広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■春泳(7)

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千里は18日にF駅で青葉たちと別れた後、サンダーバードに京平と一緒に乗って京都駅まで行った。特急列車などというものに乗るのは初体験の京平は物凄く喜んでいた。更に奈良線に乗り継いで稲荷駅まで行くが、これもまた趣きが違うので楽しそうにしていた。
 
拝殿まで連れて行き、一緒にお参りする。お腹が空いたというので境内のうどん屋さんに入り、うどんといなり寿司の8個セットを頼むと、いなり寿司をひとりで7個食べてしまった。
 
「京平、稲荷寿司好き?」
「うん。これ大好き!美味しいね」
「京平の大好物になるかもね」
「今度お母ちゃんの子供に生まれたら、僕これたくさん食べたい」
「うん。たくさん作ってあげるよ」
 
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「でも僕男の子に生まれるんだっけ?」
「そうだけど」
「いや、生まれてみたら女の子だったらどうしようと思ってた」
「女の子も楽しいよ」
「女の子っておしっこする時、座ってするんでしょ?」
「そうだよ」
「なんか変な感じ。おちんちんも無いんだっけ?」
「無いよ。代わりに割れ目ちゃんがあるんだよ。京平、女の子になりたい?」
「うーん。可愛い服とか着れるのはちょっと楽しそうだけど、おちんちん無いのは困るなあ」
「でも取り敢えず男の子みたいだよ」
「よかったぁ」
 
お店を出たあと、千本鳥居のところで別れた。京平は元気に鳥居の坂道を登って行った。
 
「じゃ、京平、26日は頑張れよ」
と千里はその後ろ姿に向かってつぶやいた。
 
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翌6月19日(金)、FIBAの委員会で日本バスケ協会に対する制裁の「部分解除」が行われたことが発表された。これで日本は外国での試合、外国での合宿、国内外を問わず外国チームとの試合や交流などができるようになった。U19世界選手権は先日の決定通り出場不可(台湾の代理出場が決まっている)であるが、ユニバーシアードは出場することができると通達された。千里は江美子や彰恵たちと電話して喜びを分かち合った。
 

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6月23日(火)。千里はいつものようにに午前中は体育館で自主練習に参加して玲央美たちと汗を流し、午後からはまたレッドインパルスの練習に出る。それが終わったあと、普通は矢鳴さんに車を事前に回送してもらっておいて電車で40minutesの練習に行くのだが、今日は矢鳴さんはお休みで、千里自らインプレッサを運転して世田谷区内の自動車屋さんに乗り入れた。
 
「お電話していた雨宮です」
「あ、はい、車検でしたね」
 
この車は雨宮先生の所有車として登録しているので、話を複雑にしないため千里はここでは雨宮を名乗っている。一応車内に忘れ物がないかだけ確認して車を預ける。
 
「はい。ついでに点検をしてもらいたいのですが」
「ええ。伺っております。念のため再度状況をお伺いできますか?」
 
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「ええ。エンジンが掛かりにくいのと、走り出してすぐくらいに時々異常音が出ることがあるんです。少し走っている内に正常な音になるのですが。何度か坂道を走っている最中にエンストしましたし」
 
「分かりました。そのあたり見ておきます。代車は不要ということでしたね?」
「ええ、私、今夜から合宿に入るんですよ。それでその間にやってもらおうと思って」
 
このインプの車検の期限は実は8月上旬まである。しかし最近どうも調子が悪いので少し早めに車検に出し、ついでに色々とエンジン回りを中心に見てもらおうということにしたのである。
 

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千里はそれで車を預けた上で、呼んでもらったタクシーで最寄りの駅まで行き、その後は鉄道路線を乗り換えて都営三田線の本蓮沼駅まで行った。
 
「さて頑張るか」
と千里は自分に声を掛けて、スポーツバッグ2個、旅行用バッグ2個の荷物を抱えたまま、味の素トレセンまでジョギングを始めた。
 

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今回のユニバーシアード代表の合宿は6月24日から7月3日までである。この時期のトレセンは何だか混んでいて、女子フル代表の合宿が6月25日から7月3日まで。つまりユニバ代表とほぼ重なる日程で行われている。更に男子フル代表の合宿が6月26日から7月2日までで、これもまたほとんど日程が重なっているのである。
 
それで24日は千里たちもユニバ代表の12名だけで練習していたのだが、その日の夕方には、フル代表の玲央美や妙子さん、亜津子さん、三木エレンさんたちがやってくる。
 
「おーい。少しは代表の覚悟ができてきたか?」
と玲央美。玲央美とは実は23日の午前中も世田谷区内の体育館で一緒に練習している。
 
「元気してるか〜?」
などと言っている妙子さんとは23日午後にレッドインパルスの練習で一緒であった。
 
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「千里〜。またスリーポイント競争しようよ」
と亜津子さんが言うと
「私もそれに混ぜて」
と三木さんまで言った。
 

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そして実際、25日の午後にはフル代表vsユニバ代表で練習試合をした。スターターはこのようになっていた。
 
Full. PG武藤博美(EW)/SG三木エレン(SB)/SF広川妙子(RI)/SF佐藤玲央美(JG)/C金子良美(FM)
Univ. PG森田雪子(4m)/SG村山千里(4m)/SF前田彰恵(JG)/PF高梁王子(JG)/C夢原円(SB)
 
EW=エレクトロ・ウィッカ、RI=レッドインパルス、JG=ジョイフルゴールド、FM=フラミンゴーズ、4m=40 minutes, BM=ビューティマジック、SB=サンドベージュ
 
