広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■春泳(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-11-21
 
「去年卒業した先輩でまだ持っていた人がいたのよ。希ちゃんの写真見せたらこんなに可愛い子だったら、男の娘でも、あげていいよと言ってたから」
と女子更衣室の中で、美由紀は拉致ぎみにここに連れてきた希に言った。
 
「本当ですか」
「ちょっと着替えてごらんよ」
 
それで希はちょっと恥ずかしそうにしながらも学生服の上下を脱いだ。白いブラウスを通してブラジャーをしているのも見える。キティちゃんのパンティに若干の膨らみがあるのは見なかったことにしてあげる。ソックスは女子生徒仕様のハイソックスを穿いている。ふくらはぎまでの丈のものである。
 
それでスカートを穿いてセーラー服の上衣も着ると、どう見ても女子高生にしか見えない可愛い子のできあがりである。
 
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「可愛い!」
「似合ってる!」
と周囲に居た女子たちが声をあげた。
 
「授業中は男子制服着てないといけないかも知れないけど、放課後になったらその服に着替えて部活においでよ」
「そうします」
「それで下校もするといい」
と美由紀が言うと
 
「え〜どうしよう?」
と本人は言うものの、一連の様子をニヤニヤしながら見ていた希の姉・萌は
 
「朝出る時もその服で出て、帰りもその服で帰ればいいんだよ」
 
と笑顔で言った。
 

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青葉は物心ついた頃から、曾祖母の指導の下、主として佐竹伶(慶子の父)に泳ぎを習った。これはいわゆる古式泳法と呼ばれるものの一種である。
 
青葉は幼稚園には女児の制服で通っていたが、夏の水遊びの時も女の子水着を母に買ってもらって着ていた。その時着たのはスカート付きであったので、お股の付近を他の子に見られることは無かった。
 
小学校に上がった時、青葉は男の子なんだから男の子の服を着なさいと言われ1年生の内は渋々アウターだけ男物を着ていた(下着は男児下着は断固として拒否し女児用を着ていた)。それで水泳の授業があるが、男児ということで、水泳パンツを母は用意していた。しかし青葉はそんなもの絶対つけたくないと思ったので、1年生の水泳の授業は全部見学で押し通した。
 
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しかし当時青葉は悩んでいた。女児用のスクール水着を着たい。お祖母ちゃんあたりに言えば買ってくれるかも知れない。でも女児用スクール水着はお股の所のラインがきれいに出てしまう。おちんちんで盛り上がった状態のお股を友人たちの前にさらすのは絶対嫌だ。
 
青葉は何か方法が無いかずっと考えていた。
 
そして2年生になった春、友人の咲良が行方不明になる事件があった後、学校に女の子の服で出て行くようになる。そして水泳の授業も女児用スクール水着を着ようと決断した。それであれこれ考えた結果、アンダーショーツであの付近をしっかり押さえて外に響かないようにした上で引き締まるタイプのスクール水着を着るという方法を見付けた。
 
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「あおばのあのあたりがとってもきになる」
「えへへ。付いてないように見えるでしょ」
 
結局その後青葉はずっと女の子用スクール水着で毎年水泳の授業に参加したり、また友人たちと一緒にプールや海で泳いだりしていたのである。それは中学に入って授業中は学生服を着ているように言われた中1の時も、水泳の授業だけはその方式で押し通した。
 
そして震災の後、高岡に転校した中学2年以降は、女生徒扱いにしてもらったので、女子制服を着て登校し、当然水着も女子用スクール水着を着て水泳の授業に参加していた。
 

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2015年春、青葉は出羽の夏の修行に1晩だけ参加させてもらい、自分の体力不足を痛感した。そこで以前から誘われていた水泳部に入ることにし、競泳用水着(もちろん女子用)を着けて、毎日朝練でプールをたくさん往復していた。
 
(正確には4月14日に顔貸してと言われて水泳部に登録だけはしていた。その直後18-19日に出羽に行ってきた後、本気で練習に参加するようになった)
 
