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■春想(10)
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女子のWリーグはオールスター後の1月21日からリーグ戦が再開され、2月7日、レギュラーシーズンは終了した。
今季のレッドインパルスはリーグ戦では19勝8敗で、27勝0敗のサンドベージュ、20勝7敗のブリッツレインディアに次ぐ、3位の成績に終わった。
最終的な優勝者を決めるプレイオフが2月18日から始まるが、その前に2月17日、WリーグAwardが開かれ、今季レギュラーシーズンの成績優秀者が発表された。
まず各部門別成績であるが、サンドベージュの夢原円が得点・リバウンド・ブロックショットの3部門を独占、エレクトロウィッカの武藤博美がアシストとスティールを獲得する。フィールドゴール成功率はフラミンゴーズの大野百合絵、フリースロー成功率はエレクトロウィッカの花園亜津子と千里が分け合い、そしてスリーポイント成功率は千里が取った(亜津子は僅差の2位)。
ベスト5は、武藤博美、村山千里、大野百合絵、湧見絵津子、夢原円と発表される。そしてレギュラーシーズンMVPは優勝に貢献したサンドベージュの夢原円、ルーキー・オブザイヤーには千里が選ばれた。
取り敢えずここに選ばれたのは全員リオ五輪のメンバーである。
「千里、ルーキーとして表彰されてたけど、確か去年もいたよね?」
「いや確か10年くらい前から居たはず」
などと言われたのはいつものことである。
青葉は2月10日(金)に期末試験が終わると、東京に出てきて、アクアの次のCDの制作の指揮を執った。アクアの制作は一応青葉がプロデューサー、KARIONの和泉さんがディレクターを務めて今後制作していくという方針が固まっているのだが、その和泉さんは現在KARIONのアルバム制作(4月上旬発売予定)で多忙なので、結局、青葉とゴールデンシックスにも参加していた長尾泰華さんの2人で進めることになった。
泰華さんはKARIONのツアーアーティストを何度もやっており、和泉とは旧知である。青葉も何度かライブで一緒になったことがあるのだが、青葉は泰華が男の娘であることを知らない。
今回収録する曲は『星の向こうに』(岡崎天音作詞・大宮万葉作曲)と、『ナースのパワー』(葵照子作詞・醍醐春海作曲)の2曲である。
基本的には青葉が楽曲の品質面を管理し、制作そのものに関しては慣れている長尾さんが見て行くという形で進められた。
エレメントガードに加えてスタジオミュージシャンを6人入れており、重厚なサウンドが作られていくが、みんな上手いのですいすいと制作は進んだ。
このCDは3月22日に発売予定である。
「そういえば龍ちゃん、この時期は受験勉強とかしなくていいの?」
と青葉は心配して尋ねた。
「いえ、もう合格通知もらったんですよ」
「ああ、それは良かった! 早いんだね」
「ええ。公立は3月に入ってから入試なんですけど、私立の推薦は1月中に結果が出るんですよ」
と龍虎は言う。
「へー。どこの高校に入るの?」
「東京北区のC学園です。XANFUSの音羽さんとか、スリファーズの方々とかの出身校なんですよ」
「え?C学園、共学になったの?」
とエレメントガードのヤコ(槍田湖寿絵)が言う。
「私、そのC学園の出身なんだけど」
「わっ先輩でしたか!」
と龍虎も驚いて言う。
「実は今年の春から、高等部の芸術科に限って、男子を最大3人入れることになったんですよ」
「そうなんだ!」
「音楽関係で実績のある人ということで、他に入る2人はあちこちのコンクールに入賞経験のある人とかで。そんな中にボクみたいなのが入っていいかなと思ったんですけど、クラシックだけでなくポップス系も受け入れるということで」
「へー。じゃ普通科は女子のみ?」
「そうなんですよ。クラス編成は普通科も芸術科も混合なんですけどね」
「なるほどー」
「ボクがそこに入ることにしたと言ったら、中学の友だちが2人、1人だけでは寂しいだろうから、自分たちもそこに行くよと言って、普通科で一般入試ですけど、受験してくれたんですよ。彼女たちも合格しました」
「それは良かったね!」
「友人がいると心強いです」
「だけどC学園の制服って凄く可愛いですよね〜」
などと龍虎が言うと、エレメントガードのエミ(柿田江美)が尋ねる。
「やはり龍ちゃんも、あの制服着るの?」
すると龍虎は一瞬「あっ」といった感じの表情をした上で答える。
「いくらボクでもスカートの制服は着ませんよ〜」
するとみんなが
「いや、アクアはスカートを穿いても平気なはず」
と言う。
「じゃ男子制服ができるの?」
「人数が少ないので、男子制服は作らないらしいです。ですから、学生らしい服装ならいいよということでした」
「なるほどね〜」
「中学の時の学生服で通おうかなあと思っているんですけどね」
「女子制服着ればいいのに」
「女子制服着てもいいよとは言われましたけど、さすがにボクが着たら変ですよ〜」
「いや、絶対変じゃない!」
ということでその場の意見が一致した!
