広告:國崎出雲の事情 4 (少年サンデーコミックス)
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■春望(11)

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「で、紡希、彼とはどうなったの?」
「結局別れちゃった」
「あんまり早くセックスさせると、早く別れやすいよ」と日香理。
「そうかもね」
 
「その彼には妊娠のことは言ったの?」
「言ったけど知らんって言われた」
「ひどいな」
 
「付けずにやること自体が問題だし、それで女の子を妊娠させて逃げるのは無責任すぎる」
「そんな男だったと思うしかないね」
「うん。そう思うことにする」
 
「でも、困ったなって思ったら、誰かに相談するようにしようよ。ひとりで悩んでちゃダメだよ」
「それは思ったけど、私ってあまり他人に相談するのに慣れてないから」
 
「そのあたりは青葉も同じだよね。紡希にしても青葉にしても、他人から相談されることが多くて、自分で誰かに相談するって無いよね」と日香理。「あ、私何度か美由紀に相談した」と青葉。
 
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「ああ、美由紀はそういう時便利な性格かも。美由紀に話している内に自分で解決方法見つかるでしょ」
「美由紀って、こちらが実は考えていたようなことをズバリと言ってくれるんだよね」
「不思議な天性の勘を持ってるよね、そういう面では」
「今頃くしゃみしてるな」
 
「今度からは私でもいいし、青葉でもいいし、相談しなよ」と日香理。
「うん」
 
「私、ちょうど紡希が悩んでいた時期に自分の体調回復で忙しすぎたかも知れないなあ」
「あ、確かにその時期は他人事まで手が回らなかったかもね」
 

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やがて診察室に呼ばれて4人で一緒に入った。お医者さんから色々聞かれて、紡希は少し泣きながら答えていた。
 
血液検査、尿検査、心電図などが取られて健康状態には問題がないということで翌日中絶手術をすることになった。
 
「明日は朝から何も食べないでいてください」
「分かりました」
 
その日の病院代は青葉が出してあげた。
 

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翌日、青葉や奈々美たちは、各々のクラスで女子の友人たちで、口の硬そうな子、彼氏持ちで共感してくれそうな子を中心に、自分たちの学年の子で不用意に妊娠してしまった子がいるので、中絶費用をカンパして欲しいというのを言って回った。男子の中でもこういうことに理解がありそうな子には話して頼んでみた。
 
美由紀などは、そういうこと起きてるなら水くさい、自分にも相談してくれれば良かったのにと言い、カンパを求める方で動いてくれた。
 
明日香などはどう見ても言いふらしそうなので趣旨を説明しないまま「ちょっと、困っている子のためにカンパ集めてるんだけど」と言ったら1000円協力してくれた。
 
美由紀の元思い人N君などは、美由紀がカンパを頼むと美由紀には借りがあるしと言って、1万円も寄付してくれた。(一応あの事件ではN君のお母さんが青葉に30万円払ってくれている)
 
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カンパは一部、他のクラスまでも広がり、結局合計30人からN君の分まで入れて7万円も集まった。あと少し足りない分は青葉が出してあげることにした。紡希は涙を流していた。
 
その日の午後はうまい具合に先生たちの会議で午後の授業が無かったので、紡希は4時間目が終わってすぐに青葉に連れられて学校を出て病院に行き、妊娠中絶手術を受けた。手術を受けている間に、日香理と奈々美も来てくれた。この時ふたりがカンパのお金を持ってきてくれた。
 
回復室のベッドの上で「赤ちゃん、ごめんなさい」などといって泣いているので、青葉は紡希の手を握って心のヒーリングをしてあげた。そのヒーリングと、みんなとのおしゃべりで紡希はかなり気分が楽になったようであった。
 
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回復室で3時間ほど休ませてから紡希を家まで送って行ってあげた後、青葉と日香理・奈々美は3人でお茶を飲みに行った。
 
「みんな、お小遣いはたいちゃったろうし、ここは私のおごりね」と青葉。「わあ、それじゃハンバーガーとか頼んじゃっていい?」と奈々美。
「いいよ。私も食べようかな。私の分も買ってきて」と言って1000円札を渡す。
「おっけー」
と言って奈々美は買ってきたが、ハンバーガー3個とポテトのLだ。
 
「3個?」
「私、青葉、日香理」
「あ、私のも?」と日香理。
「食べない?」
「食べる」
 
ということで、3人でハンバーガーを食べながら、しばし話した。少し話していたら窓の外を美由紀が通り掛かり、お店の中に入ってきて、会話に参戦した。青葉は美由紀の分もハンバーガーと飲み物をおごってあげた。
 
