広告:國崎出雲の事情 3 (少年サンデーコミックス)
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■春泳(2)

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青葉は微笑んだ。
 
「たぶんそのコピーのありか、分かると思います」
「やはり!」
 
青葉は手帳を見た。
 
「ただ、本人は今物凄く忙しいんですよ。たぶん7月下旬まで時間が無いんじゃないかなあ」
と青葉は言う。
「やはり霊能者さんなの?」
 
「本人は霊感無いと主張してます」
「ほほお」
「でも多分、私より凄い人です」
「なんか面白そうな人だね」
「私の姉なんですよ」
「へー! あれ?君のお姉さんは震災で亡くなったと聞いたけど」
 
青葉は微笑んで言う。
 
「私が家族を全部震災で亡くして、途方に暮れていた時にボランティアで来ていた女子大生2人が私を保護してくれたんです。そのふたりを私は姉と呼んでいます。その1人なんです」
 
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「それは、きっと魂が呼び合ったんだろうね」
「今になって思えば、きっとそういうことだったろうと思うんですよ。でも私が姉の力量に気づいたのはごく最近なんです。ほとんどの霊能者や霊感体質の人が姉を見ても、ごくふつうの一般人にしか見えないと思います」
 
「ふーん。羽衣さんと似たタイプかな」
「火喜多さん、羽衣さんに会われたことあるんですか?」
「1度だけ会った。向こうから声を掛けてもらえなかったら全然気づかなかったと思う。どこにでもいるふつうのおばちゃんにしか見えなかった。瞬嶽さんはその凄まじいオーラに跪く以外の選択肢が無かったのに」
 
「羽衣さんって女性だったんですか!?」
「うーん。あの人も謎が多いよね。僕が見た時は女性に見えた。本当に女かどうかは分からない。そもそもあの人、どうも人間という存在を超越してるっぽい」
 
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「やはり・・・・」
 
「弟子もほとんど取らないから、実態が見えない。でもたぶん瞬嶽さん亡き今、日本で最高の霊能者だよ」
 
「そうでしょうね」
 
青葉はとにかく姉に連絡を取ってみて、その件についてはあらためて連絡すると答えた。
 

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「まあそれで今回の案件なんだけどね。実際僕は今ずっと修行している身なので相談事は基本的に受けないことにしているんだよ。でも知り合いを通してどうしてもと言われると断れなくてね」
 
「分かります」
 
「F市の郊外で小高い丘の斜面に古いお稲荷さんがあってね。90歳近いお婆さんが管理していたのだけど、数年前に亡くなってね。そのお婆さんが生きている頃からけっこう管理が適当になってて、荒れ放題だったらしい。不審者が潜んでいたりして、地域でも問題になってて。それでお婆さんが亡くなった後、あとを継いだ60代の息子がそこを潰して更地にしてしまったんだよ」
 
「ああ・・・・」
 
「跡地には市内の学習塾の業者と話して学習塾の校舎を作った」
「なるほど」
「ところがその学習塾が開校してすぐ、その息子が突然死してね」
「当然ですね」
「更には学習塾の校長まで亡くなった」
「可哀想に。怒りの矛先が向いちゃったんですね」
「それでよくよく調べてみると、工事をした工務店の社長も亡くなっていた」
「ああ」
 
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「取り敢えず学習塾はまだ20代の息子が名前だけ校長を継いで、ベテランの講師さんたちに運営を任せている。でもね」
「出るんですか?」
「まあそういうことだ。それでこれお稲荷さんの祟りではないかという噂が出ていて、誰か更に取り殺されるのではと」
 
「それで相談されたんですか?」
「基本的には再度お稲荷さんをきちんとお祀りすべきだと思うんだけど」
 
「それうまくやらないと神社建てようとした段階でかなり事故が起きますよ」
「やはり?」
「そもそも、お婆さんが亡くなる前から荒れていたのが第1の問題です」
「だよね〜」
「お稲荷さん、かなり怒ってますよ」
 
と言いながら青葉は、こんな面倒な話、誰なら処理できる?と悩んでいた。
 
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「川上さん、こういうの処理できない?」
「私にも無理です。でもちょっと処理できそうな人がいないか、知り合いに聞いてみますよ」
「うん、頼む」
 

