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■春弦(3)

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それでヒロミは部屋から高校の女子制服(夏服)を持ってくると、その場で着替えてみせる。途中一時的にブラとショーツだけの姿になる。
 
「お前、ブラジャーなんて着けてるの?」
「女の子は高校生にもなれば普通にブラつけるよ」
「まるで胸があるみたい」
「胸くらい普通にあるけど」
「チンコ付いてないみたいに見える」
「女の子におちんちんは無いと思うけど」
 
そんなことを言いながら女子制服を着ると
 
「何だかふつうに女子高生に見える」
と言われる。するとヒロミは
 
「女子高生だもん。これ、私の生徒手帳」
 
と言って、ヒロミは自分の生徒手帳の最後のページをみせる。女子制服を着た写真が写っている。名前は《呉羽ヒロミ》になっているし、性別は女に○が付いている。
 
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父は何を言って良いか分からないようで、思わず母の顔を見る。
 
「ヒロ、春頃にもお父ちゃんに自分の性別のこと打ち明けようと何度かしたみたいだけど、お父ちゃん、忙しいとか言って、話を聞いてあげなかったでしょ」
 
と母は言う。
 
「こいつ、いつからこういうことになってるの?」
と父。
 
「高校に入る時にちょっと勘違いがあって、間違って女子の制服を作っちゃったのよ。でもこの子、その女子の制服で通いたいと言ってね。それで高校側と相談したのだけど、本人が女の子になりたいと思っているのであれば、学校側としては女子生徒として受け入れると言ってくれたので、それで通ってるんだよ」
と母。
 
「何?じゃ、間違って女子制服を作ったから、それで通ってるの?」
と父は呆れたような顔をする。
 
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「それはきっかけにすぎない。私、そういう間違いが無くても、自主的に女子制服を作っていたと思う」
とヒロミはしっかり父を見詰めながら言う。すると母が言う。
 
「私もちょっと悩んでさ。お父ちゃんと話したかったけど、お父ちゃん、全然話を聞いてくれないんだもん」
 
母は父に対して不満そうな顔をする。父は突然矛先が自分に来て少したじろいでいる。
 
「ちょっと考えさせてくれ」
と父は外に出ようとする。
 
「あ、このカメラの中にヒロの最近の写真が入っているから」
と言って、母はデジカメを父に渡した。
 

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父が帰ってきたのは深夜2時過ぎだったが、母もヒロミもずっと待っていた。父は少し酔っていた。
 
「あまりにも思わぬことで、正直まだ考えがまとまらん」
と父は言う。
 
「でも、今日の振袖姿は可愛いと思った」
それだけ父は言った。
 

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翌8月2日(金)の朝。
 
父は母・ヒロミと一緒に朝御飯を取った。ヒロミは青いコットンのサマードレスなど着ている。むろん朝御飯はヒロミが作った。七分搗きの御飯、豆腐とタマネギの味噌汁、切干大根を人参と煮たもの、父の好物の沢庵、そして鰤の照焼だ。
 
「ちなみに今日の朝御飯もヒロが作ったよ。私はお味噌汁を盛っただけ」
と母が言う。
「そうか」
と言ったまま父は何か考えている。
 
「今日は会社休むから、お前も仕事休め」
と父は母に言う。
「うん。いいよ」
と母。
 
「どこか遊びに行かないか?」
「どこに行く?」
「取りあえず、動物園にでも」
と父は言うが
 
「子供じゃあるまいし!」
とヒロミ。
 
「私、お買物とかしたいな」
などと母が言う。
 
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「じゃファボーレにでも行くか」
と父。
 
「なぜわざわざ富山市まで。イオンモール高岡でもいいじゃん」
「いや、その・・・」
 
どうも父は地元のショッピングモールに行って、知り合いと出くわすと嫌だと思っている雰囲気だ。
 
「いいよ。車で1時間だしね」
とヒロミ。
 
「うん、そうそう」
 

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父の車、20年物のスプリンターに乗り、8号線を東進して富山市まで行き、神通川の手前から南下してショッピングモール・ファボーレに行く。
 
取りあえず2階のフードコートに行き、お茶など飲む。
 
「なんかこうしていると娘がいるみたいだ」
などと父が言うので
 
「良かったら、私のことはお父さんの娘だと思って」
とヒロミは言う。今日は高校の女子制服を着て出てきている。
 
その言葉に父は少し考え込む感じである。家を出てからずっとヒロミは車内でも女の子の声で話している。
 
「でもお前、この後、高校・大学と、その格好で通うつもり?」
「うん。私、女だもん」
「会社にもそれで就職するのか?」
 
「私、医者になるつもりだから。でも女性の医師はたくさんいるよ」
「女医さんか・・・・」
 
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「お前、その・・・・性転換とかするつもり?」
「そのつもり。20歳になったら戸籍の性別と名前も変更するつもり」
 
「・・・そうか・・・・」
それでまた父は考え込む。
 
「その内、ちゃんと結婚もするつもりだよ」
「・・・結婚って、花婿になるの?花嫁になるの?」
「花嫁になるよ」
「・・・じゃ、相手は・・・女?男?」
と父が訊くので
 