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「あの子、最後まで彼氏の名前言わなかったけど、S君だよね」と日香理。「うん。私もそうだと思った」と青葉。
「凄いショック受けたような顔して、結局12750円出してくれたからね」
「あり金全部って感じだったし」
「750円という端数に彼の最低限の責任感を感じた」
 
「でも、青葉のヒーリングって、身体の表面に沿って手を動かすのだと思ってたけど、今日はずっと手を握ってあげてたね」
「そうそう。身体の不調な部位とかを治すのはそこで手を動かすけど、心を治す時は手を握ってあげる」
「へー」
「震災の後は、こちらのヒーリングをたくさんしたよ」
「わあ、大変だったよね」
 
「でも私、セックスしたら妊娠するんだということを、改めて認識した」
と奈々美は言う。
「セックスって半分ファンタジーだけど、妊娠はリアルだからなあ」
「あの子みたいな、しっかりした感じの子でも、どうしたらいいのか分からなくなっちゃうのね」
「でも今回のことで私、彼女によけい親近感を感じちゃった」と日香理。
「青葉以上にとっつきにくい所あるもんね」
 
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「青葉はバリアはあるけど、バリア突破した後はフレンドリー」
「ツンデレか?」
「ツンとはしてないけど、それに近いね」
「でも彼女の場合はバリア突破しても、凜としてるからね」
 
「あんたらの会話で、やっと私、妊娠したのが誰か想像が付いてきた」
と美由紀。
「あの子ならちゃんと彼氏に『付けてくれ』と言えそうなのに」
 
「それがその場ではなかなか言えないのが恋愛なのよ」
「やはり、私たちそのあたりの認識がまだまだ甘いんだろうね」
「女の子は生理始まった時から、妊娠できる状態になってるのにね」
「昔なら、私たちの世代って、もうお嫁に行ってるもんね」
 
「私も今は付けさせてるけど、青葉もちゃんと付けさせろよ」と奈々美。「ちゃんと付けてくれてるよ。リアルでも夢でも」と青葉。
 
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その会話を微笑んで聞いていた日香理が、ふと思いついたように言う。
「青葉、例の夢の中では生理あるんでしょ?」
「うん。実は今生理中。夢の中でナプキン付けてる」
「へー」
「じゃ、夢の中でコンちゃん付けずにやったら妊娠する可能性あるのね?」
 
「うん。だから彼と結婚できたら、夢の中で付けずにやってみようって言ってる」
「ああ、それで赤ちゃん産む気だな」
「そう。その子は夢の世界でちゃんと存在し続けると思うのよ」
 
「夢の中だけじゃなくて、リアルでも存在してたりしてね」
「まさか」
 
「だって、いつだったか夢の中で青葉に書いてもらったメモ、起きたらちゃんと枕元に残ってるんだもん。あれはびっくりした」
「へー」
 
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青葉たちは紡希が今回の件で落ち込んだりしないだろうかと心配していたのだが、翌日学校に行ってみると紡希は至って元気だった。
 
「あ、青葉〜、体育祭の応援のチアの頭数が足りないのよ。青葉、やってくれない? 青葉運動神経いいから、すぐ踊り覚えるよ」
と普段の明るい笑顔で言う。
 
「うん。そうだなあ。やってもいいよ」
「じゃ、リストに入れとくね。よろしくー」
と言って、楽しそうにして向こうに歩いて行く。
 
青葉と日香理は顔を見合わせた。
「元気だね」
「なんかふだんの紡希だよね」
「やっぱり強い子なんだよ」
 
そこに呉羽君が「何、何、何の話?」と言って寄ってくる。
 
「呉羽君って、彼氏とHする時、ちゃんと彼氏に付けさせてる?」
「ちょーっ、なんで僕に彼氏がいないといけないの?」
「じゃ、彼女いるの?」
「いないけど」
「彼女できたとして、セックスするとして、ちゃんと付ける?」
「そんなの付けないってのがあり得ない」
 
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「やはり、ちゃんとした男の子もいるのね」と青葉。
「いや、ちゃんとしているのは確かとして、男の子であるかどうかに多少の疑問があるけどね」と日香理。
「確かに」
 
「なんでー? 僕男じゃないの?」
「呉羽君、今度はふつうの女装させてあげようか?」
「いや、遠慮しておく」
 
「そうだ。今度の体育祭でチアリーダーするとかは?」
「はあ?」
「ミニスカ穿いて、ボンボン持って」
「う・・・・なんか楽しそう。やってみたい気分」
「よし。紡希に言っておこう」
「待って、冗談だから」
 