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火喜多さんとの話は2時間近くに及び、青葉は小松を8時半の列車に乗り、10時頃、高岡駅まで帰着した。駅まで母が迎えに来てくれた。
 
青葉は車内で千里にメールを送っていたのだが、本当に忙しかったのだろう。千里から連絡があったのは、もう夜中過ぎであった。
 
「ごめんね。忙しい時に」
「うん。いいけど、面倒な話って何?」
 
それで青葉は火喜多高胤さんが**明王の秘伝を受けたがっているという件ともうひとつF市のお稲荷さんの話をした。
 
「うーん。火喜多さんはまだ**の法を完全には修めてないと思う」
と千里は言った。
 
「え〜〜〜!?」
「それ習っているお師匠さんにね、『**の法、雲の巻も伝授してください』と言ってみてと言っておいて」
「くもって空の雲?」
「そうそう」
「それが終わったら私の所に来ればいいよ。生きたまま修め終えることができたらね」
「うむむむ」
 
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「お稲荷さんの件は、仲介してあげるから、こちらの準備が整った所で青葉、私の所に来てよ。処理できる人を青葉に預けるから」
 
「処理できる人って・・・・人じゃないよね?」
「まあ想像に任せる」
 

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この年の春、千里は大学院卒業と共に、6年間巫女のバイトをしていた千葉市のL神社を退職した。そもそも千里をL神社に誘ってくれたのは辛島栄子さんというこの神社の巫女長さんだったのだが、その辛島さんも夫の禰宜・広幸さんと一緒にこの神社を退任し、越谷市のF神社の宮司・巫女長に転任した。
 
(神社本庁に所属している神社の場合、神職は全て本庁から派遣されているというのが建前である)
 
千里は初日に「ちょっと見においでよ」と言われて、F神社にお邪魔したのだが氏子さんたちがきて宴会が始まり、なりゆきで千里も同席。何だか氏子さんたちにも随分気に入られてしまった。それで、その後も何度かF神社を訪問して、栄子さんのおしゃべりの相手をしたり、神社の様々な仕事のお手伝いをしたりもしていた。氏子さんもよく出入りしているようで、どうやら地域の交流の場になっているようである。自治会の会議を宮司宅(4DK)の座敷で開くこともあるようだ。
 
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ところで5月、友人の和実と淳が
「結婚したいのだけど、どこか式をあげてくれそうな神社とか知らない?」
と訊いてきた。
 
ふたりは来年結婚するようなことを言っていた気がしたのだが、もう同棲生活も長いし、このあたりで入籍してもいいかなと考えたのであろう。あきらと小夜子が結婚式をあげた埼玉県E市のH神社にも照会してみたのだが、あきらたちの場合は、元々男女であったことから両方花嫁姿でも容認したのだが、片方が性転換していて、しかもどちらも元々が男なのに花嫁姿というのはさすがに受けきれないと断られてしまったらしい。
 
「最初に同性婚を受け入れ始めた神奈川県のK神社の方はこういうケースもOKらしいけど、かなり先まで予約が埋まっているらしくて」
と和実は言う。
 
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それで千里は栄子さんに電話して、こういう特殊なカップルの結婚式をしてくれるような神社の心当たりがないか訊いてみた。
 
「ごめん。今一瞬理解できなかった。もう一度ゆっくりと教えて」
と栄子さん。
 
「えっとですね。ふたりともMTFなんですよ。ふたりともフルタイム女性として生活していて、女性として仕事にも行っています。片方は既に性転換手術済みで戸籍も女性に直しているんです。それで現在ふたりは戸籍上男性と女性だから法的に婚姻できるんですよね。それで入籍してしまって、そのあとで、現在まだ法的に男性である側も性転換手術を受ける予定です。そちらは婚姻関係を維持するために法的な性別は変更しないものの、改名だけはして女性的な名前に変える予定なんです。実際既にその名前で仕事もしています。結婚式ではふたりとも花嫁衣装を着たいと言っています」
 
