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■春望(2)
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「菊枝からパワー融通してもらってるから大丈夫」
「ああ。。。。」
「私も8月いっぱいは一般の仕事は入れない。慶子さんにも詩子さんにも言って断ってもらってる」
「それは当然そうしなきゃ」
「8月はあと1件だけ入れるけどね」
「何するの?」
「スリファーズって知ってる?」
「あ、うん」
「そのスリファーズのリーダーの春奈って子が今月15日にアメリカで性転換手術を受けるんだよ。人気アイドルだから、騒がれたくないってんで情報公開してないけど。冬子さんの妹分みたいな子なんで頼まれて、そちらのヒーリングもやる予定」
「オーバーワークだ」と彪志が言う。
「4人の中でリモートでやるのは和実だけ。ちー姉は8月いっぱいうちにいるし、春奈さんは退院して帰国したら高岡市内某所で9月中旬まで静養予定。だから私が春奈さんの静養先に実際に行ってダイレクトにヒーリングするから」
「青葉のヒーリングを受けるために高岡に来るんだね?」
「そういうこと。高岡滞在中は一切外出禁止を申し渡されてるらしい。居所が分かっちゃうと騒がれて静養にならないから。健康状態と傷の治り具合を診てもらうのも、お医者さんに往診してもらう」
「若い子には1ヶ月も籠もってる方が辛かったりして」
「だと思う」
「でもリモートの方がパワー使うんだよね?」
「当然。だいたい2割増しのパワーが必要で効果は7割くらいしか出ない。でも和実の場合は本人にも霊的な力が少しあるから、それを利用するとダイレクトにやるのとほとんど同じくらいの効果が出るんだけどね」
「まあ、仕方ないなあ。俺のパワーも使えそうだったら遠慮無く使って」
「うん。というか既に日々使わせてもらってるよ」
「そうだったの!?」
「しかし、性転換ラッシュだね」
「ほんとに! まあ、去年の6月にMTFの集団遭遇があったから、その結果だけどね」
「なるほど」
「その時既に性転換手術済みだったのは冬子さんだけだったんだけど、冬子さんが『早く手術しちゃった方がスッキリするよ』とか、かなりみんな煽ってたから、和実なんかも、それでやる気になったような感もあったしね」
「お父さんとお姉さんの仮葬儀の日の翌日って言ってたっけ?」
「そうそう。4つのグループが一挙に遭遇したんだよ。お姉ちゃんの遺体が見つかったって連絡受けて向こうに行って着いたら、お父さんの遺体も見つかったって聞かされて。それで彪志に来てもらって仮葬儀して。その翌日に、その大遭遇が起きたんだ。その場では連絡先だけ交換して、ゆっくり話したのは次の週だけどね。考えてみると全部お姉ちゃんの引き合わせなのかもって気がする」
「俺も未雨ちゃんの引き合わせみたいなもんだしな」
「そうだよね!」
「リアルでは、いつも青葉が未雨ちゃんを守ってあげてたんだろうけど、結構未雨ちゃんも、青葉にいろいろしてくれてたのかもね。そして今もしてくれているのかも」
「・・・・かもね」
彪志は来てくれているものの、青葉はコーラス部の全国大会が目前なので、毎日練習に出かける。日中結果的に彪志は放置されてしまった。初日は一緒にお昼を食べたあと、青葉が学校に練習のため出かけたのと入れ替わりに桃香と千里が戻ってきたので、桃香につかまって3人で桃香の部屋でおしゃべりすることになる(千里は布団に入り横になっている)。
同じ理学部なので、数学や物理などの話題から、教官の噂話などまでけっこう話がはずんだ。
「でも同じ学部にいる割には学内であまり遭遇しないよね」
「そうですね。まだ2-3回しか会ってませんね。でも、何度か会った時、いつも桃香さんと千里さん、ぴたりとくっついていて仲よさそうだなあと思ってました」
「うん。私たちは仲良いから」と桃香。
「同じ授業を取ってるんですか?」
「うん。ゼミは違うからそれだけは仕方ないけどね。それ以外の授業は全部一緒」
「すごいなあ。同学年だとそういう付き合い方できますよね」
「彪志君はピザ屋さんのバイトと言ってたね」
