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■春泳(3)

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宮司はまだ無言で考えている。表情は厳しくないので、単に卦の形を色々検討しているようだ。互卦は風山漸でこれも吉卦のはず。
 
「水地比なら、カップル円満って感じだね」
と栄子さんが言うと、宮司はやっと口を開けて
 
「そうそう。仲良きことは美しきかなだよ。沢地萃の4爻も大吉」
と言った。
 
「じゃそのカップルの式、挙げてあげるよ」
「ありがとうございます!」
 
「でも面白いね。元々は男性同性愛だったのが、ふたりとも性転換して女性同性愛になっちゃう訳ね」
「MTFにはけっこう女性が好きって人いるんですよ」
「巫女さんは村山君してね」
「もちろんです!」
 
そんなことまで言っていた時、またまた氏子の池上さんと泉堂さんが各々息子の哲朗さん、娘の深耶さんを連れてやってきて、酒盛りが始まってしまった。ただし深耶さんだけは「ドライバー」という札を首から掛けて、お酒は飲まずにジュースとかお茶とかを飲んでいる。
 
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池上さんの息子・哲朗さんは初対面であったが、今28歳でさいたま市郊外で大型衣料品店の店長をしているらしい。
 
「ユニクロとかしまむらみたいな感じのお店ですか?」
「そうそう。あんな感じ。主としてレディースとジュニアに焦点を絞っているんだけどね。ユニクロとかには物量で勝てないから、ひたすら安く売る」
「子供服とか、すぐ着られなくなるから安いのがいいですよ」
 
「ふつうの衣料品店で売れ残ったやつとかを買い叩いてきて、ワゴンで1着100円とかで売る」
「それってそれなりに売れそう」
「うんうん。デザインに難があるものが多いけど、スカートとかTシャツが100円で買える店はそうそう無いから」
「いいですねー」
「ショーツとかブラジャーとかは1着50円とかで」
「なかなか素敵」
 
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「最後どうにも売れ残ったやつは従業員に1着10円とか5円で売ったりもする」
「まあ5円なら」
「捨てるとお金が掛かるから」
「確かに」
「僕もだいぶ買ってる」
「そのあたりは店長さんの大変さですね」
「おかげで自宅に子供服とか婦人服があふれてる」
「ご結婚は?」
「してない。独身」
「それだとガールフレンド自宅に連れて来たら誤解されそう」
「うんうん。以前付き合っていた子に、何これ〜?と言われたことある」
「まあ驚きますね」
 
「子供服はどうにもならないから、ウエスを作っている障碍者の作業所に運び込んでいる」
「ああ、それはいいことです」
 
「Tシャツとかは結構部屋着として着てる。ピンクのラメ入ってるのとか派手なフリルの付いてるのとか」
 
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「まあ誰にも見られなければ」
「スカートとかも穿いてみたりしないんですか?」
と深耶さんが訊く。
 
「まあちょっと穿いてみたことはある」
と哲朗さん。
 
「それで女装にハマったりして」
「それちょっと怖い気がする」
「今男の娘はトレンドですよ〜」
「いや、店内で『ショーツ3枚100円、タイムセール』とか叫んでると、もう女物の服に抵抗感が無くなってるしね」
「もういっそ女装してお店に出て行くとか?」
「さすがに本部から、ちょっと来いと言われそうだ」
 
「あら、性別を理由に解雇したりしたら人権侵害ですよ」
「まあそれはそうだけどね」
「今性転換したら戸籍上の性別も変更できるからお嫁さんになれますよ」
「そういうの唆さないで」
 
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「でも哲朗さんが女性になって男の人と結婚したいなんて言ったら、この神社で式挙げられますかね?」
と深耶さんが訊く。
 
宮司さんは栄子さんと顔を見合わせたが
 
「池上さんの息子さんなら歓迎ですよ」
と宮司は笑顔で言う。
 
「まあその時は既に元息子の今娘だね」
と深耶さんは楽しそうに言っていた。
 
「まあ哲朗さんなら、女性になって、男性あるいは女性と結婚したいとおっしゃっても結んであげますよ」
と宮司。
 
「あ、女同士の結婚式というのもいいね」
 
「実は、この村上君の友人が女同士で結婚式を挙げたいというので相談されましてね」
と宮司は切り出した。
 
「事情を聞いてみると、片方は性転換している元男性というのでそれなら男女に準じるということで式を挙げてあげることにしたんですよ」
 
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と池上さん・泉堂さんを見ながら宮司は言った。
 
「あ、一応男女であるならいいんじゃない。哲朗が女になったらさすがに仰天しそうだが。だいたい、こいつが女になったら、かなり不細工な女になりそうだ」
と池上さん。
 
「その元男だった花嫁さんって、美人?」
などと泉堂さんが訊くので、千里は写真を見せてあげた。
 
「美人じゃん!」
と泉堂さん。
「ああ、これならいいんじゃない?」
と池上さんも言った。
 

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そういうことで和実と淳の結婚式は6月17日(水)に行われることになった。平日にすることにしたのは神社も平日の方が参拝客が少なく、花嫁同士の結婚式などというものに好奇心で寄ってくる人が出にくいこと、そしてこの日が淳の誕生日だからである。
 
