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■春望(9)
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(c)Eriko Kawaguchi 2012-05-28
翌日は、希望コース別の行動になった。
京都東山コース、嵯峨野散策コース、御所桂離宮コース、奈良コース、宝塚観劇コース、伊賀信楽コース、淡路徳島コース、などが設定されていたほか、自主計画コースもあり、3人以上のグループで事前に自分たちで作ったコースに従って京都の1日パスを使い見学して回ることもできた。
青葉は「四国に行ってうどんが食べたい!」という美由紀の意見で、淡路徳島コースに参加した。当然日香理も一緒である。日香理は最初嵯峨野を歩きたいと言っていたが、青葉と美由紀が徳島コースというので、そちらに一緒に行くことにした。
徳島コースは人数が少ないのでマイクロバスになる。この日最初の見学ポイントは鳴門の大渦であったが、この日の渦が見られる時刻が朝8:40の前後1時間ということで、朝6時に朝食を取り、7時前に旅館を出て淡路島南の福良港に行った。
明石海峡大橋を渡る時間帯には、バスの中で寝ている子もいて、美由紀も渡り終えてから起きだして「えー?もう渡っちゃったの?」などと言っていた。
朝一番の臨時便、日本丸に乗って観潮コースをクルージングする。この時間を狙ってやってきたツアー客が多く、朝早い時間にもかかわらず乗客はかなり多かった。
「なんか格好いい船だね〜」と美由紀。
「これ、海王丸と似てない?」と青葉。
「似てて当然。姉妹船だもん」と日香理。
「えー?そうなんだ!」
海王丸は富山新港に係留されている帆船で、8月に青葉はそこで行われたお祭りにコーラス部で参加し、翌日は彪志とデートをした。
「元々、日本丸と海王丸は一緒に作られたんだよ。日本丸がお姉さん、海王丸が妹。そっくりさんだけど、船首像が違う。日本丸の船首は手を合わせて祈る女性、海王丸の船首は横笛を吹く女性」
「わあ」
「ただし、海王丸の船首像はあとで就航した海王丸2世に引き継がれたから、新湊の海王丸には付いてないけどね」
「へー」
「日本丸の方も今実働しているのは2世で初代は横浜の日本丸メモリアルパークにある。それと、この日本丸は2世のレプリカで本物の半分くらいのサイズだよ」
「本物はどこにいるの?」
「日本丸2世も海王丸2世も練習船として現役だから、あちこちの港に行ってるよ」
「なるほど」
やがて船は潮流の激しい海域にさしかかる。
「ここ川だっけ?」
「海だよ。でもまるで川みたいに流れてるね。かなりの急流。今は川を下る感じ。これ非力な船は流れと逆向きには走れないだろうね」
「そういう非力な船で来ると怖いな」
「この潮を見る観光船はみんなパワフルな船ばかりだよ」
「だろうね」
「そういえば昔中国人が瀬戸内海を見て『日本人が黄河・長江が凄いと言うけど、日本にも中国にも負けない立派な川がありますね』と褒めたという話がある」
「ああ、中国人の感覚では瀬戸内海そのものが川か・・・」
そしてやがて船は大渦の付近にさしかかる。
青葉も日香理も「わぁ、すごーい」と声をあげてその激しい渦に見とれている。しかし美由紀は「ごめん、目が回った」といって、船室の中央の方に行ってしまった。
「確かに目が回るよね、これ」
「これ、巻き込まれたらひとたまりもないな」
「今日は旧暦で何日?青葉」
「えっと、旧は8月5日」
「じゃ、まだ大潮って感じだよね。渦が大きい」
「あ、そうか。大潮の時は潮汐が大きい分、渦も大きくなるのね」
「そうそう」
ふたりはしばし天然の激しいエネルギーに見とれていた。
観潮船で1時間のクルーズをした後は、淡路島の中央付近まで戻り、淡路一宮を見学した。渦を見て気分が悪くなった美由紀も陸に戻るとすぐ元気になり、バスの中で持参したポテチを食べ始め、日香理に「胃は大丈夫?」と訊かれていた。船に酔った訳ではないようだ。
バスを降りて鳥居をくぐる。
「神社の名前が読めない」と美由紀。
「いざなぎ・じんぐう(伊弉諾神宮)だよ」と青葉。
「へー。どんな神様が祭られてるの?」
「日本列島を作った神様」
「わあ」
「伊勢の神宮に祭られている天照大神(あまてらすおおみかみ)のお父さんだよ」
