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■春望(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-05-26
 
春望 杜甫 
 
国破山河在 国破れて山河あり 
城春草木深 城春にして草木深し 
感時花濺涙 時に感じては花に涙をそそぎ 
恨別鳥驚心 別れを恨んでは鳥に心を驚かす 
 

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「レ点って、面倒だね。中国人って、なんでこんな複雑な読み方を考えたんだろ?」
美由紀が唐突に訊いた。
 
「いや、中国人はふつうに順番に読んでるよ。日本人が中国語を読む時に日本語と中国語の文法が違うから、無理矢理日本語として読むのにレ点を使うんだよ」
と日香理が少し呆れたように答える。
「あれ?そうなんだ」
 
「『感時』だって、中国人はそのままの順序で、はい、青葉」
「カンシー」
「と読むわけ」
「なるほど! 中国人の頭の中どうなってんだろ?と思ってた」
 
暦は8月に入り、青葉たちは登校日で学校に出てきていた。
 
「ねぇ、そういえば、日香理はどこの高校受けるの?」と美由紀は訊いた。
「T高校を受けるよ」
「えー、あそこ入試難しくない?」
「東京***大学を狙ってるから、そこに行くにはT高校に行くしかない」
「なんで? 近所のL高校とかじゃだめ?」
「L高校は国立大学に合格実績が無い」
「でも塾とZ会かで補えば何とかならない?」
「高校の授業全部サボった上で、家庭教師付けて塾とZ会やれば可能性あるかもね」
 
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「むむむ。青葉はどこ受けるの?」
「私は推薦入学でT高校に行くことが内々定してる」
「えー!? じゃ青葉も日香理もT高校なの? じゃ、私もT高校行く! でも、推薦入学なんて、もうやってるの?」
 
「正式のはもう少し先だと思うよ。だから内々定。それと今月末の模試で最低でも偏差値65は取ってくださいと言われてる」
「偏差値って何?」
 
青葉と日香理は顔を見合わせた。
 
「平均点から自分の点数が何点離れているかを見て、それを標準偏差で割ったもの。実際にはそれに10を掛けて50を足して平均点取った人の偏差値が50になるようにして、見やすくした数値を使う。T高校の合格最低点の人の偏差値がだいたい65くらいなのよ。私は去年夏の模試では偏差値72, 4月の模試では71だった」
 
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「あ、じゃ、その数値が高いほど難しい高校なんだ」
「そうそう」
「T高校が65なのか」
「C高校が62、M高校が58、近所のL高校は48くらいだよ。国立大学行きたければT高校かC高校には行かないと。日香理みたいな国立上位狙うならT高校が唯一の選択。公立高校ではね」
 
「じゃ、今度の模試で65点取れば、T高校行けるのね? 少し勉強しようかな」
「点数で65点じゃないよ。偏差値で65だよ。たとえば、平均点が45点で標準偏差が20あれば、偏差値65というのは・・・・・75点になる。100点取って偏差値77」
青葉は電卓を叩きながら説明した。
 
「私・・・中学に入ってから中間・期末で70点取ったことない」
「4月の模試の成績表ある?」
「あ、机の中に入れっぱなしかも」
と言って美由紀は自分の机の中を探してる。
 
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「あった」と言って持ってくる。
「偏差値56。これは相当頑張らなきゃね」
「きゃー、どうしよう!?」
「美由紀、今まで中間期末が60点代だったら内申点があまり良くないから、入試でギリギリだと落とされる。合格ラインを少し上回る点取らないとダメ」
「ひゃー、青葉、日香理、英語教えて」
 
青葉と日香理はとりあえず進研ゼミでもやってみるといいと勧めた。日香理がずっと進研ゼミを受けているので、1年生以来のテキストを美由紀に渡した。
 
「Z会と違って進研ゼミは丁寧だから美由紀に合うと思うよ。とりあえず夏休み中に中1,中2の分は全部あげよう。勉強って基礎が大事だから、美由紀の場合、今いきなり中3のテキストやるより、1,2年のテキストを完全に理解した方が、絶対成績は上がる」と日香理は言った。
 
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「分かった。私だけ、日香理と青葉とは違う高校って嫌だから頑張る」
と美由紀も答えた。
 

この登校日には、クラスメイトみんなが青葉の体調を心配してくれた。
 
「もう大丈夫なの?」と学級委員の紡希(つむぎ)からも訊かれた。
「まださすがに万全じゃ無いんだけどね。普通に出歩いたり朝礼や授業に出たりする分には問題無いから。コーラス部の練習にも出てるし」
 
