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■春弦(6)

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そんなことを言いながら4人とも服を脱ぎ、裸になる。
 
何となくヒロミが青葉の股間付近に視線をやったが、青葉もヒロミの股間を見ていることに気付く。青葉にはバレちゃうかな? 一緒にお風呂に入るのはこれが4度目だ。最初は昨年秋の修学旅行だが、あの時ヒロミは完璧に男の子の身体だったので女子水着を着て女湯に入っている。
 
2度目は春の新入生合宿、3度目はその直後の中学の友人たちとの温泉行きであるが、この2回は水着などは着ずに入っている。当時既に胸が結構膨らんで着ていたので、下さえ隠しておけば特に騒がれたりせず、みんなと一緒に女湯に入ることができた。しかし自分はもう男湯には入れない身体になっちゃったからなあ。
 
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あまりじろじろ見ても変だしと思い始めた頃、みんなで浴室に移動する。
 
脱衣場も人が結構いたが、浴室内もかなりの人数である。
 
「平日にこれだから、休日は混むんだろうね」
 
各自空いてる洗い場を見つけて、そこで身体を洗う。
 
ヒロミはまず身体全体にお湯を掛けた上で、まずはあそこを洗う。ここを洗うのにも最初は凄い戸惑いがあったものの、だいぶ慣れた。丁寧に優しく、垢のたまりやすい所を指で開いて洗う。
 
それから石鹸をつけて顔を洗い、それから喉、胸と洗う。胸を洗う時、大きな曲線に沿って手が動く。この曲線が女であることの証だ。去年の暮れから今年に掛けて、この曲線が日に日に大きくなっていった時期をヒロミは思い出して感慨にふけっていた。
 
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だいたい身体を洗ったところで、お互いのアイコンタクトで、まずは内風呂の比較的大きな浴槽に集まる。(ここは内風呂の向こう側に露天風呂があるようだ)ヒロミは何となくお股付近に手をやっていた。青葉は胸の付近に手を置いている。恵規さんは自分と同様、お股の付近に手を置いているが、杏那さんはお股も胸も堂々とさらして、浴槽の縁に手を置いたり体操でもするかのように手を伸ばしたり、やや落ち着かない感じ。
 
「こういう大きなお風呂もいいですよね」
と恵規さんが言う。
 
「うんうん。自宅でひとりでのんびり入るのもいいけどね」
と杏那さん。
 
「私は家族と一緒だから全然のんびりできない。うちの父ちゃん、私が入っていてもいきなり浴室のドアを開けたりするし」
と恵規さん。
 
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「まあ浴槽に浸かっている時は音がしないから気付かないことありますよね」
と青葉がフォローする。
 
「ああ、でもさっきヒーリングしてもらった付近の血行が凄くいい感じ」
と杏那さん。
 
「自分ででも軽くマッサージしたりするといいです。マッサージはあまり強くしないでくださいね。毛細血管を切って、よけい悪くなりますから」
「へー!」
 
「あくまで優しく、優しく、子猫を撫でるようにです」
「子猫って、あそこのことじゃないよね?」
「ちょっと、ちょっと」
 

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「でも凄いね。こういうヒーリングとかって、どこで覚えたの?」
と杏那さん。
 
「これは気功なんですよ。曾祖母から習いました」
「へー!」
 
「元々、霊的な仕事のついでだよね?」
とヒロミが言う。
 
「うん。本業は霊的なお仕事だから、ヒーリングは余技。特にお金持ちからそのために頼まれたような時以外はお金も取らない」
と青葉。
 
「れいてきなお仕事?」
と恵規さんが訊く。
 
「この子、日本で五指に入る霊能者なんですよ」
とヒロミ。
 
「えーー!?」
「多分、寺尾玲子さん、竹田宗聖さん、秋月慈童さんの次くらいが青葉ですよ」
「それはない。私より凄い人たちは何人もいる。それに慈童さんは霊能者というのとは少し違うよ。あの人はあくまでお坊さんだから」
 
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「ねぇ、青葉ちゃん。そういう方面に関わっているなら『呪いのヴァイオリン』
なんての興味無い?」
 