どちらもマジ100%の陣容である。しかし知り合いばっかりだ!相手選手の中で対戦したことがないのは、センターの金子さんだけである。妙子さん・玲央美とは毎日練習をしている。
 
ティップオフは円が勝って雪子がボールを確保し、走り込んでいる千里に矢のようなボールを送る。普通のチームならここで千里にまんまとスリーを撃ち込まれてしまうのだが、相手はさすがフル代表だし、千里を熟知している妙子さんと玲央美がいるので、そう簡単には撃たせてくれない。
 
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玲央美が千里の前に立ち、万全のガードをする。それで千里は王子にボールを送る。玲央美が左側に来ているので、反対側は妙子さんが守っている。しかし王子は妙子さんをパワーで振り切って中に進入。金子さんのガードもほとんど無視して豪快にボールをダンクでゴールに叩き込んだ。
 
「何この子〜?」
という顔を金子さんがしている。王子は玲央美と同じジョイフルゴールドの選手である。実業団なので、Wリーグ・フラミンゴーズの金子さんは王子との対戦経験が無いのである。両者はオールジャパンでも当たったことがない。
 

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最初マッチアップは千里に玲央美が付いていたのだが、三木さんが自分にやらせろと言ったようで交代する。それまで玲央美は千里のスリーをわずか1本に押さえていたのだが、千里はこのピリオドで三木さんと4回マッチアップし、4回とも彼女を抜くか、あるいは抜くと見せてシュートを放り込んだ。結局千里はこのピリオド3本のスリーを放り込み9点を奪う。王子も3本のダンクを決めたほかフリースローを4本全部決めて10点取っている。彰恵も2本ゴールを決めてこのピリオドのユニバ代表の得点は23点。一方のフル代表側は16点に留まる。三木さんはスリーを1本も撃てなかった。
 
第2ピリオドでは三木さんに代わって亜津子さんが出てくる。しかし亜津子さんが千里を完全には停めきれないのは昔からである。それでも彼女は千里を8割くらいは停めた。かなり気合い入ってるなと千里は思い、心を奮い立たせるため自分の頬を数回叩いた。結局このピリオド、千里はスリーを2本とツーを1本で合計8点取る。亜津子さんの方はスリーを1本だけ入れた。
 
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後半はどちらも選手を完全に入れ替えて戦う。この試合はあくまで勝負より様々な相手との経験を積むことが第一目的である。
 
それでも試合は結局78-86でユニバ代表が勝った。
 
「お前らこれから地獄の合宿が始まると思え」
とこの結果を見てフル代表監督の山野さんが言った。
 
玲央美も妙子さんも亜津子さんも厳しい表情をしていた。三木さんはじっと千里の顔を見ていた。
 

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この25日の夕方には男子のフル代表がやってきた。千里は食堂で貴司と目があったものの、向こうが手を振るのを黙殺。江美子たちとおしゃべりしながら食事のプレートをテーブルに持って行き、御飯を食べた。
 
24-25日の練習は2階のバスケット専用コートを使用していたのだが、26日はそれを男子フル代表に譲り、女子のユニバ代表、フル代表は同じ階にある共用コートの方に移動した。バスケット・バレーからハンドボールなど様々な競技に使用することができる。
 
26日の19時すぎ。この日は疲れがピークに達している選手が多いので早めに打ち切ろうということになり、着替えたあと彰恵・江美子・玲央美と4人で夕食を食べていたら、貴司が食堂に入って来て千里の横に立った。
 
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「あ、遠慮しようか?」
と玲央美が言うが
「別にいいよ。結婚している男性に私は別に何の感情も無いから」
と千里は言う。
 
それで3人は顔を見合わせたものの、そのままテーブルに留まる。江美子と玲央美は千里と貴司の関係を知っている。彰恵は知らないようだが、雰囲気から元恋人なのだろうと察したようだ。
 
「千里、子供いつ生まれるか占えない?」
と貴司は言った。
「男子も今日はもう練習終わったの?」
と千里は逆に訊き直す。
 
「今小休憩中。練習は21時まで。でも女子フル代表の中塚さんがこちらの見学に来てたんで、女子の練習が終わったのを知って」
 
ふーん。
 
「料金3000円取るよ」
と千里が言うと
 
「分かった」
と言って貴司は千里に千円札を3枚渡す。すると千里はスポーツバッグから筮竹を取り出した。
 
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「千里、そんなのいつも持ってる訳?」
と彰恵が呆れたように言う。
「まあ千里はそういうもんだね」
と玲央美。
「用意が良すぎるんだよねー。千里って」
と江美子も言う。
 
千里はだまって筮竹をさばく。
 
「産気づくのは酉の日だと思う」
と千里は言った。
 
「酉の日っていつだっけ?」
 
それで千里は手帳を開いて確認する。
「あ、今日だね」
 
「今日なの?」
と貴司が驚いたように言う。
 
「阿倍子さん、神戸の実家に戻ってるんだっけ?」
「いや。実は実家は親戚とちょっと揉めてて今使えないんだよ。それで豊中のマンションにそのままいる」
「じゃお母さんがこちらに出てきてるの?」
「それが阿倍子のお母さんは先月、癌の手術をしたばかりで、まだ名古屋の病院に入院中なんだよ」
 
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「じゃ、妊婦がひとりでマンションにいる訳?」
千里は驚いて言う。
 
「うん」
「それで産気づいたらどうするのさ? 誰か呼び出せるお友達とかいる?」
「いや、それがあいつ友だちとか全然居なくて」
 
千里は考えた。26日に送り出すというのは泳次郎様も言っていた。千里の占いにもそう出ている以上、出産は間違いなく今日だ。
 
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