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■春泳(4)

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青葉はこの日、6月17日、普通通りに朝は水泳部の朝練に行き、昼休みは合唱の練習に行って、放課後の練習はパスさせてもらい、6時間目が終わるとすぐ学校を出た。
 
迎えに来てくれていた母の車で富山駅まで行き、16:13の《かがやき530号》に飛び乗って18:02に大宮に到着。タクシーで披露宴の行われるホテルに入った。
 
「ああ、青葉お疲れ〜」
と言って千里がホテルの玄関まで来てくれている。何時に着くというのは特に連絡していなかったのだが、まあちー姉ならこのくらいは普通かなと青葉は思い
「ありがとう。そちらもお疲れ様」
と笑顔で言う。
 
「私、高校生だし制服でいいよね?」
「振袖用意しているから、こちらで着せてあげる」
 
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それで千里は青葉を女性用控室に連れていき、振袖を着せる。
 
「これちー姉が2013年のお正月に着ていた振袖だ」
「そういうの、よく覚えてるね」
「京友禅じゃん」
「女の子の身体になって初めてのお正月だから少し頑張った」
「2011年に成人式に出た時は男の子の身体だったの?」
「まさか」
 
青葉は一瞬考えたが
「まあいいや」
と言ってその振袖に袖を通した。
 
なお千里と桃香はふたりとも成人式の時に着た振袖を着ていた。
 

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披露宴の出席者は、東北方面から来てくれた友人や親戚、ふたりとボランティアつながりの人たち、また和実の勤めているメイド喫茶の関係者、淳の勤めている会社の同僚なども来てくれて100人近い大規模なものになった。結婚式には大事を取って欠席した小夜子も、大きなお腹を抱えて出席している。
 
席は青葉や千里と同じテーブルである。左からあきら・小夜子・桃香・千里・青葉・冬子・政子となっていた。それであきらや桃香とおしゃべりしながら、笑顔でジュースを飲んでいた。
 
披露宴の司会は政子がしてくれたのだが(それで青葉から見て冬子の向こう側の政子の席はずっと不在であった)、いつもながらのズッコケ司会でかなり笑いを取っていた。また媒酌人は立てていないが、それに相当する役割を冬子がしてあげていたようで、冬子もしばしば席を立っていた。
 
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新郎新婦入場、司会者の政子によるふたりの簡単な紹介の後、恭介が淳のことを「ちょっと変態な弟」と言い、胡桃は和実のことを「少し変わった妹」と言って各々挨拶する。このあたりは「元男で今は女である者同士の結婚」というひじょうに変則的なカップルであることで多くの参列者が感じるかも知れない抵抗感を少しでも緩和するのに「実は男女のカップル」という線を提示しておこうという配慮なのである。
 
しかし淳の上司の専務は「普通の女性以上に女性らしい」と淳のことを言ってフォローしていた。和実の上司の永井は和実の性別のことには触れずに、単に
「世の中には色々な人がいるけど一番大事なのはお互いがずっと愛し合っていけること」とスピーチをしていた。
 
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そのあと新郎新婦によるケーキ入刀、そして淳の叔父が乾杯の音頭を取った。あちこちでシャンパンのグラスがカチッカチッと合わせられている。
 
「ちー姉はウーロン茶なんだね」
と青葉は言った。
 
「このテーブルで飲んでいるのは、あきらさんと桃香だけだな」
と千里。
 
小夜子さんは妊婦だから当然アルコール禁止。青葉は未成年、政子は司会をしている。冬子も仕事がかなり溜まっていてアルコールなど飲んだら仕事に差し支えるということらしい。冬子と政子は海外ツアーをしていて昨日帰国したばかりなのである。当面はツアー中に書いた曲のとりまとめで無茶苦茶忙しいらしい。
 
「ちー姉、結婚式では堅めの盃とかしなかったんだっけ?」
「私、巫女だから」
「あ、そうか!」
 
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やがて余興の時間になるが、千里が前に出ていってピアノを弾き、友人たちが歌を歌う。千里はホテル所有の大量の楽譜の本をピアノの上に置いていたが、リクエストがあると、ほとんど迷わずにその中の1冊を取り、一瞬でページを開いて伴奏してあげていた。
 
青葉は微笑んでそれを見ていた。ちー姉が物凄いことをしていることに気づく人はほとんどいないだろうなあ。あれはとんでもない霊感の持ち主にしかできないワザだ。私にも無理!
 
それにしても、ちー姉はピアノがとても上手い。いつ頃からピアノの練習していたんだろう。ちー姉の家、貧乏だからピアノ自体家には無かったろうし、当然ピアノのお稽古などにも通えなかったろう。
 
青葉は小学6年生頃からピアノの練習を始めた。それでそれなりに上達はしたものの、やはり小さい頃からやっている人にはどうにもかなわない、大きな壁が存在することを感じていた。
 
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あきらがkiroroの『Best Friend』を歌ってきたが、まあ他の人が自信を持てるような出来であった。その後、青葉が出て行きMISIAの『Everything』を歌う。これは大きな拍手をもらった。桃香がスティービー・ワンダーの『I just call to say I Love You』を歌う。桃香は英語の発音はとってもきれいだ。まあ音程は気にしない方がいい。しかしそれ以上に近くの別のテーブルで
 
「あのオカマさん、けっこうきれいに振袖着こなしてるね」
「お化粧も上手だよね。どうかした女の子より上手い」
「声も女の声と思えば女の声にも聞こえる声だよね。あれで長い髪のウィッグでもつけたら女に見えないこともないかもね」
「やはり花婿がオカマさんだから、オカマさんのお友達もいるのね」
 
