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■春想(4)

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カフェのバイトは高校生時代に経験があり、ドリップコーヒーもエスプレッソも入れることができたし、当時上手な先輩から習って、ラテアートも色々と作ることができるようになっていたので、オーナーさんから「頼もしい」と言われた。オーナーさんは20歳くらいかと思ったら、25歳というので驚き!ついでに、オーナーの彼氏(彼女?)が女装者であることに気付いて、ここちょっと親しみが持てるかもと思った。
 
彼氏が女装者なのだったら、私も普通の女の子的に扱ってくれるよね?きっと、などと思う。一応自分の性別は悠子がバラしてしまっている。
 
オーナーさんは昨年夏に子供を産んだばかりということで可愛い赤ちゃんを抱いていたが、佐織はその子供のタネはどうしたんだろう?と疑問を感じた。彼氏はどう見ても女性ホルモンをやっている。精子がある訳無い。タネは別の人のものなのか、あるいはまだ精子があった頃に冷凍保存していたものなのか。
 
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初仕事は12月31日のローズ+リリーのカウントダウンライブに出す出店になった。お店自体のオープンは6月頃という話だったのだが、オーナーの月山さんはローズ+リリーの2人とお友達ということで、直前にキャンセルした出店の代わりに急遽出店することにしたらしい。
 
この会場にまだ客を入れる前、出店に姉妹のミュージシャンが訪れた。ただ、妹の方は天然女性のようだが、姉の方はどうも男の娘っぽい。それが鴨乃清見と大宮万葉と聞いてびっくりした。鴨乃清見は大ヒット曲がいくつもあるし、大宮万葉といえばアクアの事実上の仕掛け人という噂のある人物である。見た感じは30歳くらいに見えたのだが、てっきり23-24歳くらいでそちらが妹と思っていた鴨乃清見のほうがお姉さんということだったので、実際には鴨乃清見が28-29歳で、大宮万葉は26-27歳だろうかと想像した。
 
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本来の年齢より年上に見られやすいというのは自分も昔からそうなので大宮万葉には少し親近感を感じた。佐織は高校の時、引率の先生と間違われたことがある。
 
それと・・・妹の大宮万葉は何だか凄い霊能者だぞと佐織は思った。お姉さんの方も少し霊感があるようであった。佐織はあまり人から言われたことはないのだが、個人的にはわりと霊感がある気がしていた。それでこういうのもわりと分かる。そもそもクレールの月山オーナーも結構な霊感の持ち主である。
 

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その大宮万葉が1月6日の午後クレールを訪れ、その日は佐織も明日のライブの仕込みのため、店を訪れていた
 
それで彼女が19歳と聞いて仰天する。
 
19歳なら、19歳なら。。。
 
もっと若い服を着ろよ!!
 

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話している内に、彼女(以下、大宮万葉というペンネームではなく本名の青葉で呼ぶ)は、やはり佐織が思っていたようにMTF-GIDで、既に性転換手術も終わっており、来年5月に誕生日がきたらすぐ戸籍の性別変更を申請する予定だという。わぁ、いいなあと思った。
 
彼女は佐織も既に性転換手術を受けていると思ったらしいが、こちらはまだ何もいじっていない。ところが彼女は、佐織が去勢手術を受けられるように、お金を貸してあげたら、とオーナーに言う。
 
佐織は
「大丈夫ですよ。頑張ってここでバイトしてお金貯めてから手術受けますから」
 
と答えたのだが、青葉は主力メイドである佐織が、手術のために休まれると困るのではないか?だったら、グランドオープン前に手術を受けてもらった方がいいと言う。
 
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しかし自分は2月にはメイドカフェの運用に慣れるため、東京のエヴォンという店に研修に行くことになっている。そうなると確かに受けるなら1月中という気もしないではない。
 
それで話している内に、オーナーが
 
「マキコちゃん、手術代、前貸ししようか?それで来週の平日に手術を受けておいでよ」
と言い出した。
 
佐織は
「来週ですか!?」
とマジ仰天した。
 
確かに近い内に去勢したいとは思っていたが、来週!?
 
