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■春望(10)
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「ねー、抵抗しないの? 青葉」
「抵抗した方がいいの?」
「その方が楽しい」
「もう・・・・」といって、青葉は抵抗するような振りをしてみる。
「きゃー」とか「やめてー」などと小さな声で叫んであげたりしている内に、青葉は下着も全部外されて、完全ヌードにされてしまった。
「解剖完了。観察、観察」
「写真撮る?」
「いや、それはさすがにやばいからやめとこう」
「こないだ、どこかの高校生が悪ふざけして撮った同級生のヌード流出させて大変なことになってたね」
「ああ、あれかわいそう」
「バスト大きいねー」
「ブラは何着けてんの?」と言って美由紀が青葉のブラを手に取る。
「C65か・・・」
「この胸はCカップじゃないと思うぞ」と日香理。
「奈々美に、来週からDカップ付けて来いと言われた」
「ああ、言われてたね」
「奈々美の意見に賛成」
「ウェスト細ーい。青葉ウェストいくつ?」
「58かな。少し大きくなっちゃった。体重も42kgまで増えちゃったし」
「それはバストの成長に引っ張られたんだろう」
「体重の増加もバストの重さが増えた分だよ、きっと」
「お股はふつうに女の子だね」
などと言って美由紀はスリットの中に指を入れて開けてしまう。
「ちょーっ」とさすがに青葉が声をあげる。
「大丈夫、大丈夫、処女には傷つけないから」
「あれ? 青葉は非処女だったはず」
「いや、この身体になってからはまだ処女だから」
「じゃ、中にまでは入れないことにしよう」
「もう・・・・」
青葉はダイレーターを外しておいて良かったと思った。
「ほんとに普通の女の子の形だ」と日香理。
「私、普通の女の子の形が分からない」と世梨奈。
「自分のを見れば分かるじゃん。鏡使えばよく見える」と美由紀。
「えー、そんなの見るのなんか気持ち悪い」
「自分のはよく観察して少し研究した方がいいぞ」と美由紀。
「何なら、この後で世梨奈も解剖してあげようか?」
「それは勘弁してー」
「私を手術してくれたのが女の先生だからね。自分と同じ形にしてあげるんだって言ってたよ」と青葉。
「へー」
「性転換手術する先生の中には、たとえば、おしっこ出る所を少し下にして、おしっこが飛び散りにくいようにする、なんて先生もいるけどね。私はそれは余計な親切で、ふつうの形にしてくれた方が患者さんは喜ぶ気がする。性転換手術って、心を満たすための手術だもん。多少不便でもそう気にしないと思う」
「基本的に美容整形と似たようなもんだよね」
「私は美容整形の一種だと思うよ。鼻を高くしたり、胸大きくしたりするのと同類」
「お股の形をちょっと変えるだけだもんね」
「実際、性転換手術を受けるような人はそれ以前にもうほとんど実質的な性転換は完了してるんだ。服装、生活、仕事、人間関係、性生活、全て」
「ああ、そうだろうね」
「性転換手術は、性を転換するための手術じゃなくて、既に性は転換済みの人の身体を調整してあげる手術なんだよね」
「なるほど」
「よし。観察終了〜。青葉、服着てもいいよ」
「はーい。何か観察して分かった?」
「青葉が完全に女の子であることを確認した」
「それはそれは」
「誰かから、青葉が身体のことで疑われたら、私たちが青葉が確かに女の子であることを証言してあげるから」
「それはまた御親切に」
と言って青葉は笑った。
「でも、青葉、おしっこだけは手術前の方が便利じゃなかった?」
「全然。手術した後の方が楽になったよ」
「へー」
「飛び散りかたも小さくなったし」
「ほおほお」
「向きの定まらないホースが付いてるより、ホースを外して蛇口から直接水を出した方が、水の行き先は定まるでしょ?」
「なるほど。性転換手術というのは、ホースを取り外す手術なのか」
「意味深だ・・・・」
「女の子って蛇口から直接出していたのね・・・」
「おしっこする時だけホース付けられたら便利なのにね」
「それやりたいなら『マジックコーン』を使えばいい」
「何それ?」
「女の子が立ちションできる道具」
「へー!」