淳は顧客と頻繁に打ち合わせしながらシステム設計の詰めをしている所であまり休めないとは言っていたものの、とりあえず17-20日の4日間だけ休ませてもらえることになった。21日(日)に先方の幹部さんたちとの打ち合わせがあるが、資料はサブリーダーの人にまとめてもらうことにしたらしい。
 
和実の方は社長からは10日くらい休んでいいよと言われたものの、淳が20日までしか休めないのでやはり21日(日)から職場に戻ることにしたらしい。何とも慌ただしい感じだ。
 
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前日は和実の方は「明日結婚式なんだから」と言われて午後3時でお店を退出し、美容室に行って髪をセットしてから帰宅した。石巻市に住んでいる姉の胡桃が来てくれていて
「勝手に晩御飯作っておいたよ」
と言う。
 
「ありがとう!助かる」
それでふたりで御飯を食べていたものの、淳はなかなか帰って来ない。和実は明日の披露宴で使うウェディングケーキを作りながら待っていたのだが、結局淳が戻って来たのは深夜2時である。
 
「髪どうすんの?」
「どうしよう?」
 
それで結局、その時間から胡桃が淳の髪を切った上でパーマを掛けてあげた。終わったのはもう3時半である。和実はもう先に寝せてもらっていた。
 

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当日は午後2時から結婚式となった。結局淳は式の直前まで寝ていたらしい。
 
結婚式はF神社の拝殿を使って行われる。拝殿の前で巫女の千里が大幣を振って参列者のお清めをして拝殿にあげる。
 
新郎側の親族は愛媛に住む両親と2人の叔母およびその夫、青森の叔母、黒石の伯父夫婦、都内に住む兄の恭介夫婦、千葉に住む従妹の佳奈・比奈。これに上司の専務と同僚の女性2人で合計16名。
 
新婦側の親族は盛岡に住む両親、石巻の姉・胡桃、花巻に住む伯母夫婦、一関に住む叔父夫婦、都内に住んでいる従姉2人の9人。これに友人として小学校の頃からの親友である梓・照葉、メイド仲間の若葉・悠子・秋菜・瑞恵、大学の友人の美優・晴江、更にエヴォンの店長・永井夫妻、ショコラの店長・神田夫妻で12名、合計21人。
 
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更に新郎新婦共通の友人としてクロスロードの仲間である、冬子・政子・桃香・あきらが参加している。小夜子は臨月なので結婚式はパスして披露宴の方に直接行く(母の五十鈴が付いている)。千里は巫女役である!そして青葉は平日なので学校に行っていた。
 
参列者が全員あがった所で、栄子巫女長に先導されて新郎の淳が、千里に先導されて新婦の和実が拝殿に上がる。しかし新郎と新婦と言ってもどちらも白無垢を着ているので分かりにくい!
 
そう広くも無い拝殿に41名の参列者、新郎新婦・祭主と2人の巫女、雑用係を買って出てくれた巫女装束の泉堂深耶さんと友人の朱美さんも入れて合計48名も並ぶと、満員御礼!という感じである。
 

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式は厳かに進んでいった。
 
宮司さんの祝詞では「愛媛県N市に住まいする月山聡士の次男・月山淳と、岩手県盛岡市に住まいする工藤照彦の次女・工藤和実の婚礼(とつぎのいやわざ)を執り行わん」と読み上げられていた。一応男女の婚姻という立場である。花嫁衣装は着ていても次男と言われてしまった淳だが、男名前の淳平ではなく女名前の淳で読み上げてもらった。実は淳の法的な改名はこの春に認可されたばかりである。和実はちゃんと「次女」と言ってもらった。このあたりは、宮司さん・栄子さん・千里の3人で話し合いながら、途中何度か占いをして神意を確認しながら、祝詞の文面を決定したらしい。
 