「お、すごく偉い神様なんだね。御利益(ごりやく)ありそう」
「そうだね。伊弉諾(いざなぎ)神は、日本列島を作り、たくさんの神様を生み出した後で『淡海』に引退したとされているんだけど、この『淡海』の解釈で昔から淡路(あわじ)説と近江(おうみ:旧仮名遣い:あふみ)説があるんだ」
と青葉は手帳に漢字で書きながら説明する。
「へー」
「淡路説だとこの神社、近江説だと琵琶湖のそばの多賀大社がその地」
「実際はどっちなんだろうね。青葉、霊感で分からないの?」
「さあね。でも淡路島と琵琶湖って、同じサイズ・形をしてるんだよね」
「何〜?」
青葉は携帯の地図アプリを開き、関西方面を表示させた。
「あ、ほんとだ。すごーい。今まで気づかなかった」
「まるで、淡路島の部分が琵琶湖のところから飛び出して播磨灘に落ちて淡路島になって、飛び出した跡が琵琶湖になったみたいでしょ?」
「隕石でもぶつかって、そんなことが起きたのだろうか?」
「そんなことは無いと思うけど、地球って不思議だね」
「でも神様を産むのに、男の神様ひとりで産めたの?」
「奥さんがいるよ。伊弉冉神(いざなみのかみ)」
「ああ。やはり有性生殖なのか」
「ちゃんとHする場面まで古事記・日本書紀には書かれている。バックだったみたいだね」
「バック〜!」と美由紀が叫ぶので、青葉も日香理も「しーっ!」と言う。あまり女子中生が大きな声で叫ぶ単語ではない。
「って、後背位?」と小さな声で美由紀。
「ちゃんと知ってるじゃん」
「う、今度図書館で読んでみよう」
「古事記・日本書紀を?バックを?」と日香理。
「どっちにしよう・・・」
「でも、天照大神とかは、伊弉諾(いざなぎ)神がひとりで産んだという説もある」
「どこから産むんだ?」
「太陽神である天照大神は伊弉諾神の左目から、月の神である月読神は伊弉諾神の右目から生まれたという話」
「目から子供が産めるのか・・・・」
「神様だから」
「青葉も目から子供産んだりしない?」と美由紀。
「うーん。目からの出産は痛そうだよ。できたらお股から産みたいな」と青葉。「青葉ならお股から産めるかもね」と日香理も優しい顔で言った。
淡路一宮を出た後は大鳴門橋を渡り徳島県内に入る。鳴門市内のうどん屋さんでお昼御飯となった。
「美味しい、美味しい。満足」と美由紀は感激の様子。
「徳島のうどんを讃岐うどんって言うんだっけ?」
「違う、違う。讃岐は香川県。徳島県は阿波だよ。阿波踊りの地」と日香理。
「あ、そうか。じゃ、これは讃岐うどんじゃないの?」
「ここは鳴門市だから、鳴門うどん。最近は『鳴(なる)ちゅるうどん』と言うらしい」
「へー」
「讃岐うどんが有名になったから徳島県内でも讃岐うどんが食べられる店が増えたみたいだけど、鳴門のうどんは、この麺の太さが不揃いで、柔らかいのが特徴。讃岐はもっと麺の腰が強いんだ」
と日香理は解説する。
「あ、この不揃いな麺は何でだろうと思ったが、それも特徴なのか」
青葉もへーという顔で聞いている。
「徳島の名物って、やはり阿波踊り?」
「そうだね。あとジャストシステムかな。ATOKは阿波徳島の略という俗説が昔からある」と日香理。
「おお」
「食べ物では鳴門金時とか徳島ラーメンとか」
「あ、ラーメンも美味しいんだ?」
「そうそう。金ちゃんラーメンは徳島製粉だよ」
「あぁ!」
「でも、なんか私たち3人って、いい組合せだね」と美由紀。
「ん?」
「神様とか仏様とか、あちらの世界のことは青葉が何でも知ってる。食物とか社会科的なものとか、世俗のことは日香理がよく知ってる」
「美由紀は?」
「私はふたりの話を聞く役。知識を持ってても、聞き手がいなきゃ伝えられない」
「ああ、確かに」と青葉と日香理は言った。
「だから私もふたりと一緒にT高校行くよ!」
「うん。頑張って」
お昼を食べた後は徳島市に入り、阿波おどり会館、徳島工芸村など数ヶ所のスポットを見てから帰還となる。途中寄った土産物店で、美由紀は讃岐うどんと徳島ラーメンを買い求めていた。青葉も讃岐うどんと徳島のお菓子を買っていたのだが、日香理がふたりの肩を叩く。
「ねえ、そこのスナックコーナーで讃岐うどん食べられるみたい」
「お、食べていこう、食べて行こう」