「自作してもいいと思うよ、あれ」
「帰ったら調べてみよう」
翌日の朝の御飯はヴァイキング方式だった。分散させるためクラスごとに指定された時刻に行って、レストランで好きな物を好きなだけ取って食べる。青葉はこの方式の食事は初めてだったので「へー、こういうのもいいね」などと感心したように言っていた。
最終日は海遊館組とUSJ組に分かれて行動した。最終日の行き先で、海遊館派とUSJ派で意見が別れて、希望者を聞いてみても半々くらいだったため、各々が行きたい方に行くということになったのであった。
青葉は美由紀・日香理とともに、海遊館コースを選択した。ミーハーな明日香は当然USJに行った。美津穂は「あんまり映画には興味ない」と言って海遊館、世梨奈はかなり迷ったようだったが、USJ組は参加費用が1万円増しになるので「お金もったいない」と言って、海遊館コースにした。
館内に入り、最初アクアゲートで圧倒される。
「すごーい。海の底にいる感じ」
「こういう視線で魚たちを見れるのは何か素敵だよね」
いったん上まで上がり、ゆっくりと回りながら下りてくるが、ジンベエザメなどのいる巨大水槽の前で立ち止まる。
「水槽が凄い大っきい!」と言って青葉が感激の声をあげる。
「大きいよね。普通のガラスじゃ、こんな巨大な水槽作れないのよね。これはアクリルガラスっていうのよ。日本の工業技術の成果物のひとつだよね」
「へー」
「沖縄の美ら海(ちゅらうみ)水族館にはこれより更に巨大な水槽があるよ。このガラスを作ったメーカーの最高傑作」
「わあ、沖縄か・・・1度行ってみたいな」
午前中海遊館をのんびりと見学してから、お昼は隣接する天保山マーケットプレイスで取る。今日のお昼は600円分のクーポンを配られた上で各自好きなものを勝手にということになっていた。向こう岸にUSJが見える。
「向こうでは楽しんでるかな」
「たくさんお金を使ってるよ」
「確かに。高すぎるよね。入場券とエクスプレスパスで結局1万越えるし、食事も高いし」と日香理。
「あ、明日香からメールだ。ハンバーガー1580円に絶句中と書いてる」
「こちらはステーキ定食700円とメールしてやろう」
「この後、みんなでたこ焼き食べに行こう」
「たこ焼き12個入り520円とメールしてあげよう」
青葉たちは1時半に集合し、大阪城にバスで移動。1時間ほど掛けて見学、記念写真を撮った上で、道頓堀で下ろされ、のんびりと心斎橋筋を北へ向かって歩き、大阪の街を満喫した。
「やはり、こちらのコースが大阪らしい大阪を楽しめたね」と日香理。
「私、こういう商店街を歩くのって初めてかも」と青葉。
「ああ。。。青葉、いつも仕事で飛び回ってるから、こんな感じの所に来る機会が無いよね」
「雰囲気がいいなあ・・・活気あって。エネルギーがあふれてる」
「田舎じゃ、人はみんなイオンとかアルプラザに集まるからね。こんな大規模な商店街は、もう成立しなくなってるね」
「交通機関が衰退してるから、車の駐められる所にしか人は集まれないもん。こういう大きな商店街は発達した公共交通機関網に支えられているんだよ」
夕方、新大阪駅裏でUSJ組と合流。青葉たちは17:46のサンダーバードで高岡に帰還した(20:46着,来る時と同様に臨時増設車両)。夕食は車内で京風の少し上品なお弁当とペットボトルのお茶が配られた。
明日香が
「せっかく大阪に来たのに、たこ焼き食べてない!」
などと叫んでいたが、
「明日香は大阪じゃなくてハリウッドに行ってたんだから仕方ないね」
などと日香理に言われる。
「でも、なんでそのハリウッドにキティちゃんがいるんだ?」
「さあ・・・キティちゃんがハリウッドに遊びに行ったんじゃない?」
「高額の入場料が払えなくて、働いて返してる最中とか」
「むむむ」
修学旅行が終わった翌週の火曜日。青葉たちは学活の時間に来月上旬の体育祭の出場者を決めていた。学級委員の平林君と紡希が前に出て、自薦・他薦でリレーの出場者や応援のリーダーなどを決める。
体育祭クライマックスのスウェーデンリレーの代表を決めるのに男子は4人がすんなり決まったが、女子は3人決まって後1人が決まらない。あれこれ揉めていた時、ひとり「もう紡希、走りなよ」と言う子がいた。
「ああ、紡希は2年生の時まで陸上部だったしね」