「いや、男の立場からは聞きにくいから声かけなかったけど、心配してた」
と、もうひとりの学級委員の平林君。平林君も紡希も入院中、一度お見舞いに来てくれている。
「うん。割と大丈夫だよ。ありがとう。マラソン走れと言われたらパスだけど」
 
「川上は手術室からスキップしながら自分の病室に戻ったという噂を聞いたんだけど」と奥村君。
「それはさすがにあり得ない。そこまでできたら、私は化け物だよ」
「いや、川上って化け物じみたところあるし」
 
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「川上が立山から飛んで下りてきて富山湾で魚を釣ってからまた立山に飛んで戻った、という噂を聞いたことある」
と呉羽君。呉羽君も入院中お見舞いに来てくれている。彼は元々女子ともよく話す子で、明日香や日香理の携帯アドレス帳にも登録されている。
「そこまでできるのは弘法大師とか役行者(えんのぎょうじゃ)クラスかな」
 

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この時期、青葉は毎日和実と千里のヒーリングもしていたが、自分自身のヒーリングもしっかりやっていた。
 
手術直後にやっていたのはとにかく傷を治すヒーリングだったが、その後気の流れを新しい自分の性器の形に流すようにする調整をした。青葉は元々自分の性器の形を無視して、女性器の形に気を流して、気の流れの上での仮想陰唇・仮想膣・仮想子宮・仮想卵巣などを作っていたのだが、手術によってリアルの陰核・陰唇・膣を獲得したので、気の流れがそのリアルの女性器に沿って流れるように再調整した。
 
気の流れの上での仮想膣はリアルの膣と完全に重なるようにする。そして仮想子宮の口をリアルの膣の最奥部に合わせる。
 
だいたい手術の一週間後くらいまでに、そのあたりの作業を終えたが、その後は、更に細かい傷の修復、どうしても発生しやすい気や体液の流れの乱れを修正する作業をし、そして自分自身の心の持ちようなどを癒やして、また全体の体調を整える全身スキャンを掛けていた。
 
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全身スキャンは掛けながら寝ることができるので、毎晩寝ながらやっていた。電車通勤している人が寝ながらちゃんとつり革に捉まっていられるように、青葉はいったん確立させたスキャンのパターンを自身が眠ったままの状態でずっと繰り返し掛けていたのである。
 
青葉は布団の中に入り、この全身スキャンを掛け始める時間が好きだ。自分の身体を頭から足の先まで少しずつマッサージでもするかのようにヒーリングの波動で刺激していく。
 
顔の付近では毎日の勉強で疲れやすい目や、コーラス部の練習でたくさん使っている喉などを集中ヒーリングする。
 
胸にはかなりよく発達したバストがある。青葉は昨年の秋からCカップのブラを付けていたが最近少しきつい気がしてきていた。Dに変えるべきかなあ、などとも悩みながらバストマッサージするかのようにヒーリングする。揉まれる感触が心地よい。やがてスキャンはお腹の付近まで来る。最初に体内の膣の部分に掛かる。膣という器官がそこにあるのを感じるだけで嬉しくなってしまう。
 
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ここはシリコン製の留め置き用ダイレーターを入れっぱなしにした状態でヒーリングする。これは広がった状態でヒーリングを掛けないとやばいからだが、寝ている間にヒーリングすることにしている千里と和実にも寝る時は確実にダイレーターを入れておいてくれるよう言ってある。
 
青葉はこの時期、ダイレーション(膣拡張作業)は毎日1回していた。普通なら最初の2〜3ヶ月は毎日2時間×3回の作業が必要なのだが、青葉にしても千里にしても2週間ほどで、松井先生から「これならダイレーションは1日1回でいいね」
と言ってもらえる状態になった。(和実の場合は8月中旬まで1日3回していた)
 
ダイレーションしていると、ここにダイレーターではなく、おちんちんが挿入される状況をどうしても想像してしまっていた。早くやってみたいなあという気持ちになる。彪志もやりたがってるみたいだし。今のところ彼に捨てられる気配も無いし。
 
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膣の集中ヒーリングが終わると陰核・陰唇付近の集中ヒーリングをする。この付近も、かなり触って平気な状態になってきている。青葉はこないだから自分の陰核を揉み揉みしてみたくてたまらない気分になっていたが、我慢していた。私って、男の身体だった頃はほとんど性欲無かったのに、女の身体になったとたん性欲が出てきたみたい。不思議。などと思う。
 