「ありません!」
と青葉は即座に否定した。その手の話にいちいち関わっていたら、命がいくつあっても足りない。
 
「いや、実は私の伯父さんがそういう『呪いのヴァイオリン』と呼ばれているものを買ったのよ」
 
「わあ」
「それを買った途端、持っていた株が大暴落して3億円損して」
「ひゃー」
「本人も自動車にはねられて2ヶ月入院」
 
「それ、わざわざ『呪いのヴァイオリン』と言われていたものを買ったんですか?だったら自業自得だと思いますけど」
と青葉は冷たい。
 
面白がってそういうのに首を突っ込む人自体に関わりたくない気分だ。その手の人は霊能者の指示を守らないから、下手すると、こちらまで危険なことに巻き込まれてしまう。
 
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「1億円で買ったらしい。それから息子さん。私の従兄になるんだけど、その人が電車で痴漢で捕まって。本人は絶対にやってないと言って否認して今裁判しているけど、状況は不利らしい」
 
「痴漢は水掛け論になりやすいから。認めたら社会的な名誉も地位も失う。否認すると態度が悪いと言われる」
 
「だったら痴漢と疑われたらどうすればいいの?」
「疑われたら人生終わりですね」
「それ酷い」
 
「物凄く頑張って潔白を証明した人もいますけど、そんなのごく少数です。無実の罪で家庭崩壊し、仕事も失い、泣き寝入りしている人がたくさん居ますよ。だいたい後ろから触られることが多いから、振り向いて即手を掴んだつもりでも別人の手を掴んでしまうことあるんですよね」
 
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「でも被害者はその掴んだ手の主が犯人だと思い込むだろうね」
「だから水掛け論なんです」
「裁判が灰色決着で無罪になった場合でも、ずっと噂されるよね」
「そういうケースもありますね」
 
「青葉は痴漢に遭ったことない?」
「あるけど、即座に相手の股ぐらを思いっきり蹴ったくった」
「おお、凄い!」
 
「これだと万一加害者を誤認した場合でもその被害は最小限だよね。一応機能障害が残らない程度に蹴ったよ」
 
「ちょっとぉ」
「機能障害が残るような蹴り方があるの?」
「一生勃たないように蹴ることもできますけど」
「こっわー」
 

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「まあ、それで実は本人もちょっと反省して、このヴァイオリンどうにかならないだろうか? ってこないだうちの父に相談に来てたんだけどね」
 
「関わるの拒絶したでしょう?」
「当然。こちらまで影響が出たらかなわないもん」
「でもその息子さんはちょっと可哀想だなあ。本当にやってないのなら」
 
「青葉、その人、無実かどうか分かる?」
「今、何時何分?」
 
「え? 今あそこの時計では16:28」
「足して44。44は易では天風姤」 (1文字。女偏に后でコウと読む)
 
「なになに?」
「女難の相という奴です。無実でしょうね」
「だったら、何とかしてあげない?」
 
やれやれと青葉は思った。でも私は弁護士じゃないぞ。
 
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「そういう呪われたヴァイオリンって、お寺とかに収めてお焚き上げしてもらうといいの?」
 
「本人との関わりを切ってから焚き上げないと、呪いがそのまま固定化される可能性もあります」
「うーん。。。」
 
「それにそのヴァイオリンのせいではなく、別の原因だったら無意味です」
「それはもっとやばい」
 
「ね、ちょっと見てあげない?」
「だったら依頼料頂けるのでしたら見てもいいです」
「依頼料って幾ら?」
「呪いに関する仕事はこちらも身を危険に曝すんです。最低100万円前金で」
「お」
 
「青葉ちゃん、それちょっと叔父さんに訊いてみるよ」
 
杏那さんはどうも、青葉が100万と言ったのでよけい青葉を信用した感じでもあった。断りたいから、わざと100万なんて言ったのに!
 
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「私、18日までは時間が取れないので、もしお話がありましたら、その後で」
と青葉が言うと
 
「あ、じゃ青葉に依頼するかどうかの返事は私に」
などとヒロミが言う。
 
どうも結局関わることになりそうだなと思い、青葉は溜息を付いた。
 

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5時になったので帰ることにする。杏那さんがヒロミと青葉を自宅まで送ってくれることになった。最初ヒロミの自宅まで行き、ヒロミを降ろした後、青葉の自宅まで行った。
 