三三九度では、千里が銚子、栄子さんが提子を持ち、祭主が大中小の素焼きの杯を重ねたものを持って新郎新婦の前に出る。
 
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栄子さんが提子から銚子にお酒を3度に分けて注ぎ、祭主が小杯をまずは新郎に渡す。千里が小杯に銚子からお酒を3度に分けて注ぐ。新郎の淳はお酒を3度に分けて飲み干し、杯を祭主に返す。今度は祭主は小杯を新婦に渡し、千里がまたお酒を3度に分けて注ぐ。新婦の和実はお酒を3度に分けて飲み干す。杯を祭主に返し、祭主は再びその小杯を新郎に渡す。千里が3度に分けてお酒を注ぎ、新郎は3度に分けてお酒を飲み干し、杯を祭主に返す。
 
これで小杯が終わり、次は中杯を新婦→新郎→新婦とリレーする。最後に大杯で新郎→新婦→新郎の順に飲む。古式にのっとった方式である。多くの神社では近年もっと略式の三三九度を行なっている。
 
千里は目分量でお酒を注いでいるが、大雑把に小杯30cc, 中杯40cc, 大杯50ccとした場合、新郎は30x2+40+50x2=200cc, 新婦は30+40x2+50=160cc飲むことになる。
 
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和実と淳がいっしょに「誓いの言葉」を読み上げ、玉串奉納・指輪交換と進む。指輪の交換のところは記念写真を撮る人が多くあった。
 
そのあと、千里の龍笛、祭主の太鼓に合わせて、栄子さんが舞を奉納する。物凄く力強い千里の龍笛の音色に、参列者一同の中には陶酔するような表情の人もあった。
 
例によって舞のクライマックスで落雷があるので、半数以上の人がギョッとする。
 
その後、参列者全員に素焼きの盃が配られ、千里と栄子さんで全員にお酒を注いで回る。それで親族固めの盃を空ける。車で来ている人は飲まないでというのは事前に言ってあった。
 
最後に祭主のお話があって式は終了した。
 

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式の後は参列者全員で記念写真を撮った。写真屋さんが、花嫁同士の結婚式というので驚いていたようであったが、とりあえず花嫁衣装は着ているものの新郎である淳を左、花嫁衣装を着ていて新婦である和実を右に並べて、その後ろに親族友人一同を並べて撮影した。
 
この撮影の時は千里も巫女衣装を脱いで振袖を羽織って!写真に写った。
 
その後、千里は普段着に着替えて、披露宴会場に移動するのに手配しているバスが来るのを待っていたのだが、まだ巫女衣装を着けたままの深耶さんがチョコレートを持ってキョロキョロしている。
 
「どうしました?」
と声を掛ける。
 
「なんか小さな男の子がいたから、お菓子でもあげようと思って。どこに行ったかな?」
 
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「男の子がいました?」
「ええ。誰か参列者に付いてきたんでしょうけど」
 
千里は、まさか・・・・と思ったら、本人がこちらを見付けて走ってきた。
 
「お母さん! お母さんが結婚したんじゃないのね」
「私はまだしばらく結婚しないよ。京平、何やってんのさ?」
「暇だから遊びに来た。こちらまで来る**龍王さんに乗っけてもらった」
「あんた、あと10日くらいだけど、ちゃんと面倒掛けずに生まれておいでよ」
「うん。頑張る」
 
「あのぉ、千里さんのお子さん?」
と深耶が驚いたように言う。
 
「この子のお母さんになってあげる約束したんですよ」
と千里が笑顔で言うと
 
「へー」
と言って深耶さんも笑顔になる。それできっと友人か誰かの子供で母親が居なくて、千里と仲が良いのだろうと解釈してくれた気がした。
 
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「あ、これあげるよ。名前は?」
「お姉ちゃん、ありがとう! ぼく京平」
 
と言って京平は深耶からチョコレートを受け取った。
 
「お姉さんの名前は?」
「深耶(みや)だよ」
「みやお姉さん、ありがとう」
 
「これ美味しい!」
「いい子にしてたら、またあげるよ」
と千里は言う。
 
「うん。いい子にしてる」
「帰り方、分かる?」
「**龍王さんは鹿島に寄ってから伏見に戻るって言ってたから、その帰りに乗せてもらう」
「1人で来たの?」
「泳次郎様と一緒」
 
千里はその名前を以前にも聞いたことがあった。かなり「大物」だったはずである。
 
「帰りにちょっとその人とお話させてくれない?」
「いいよ」
「じゃ気をつけてね」
「うん。じゃ、お母さん、またね」
 
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と言って京平は向こうの方に走って行った。
 
「あの子、見ておかなくても大丈夫ですかね」
と深耶が心配そうに言うが
「大丈夫ですよ。親戚のお兄さん・おじいさんと一緒に来ているみたいだし」
「ああ、じゃ大丈夫ですね」
 

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