母が
「ヒロは花嫁さんになるんだから、相手は男の人に決まってるじゃん」
と言う。
 
「お前、男と結婚するの?」
と父。
「娘が女の子と結婚したら、レスビアンじゃん」
と母。
 
「お前、男の恋人いるの?」
と不安そうな父。
 
「今は誰もいないよ」
とヒロミが言うと、父はちょっとほっとするような表情を見せた。
 
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午前中少し買物をする。母は自分の服、父の新しい背広などを買った上でヒロミにちょっと可愛い感じのブラウスとスカートも買ってあげた。そういう服を買うところを父に見せたかったという雰囲気もあった。可愛い服を試着したヒロミを見て父は複雑な顔をしていた。
 
お昼を食べてから映画を見た。父が3Dの映画を見たことがないということだったので『モンスターズ・ユニバーシテイ』を見たが、父は目が疲れたなどと言っていた。
 
「この後、どうする? まだ早いけど帰る?」
と母が訊いたら
 
「あ、そうそう。取引先の放送局の人から何とかいう歌手のチケットをもらってたんだよ。それがちょうど今日なんだ。本当は最初社長がもらったんだけど、社長は夫婦ふたりで子供も居ないし、名義を書き換えてもらって、俺がもらってたんだ。それ見に行こう」
などと父は言う。
 
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「誰のコンサート?」
「誰だっけ。何とか何とかって」
「それじゃ分からないよ」
とヒロミが笑って言う。
 
父は鞄からチケットを取り出す。
「これなんだけどね」
「ローズ+リリーじゃん! プラチナチケットだよ、これ。発売後15分くらいで売り切れたはず」
 
「そんな凄いチケットなの? じゃプレミアム付いて高くなってるとか?」
「それは無い。記名式で身分証明書とかで名前を照合しながら入場させるから転売は不可能」
「ひゃー。あ、確かにこれ呉羽智哉様・奥様・ご子息様と印刷してある」
と父。
 
「ねぇ、ご子息と書かれていたら、ヒロを入れるのに引っかかったりして?」
と母。
「私、男装するのは嫌だよ」
とヒロミ。
「うーん。。。大丈夫だと思うけどなあ」
と父は言う。
 
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念のためということで、チケットを頂いた放送局の人に電話してみる。
「すみません。頂いた時に、すぐ確認しておけばよかったのですが、うちの子、息子じゃなくて、・・・娘なもので」
 
《娘》という言葉を言う前に父が一瞬躊躇うのをヒロミは感じた。
 
「ああ、そうでしたか。済みません。聞き間違ったんでしょうね。こちらからイベンターに連絡を入れておきますので、入場する前にスピカ北陸の社員さんに声を掛けてください。チケットを交換してもらいますので」
 
「分かりました。ありがとうございます!」
 

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それでフォボーレを出て、ライブ会場に移動した。富山駅近くの駐車場に駐め、そこから徒歩で入る。
 
会場は列が出来ていたが、入口の所に居るスタッフの人に
「チケットの名義が間違っていたのを連絡していたのですが」
と言うと、まだ開場前ではあるが、中に入れてもらった。
 
「ああ、呉羽様ですね。連絡を受けております」
と30代くらいの男性が対応してくれる。どうも雰囲気的にこの人がここの責任者っぽい。
 
「チケットを拝見します」
というので、父がチケットを見せる。
 
「呉羽智哉様(42)・奥様(40)・ご子息様(15)になってますね。運転免許証か何かお持ちですか?」
 
それで父が運転免許証をみせる。
「確認させて頂きました。そちらは、奥様とお嬢様ですか?」
「はい、そうです」
 
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お嬢様と言われて、ヒロミはドキッとした。ヒロミは普段は女子高生として埋没していても、あらたまって女として扱われるのに、まだ慣れてないのである。
 
「ご子息が都合が悪くなって代わりにお嬢さんがいらっしゃったということではないですよね?」
 
単純なミスならこの人の責任で書き換えられても、譲渡ということになると、もっと上の人の決裁が必要なのであろう。
 
「いえ、うちには息子はいません。うちの子はこの娘だけですので」
と父は言った。
 
《息子はいない》という言葉にヒロミは一抹の寂しさを感じたが、《うちの子はこの娘だけ》という父の言葉には、ヒロミはちょっと涙が出そうな感じだった。
 
そうだ。自分は父の娘なのだ、ということをあらためてヒロミは認識した。そして娘と言ってくれた父に感謝した。
 
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「了解です。ではこちらの権限でデータを書き換えますので」
と言って、責任者さんはノートパソコンでデータを修正し、ハンディプリンタでチケットをプリントしてくれた。
 
「これで入場できますが、もう開場時間間近なので、このまま入場して頂いてもいいですよ」
 
と責任者さんが言うので、それで入場ゲートに行く。開場間近でスタンバイしている入場係の人がチケットを受け取り、責任者さんとアイコンタクトして頷くと、チケットのバーコードをスキャンし、それで座席券を3枚発行してくれた。
 

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