それでノリだけはいいオーナーは自分で仙台近郊の、その筋ではわりと有名な病院に電話して、来週去勢手術ができないかと問い合わせていた。すると、来週では無かったが、1月23日(月)なら、ちょうど1件キャンセルがあったので、入れられるという話である。
 
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「マキコちゃん、手術しちゃう?」
「あはは、手術しちゃおうかな」
 
とマキコもノリで答え、それでマキコは半月後に男性を引退することになったのであった。費用は諸経費込みで32万円ということだったので、その場でオーナーが32万円現金で渡してくれた。マキコも借用証書を書いて渡した。
 
でもこれそれまでに使い込んじゃったらどうしよう!?
 

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一緒に早めの夕食をオーナーさんから頂いて、そのあと青葉さんは明日のライブの下見に行くというのでバイクで送って行ってあげることにした。その時、青葉のオーラが自分を包み込み、特にあの付近に作用しているのに気付く。
 
凄く気持ちいい!
 
これはヒーリングだ。
 
実は佐織は先月下旬頃からあの付近が炎症を起こしていた。佐織は女性ホルモンを飲んでいるので、どうしても性器全体が萎縮しがちである。それで実はあれを覆っている皮が縮みすぎて、中身より小さくなってしまっており、それで何かの拍子に中身が少し膨らむと、それを覆いきれずに一部切れてしまうのである。これが物凄く痛い(だから実はHなことを想像する度に痛くなる)。
 
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血が出るので、ずっとパンティライナーを付けている。実は一度大量出血してパンティが真っ赤になり、ナプキンを付けていた日もある。その痛い部分が彼女のヒーリングで痛くなくなって行っているのである。
 
実はここ数日あまり痛いので、いっそ根本から切り落としたい気分だったのだが(切り落としたいのは小さい頃からずっとそうだが)、彼女の《治療》で、思いあまって切り落としたりしなくても済みそうな気がしてきた。
 

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別れる時佐織はヒーリングの御礼を言った。
 
「あ、分かった?」
「凄く気持ちいい波動を感じました」
 
「なんか炎症起こしてるなあと思ったから、ついやっちゃった。勝手にやってごめんね〜」
「たぶん、説明すると面倒だからかな」
 
こういう霊的な操作というのは、説明しようとすると何から説明していいのか難しい所がありそうである。しかもこういうヒーリングというのは、極めて特殊な能力という気がする。
 

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仕込み作業は思っていたよりは早めに終わり、その日は自宅アパートに帰るのも面倒なので、オーナーの自宅に泊まり込んだ。
 
それで7日はボニアート・アサドのセカンド・ライブを実施。先週より更に多くのファンが詰めかけて大忙しだった。特に今回はライムやクロミが東京に研修に行っていて、不慣れな新人さん3人と一緒にオペレーションしたので、佐織の忙しさは凄まじいものがあった。
 
何とかやり遂げて、さすがに疲れたので、そのままオーナー宅で仮眠させてもらい、結局そのまま明日の《ライジンク・アップ》というセミプロのアーティスト5人によるジョイントライブの仕込み作業にも参加する。
 
それをやっている最中に、今度は青葉さんの姉の鴨乃清見こと千里さんが来訪する。それはいいが彼女が、アクアと彼女、もとい彼の所属事務所の社長でもある元アイドルの秋風コスモスと3人だったので、びっくりした。
 
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3人は内密の打合せがあり、ここに来たということのようだ。東京近辺でやると、人に見られやすいから、こういう田舎までやってきたのだろう。
 
でも超人気のアクアを身近で見られてラッキー!と思った。
 
アクアはライトブルーのブラウスに可愛いベージュのキュロットスカートを穿いていた。この子、こういう服が似合うもんなあと思う。実は佐織もアクアのCDはこれまで3回買っている。
 

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こちらの仕込み作業は午前2時くらいで完了したのだが、彼女たちの対応があるので、オーナーだけは起きていると言った。それを佐織は
 