「ええ。配達ばかりで店内の接客が無いから結構気楽です。お二人はバイトどうしてます?」
「私は通販会社の電話オペレータをしてたのだけど、事業縮小で6月いっぱいで終了。でも勉強の方も忙しくなってきたから新たなのは入れてない。当面は奨学金頼り。でも千里が体力回復するまではずっと付いていてあげたかったから、ちょうど良かったけどね」
「そうですよね。理学部は忙しいから上の学年になるほどバイトも選びますね」
「そうそう。千里は1年の時からファミレスに勤めていて、今、夜間店長なのだよ。取り敢えず7月下旬から8月いっぱいは休職の予定。このまま辞めたら?とも言ったのだが頑張ると当人は言っている」
「ファミレスは体力使いそう」
「ピザ屋さんも夜間のシフトはけっこうきついだろ?」
「午前中の授業が辛いです。一応朝2時間くらいは仮眠取ってますが」
「千里もほとんど夜のシフトだが、千里が授業中に居眠りしているの見たことがない。どういう体力してんだか」
「大学が終わってから夕方までの2時間、晩御飯たべてから出勤までの間の3時間、勤務時間中の休憩で1時間、帰宅してから大学に出るまでの1時間で、合計7時間寝てるから大丈夫だよ。火曜と水曜は休みだから、その間にも寝るし」
と布団の中から千里が言う。
「お買い物は桃香がしてくれてるしね」
「私は千里が書いてくれているメモ見ながら買ってるだけだけどね。ただ、私はあまり料理が得意ではないから、見当外れのものを買っていって千里が当惑していることがある」と桃香。
「そういえば、切干大根を頼んで青首大根が転がってた時はどうしようかと思った」
と千里。
「ジャガイモと書かれていれば分かるが品種を指定されると見ても分からんし」
「メークィーンくらいは覚えて欲しいけど」と千里。
「ああ、でも買い物って難しいですよね」
青葉は夕方16時頃帰って来たが、シャワーを浴びた後、リモートで和実のヒーリングを少ししていた。その内朋子が帰宅し、晩御飯を作る。晩御飯の当番も、8月いっぱいは朋子がやるということになっていた。
「桃香がやってくれると助かるんだけどね」と朋子。
「冷凍食品とレトルトだらけになっても良ければ」と桃香。
彪志は夕食の時に、青葉が物凄い量食べるのに驚く。
「青葉。。。。こんなに食べてたっけ?」
「24時間ありゃジェット機だって治る。食い物持って来い・・・って状態」
「よく、その映画知ってたね」
「お母ちゃんがTSUTAYAで毎週2枚DVD借りてきてくれるんだよ」
「なるほど」
「自分も含めて3人分の傷を治してるから、ここのところずっと4人分くらい食べてるよ」
「凄い。いつものんびりお仕事の青葉の胃腸さんが、ずっとこき使われてるんだ」
「うん。たまには頑張ってもらわなくちゃ」
夕食後、青葉は桃香の部屋に入り千里のヒーリングをする。ヒーリングのため千里が肌を露出するので、彪志は目を瞑っているように桃香から言われ、目を瞑り青葉に手を引かれて中に入り、会話に参加した。おやつなどを青葉がとってあげているので「あ、いいな」などと桃香は言っている。
10時頃、ヒーリングを終えたが、彪志は青葉から「絶対ひとには見せられない作業があるから」と言われ、居間で1時間ほどテレビを見ながら待機していた。やがて携帯メールで「もういいよ」と言われて、青葉の部屋に行く。彪志が行くと青葉は布団の中で横になりヒーリングの波動で自分の身体を覆っていた。
「あ、そのままでいいよ」と彪志は言い、布団の脇に座って青葉の右手を握った。
「ありがとう」
「青葉きつそうだし、今日はHやめとこうよ」
「そうだね。でも一緒に寝たい」
「添い寝してあげるから」
「うん」
彪志は服を脱ぎ、裸になって青葉が寝ている布団の中に潜り込む。そっとお腹に手を当てる。
「あ、気持ちいい。その手、そこに置いててくれる?」
「うん。『手当て』だよね」
「そうそう」
「青葉、裸なんだね」
「というか服で身体を拘束したくないから」
「なるほど」
「裸でお布団の中に入るの、気持ちいいじゃん」
「うんうん」
「彪志、手はきれい?」
「さっきお風呂に入ったばかりだよ」
「だったら触っていいよ。でもまだ揉んだりしないでね」
「あ、うん」