土産物店での自由時間は20分ほどあったので、3人は他に数人の子も誘って、讃岐うどんを食べた。引率の先生が「お前ら、もう腹が減ったのか?」と呆れるように言っていた。
日香理が「ぶっかけうどんがお勧め」というので、青葉も美由紀もそれを頼んだが、青葉はそれまで持っていた「うどん」のイメージと全く違うものなので「わあ、面白い」と言っている。美由紀も「この麺の腰の強さ、癖になりそう」
などと言う。
「長時間掛けて打って足で踏んだりして腰を強くしてるからね。鳴門は逆に短時間で打つようにして柔らかく仕上げる」と日香理。
「でも値段が300円ってのが、やはり感激だね」
「こんなに具があるのにね」
「量も食べ頃でいいと思わない?」
「あまり多いと辛いもんね」
「こういう量だから、たくさんのうどん屋さんをハシゴして色々な味を楽しむ人たちがいるのよね」
「でもダシが美味しーい!」
「鳴門のうどんとどっちが好き?」と日香理が訊くが、美由紀は
「どっちも好き!」と嬉しそうな声で答えた。
今夜の宿は大阪市内のビジネスホテルである。取り敢えず部屋に荷物を置き、到着時に指定された時刻にレストランに行って夕食を食べる。コースによってホテルへの到着時刻が異なるため、夕食もコース単位で実際に到着してからレストランの混み具合も見ながら時間を指定しているようであった。
「旅館での大部屋での食事も楽しいけど、やはりこういう所の方が落ち着く」
などと日香理は言っている。
「食事の内容もこちらが好きかな」と美由紀。
昨日の夕食はお刺身や豚肉と野菜の一人用鍋料理などがメインだった。昔風の温泉旅館の食事という感じ。今夜はメンチカツにコロッケ、ミートスパゲティと現代っ子向きだ。
「しかしツインに4人押し込むというのは凄いな」
「その分安くなるんだから、いいんじゃない?」
「部屋面積がエキストラベッドで完璧に埋まってたね」
「それに2人ずつで泊まるより4人の方が楽しい」
「2人部屋で、相手があまり親しくない子だったりすると悲惨だな」
部屋に戻ったら先に世梨奈が(食事も終えて)戻っていた。世梨奈は伊賀信楽コースに参加したので、忍者屋敷の様子などを楽しそうに語っていた。信楽焼のタヌキのストラップを携帯に付けている。「ノリで買っちゃったけど少し後悔してる」などと言っている。
今日はお風呂も大浴場ではなく、各部屋に付いているお風呂を使う(大浴場に行っても良いが、混雑時間帯は避けるように言われていた)。狭いのでひとりずつの入浴だ。青葉たちはじゃんけんで順番を決めて、ひとりずつ入りながら、残りのメンツでおしゃべりを続けていた。青葉はじゃんけんに負け続けて4番目の入浴になった。
最初は今日見学したところの話題やお昼御飯などの話題だったのが、青葉がお風呂に入る頃は、英語の尻取りになっていた。
「reaction」「native」と来て、青葉は「expose」と答えて、お風呂に入った。
まずは湯船の中で身体を洗い、髪を洗い、最後は湯船にお湯を溜ながら手足を揉みほぐしていたが、お湯がたまるまでの間、身体が冷えてしまう。青葉は時々シャワーに切り替えて身体にお湯を宛てながら、お湯が溜まるのを待ったが、これって、こういう入り方で正しいのだろうか? もっと楽な入浴方法は無いのだろうか?と疑問を感じた。あがってから日香理に聞いてみようかな・・・などと思っているうちにお湯がたまってきたので、湯の中で身体を少しずつ伸ばしては、少しずつ身体をヒーリングしていく。あ、少し腎臓が少し疲れてる。水分が足りなかったかな? などと思ったので、洗面台で水をたくさん飲んだ。
再度身体を暖めてから、お湯を抜き、簡単に湯船の掃除をしてからあがる。
服を着てバスルームから出た時のことであった。
「せーの」というかけ声とともに、青葉は3人に身体を取り押さえられた。
「ちょっと、ちょっと、どうしたの!?」
「解剖〜」
「えー? 何なら自分で脱ごうか?」
「だめだめ。こういうのは無理矢理やるのが楽しい」
「なんで、私解剖されるの?」
「いや、さっき青葉がお風呂に入る前に最後に言った単語が expose(露出)だったな、という話から、青葉って、少し露出症っぼくない? って話になってじゃ、露出させてみようということで話がまとまった」
「やれやれ」
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