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■春弦(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-02-07
 
この物語は「春心」の最後の方と重なる時期のストーリーである。
 
青葉たちが秋の大会に向けて、コーラス部と軽音部の練習をしていた頃のことである。
 
2013年7月31日(水)。呉羽ヒロミ(男性名:大政−ひろまさ)の父は久しぶりに早く帰宅し、珍しく親子3人で夕食の宅を囲んだ。父・母・子の3人が一緒に夕食を取ったのは数年ぶりのような気もした。父はいつも残業で帰宅は12時前後になることが多く、母もしばしば8時か9時頃になるので、ふだん3人はバラバラに夕食を取る。朝も父はだいたい早朝出かけるから、朝食も母とヒロミのふたりだけである。ヒロミは小さい頃、たまに父が家に居るのを見て、誰か知らないおじさんがいる、などと思い「いらっしゃい」と挨拶したことがあったらしい。
 
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ところでヒロミは4月から「女子高生」生活をしていることを実はまだ父に打ち明けていなかった。夕食の席でも、ふだん自分1人の時や母と一緒の時は女の子の服を着ているが、今日は(バストを隠すのに)厚手でサイズにゆとりのあるポロシャツにジーンズという中性的な服である。
 
「お父さんがこんな時間に家に居るのって珍しい」
と正直にヒロミは言った。
 
「明日は早朝からイベントの準備があるからな。今日は早めに上がることにした」
と父。
 
「早朝からって何時に出るの?3時頃?」
 
「いや、準備は6時からだから5時くらいに家を出る」
「だったら普段とそう変わらない気がする」
 
「ああ、そうかな?」
と父は言った上で、
「このビーフシチューうまいな。さすが母さんだ」
などと思い出したように言う。
 
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「それ、ヒロが作ったんだよ」
と母は言い
「ついでに、ビーフシチューじゃなくてビーフストロガノフだけどね」
と付け加えた。
 
「へー、ヒロ、お前、料理なんかするんだ?」
と父。
 
「だいたい晩御飯はヒロが作ってるけど」
と母。
 
「あ、そうだったんだっけ? お前料理うまいな」
「自己流だけどね」
 
「ヒロはレパートリー広いよ。パエリヤなんかも上手に作るし、オムレツとかお店で出てくるのみたいに、きれいな形にするしね」
と母が言う。
 
「へー。そこまで出来るなら、嫁さんに行けるな」
などと父は笑いながら言う。
 
するとヒロミは
「お父さん、私、お嫁さんに行ってもいい?」
と訊いた。母がちょっと緊張した顔をする。しかし父は冗談と思ったようで、
 
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「おお、行けるもんなら行ってもいいぞ」
などと言っている。
 
「そう? じゃ、私お嫁さんになっちゃおうかな」
とヒロミは言った。
 
「あれ?お前、自分のこと『私』って言うの?」
と父。
 
「だって、私、女の子だから」
とヒロミ。
 
「おお、女の子だったら明日のイベントに徴用したいな」
「何のイベントなの?」
 
「アメリカの取引先から会長・CEO・COOと揃って来日するんで、純日本風におもてなしをしようということでさ。振袖の女の子をたくさん揃えて、お琴を弾いたり、胡弓を弾いたり、篠笛を吹いたり、お茶を点てたり、お花を活けたりするんだよ」
 
ヒロミは父の《胡弓》の発音がちょっと気になった。地域によっては《呼吸》と同様に《きゅう》にアクセントを置くが、富山では《こ》の方にアクセントを置く言い方が普通である。和楽器にあまり詳しくない故だろうが。
 
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「ヒロ、あんた琴も胡弓も篠笛もできるよね?」
 
という母は胡弓の《こ》にアクセントを置いて正しく発音してくれる。母も子供の頃、少し胡弓を習ったことがあるらしいが、ものにならなかったという。
 
「うん、できるよ」
「おお、それなら手伝ってもらいたいな。振袖着られるものならな」
などと言って父は笑っている。
 
「場所はどこなの?」
「涼風樓だよ」
「ふーん」
「もし来てくれるなら、俺の名刺を渡せばいい」
と言って父は名刺入れから自分の名刺を1枚ヒロミに渡す。
「でも振袖を着て来ないといけないぞ」
と言って、父はまだ笑っていた。
 

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翌8月1日(土)。
 
父は実際には4時頃出かけて行ったようであった(朝御飯はヒロミが寝る前におにぎりなどを作っておいたのを食べて出る)。ヒロミは6時頃起きてきて朝御飯を作り始める。すると作っている最中に母が起きてきて、御飯を茶碗に盛ったり、箸を揃えたりをしてくれた。
 
朝食の席でヒロミは言う。
「今日、私、お父ちゃんの所のイベントに行ってくる」
 
「そう・・・。振袖どうするの?」
「昨夜、友だちにメールしてみたら貸してくれるって」
 
「・・・私が若い頃着たのがあるけど、着てみる?」
と母が言う。
 
「ほんと? じゃそれ借りようかな」
「うん」
と母は明るい顔で言った。
 

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朝食の後、ヒロミは母の振袖を着せてもらった。
 
肌襦袢、裾除け、長襦袢から借りる。
 
「肌襦袢や裾除けは直接肌につけるものだから、お友だちから借りられるものじゃないと思うよ」
と母。
 
「あ、そうなんだ?」
「和服のこと、あんたあまり知らないだろうしね。って私もあまり詳しくないけど」
と母は微笑んで言う。
 
「でもこれ大変そう」
「うん。振袖着るのは大変なんだよ。私は下手だから着せてあげるのに30分以上掛かるけど、上手な人でも15分くらいは掛かると思うよ」
 
「ひゃー。おしっこ近い人は大変」
「そうそう。振袖はそういう大変な服だよ。女の子の最高の晴れ着だしね」
 
と言ってから母は少し複雑な表情をする。
 
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「ごめんね。私、女の子になっちゃって」
「ううん。いいのよ。あんた可愛いし」
と母は首を振りながら気を取り直したように言った。
 