「400mで地区大会入賞したじゃん」
などと言われている。そう言われた紡希が一瞬困ったような顔をした。その時、青葉はふと、修学旅行の時、お風呂場で紡希の波動に違和感を感じたことを思い出した。反射的に青葉は手を上げていた。
「私、スウェーデン・リレーに出たい」と発言する。
「おお、立候補者が出た」
「青葉400m走る?」
「うん。走っていいよ」
「じゃ、4人目の代表は川上さんということで」
と紡希は締めたが、ほっとした表情をしていた。
その日の昼休み、購買部に行ってお昼用のパンを買ってきた紡希を、青葉と日香理はふたりで拉致して、階段の下に連れ込んだ。
「紡希、話がある」と青葉が言う。
「何だろう?」と戸惑うような表情の紡希。
青葉は単刀直入に言った。
「紡希、妊娠してるでしょう?」
紡希は驚いたような表情をし、それから泣き出した。
日香理が紡希をハグしてあげる。
しばらく泣くに任せていたら、2-3分泣いたところで彼女も落ち着いてきたようである。
「どうしてわかったの?」とまだ泣き顔の紡希。
「修学旅行で一緒にお風呂入った時、身体の線で分かった」と青葉。
「えー? 凄いね。まだ2ヶ月くらいだと思うんだけど。あ、それで?さっきリレーの代表に名乗り出てくれたの」
「正直修学旅行の時はあれ?とは思ったものの、すぐ忘れちゃったのよ。さっきの学活の時、走るの得意なはずの紡希がなぜ躊躇ってるんだろと思った時、修学旅行の時のことを思い出して、そうだ、あの身体の線は妊娠してるせいだと気が付いたの」
「ありがとう。この身体では走れないから、どうしようと思った」
「妊娠検査薬、使った?」
「使った。陽性だった」
「病院行った?」
「行ってない。ちょっと勇気が無くて」
青葉と日香理は顔を見合わせる。こういう時ちゃんと行動できそうな紡希が、悩んでしまうほど、やはり妊娠って重大事件なんだなと青葉も日香理も思った。
「Hした日付から妊娠何週目かは分かるよね?」
「うん。今たぶん7週目」
「私たちが付いてってあげるから、病院に行こう」
「うん。でもお金がなくて中絶ができない」
「お金は、友だちみんなでカンパできると思うよ。取り敢えず私が立て替えてもいいし」
と青葉。
「誰が妊娠しちゃったのかは伏せてカンパするからさ。青葉はお金持ちだから気にすることないよ」
と日香理。
「そんなお金持ちじゃないけど、中絶の代金くらいは払えるよ」と青葉は補足した。
あまり色々な人に関わらせない方がいいだろうとは思ったものの、カンパのことを考えて、もうひとり隣のクラスの奈々美にだけ打ち明け、4人でその日の午後産婦人科に行った。
「ごめんね、こんな所まで付いてきてもらって」と紡希。
「いや、ここに患者として来るのは私だったかも知れん」と奈々美は言う。
「私も、最初の時は付けずに彼氏とやっちゃったからなあ。幸いにもその時は妊娠しなかったけど生理が来るまで凄く心配だった。来なかったらどうしよう、どうしようって思ったよ。それで、その後は絶対付けさせてるけど、あの時妊娠していてもおかしくなかった。男ってさ、何だか付けたがらないんだよ。でも絶対付けさせなきゃダメだよ」
「私もかなり『したい』と言われるのを、高校入試が終わったらさせてあげると言って引き延ばしてるんだけど、1度だけ素股でやらせたのよね。その時ちゃんと付けてと言ったら、入れないんだから付けなくてもいいだろう?とか言うのよね。精子が飛散して侵入する危険あるし、付けずにやりたいとか言うのなら別れると言ったら付けてくれた。何であんなに付けるの渋るかね、男って」と日香理。
「やはり私の意志が弱かったんだなあ。ずっと片思い続けていて、やっと思いが届いてデートして、なんとなく雰囲気でセックスしちゃったんだけど、私も彼も避妊具の用意がなくて」
「そんな時は次回しよう、って方向に持って行かなくちゃね」と日香理。「避妊具買う勇気が無い時は青葉に言えばもらえるからさ」と奈々美。奈々美はここ1年ほどの間に5回ほど青葉から避妊具をもらっている。
「奈々美の場合は彼氏に買わせればいいのに」と青葉。
「うん、まあそうだけどね」
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春望(10)