「あれ? ここ君のおうち?」
と杏那さんが訊く。
 
「ええ。何か」
「いや、高校の時の後輩がここに住んでいたので。何度かここに来ておやつ作りとかして、お母さんにも色々お世話になって」
 
「それたぶんうちの姉です。ちょっと待ってて下さい」
と言って青葉は車から降りて玄関を開け
 
「お母ちゃーん」
と言って、朋子を呼び出す。朋子が出てきて杏那を見ると
 
「あら、杏那ちゃん!」
と言って笑顔で声を掛ける。
 
「高園さん! あれ、じゃ、青葉ちゃんって、桃香ちゃんの妹?」
「はい、そうです」
「桃香ちゃんに妹さんがいたって知らなかった。あれれ、でも苗字が・・・」
 
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「ああ。私、東北大震災で親を失って、それでこちらの家に引き取ってもらったんですよ」
と青葉は言う。
 
「えーーーー!?」
「一応、法的には後見人ということで。養女にはしてないから苗字は元々の川上のまま。高園にはしてないのよ」
と朋子は説明する。
 

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で、結局近所の駐車場にお願いして杏那の車を置かせてもらい、家にあがってもらって話をすることになる。結局、杏那が自宅に連絡を入れて、夕食を一緒に食べて行くことになった。
 
「高校出た後は桃香ちゃんともあまり連絡取ってなかったから、そういう話が起きていたというのは全然知りませんでした」
と杏那。
「あ、この酢豚、美味しい」
 
「普段は青葉が作ってくれるんで、久しぶりにやったから、パイナップルを危うく入れ忘れる所だった」
「あ、パイナップルは《入れる派》ですね?」
と杏那が訊く。
 
「私は割とどちらでもいいんだけどねー。青葉は入れる派だよね」
と朋子。
 
「やはり、パイナップル入れることで味がまとまると思うんですよね。酢の酸味とパイナップルの甘味が凄く調和するんです」
と青葉は言う。
 
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「私もどちらかというと《入れる派》だけど、入ってなくても気付かないかも」
と杏那。
 
杏那は桃香と同じクラブ(科学部)の1年先輩らしい。富山大学の工学部を出て社会人2年目である。コンピュータのハードウェアのメンテの仕事をしているらしい。
 
「でも、杏那ちゃん、うちの旦那の会社のイベントに出たんだ?」
「うちの父が、あの会社の常務と、草野球仲間なので、頼まれたんですよ」
「へー。でも胡弓とかヴァイオリン弾くというのは知らなかった」
「学校ではあまりそういう話してませんでしたからね」
 

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「でも、青葉ちゃん、大変だったわね」
「ええ。震災直後はショックだったけど、桃香お姉ちゃんやお母ちゃんのお陰で、とっても元気になりました」
 
「この子、ずっと霊能者のお仕事してたから。そのお仕事をすることで自分の存在意義を見つけていった気がしますね。自分自身も大変だったろうに、行方不明になっている遺体をたくさん見つけてあげたよね」
と朋子は言う。
 
「あれはなかなか大変でした」
「凄いね。そういう霊能者の仕事って、小さい頃からやってたの?」
 
「幼稚園の頃からしてたって言ってたね」
「当時は曾祖母の助手だったんですけどね」
「へー!」
 

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「まあそれで、うちの伯父の件で、青葉ちゃんに面倒をお掛けするかも知れません」
と杏那。
 
「また? 何か危険なことじゃないわよね?」
と朋子が言う。
 
「その手の話に関わりたくないんで、最低100万円、前金でと言ったら、杏那さん、それで逆に私を信頼なさったみたいで」
と青葉が頭を掻きながら言う。
 
「いや、多分伯父は100万円出すと思います。実は伯父の息子、私の従兄が痴漢の疑いを掛けられて、今裁判中なんですよ」
 
「裁判なら、弁護士さんの仕事では?」
と朋子。
 
「それが《呪いのヴァイオリン》というのが関わっているのではないかと」
と青葉。
「呪いって危険なのでは?」
と朋子。
「うん。だから最低100万円と言った。実際、そのくらいもらわないと、とてもやってられない」
と青葉。
 
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「やはり危険なのね?」
「大丈夫と思うけどなあ」
 
と青葉は斜め後ろの方に気を向けながら言う。そこでは噴水の女神様が楽しそうに『任せろ』という感じの顔をして青葉に笑顔を見せている。(むろん朋子や杏那には見えない)
 

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