「それにこの振袖、私は今更着られないし、もういっそ処分しちゃおうかなとも思ってたから、ヒロが着てくれて嬉しいよ」
「えへへ」
 
「でもあんた、これ胸が結構あるね」
「うん」
「女性ホルモン飲んでるの?」
「うん。ごめん。勝手にそんなことして」
「まあ、いいんじゃない? ごっつい身体になっちゃったら、女の子の服を着ても変態みたいに見えるかも知れないし。あんた、充分ふつうに女の子で通ると思うもん」
 
母はどうも女性ホルモンについては察していたようであった。
 
「これ2〜3年は女性ホルモン飲んでるよね?」
「ごめんねー」
 
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「まあいいけど。でもホルモン剤って高いんじゃないの? お金大丈夫?」
「うん。月1500円くらいだし」
「変なバイトとかはしてないよね?」
「なに、それ〜〜〜!?」
 

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それで、母から和装用のバッグ、草履、カンザシなども借りてタクシー代ももらって会場に出かけた。篠笛と胡弓は持参する。さすがに箏は手で持って行けないが、琴爪は持っていく。
 
旅館の入口で、会社名を言うと中居さんが部屋に案内してくれる。入口の所にいた少し年配の色留袖を着た女性に声を掛けて名刺を見せる。
 
「お早うございます。業務部の呉羽智哉の娘ですが、今日の接待のお手伝いに来ました」
「あら、呉羽部長さんにこんなお嬢さんが居たんだ! 全然知らなかった」
 
《お嬢さん》という所があまり突っ込まれたくない所である。
 
「一応、篠笛と胡弓は持って来ました。箏も生田流の簡単な曲なら弾けます。箏は重いので持って来ていませんが、琴爪だけは持って来ました」
 
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「おお、頼もしい! 箏を弾く人が足りないなと思ってたから助かる」
 
ということで、箏を弾く係になることになった。
 
会場に持ち込まれている箏を弾いてみせると
「上出来、上出来、じゃお願いね」
 
と言われた。箏の係はヒロミの他に2人予定しているということで、20分交替で2回弾くことになった。
 

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時間までは別室で他の楽器担当の女性たちと打ち合わせ(≒おしゃべり)している。
 
箏の独奏をする人がヒロミを入れて3人、胡弓と三味線の合奏の人が1組、琵琶を弾く人が1人、尺八と三味線の合奏の人が1組、で、合計6組8人である。その内、社員さんは2人で残りは社員の家族や友人などのようである。一応、演奏予定曲目を出し合い、重複しているものを他のに替えることにした。
 
「わーい、若い人が来てくれて助かった。ちょっと心細かった」
などと19歳くらいかな?という感じの恵規(さとみ)さん。
 
「ごめんねー。年寄りばかりで」
などと50代くらいのKさん(でもしっかり振袖を着ている)。
 
「いえ、自分が最年少だと心細かっただけで」
と慌てて恵規さんが言う。
 
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「私が最年少みたいだから、みなさんのお茶係しますねー」
と言って、ヒロミはお茶を入れて回っている。
 
「中学生?高校生?」
「高校1年です」
「へー。どこの高校?」
「T高校です」
「すごーい!優秀なんだ」
 
「でもそれ、笛と・・・胡弓?」
「ええ、そうです」
「どのくらい演奏するの? 弾いてみてよ」
 
などと言われるので、まず篠笛で祭り囃子っぽいものを吹いてみせる。
 
「あ、うまい、うまい」
「胡弓は〜?」
 
ヒロミは胡弓をケースから取り出すと、調子笛で音を確認してから『荒城の月』
を弾いてみせる。何だかみんな聴き惚れている感じなので少し緊張したが、何とか1コーラス演奏を終える。
 
思わずみんな拍手をする。
 
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「どうも、お粗末でした」
「いや、うまい」
 
「ヒロミちゃんだっけ? おわらの胡弓弾ける?」
と胡弓で出ることになっている杏那さん。
 
「あれ、あまり得意じゃないんですけど」
 
などと言いながらも、越中おわら節の伴奏を弾いてみせる。
 
「うまい、うまい」
「私たちと一緒に出ようよ」
「えー?」
「だって折角楽器持って来てるんだし」
「そうそう。使わないともったいない」
 
「ちょっと練習練習」
 
などということで、演奏予定の4曲をその場で合わせてみた。おわらに関しては、ヒロミが普通の伴奏を弾き、杏那さんが旋律を弾くことになった。
 
しかし女性たちとおしゃべりをしていて、ヒロミは自分がこの場にちゃんと溶け込んでいることを自覚していた。ふだん、空帆や青葉たちと普通にガールズトークをしているのが大きいなという気がする。これが1年前の自分だったら、女性ばかりの場では気後れしていたであろう。
 
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この1年で自分って随分、女の子として成長したのかもという気もする。身体もなぜか・・・・ああなっちゃってるし。身体のことについては自分でもなぜそうなっているのか良く分からないのだが、とにかくもヒロミは新しい自分の身体にもかなり慣れてきていた。
 
でもそういう身体であることが、女の子としての自分の自信にもなっている気もするのである。
 

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