そして6月上旬。青葉は
 
「川上、かなりスピードが出るようになったな」
 
と男子部長の魚君から褒められた。
 
「でもまだまだです。普通の人よりは速い程度だもん」
「確かに短距離では厳しいけど、スタミナがあるから長距離でもあまりペースが落ちない。今度の大会は800mで出ようか?」
「はい!」
 
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高体連の水泳種目では男子は1500mが最長だが、女子では800mが最長になっている。確かに今の青葉の泳力では50mや100mで上位に食い込む自信は無かった。
 
なお、水泳部の女子部員は青葉も含めて4人しか居ないので、リレーおよびメドレーリレーにも出ることは確定である。
 
そして最終的には青葉は個人では400m,800m,400m個人メドレーにエントリーすることになった。他は女子部長の杏梨が50m,100m,200m, 2年生の才花が平泳ぎの100m,200m, 200m個人メドレー、1年生の多恵が背泳ぎの100m,200mと自由形200mにエントリーした。
 

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6月12日。軽音の大会が小松市で開かれた。
 
青葉が部長を務めている合唱軽音部はこの日みな楽器を持って高岡駅に集合し、小松市に出かけた。あいの風とやま鉄道・IRいしかわ鉄道の直行便で金沢まで行き、その先はJRで小松まで行くという乗り継ぎになる。
 
今回は全員参加の「THSバンド」の他、青葉や空帆たちの「Flying Sober」他小編成のバンドが8個エントリーしている。
 
今回大編成バンド部門のエントリーは6校であった。敦賀市・福井市・金沢市・七尾市・安曇野市の高校と青羽たち高岡T高校である。
 
大会は先に大編成バンドから始まる。各持ち時間10分+入れ替え時間5分で朝9時から10時半まで掛かった。青羽たちの学校はスクエアの『El Mirage』とスタンダードナンバー『Memories of You』を演奏した。
 
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その後、小編成バンド部門になるが、その演奏を12時前にいったん中断して大編成部門の成績発表が行われる。優勝は福井の高校、2位は安曇野市の高校で青葉たちは3位になった。すぐ行われた表彰式で、部長の青葉が壇上に上がり笑顔で賞状をもらってきた。
 
さて小編成部門はオリジナル部門に20バンドほど、コピー部門に80バンドほど参加している。数が多いので、コピー部門はメインホールのステージ中央に仕切りを設置して、右半分と左半分に分けて使う方法で、入替え時間無し、1バンド5分で行われた。オリジナル部門はサブホールで演奏時間5分・入替え時間5分で行われた。
 
「入れ替え時間が無い方式って、前のバンドがノリのいい演奏すると、次のバンドも結構影響うける感じね」
「そのあたりは運だね」
「けっこう接続ミスで一部の楽器の音が出なかったバンドがいた」
「そういう事故はどうしても起きるよね」
 
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Flying Soberはオリジナル部門で13時頃の演奏と言われていたが、若干ずれこんで13:20くらいになった。空帆の書いた『愛の風』を演奏する。今回参加したFlying Soberのメンツはこういうラインナップである。
 
Gt.空帆 B.治美 Pf.真梨奈 Dr.須美 Sax.青葉 Fl.世梨奈 Cla.美津穂 胡弓:ヒロミ
 
『愛の風』は富山地方で見られる風「あいの風」に掛けた曲である。胡弓をフィーチャーした曲になっているので、それが弾けるヒロミに参加してもらっている。ヒロミは実は合唱軽音部の部員ではないのでTHS Bandにも参加していないのだが、このFlying Soberに参加するためだけに小松市まで同行してきてくれている。
 
この曲は秋頃にCDでも出す予定である。Flying SoberのCDは2014年1月に最初のCDを制作(同2月発売)、2年生の夏休みに2枚目(9月発売)、冬休みに3枚目を制作して、今度の夏休みに制作するのが最後のCDになる予定である。高校卒業後はメンバーがバラバラになってしまうので、一応4枚目のCDの発売と同時に解散式をしようということになっている。
 
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このオリジナル部門は14時半頃に全ての演奏が終了。審査時間を置いて15時すぎに結果が発表された。Flying Soberは2位で、代表の空帆が笑顔で賞状をもらってきた。
 
