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■春望(4)

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翌朝、7時に目が覚めた。こんな時間まで眠っていたのは珍しい。いつも朝4時に目が覚めるのに。のんびりと顔を洗う。自宅に電話して母と桃香と少し話した。
 
しかし、ヒーリングを10時間近く掛けっぱなしにしていたので、無茶苦茶お腹が空いている。ホテルの近くのマクドナルドに行き、マックグリドルのセットを3人分買ってきて、ぺろりと食べてしまった。満腹すると少し眠くなってきた。
 
「もう少し寝ようかな・・・・」
 
青葉は再度ベッドに入り、また自己ヒーリングを掛けて眠った。
 
起きたら9時半だった。ちょうど1時間半寝たようだ。睡眠の1周期である。身支度を調えて会場に向かう。
 

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10:45に会場前でみんなと合流する。
 
「昨夜は彼氏の所に泊まったんですか?」と訊かれる。
「まさか。都内のビジネスホテルでゆっくりとひとりで寝たよ」と青葉。
「そのホテルに彼氏がやってくるということは?」
「彼は夜間はピザ配達のバイトだもん」
「そのホテルにピザを注文したとかは?」
「さすがに千葉から東京まで宅配しないよ」
 
「でも良かったんですか? せっかくこちらに出てきたのに」
「そもそも部長の私が、大会前夜に彼氏の家に泊まってたりしたら、デートの回数を減らしても練習に頑張ってきた部員みんなに示しが付かないじゃん」
「おお」
 
「部長って大変だ」
「いや、大変なのは部長の彼氏だよ」
「なるほどー」
 
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先に演奏したのは柚女たちの学校であった。午前中に登場し、宮城県出身の著名作曲家が昨年書いた力作『復興組曲』の最終章『明日へ』を歌う。今年は全国大会に来た学校の中で東北のみならずこの曲を自由曲に選んだ学校が5校もあった。伸びがあり情感のあふれる歌い方をする柚女の歌声が素晴らしかった。
 
午後に入って椿妃たちの学校が登場する。こちらは有名な混声合唱組曲『蔵王』
の最終章『早春』をソロ付き女声合唱に編曲し直したものである。『蔵王』を使う学校も椿妃たちの学校の他にもう1校あった。ずっと合唱をやっていると1度くらいは練習したことのある人も多い曲なので、小さい声で一緒に歌っている人たちも会場には結構あった。
 
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歌里の歌うソロはピュアなトーンが美しい。まるで人間の喉ではなく楽器から発せられているのではと思いたくなるほど純粋な透き通る声である。同じように独唱者としての素質のある柚女と歌里だが、表現力のある柚女の声質はメゾソプラノ向き、ピュアな歌里の声質はソプラノ向きだと青葉は思った。
 
かなり最後の方になってから青葉たちの学校の出番となった。寺田先生が青葉に近づいてきて「ほんとにいいの?」と訊いた。「はい、お願いします」と青葉は答える。やがてまず課題曲の歌唱者がステージに並ぶ。青葉と葛葉はソプラノの前列に並んで立った。先生の指揮で演奏が始まる。青葉も葛葉ものびのびとこの曲を歌った。
 
そして自由曲を演奏するのに歌唱者を一部入れ替える。全国大会でも中部大会と同じ12人を入れ替えることにしていた。その入れ替えが行われている時、青葉は隣の葛葉に言った。
 
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「葛葉、やはり私ちょっと体調が良くないの。悪いけど、ソロは葛葉歌ってくれない?」
「えー!?」
「中部大会では私頑張ったもん。今度は葛葉が私を助けてよ」
「でも」
「全国大会だもん。どうせ上位には入れないし。順位とか関係無いから、お祭りで歌ったのと同じ感じで、気楽に歌えばいいよ」
「分かりました! 中部大会はほんとに申し訳無かったし。頑張ります」
「よろしく」
 