実を言うと、1月下旬に合格発表があり、すぐに入学手続きをした後、入学のための案内資料と一緒に2月19日(日)に制服採寸会という案内も送られてきていた。むろん、それは女子制服の採寸会だろうから、自分は関係無いよな、と龍虎は思っていた。
ところがその日の朝、友人で一緒にC学園に入ることになった彩佳と桐絵が龍虎の自宅に来て誘う。
「龍〜、制服採寸会に行こうよ」
「ボクは別に行かないよ」
「だって今日頼まないと、オリエンテーションに間に合わないかも知れないよ」
「いや、制服採寸会って、女子のでしょ?ボクは関係無いし」
「そんなことは無いよ。生徒手帳にプリントする写真も撮るって書いてあったでしょ?」
「え?そうだっけ?」
慌てて案内を見ると、確かにそんなことが書いてある!
「分かった。じゃ、写真だけ撮りに行くよ」
「ついでにちゃんと制服の採寸」
「それは必要無いって!」
それで龍虎は彩佳たちと一緒に採寸会の会場に行くことにした。
「でも採寸会って女の子たちの採寸してるんでしょ?男のボクがその会場に入ってもいいのかなあ」
「龍ちゃんは女子更衣室に居ても何も違和感無いから、大丈夫」
「それはそうかも知れないけど」
それで電車で赤羽駅まで行き、駅近くのショッピングモール内に設置された特設会場に行った。モール自体の開店と同時に入ったせいか、まだ会場には誰も来ていなかった。受付で採寸に来たと彩佳が告げる。それで彩佳と桐絵が記名する。
「君は?」
と龍虎が訊かれたので
「生徒手帳の写真だけ撮りに来ました。制服の採寸は不要です」
「ああ、お姉さんからもらうか何か?」
「そういう訳では無いのですが」
ともかくも記名してというので、送られて来ている資料に記された管理番号とタシロ・リュウコという名前の読みを書き込む。
それで会場内に入るのだが
「はい、こちらに来て」
と言われて3人各々に洋服屋さんのスタッフさんかなと思う人が寄ってきて、別の方角に連れて行かれる。そして身体のあちこちをメジャーで測られる。
「あのぉ、ボク別に制服は作らないんですが。写真撮影のためだけに来たんですよ」
と龍虎は係の人に言う。
「あ?そうなんですか?でも写真撮影のために、いったん試着用の制服を着てもらうので。そのために合わせる制服のサイズを確認するのに採寸が必要なんですよ」
「ああ、なるほど」
「作る必要が無い場合は、後でその旨言ってください」
「分かりました!」
それで、結局
「この服で合うと思うけど、試着してみて」
と言われ、試着室に入ることになる。
ちょっと待って。やはりこれ女子制服じゃん。これを着て写真撮るの〜?と思ったものの、試着せずに出て行って事情を説明する自信が無い。それで結局「まいっか」と思って、その女子制服を着てみた。着ていたセーターとシャツにスリムジーンズを脱ぎ、ブラウスを着てスカートを穿き、ブレザーを着る。ちょっと胸がきついなと思う。実は龍虎はドラマの撮影の都合でブレストフォームを貼り付けたままにしているのである。
「試着してみました」
と言って外に出て行くが
「あなた、胸の所がきつそう」
と言われる。
それでひとつバストの大きなサイズのをもらってまた試着室に入り着換えて来た。
「ああ。これでいいね。じゃこのサイズで作るね」
「はい、よろしくお願いします」
よろしくお願いしますって言っちゃったけど、ボクこれ着るハメにならないよね?などと思っている。確か後で注文しないと言って下さいと言われたので、後で言えばいいかと思う。
そして
「ここ座って」
と言われるので、ライトブルーの幕の前に椅子が置かれている所に座る。
何だろう?