「1位の所も3位の所も上手い!って思ったもん」
「いや3位の所にも負けたぁと思ってたんだけどね」
「僅差だったのかもね」
「1位のバンドは曲も凄く良かったね」
 

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大会が終わったのはもう18時過ぎであるが、夏至が近いのでまだ外は明るい。(この日の日没は19:12)それで会場を出て徒歩で小松駅に向かう。Flying Soberがオリジナル部門で2位だったし、コピー部門でも2年生のバンドが7位になったので、みんなわいわいと盛り上がっている。
 
そして青葉は、ふと、なんかこの手の大会に参加する度に事件に巻き込まれていたよなあ、などと思い出した。
 
1年生の9月の軽音大会(氷見市)の後も、2年生の6月の大会(C市)の後も竹田宗聖さんと遭遇した。9月の合唱の大会(砺波市)の後では新幹線建設にまつわる事件に関わることになり、考えてみるとちー姉がソフト会社に就職するハメになったのは、あの事件のせいだと思うと、青葉はちょっとだけ心が痛む。
 
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千里が実際問題として適当な時期にあの会社を辞めたいと思っているふうなのは春以降千里と何度か会った時に感じたことである。
 
しかしまた竹田さんと遭遇したりしないよなあ、と思いながら駅舎に入っていった時、青葉は「あぁ・・・」と心の中でため息をついた。
 
「川上さん、久しぶり!」
と言ったのは、霊能者というよりは最近ではスピリチュアリストという肩書きを好んでいる火喜多高胤さんである。以前は竹田宗聖さん以上によくテレビに出ていたのだが、最近はめったに出て来ない。しかしたまに見せる顔が「神がかってきている」というのがオカルト好きな人の間では言われている。
 
「こんにちは、火喜多さん」
と青葉は笑顔で挨拶するも、変な事に巻き込まれないといいけどなあ、などと内心は思っている。
 
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「青葉、火喜多高胤さんとも知り合いなんだ?」
と声が出るが
 
「ある程度以上のレベルのスピリチュアリスト同士はたいていお互いどこかで会っていますよ」
などと火喜多さんは言う。
 
「川上さん、何か学校行事?」
「ええ。今終わった所なんですけどね」
「だったら、もしよかったらちょっとだけ付き合ってくれないかな。僕はあまり神様関係は得意じゃなくてさ」
 
青葉はやれやれと思う。今鏡先生を探して、知人に会ったので、少し話してから帰りたいということを言い、許可をもらった。
 
「でも川上さん、1時間に1度連絡入れて。それと自宅にも連絡しておいてね」
「分かりました」
 

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それで青葉は他の子たちと別れて火喜多さんにしばし付き合うことにした。
 
「最近、火喜多さんあまりマスコミに露出しておられませんよね」
「うん。関東ローカルでやってた『不思議探訪』と、全国ネットでやってた『心の闇を解き放ちます』が終わった所で、もうテレビ関係の仕事は基本的に入れないことにしてね。実は**の法を学んでいた」
 
青葉は緊張した。そんなとんでもないものを伝授できる人はたぶん国内に唯一人しか居ないはずである。
 
「泳晶さんの所におられるんですか?」
「まああの人以外にはできる人いないよね。弟子入りさせてもらうのに1年かかった」
「1年で弟子にしてもらったのは凄いです」
 
「目標は**明王の秘伝なんだよ」
 
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青葉は再度考えた。
 
「それを継承していたのは、うちの瞬嶽師匠だけだと思いますが、もう師匠は亡いので、誰も得られないと思います」
 
「僕は8年前に瞬嶽さんに会ったんだよ。それで**明王の秘伝を学ぶには先に**の法を修めなければならないと言われた。そして僕がそれを修めた時、ある場所にコピーしてある、**明王の秘伝にアクセスできるようになると言われた」
 
青葉はハッとした。それって・・・・・
 
「泳晶師匠からは先月、**の法の免許皆伝を認定された。それでいよいよ**明王の法だと思ってね。それがどこで得られるか考えていた時に、ふと川上さんの顔が浮かんだんだよ」
 
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春泳(1)

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