青葉はOKサインを寺田先生に送った。先生が頷き指揮を始める。
 
青葉はふつうにソプラノパートを歌い始める。葛葉も一緒に最初はふつうのソプラノパートを歌う。そしてやがてソロの部分。葛葉がソロパートを歌い始めたので、え?という顔をしている部員も多数いる。青葉は微笑みを湛えてふつうにソプラノパートを歌い続けた。
 
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やはり葛葉うまいじゃん、それにしっかり歌っている、と青葉は自分のパートを歌いながら思った。
 
1分48秒のソロパートが終わる。葛葉は昂揚した顔をしている。気持ちいいもんね、ソロってと青葉は思った。
 
やがて演奏を終了する。先生が礼をして全員ステージ袖に下がる。
 
「青葉どうかしたの?」と3年の部員から訊かれる。
「うん。体調が微妙だと思ったから葛葉に代わってもらった」
「残念だったね。最後の大会なのに」
「やっぱりまだ完全じゃないのね? 女の子になる手術してまだ1ヶ月だもんね」
「でも葛葉うまかったでしょ?」
「うまい、うまい。葛葉は倒れたりしない限りは、うまく歌うね」
 
その葛葉は2年生女子たちにもみくちゃにされている。それを見守って青葉は満足げな表情を浮かべた。寺田先生がポンポンと青葉の肩を叩いた。青葉は目で先生と会話した。
 
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それは大会の一週間前の夜、青葉が先生の御自宅に電話してふたりで話して決めたことだった。
 
「確かに歌う直前になってソロ歌えと言われたら、松本さんも緊張する間が無いだろうけど、あなたはいいの? だってあなたにとっては最後の大会なのに」
と先生は言ったが、
 
「さすがに全国大会で歌えば、葛葉も自信が持てるでしょ? 精神的に弱すぎるソロ・シンガーを残して卒業していけません。ソロひとり育てるためなら、出番くらい譲りますよ」
と青葉は言った。
 

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やがて全参加校の演奏が終了し、休憩の後、成績が発表される。全国大会では1位の学校から順に10位までが発表される。うちステージで表彰状を受け取るのは3位の学校までで、4位以下は事務局で賞状が渡されることになっている。
 
1位は今年は高知の中学であった。全員(交替する人も含めて)でステージに上がり、表彰状と盾が授与され、優勝旗が渡される。そして自由曲『千の風になって 』
を歌う。みんな知っている曲なので、会場全体が合唱状態になった。
 
2位は宮城県の中学だった。本人たちもびっくりだったようで、なんか凄い騒ぎになっている。ステージにあがるように言われるが、泣いている子もいる。部長さんと副部長さんが笑顔で表彰状と盾を受け取り、自由曲『復興』を歌った。
 
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青葉たちはもう表彰式も残り1校だし、そろそろ会場を出る準備をしよう、などという雰囲気になってきていた。青葉もプログラムをバッグの中にしまい隣の席の日香理と二言・三言、小声でことばを交わしていた。
 
その時、司会の人から「3位、中部地区代表、富山県・◎◎中学」と呼ばれた。青葉は一瞬、日香理と顔を見合わせた。更に周囲の子たちとも当惑したように顔を見合わせる。動きが無いので司会の人があらためて「◎◎中学の生徒はステージに上がってください」と言う。
 
「えー!?」という声が数ヶ所から上がった。続けて「きゃー」という歓声。隣同士で抱き合って、凄い騒ぎになる。青葉は日香理と抱き合ってキスし、美津穂や、葛葉とも抱き合った。
 
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「◎◎中学、早く上がってください」とまたまた司会の人から言われてしまった。みんな興奮して48人の生徒(歌唱者35+12人、ピアノ1人)と先生でステージに上がる。青葉と美津穂で前に出て、青葉が3位の表彰状、そして美津穂が盾を受け取った。
 