彪志はおそるおそる青葉の新しい股間に触る。茂みの中に柔らかいスリットがある。
「タックと違って、そこ開くから」と青葉が微笑んで言う。
「うん」
彪志はおそるおそるその中に指を入れた。ほのかな湿度がある。
「でも俺が触って痛くない?」
「触るだけなら問題無いよ。いじられたらちょっと痛いかも」
「じゃ、そっと触るね」
「わあ、すっかり女の子になったね・・・あ、ここ」
「そこがヴァギナの入口。まだ使えないけど、使えるようになったら、彪志のおちんちんを入れてね」
「うん」
「でも、青葉って、ずっと前からこういう身体だったみたいな気がする」
「そう?そう思ってくれると嬉しいかも。私も昔のことは忘れたから」
あまり長時間触ってると痛いだろうからと言い、彪志はその日はちょっと触るだけでやめて、また青葉のお腹の上に手を置いてあげた。お腹の上に戻す前に指を舐めたら「やだ」と青葉が恥ずかしがるように声をあげた。
12時頃、青葉は彪志が眠ってしまったのを確認してから、そばのポーチを取りダイレーターをそっと挿入した。これ入れてる所はさすがに見せられないもんねー、おやすみ、と心の中でつぶやいてから眠りに就いた。
翌日は青葉たちのコーラス部が隣町で行われる港祭りに出るというので彪志はその時間に見に行った。隣町の中学のコーラス部が歌い、それに続いて友情出演という名目でステージに上がる。そちらのコーラス部の顧問の先生が寺田先生と大学の同期だったことで、出してもらったらしい。
彪志はてっきり青葉が歌うのかと思っていたら、青葉はステージ脇で立って見ている。彪志は寄って行って声を掛けた。
「青葉は歌わないの?」
「まだ体調が完全じゃないからね」
「ああ、やっぱりそれを笑顔と空元気で誤魔化してるんだな」
「ふふふ。それより、私がまだ万全じゃないってことにして、2年の子にソロを歌わせる場数を踏ませてるのよ」
「へー」
「見てて」
彪志が見ているとAKB48の『ヘビーローテーション』で出だしの部分「I want you」
から「ヘビーローテーション」までの所を、ひとりの子がソロで歌い(もうひとりのソロ歌唱者がそのエコーを歌い)、他の子たちはハミングで和音を奏でている。その後、「ポップコーンが」から全員合唱になる。
「うまいじゃん」
「そう。うまいのよ。表現力だけ見れば私よりうまい。でもこの子、無茶苦茶本番とプレッシャーに弱いんだ」
「ああ。それはほんと場数を踏ませるしかないね」
「でしょ?」
「あとは、緊張する時間が無いくらい突然言ってやらせるか」
「なるほど。その手はあるな」
と青葉はイタズラでも考えるかのような顔をした。
その日、港祭りでのステージが終わった後、学校に移動するバスの中で数人の2年生女子から質問が出た。
「川上せんぱ〜い、さっきステージ横で話していたのは誰ですか?」
「あ、私の彼氏だよ」と青葉はあっさり認める。
「きゃー」
過去にさんざん青葉のおのろけを聞き出している3年生たちはニヤニヤしてる。
「大学生ですか?」
「うん。今年、大学に入った」
「どこの大学ですか?」
「千葉大学だよ」
「わあ、遠距離恋愛になっちゃったんですね」
「あ。彼とはもう遠距離恋愛を3年続けてるから」
「えー?」
「私が小学6年生の時からの付き合いなんだけどね」
「すごーい」
「でも付き合い始めてすぐ、彼が青森県に転校しちゃったから。当時私は岩手に住んでたんだけど」
「青森と岩手って、こことどこくらいの距離ですか?」
「直線距離では高岡から長岡くらいまでだけど、交通の便が悪いから東京くらいまで行く感覚に近いかな」
「わあ、小学生にとっては絶望的な距離」
「よく続きましたね」
「キス済みですか?」
「もちろん」
「セックス済みですか?」
「まだ女の子の身体になってからはしてないけど、手術前には何度かしたよ」
「きゃー」
「じゃ、新しい身体ももう予約済みなんですね?」
「そうそう。高校に合格したら、しようって約束してるよ」と青葉。
「あ、それいいな」
「私も彼氏とそんな約束しちゃおうかな」
「あんた、彼氏いたの?」
「これから作る」
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