのあとパスも失敗したものの、スリーは1発で決めて41秒だった。志麻子は途中の失敗はなかったものの、スリーがなかなか入らず56秒も掛かってしまった。絵津子はパスを1回失敗しただけで34秒。百合絵はパスを1つ失敗、スリーに3回掛かり40秒。円は途中の失敗無し・スリーが4回目で41秒。そして恵子も途中の失敗無し・スリーが3回目で35秒だった。
 
↓ ↑ Bottom Top

結局絵津子が優勝、恵子が2位、百合絵が3位であった。
 

それで3人が表彰されたのだが・・・
 
メダルと賞金が3人に渡された後で、金メダルをもらった絵津子が表彰台を降りると最初にデモンストレーションをしてくれた女子高生の所に行く。
 
「この子が私より速かった。だから、この子が本当の優勝」
と言って、メダルと賞金を押しつけようとする。
 
でも奥野さんはびっくりして
「私は参加者じゃないからノーカウントです!」
と言う。
 
結局、三木エレンが間に入り、メダルだけ奥野さんがもらい、優勝賞金は絵津子がそのままもらっておくことにした。
 
「私は銀メダルと2位の賞金、もらったままでいいよね?」
と馬田恵子が言っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「もちろんもちろん」
と絵津子も三木エレンも言った。
 
それで奥野さんと絵津子は肩を組んで笑顔で一緒に記念写真に収まっていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

「でも私より三田さんの方が速かったんですけどね〜。今朝予行練習でやった時にやった子で」
などと後で奥野さんは言っていた。
 
「なんでその子がデモンストレーションに出てこなかったの?」
「いやぁ、うちの部の男子選手なので」
「とりあえず男子は対象外で」
 
「女装してやる?とも言ったのですが、俺が女装したらお笑いの人にしか見えないからと言って辞退したんで、私がやりました」
「黎美ちゃんがやって正解だったと思う」
 

↓ ↑ Bottom Top

13:45から、地元のミ・アモーレプロジェクト任命アーティスト3人と上塩小学校の生徒32名による歌『故郷はひとつ』(阿木燿子作詞・宇崎竜童作曲)が披露される。14:00から発光ブレスレットを配っておいた観客と一体となった光のオープニングイベントが行われる。
 
新潟県出身の全盲シンガーソングライター・佐藤英里(さとうひらり)さんによる国歌斉唱のあと、15:00から試合が始まる。
 
東軍・西軍ともに、ファン投票で選ばれた5人が、1人ずつ名前を呼ばれスポットライトを浴びてコートに入る。
 
西軍 PG.武藤博美(EW) SG.花園亜津子(EW) SF.佐伯伶美(BR) PF.中塚翼沙(SS) C.馬田恵子(EW)
東軍 PG.田宮寛香(SB) SG.村山千里(RI) SF.広川妙子(RI) PF.平田徳香(SB) C.夢原円(SB)
 
↓ ↑ Bottom Top

そして西軍馬田恵子・東軍夢原円のジャンプボールでゲームは始まった。
 

試合前にコーチから両軍選手に言われたことは3つである。
 
・怪我しないように・させないように。無理なプレイは控える。
・観客にアピールするような動きを。勝利より魅せるプレイを。
・スピーディーなプレイを。無駄なパス回し厳禁。
 
それで千里と亜津子のスリーポイント合戦、そして恵子と円の空中戦が炸裂する。第1ピリオドでは千里と亜津子が各々スリーを3本入れ、恵子と円のダンク合戦もあり、25-25の同点でピリオドを終えた。
 
第2ピリオドはスターターの5人は休み、他の選手でやる。ここで地元選出の中井さんを使った。彼女は得点には絡めなかったものの、観客から暖かい拍手をもらっていた。第2ピリオドは18-17と東軍1点のリードである。
 
↓ ↑ Bottom Top

ハーフタイムの前半はまた観客が持つ発光ブレスレットを使った光のショー、後半はこれも観客と一体となったダンスタイムとなった。
 
ゲームは後半に入る。
 
第3ピリオドでは両軍ともできるだけ長身のプレイヤーを揃えて空中戦の醍醐味をたっぷりと観客に堪能させる。馬田恵子(190cm)がダンクしようとしたのを夢原円(187cm)がブロックしたり、石川美樹からのロングパスを富田路子(183cm)がアリウープでゴールに叩き込んだりなど、まるで男子の試合のようなパワープレイが続き、おそらく女子バスケのファンが200-300人は増えたなという感じであった。得点は20-18で西軍が2点のリード。ここまでの合計は62-61で西軍が1点のリードとなる。
 
↓ ↑ Bottom Top


最後のピリオドは両軍とも「そろそろ決着を付けようぜ」という感じになる。こういうメンツで出て行く。
 
西 PG.武藤博美(EW) SG.花園亜津子(EW) PF.加藤絵理(EW) PF.鈴木志麻子(BM) C.馬田恵子(EW)
東 PG.松前乃々羽(HP) SG.村山千里(RI) SF.湧見絵津子(SB) PF.鞠原江美子(RI) C.夢原円(SB)
 
先日のオールジャパンで大活躍した乃々羽の登場に観客席が大いに沸く。そして実は千里・絵津子・江美子というのは乃々羽の「パスが取れる」メンツなのである。
 
乃々羽と森田雪子は、どちらも思わぬ所にボールが飛んでくるポイントガードであるが、ふたりの大きな違いは、雪子が意図した所にボールを正確に投げているのに対して、乃々羽は自分でもどこにボールが飛ぶか予想が付かないという点である。ふたりとも発想が凄いので、相手は意表を突かれてしまう。相手だけ意表を突かれるのが雪子で、味方も意表を突かれるのが乃々羽である!全てを計算し尽くして組み立てているのが雪子なら、本能と偶然で組み立ててしまうのが乃々羽だ。
 
↓ ↑ Bottom Top

このゲームでも乃々羽の普通ならあり得ない試合組み立てに、西軍は大混乱に陥る。西軍の防御態勢が崩壊して、東軍の攻め放題の状況となり、千里の4連続スリーもあって一時は66-77と10点以上の差が付いてしまう。
 
しかしここで西軍はタイムを取って態勢を建て直す。もう相手の攻撃は停めない!と開き直って、負けずに点数を取る作戦で行く。するとここから少しずつ盛り返してきて、残り1分で4点差まで追い上げる。
 
更に亜津子がスリーを入れて1点差に迫るも、江美子が2点入れて3点差に離す。恵子のダンクで1点差にして残りは20秒。ここから乃々羽から絵津子へのパスを鈴木志麻子が絶妙なカット。亜津子につないで亜津子がしっかりスリーを入れ、土壇場で逆転。
 
↓ ↑ Bottom Top

しかし東軍はタイムを取らないまま、千里の長ロングスローインを円がシュート。と思ったら恵子がブロック。
 
ところがこのブロックがファウルを取られてフリースローになる。
 
ここで円はフリースローを2本とも決めて、試合は延長戦になった。
 
白熱した試合に観客は興奮のるつぼであった。
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
春想(5)

広告:転性パンデみっく-1-裏少年サンデーコミックス-冬野-なべ