ピアノ担当の子がピアノの前に座る。先生が指揮台に就いた。葛葉が
「今度は川上先輩、歌ってください」と言う。青葉は頷いた。
 
『立山の春』の曲が進む。青葉も葛葉もソプラノのパートを歌っている。やがて、ソロの所が近づいてくる。青葉は隣の葛葉にニコっと微笑みかけるとソロパートを歌い始めた。
 
あれっ? けっこうお腹に力が入る。やはり昨晩ひたすら自分をヒーリングしたのが効いてるのかなと思う。青葉の声を聞いて葛葉が目を丸くしている。他にも「わあ」という感じの顔をしている生徒がいる。何だか観客席でもざわめくような反応。その時、青葉は自分の声が自分が思っているのよりも遙かにパワフルに出ているのを感じた。
 
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そして・・・・・自分の体内の気の巡りが、かつて経験したことのないような力強いものになっていることにも気づいた。
 
そうだ。。。師匠から言われたんだった。手術が終わって半月もしたら今まで男の身体で封印されていた本来のパワーがちゃんと出るようになるぞって。女の身体になる手術を受けてから1ヶ月経っているが、やはりその間、他人のヒーリングをひたすらやっていたので、自分自身の回復が遅れたからだろう。
 
今青葉は女としてのスタート台に立ったことを意識した。
 

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表彰式が終わり、会場の全員で課題曲を歌ったあと、解散となり、大半の学校の生徒が、隣の体育館で開かれる交流会に移動する。
 
青葉と日香理はまた携帯で連絡を取り合い、椿妃・歌里・柚女たちと落ち合った。
 
「青葉が歌うとばかり思ってたら、別の子がソロ歌うじゃん。えー?と思ったんだけど、歌ってる子が凄くうまいから、わあ、こんなにうまい子がいたら青葉でもソロを取れないんだ、なんて思ってたのに、表彰式の時の青葉の歌はもう全てを超越してたね」と椿妃。
 
「あの表彰式の時のソロ聴いて、負・け・た〜と思った」と柚女。
「右に同じです。私、この1年で随分上達したという自負があったけど、まだまだ目標は遙か先なんだということを思い知らされました」と歌里。
 
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椿妃や歌里の学校は5位、柚女の学校は7位であった。
 
「青葉が中部大会で歌った時は神がかったものを感じたんだけど、今日の青葉はもう絶対最高神そのものって感じだったね」と日香理。
 
「そういう褒め方されたら、私この後どう歌えばいいのよ?」と青葉が言う。「やはり、もっともっと歌を究めていくんですよね?」と歌里。
 
「私、中学でコーラス部は卒業と思ってたけど、高校に行ってもまだやろうかなって、さっき歌った時、我ながら思った」と青葉。
 
「あんな歌を歌えて、コーラス辞めるなんて許さん」と椿妃。
「高校でもまた全国大会で会いましょう」と柚女は言い、ふたりは硬い握手を交わした。
 

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帰りは、他の部員と一緒にその日最終の新幹線と「はくたか」を乗り継ぐ。5位以内になったらステーキをおごってやると言っていた教頭先生はとりあえずみんなに紅茶をおごってくれて「ステーキは帰ってから明日ね」と言っていた。
 
「先輩、ずるいです。あんな凄い歌が歌えるのに、私に歌わせるなんて」
と新幹線ホームで葛葉は言ったが、青葉は
「全国3位は葛葉の歌で取ったものだということを忘れないように。葛葉の歌も今日は凄くよくできてたよ」
と笑顔で言った。
 

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その日の深夜、帰宅した青葉を迎えた朋子は
「お前、どうしたの?」
と訊いた。
「私、どうかした?」
「物凄く元気になってる。ほんとに完全回復したみたいに見える」
「私はもうパーフェクトだよ」
と青葉は笑顔で答えた。
 
その日の夜は青葉は夜間の自己ヒーリングをする必要を感じなかったので、代わりに石巻にいる和実に連絡してラポールを架けヒーリングしてあげた。するとヒーリングを始めて間もなく《何かあったの?凄いパワーアップしてる》と和実からメール。青葉は微笑んで《100%女の子になったから》と返信した。
 
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