と思ったのだが、どこかで
『笑顔作って』
という聞き慣れた声がした気がした。
それで龍虎は営業用のスマイルをする。
するとその瞬間パッ!とフラッシュが焚かれ、どうも写真が撮られたようである。
「お疲れ様でした!脱いでいいですよ」
と言われるので、龍虎はまた試着室に入って、制服を脱ぎ、着て来た服に着替える。それで
「はい。これ管理番号です」
と言われて、なにやら伝票のようなものを渡された。それで龍虎が、制服は実際には製作不要というのは、どこで言えばいいんだろう?と思っている内に、彩佳と桐絵が寄ってきて
「終わった?」
と訊く。
「うん。写真撮影した。でも制服は実際には作らなくてもいいというのは、どこで言えばいいのかな?」
と龍虎は言った。
「それはもちろん」
「もちろん?」
「龍はちゃんと制服を作ってもらえばいいと思いまーす」
「賛成ー!」
「え〜〜!?」
「でも龍、中学の時もちゃんと女子制服持ってたじゃん」
「あれは夏恋さんに乗せられて」
「でも女子制服、ちょっと着てみたくない?」
と彩佳が誘惑するように言う。
「着なくても持ってていいかな・・・」
「そうそう。それで行こう」
と言われて、結局龍虎は、制服は作らなくてもいいと言うのは言わずにそのまま会場を出てしまったのであった。
龍虎たちが出て行くのと入れ替わりくらいにやってきた生徒が居た。
「あれ?あれって、まさか大人気アイドルのアクア?」
などと独り言のように呟いたものの。
「まさかね〜。C学園は女子校なんだし。アクアが性転換したなんてニュースも無いし」
と言って、受付の所で管理番号と名前を記入する。
「タナカ・ナルミちゃんね。こちらにどうぞ」
と言って、係の人が連れていき、採寸する。
「身長169cmかな。背が高いね。スポーツか何かしてた?」
などとスタッフの人が訊くので、
「いえ別に。私そんなに身長高い方じゃないと思いますけど」
「そう?中学は身長の高い子が多かったのかな。女子で169cmは割と背の高い方ですよ。でもよかった。そのくらいの背丈まではサンプルの用意があるんですよ」
と言って、多数の試着用の服が掛かっている中の一番端にあるものを取ってきてくれる。
「いや、私男子だから。中学の時は前の方から数えた方が近かったですよ」
と成美は言っている。
「あらあら。男子だなんて。あなた、男勝りの性格なのかな?」
「いや、戸籍上男子なんですけどね。あ、スカートはもう少し丈のあるものありません?」
「ごめーん。これがいちばん長い。でもちゃんとあなたの足の長さに合わせて作るからね。この長さだと膝上になって違反になるもんね」
「校則上は膝下ってなってますけど、実際問題としてどのくらいまではお目こぼしされるんですかね?」
「それは何とも言えないけど、たぶん2-3cmくらいは許容範囲じゃないのかなあ。女子でもたまに高校になってから背が伸びる子いるしね」
「僕は男子だから、これ以上は伸びないかも知れないなあ」
「男子のほうが高校になってから伸びる子多いけど。でもあなた面白い子ね。しっかりした感じだから、男の子っぽい言い方も似合うし」
「いやだから私男ですから」
「はいはい。了解しましたよ」
とスタッフさんは言って、成美の採寸を終えた。
「じゃそちらで生徒手帳用の写真を撮りますから。写るのは上半身だけだからスカート丈が短くてもいいからね」
「分かりました」
それで田中成美は採寸と写真撮影を終え、制服を脱いで、来る時に着てきたセーターとスカートを身につけると会場を出た。
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