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などというささやき声が聞こえてきたのには笑いをこらえるのが辛かった。
 
そして桃香の後、冬子と政子が『Long Vacation』を歌ったのには、会場のあちこちでどよめきが起きていた。ふたりはマイクをオフにして肉声だけで声を会場の隅まで届かせていた。
 

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披露宴は会社が終わってから来てくれる人のために20時から始めた。一応22時で終了予定だったのだが、余興も盛り上がって21時半くらいになった頃であった。青葉から見て桃香の向こう側に座っていた小夜子が突然お腹に手を当てて顔をうつむき加減にした。
 
「サーヤ?」
とあきらが声を掛けるもおろおろしている様子。桃香も
 
「小夜子さん、どうしたの?」
と言って声を掛ける。青葉はすぐ席を立って小夜子のそばに行き
 
「来ましたか?」
と訊く。小夜子は返事もできずに頷く。政子と冬子も席を立ちそばに寄る。
 
その時、歌の伴奏をしていた千里がそれを中断してこちらまで走ってきた。
 
「病院に運ぼう」
と千里は言った。
 

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あきらと新郎の兄・恭介さんが小夜子を支えて駐車場まで連れて行く。小夜子は自分のウィングロードで来ていた(来る時はお母さんが運転してきたらしい)。小夜子のお母さんは近くで待機しているということだったのだが、電話しても通じない。
 
それでアルコールを飲んでいなかった千里が運転することにし、あきらの他に桃香も付き添って、かかりつけの病院まで行くことにした。
 
「青葉、あとの伴奏頼む」
「了解」
 
それで恭介さん・青葉・冬子・政子が会場に戻り、恭介さんが代表して妊婦を病院に連れて行ったことを報告する。テーブルの付近は若葉や梓・照葉がホテルのスタッフと一緒に掃除をしてくれていた。
 
それで披露宴を再開する。青葉が伴奏を引き受けたが、千里とは違って楽譜の載っている本を探すのに苦労し、ページを開くのに苦労する。しかしそれでも頑張って何とかまだ歌い足りなかった人たち4人の歌の伴奏をした。
 
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披露宴はそのあと、淳と和実の両親への感謝の手紙の朗読でクライマックスに達し、淳の父、和実の父が参列者への感謝の辞を述べ、新郎新婦退場の後、司会の政子が中締めを宣言して終了した。
 
今夜はふたりはさいたま市内のホテルに泊まり、明日から新婚旅行に出かけるということであった。
 

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青葉は披露宴が終わるとすぐに千里に電話した。
 
「生まれたよ。母子ともに元気」
「ほんと!良かった!!」
「男の子?女の子?」
「どちらがいい?」
 
「そんなの、こちらが決められるの〜?」
「まあ女の子が良ければおちんちん切っちゃえばいいし」
「じゃ男の子だったの?」
 
「分娩室で小夜子さんの手を握っていたんだけど、私が見た時はお股には割れ目ちゃんがあった。でも私が見る前に、生まれた瞬間おちんちん切り落とされていたら分からない」
 
ちー姉もどこまで本気でどこから冗談か分からないことあるよなあと青葉は思った。
 
ちなみに分娩室には桃香も付き添おうとしたものの「男性はご遠慮下さい」と言われて追い出されてしまったらしい(ふたりは病院に着いてすぐ振袖を脱いで普段着になっている)。結局桃香とあきらは病室でおろおろしながら待っていたということであった。
 
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それで、青葉・政子・冬子・若葉の4人と、ホテルのロビーで困ったような顔をしていた小夜子の母・五十鈴も入れて5人で冬子の車を使って病院に行った。
 
「みなみちゃんとともかちゃんは誰かに預かってもらっていたんですか?」
「うん。うちの妹の家に預けてきた。妹が悲鳴あげてそうだけど」
「ああ、それは大変そうだ」
 
「ところで今日の結婚式の新郎新婦というのが、私よく分からなかったんだけど、ふたりとも花嫁衣装着てたね」
と五十鈴が言う。
 
「そうなんですよ。同性婚なんです」
と運転しながら冬子が答える。
 
「へー。でも好きならそれでもいいかもね。正直、うちの娘たちのも最初は私もけっこう悩んだんだけど、あきらさん良い人だから認めたのよね」
 
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「小夜子さんとあきらさんも見た目は女同士に見えますけど、これで子供3人ですからね」
と青葉。
 
「うん。びっくりした。このふたりの結婚を認めてあげてもきっと孫はできないんだろうなと思ってたから」
 
「きっともう1人くらい作っちゃいますよ」
「あの子たち何人作るつもりなんだろうね!?」
と五十鈴は言ってから
 
「今日の新郎さんは女装していたけど、去勢とかもしてるの?」
と尋ねる。
「まだしてないですよ」
「あら、そしたらあのふたりも赤ちゃんできるかも知れないのね」
と五十鈴。
 
政子は若葉と顔を見合わせていたが、助手席に座る青葉は笑顔で答えた。
「あのふたりもきっと子供2〜3人くらい作りそうですね」
 
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「子供作れるなら、女装趣味くらいいいわよね」
 
「たぶん子作り終わってから、性転換するんじゃないかな」
と青葉。
「へー。まあ子供作り終わってからなら、もうおちんちん無くてもいいかもね」
と五十鈴。
 
「そうですね。おちんちんは用済みだし。子作り終わった男性はみんな去勢させてもいいんじゃないかなあ。前立腺肥大防止にもなるし」
などと政子が言う。
 
「それはさすがに無茶」
と冬子。
 
「まあ日本人夫婦って、どっちみちおちんちん付いていても10年も経てばセックスレスになるカップルが多いですからね」
と若葉も言っていた。
 
 
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