「店長こそお疲れでしょ。少し休んで下さい。私が対応しますよ」
と言ったので、マジで疲れているふうのオーナーはそれで佐織に任せて、いったん自宅の方に移動した。
 
コーヒーのお代わりという声に、佐織がカフェラテを2つと中学生のアクア用にココアを作って持って行くと、ラテアート可愛い!と言って、アクアが凄く喜んでいるが(猫さんと羊さんを描いて持っていった)、その喜んでいる本人が凄く可愛かった。
 
そしてアクアの《生声》を聞いて、この子の声は女子中生の声にしか聞こえないと思う。
 
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やはりこの子、去勢してるよね?と思う。でないと、この年齢で声変わりしてないなんてあり得ない!アクアは15歳のはずである。ただ、物理的に去勢するのは色々問題があるだろうから女性ホルモン投与による化学的去勢かなあ、などとも思う。ただ女性ホルモンをやっているにしては、おっぱいは無いようなので、元々女性ホルモンのレセプターが弱いのか、あるいは医師の管理下で、凄く絶妙な投与をしているのか、などとも考える。
 
むろん守秘義務があるので、そういう話は他人とはしない。
 
この日は朝4時頃、オーナーが起きてきたのと交代して仮眠した。
 

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桃香はかなり暇をもてあましていた。実際問題として11月下旬に退職して以来、日々することがないのである。
 
この時期は2週間に一度産科に行き、検診を受ける。エコー写真を撮ってもらうほかは、特にすることがない。妊婦用の雑誌など読んでもすぐ読み終わってしまう。優子や鈴子など一足先にママになった友人と電話で話すが、彼女たちは子育てで忙しいので、あまり長時間話せない。
 
千里は忙しいようで、なかなか帰って来ない。
 
週末の度にあちこちに出張に行っているようで、様々な所のお土産を持ってくるものの、短時間の滞在ですぐ帰ってしまう。12月19日は九州のお土産を持ってきて、そのまますぐ出かけて次に戻って来たのは12月29日である。その間桃香は暇で暇で死にそうな気分だった。仕方ないので図書館に行って色々本を借りてきて読んでいた。
 
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12月29日に戻って来た千里は、30日は1日居てくれて、食糧のストックを少し作ってくれる。30日の午後には高岡から母が出てきてくれて、おせちを作ってくれる。母がこのアパートのキッチンを使っているので、千里はどうも自分のアパートのキッチンで色々料理を作り、それをこちらに持ち込んで冷凍室に放り込んでくれたようである。
 
そういう訳で30日の夜は母と2人で経堂のアパートで寝た。千里は用賀の方で寝たようで、31日の朝一緒に朝御飯を食べた後はまた出かけて行った。その日は彪志君のアパートに母と一緒に移動した。ただし青葉は東北・北海道方面に仕事で行っているという話であった。
 

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3ヶ日は桃香と母と彪志君の3人で過ごした。4日の昼くらいに青葉が戻ってきて、あらためて、おとそ・雑煮・おせちを頂く。青葉は6日の昼前には彪志を放置してまた出て行ってしまった。
 
8日朝、千里が戻って来て、和実のお店で作ったというオムライスとホットミルクを出した。それで、桃香・母・彪志・千里の4人でオムライスを食べる。母と彪志君はカフェラテを飲んでいたが、ラテアートがとても美しかった。しかし朝御飯を食べると、千里は又出て行った。
 
この日の昼には母も高岡に帰還する。このタイミングで桃香は自分のアパートに戻った。青葉は結局10日の昼過ぎに彪志君のアパートに戻り、15日の午後に高岡に帰ったようである。
 
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千里は8日朝の次は10日朝に戻って来たが、すぐに出て行く。その後、13日までこのパターンが続き、14-15日の朝は戻って来なかった。16日以降はいつものパターンに戻ったようで、平日の間は夜8時から10時くらいだけ桃香のアパートに滞在し、晩御飯だけは一緒に食べるものの、土日はまた日本のどこかに出かけているようであった。やはりSEって忙しいんだろうなと桃香は考えていた。
 
 
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