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「要するに、男性の同性婚だよね?」
「出生時の性別ではそうなります」
「それなら、うちで引き受けていいかも」
「本当ですか?」
「ちょっとヒロに確認してみる」
 
取り敢えず電話ではよく分からないからちょっと来てと言われたので、その日千里は40minutesの練習は休むことにして、レッドインパルスの練習を終えたあと、そのまま越谷まで出かけて行った。いつもの電車に乗るのだが、江東区では降りずにそのまま新越谷駅まで乗っていき、そこから先は栄子さんに迎えに来てもらい、宮司と3人で話し合う。
 
「ふたりとも花嫁衣装になる訳ね?」
「はい。そうです」
「現在戸籍上は男と女なんだ?」
「そうです」
「じゃ、一応新郎と新婦でいいのかな」
「そうなります。今戸籍上男である側を夫、女である側を妻として婚姻届けを出しますので」
「その後、夫も法的に女に性別変更するの?」
「それをやると離婚しないといけないんです。ですから、婚姻維持優先で、夫側は法的な性別は変更しない予定です。名前だけは女でも通じる名前に既に変更済みなんですよ」
「なんて名前?」
「元は淳平だったのを淳に変えているんです」
「それって男でも女でも通じる感じだね」
「ええ。私の名前と同様ですね」
「花嫁は名前は変更済み?」
「花嫁は元々男女どちらでも通じる名前で和実というんです」
「ああ、そういう名前は便利だね」
「ですです」
 
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「新婦はちんちん付いてるんだっけ?」
「性転換手術済みなので、ちんちんもタマタマもありません。ヴァギナがあります」
「へー!ヴァギナもあるんだ!」
「おっぱいもありますよ」
「ふむふむ」
「赤ちゃんも産めるの?」
「どうなんでしょう。本人はどうも産む気満々で」
「ほほお」
 
それで占いをしてみると、山風蠱の2爻変である。
 
「これ子供2人できるのでは?」
「うん。僕もそう思う」
「2人とも女の子だよね」
「でしょうね。この卦にこの爻なら」
 
「通常は性転換手術したって、元々が男であれば子供を産む能力は無いはずなんです。でもこの子、手術前に3度もMRIに卵巣や子宮が写っているんですよ」
と千里は説明する。
 
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「じゃ、半陰陽ってやつ?」
と栄子さんは訊く。
 
「写ったのは3度だけで、その後何度撮影しても写らなかったんです」
「うーん・・・」
「でもそもそも今回結婚することにしたのが、本人曰く、赤ちゃんできてから慌てないようにそろそろ籍を入れておこうかな、という話で。正直私たち周囲のものは冗談なのか本気なのか、よく分からないのですが」
 
「新郎のほうはまだ完全に男の身体?」
「おっぱいはあります。少なくとも男湯には入れない身体ですね」
「そちらはちんちんあるの?」
「あります。タマタマもあります」
「じゃ、このふたりってふつうにセックスできるんだ?」
「できます。せっかく性転換したからということで記念に何度かセックスしたみたいですよ。でもふだんはレスビアンと同様の睦みごとをしています」
 
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「どうやってそんなのするの?」
「ちんちんもタマタマも体内に押し込んで接着剤で留めちゃうんです。タックというんですけど。すると何も付いてないのと同じだから、それでレスビアン・セックスするんですよ」
 
「なんか世の中には奥深い世界があるんだね」
と栄子さんは感心している。
 
「でも話を聞いている内に、そのふたりって実はふつうの男女のカップルなのではという気がしてきたよ」
「まあ夫に女装趣味があって会社でも女装で勤務しているというくらいですね」
「なるほどー」
 
だいたい事情が分かった所で、宮司さんが水垢離した上で。占いを立ててみた。すると「沢地萃の4爻変、水地比に之く」が出た。
 
「人が集まって吉か。たくさん参列者がいた方がいいね」
と栄子さん。
「大いなる牲(いけにえ)を用いるに吉。牛一頭くらい奉納しましょうか?」
と千里。
「お金の方がいいな」
と栄子さん。
「じゃ、玉串料100万円くらいで」
「そんなにあったら階段の手摺りのグラグラしてるのが修理できる」
「あ、あそこ修理しないと危ないと思ってました」
 
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