このあたりのヒーリングをしていると、つい自分の目で見たくなって、よく起き上がってパンティを下げ、そこをまざまざと見てしまっていた。思わず笑みがこぼれる。
 
すっきりしたお股。自分を15年間苦しませた、おちんちんはもう無い。割れ目ちゃんはタックしていた時のようなフェイクではなく、ちゃんと開けることができる。そのスリットを指でそっと開けてみると、その中には陰核と尿道口と膣口がある。何度見ても心の奥から喜びがこみ上げてくる。私、幸せ。。。。
 
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毎晩、それをやってからまた青葉は横になり、足のヒーリングに移っていった。
 

登校日の週の週末、青葉たちのコーラス部はT市で開かれた山祭りの歌謡ステージに参加した。これは青葉と美津穂が寺田先生と話して決めた「葛葉強化策」の一環であった。
 
「葛葉、自分でも言ってるけど、やはり本番に弱い性格、プレッシャーに弱い性格みたいね」
「割と引っ込み思案だもんね」
「歌自体はすごくうまいのにね」
「でも私が抜けた後はコーラス部の中心になっていって欲しいしなあ」
「やはり場慣れさせるしかないね。成功体験を積み重ねていくことで自信も出る」
「じゃ、ステージ経験させて、ソロ歌唱もたくさん経験させよう」
 
ということで、とにかく人前で歌う経験をたくさん積ませようということになったのであった。
 
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「葛葉〜、私まだ体調万全じゃないし、明日の山祭り、それから来週の海祭りと夏祭りで、ソロ歌ってね」
「ううう。中部大会はごめんなさいでした。頑張ります」
「中部大会はドンマイだよ。よろしくね〜」
「でも、去年はこんなにあちこちの祭りに参加しませんでしたよね?」
「うーん。去年全国大会まで行ったので、今年はあちこちからお声が掛かったみたいよ」
「へー」
 
実際は寺田先生や、あれこれいつもバックアップしてくれている教頭先生が知り合いに掛け合って、歌える場を確保したのである。
 
その日の山祭りではコンクールでも歌う『立山の春』と、お祭りなので観客になじみのある曲ということでAKB48の『ヘビーローテーション』を歌った。ヘビーローテーションには特にソロパートは無かったのだが、寺田先生が急遽ソロパートを書き、前日に数時間練習して出て行ったが、葛葉はこういう譜面を覚えるのも割と得意なようであった。
 
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「なんか心臓が縮みました」
などと本人は言っていたが、良い出来だったし、うまく歌えたので本人も笑顔だった。やはりお祭りの開放感があるので、気楽に歌えるのだろう。
 

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8月7日には彪志が富山にやってきた。
 
彪志は6月からピザの宅配のバイトを始めていた。基本的には夜間の時間帯にシフトを入れていたが、夏休みの間はお店から要請があれば昼間も応じていた。8月はお盆の時期は稼ぎ時になるので、その前に少し休ませてもらうことにして3日間の日程でこちらに来たのである。
 
「元気そうじゃん」と彪志は青葉の家に来ると第一声で言った。
「うん。いたって元気だよ」と青葉。
 
「今日は青葉ひとりなの?」
「うん。お母ちゃんは仕事だし、お姉ちゃんたちは、桃姉がちー姉に、ずっと籠もってばかりじゃだめだよとか言って、車でイオンまで出かけた。ちー姉は家に居たい感じだったけど。まだ結構きついみたいだし」
 
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「青葉が元気すぎるんだよ。手術の跡はまだ痛い?」
「痛い。でも我慢できる範囲だよ。私とちー姉が同じ日に受けて、一週間後に和実だったけど、私とちー姉は昨日診察してもらったのでは、普通の患者なら3ヶ月くらい経過した状態だって言われた」
「特急で治してるね」
「和実は石巻のお姉さんとこに今いるんだよね。淳さん今仕事が無茶苦茶忙しいから、和実の面倒を見てあげられないってんで。気分が悪くなったりした時に対応できないからって」
「ああ、SEは大変だもん」
「美容室とアパートは300mくらいの距離なのよね。それで実際には着付けの人手が足りない時とか借り出されているらしい」
「おやおや」
 
「それで仙台の婦人科でチェックしてもらってるんだけど、春先くらいに手術なさったんですか?と訊かれた、と」
「そちらも特急か。でも自分も含めて3人も同時に治療してて大丈夫?体力足りる?無理しちゃダメだよ」
 
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