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その週の土日、9月29-30日は久しぶりの岩手行きであった。久しぶりなので案件が溜まっていることもあり、滞在時間をできるだけ長くしようということから、28日夕方の「はくたか」と新幹線を乗り継いで一ノ関まで行き、彪志の家に泊めてもらう。大宮から彪志も同行した。彪志とも1ヶ月半ぶりのデートである。9月前半に1度彪志が富山に行こうかという話もあったのであるが、前半は和実と春奈に集中ヒーリングをしていたので、あまり時間が取れないということで無理はしなかったのである。
 
「週末は本当は忙しいんでしょ? ごめんね」
「いや、土日でないと青葉動けないし」
「今日もお仕事だった?」
「うん。5時までバイトして、そのあと京成で出てきた。速いし実はJRより安い」
「へー」
 
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「お仕事溜まってそうだよね」と彪志が訊く。
「3ヶ月ぶりだからね。先週の日曜は北陸方面の霊的な相談の溜まってるのをやったんだけど、朝9時から始めて、結局夕方8時まで掛かった」
「わあ」
「かなり断ってもらってたんだけど、ぜひというのが多くて」
「北陸方面は、まだそんなに口コミは広がってないんだろ? それでそんなに仕事あるなら、こちらは凄いだろうね」
 
「一応29日は大船渡と陸前高田、30日は南三陸と気仙沼。でも30日の終わりが何時になるか見当も付かない」
「でも帰らなきゃ」
「そうなのよね。一ノ関21:15の新幹線に乗って仙台から高速バスに乗り継ぐのが、学校の始業時間に間に合う最終連絡だから、気仙沼を19時には出るつもりでいないと」
 
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彪志には帰りに、気仙沼から一ノ関まで送ってもらうことにしている。
 
「『きたぐに』が無くなっちゃったのは辛いね」
「そうなのよ。あれが無くなったから、JRで帰るには一ノ関18:06の『はやて』
に乗らないといけない。でもそんな時間までに仕事が終わるとは思えない」
 
「まあ、高速パスに乗り遅れたら、高岡までそのまま車で走るかだな」
「それは無茶だよ。無休憩で走っても仙台から高岡まで6時間かかるはず。一ノ関からなら8時間。途中3時間休憩したとして11時間。それで朝学校に間に合わせるには一ノ関を21時に出ることになって、それならふつうに新幹線・高速バス乗継ぎ方式で帰れる」
 
「俺と青葉が交替で運転したら?」
「・・・・悩んじゃうじゃん、そんなこと言われたら」
 
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その日、28日は彪志の実家に泊めてもらった。一ノ関21:43の着だったが、駅までお母さんが迎えに来てくれた。
 
「お疲れ様〜」とお母さん。
「なんか済みません。いつも非常識な時間にばかり到着して」と青葉。
「遠いところからだもん。仕方ないわ。あんたたち、御飯は食べた?」
 
「彪志さんが駅弁を買ってきてくれていたので新幹線の車内で一緒に食べました」
と青葉が言うが、
「あ、でも夜食歓迎」
などと彪志が言うので、彪志の家に着いてから、お母さんが作ってくれていたカレーをみんなで食べた。お父さんは残業で遅くなり、青葉たちが到着する直前に帰宅したところで、結局4人で「遅い夕食」を取りながらの団欒という感じになった。
 
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「もう手術の跡の痛みとかは無いんですか?」
「まだ少しありますが、もうかなり調子いいです」
「今までも十分女らしいと思っていたんだけど、なんか以前に増して女らしさがアップしている感じ。やはり手術した効果かしらねぇ」とお母さんから言われる。「胸もかなり大きくなってるしね」と彪志。
 
まだみんなお風呂に入っていなかったので、食事の後は交替でお風呂に入る。お茶を入れて青葉が持って来たお菓子を頂きつつ、また更に会話は弾んだ。
 
「青葉ちゃんがこちらに来てくれないと、彪志もうちに戻ってこない感じなのよね。結局、夏休みはお盆の少し後にちょっと戻って来た以外は、ずっと千葉にいたし」とお母さん。
「理学部は上の方の学年になると忙しくて、とてもバイトできないし、1〜2年の内に少しでも学資を貯めておきたいと彪志さん言ってました」
「理系はどうしても忙しいわよねぇ」
 
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「でも、青葉ちゃんも、そろそろ高校受験の方、忙しいんじゃないの?」
とお父さんから訊かれる。
 
「一応推薦入学で高校に行けるようになったので、試験は受けなくてもいいのですが、一応11月中旬にこちらに来るのを最後に、合格内定の日まではこちらに来るのは休ませてもらうことにしています。推薦で決まってるからと言って、あまりあちこち出歩いてたら、同級生たちに悪いし」
「そうよねぇ」
 
「11月は彪志さんの誕生日の直後になるので、こちらにまた寄せてもらいますね」
「はいはい」
というお母さんは何だか嬉しそうだ。
 

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