広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■春歩(13)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-12-02
 
2022年5月20日(金).
 
バスケット女子日本代表の第1次合宿が終わり、オーストラリア遠征に行くメンバーが発表された。27名から一気に15名に減らされた。ここで佐藤玲央美は落とされたが、千里は残された。
 
「うっそー!?総合力では明らかにレオの方が上なのに」
「総合力の高い選手は多いけど、千里は特異だから残されたのだと思う」
「うーん・・・」
「頑張ってね。もし最後まで残ったらキャプテン確実」
「キャプテンはやりたくなーい」
「あはは」
 
ということで、千里(千里3)は5月21日から、オーストラリアに向かった。
 

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5月21日(土).
 
アメリカで、WBDAのシーズンが“始まった”ものの、この日は1試合だけが行われ、他の試合は片方が出場辞退して試合としては行われなかった(辞退しなかった方(選手が最低5人居た側!)が 1-0 で勝利となる)。
 
コロナの状況が酷くて、とても試合が組める状況ではないようである。
 
次の試合の予定は未定ということであった。
 
千里(千里1)たちのスワローズは何とか開幕までに選手が7人まで揃ったものの、当面、試合は無さそうである。
 

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その日の夕方、桜坂はお店を料理長の井原に任せて売上金を持ち、コンビニに行って、ATMで口座に入金した。父の代には銀行の夜間金庫を使用していたのだが、契約していた銀行から9月いっぱいで夜間金庫を廃止するという通知が来ていた。それで桜坂は売上金はコンビニのATMを使って口座に入金する方法を採ることにしている。
 
(夜間金庫の手数料がそもそも高い(月1万円程度)ので、近年経費節減のため、夜間金庫の契約をせず、コンビニのATMを使う商店が増えて、夜間金庫の利用者は激減している。それに伴い、犯罪も頻発していた夜間金庫を廃止する銀行が増えている)
 
コンビニを出た後、自宅に向かう途中、妻から「醤油が切れてるから買ってきて」と言われていたことを思い出す。妻は、全国メーカーの醤油は美味しくないと言い、地元の醤油製造所のものを好む。醤油が違うと料理の味付けが全く変わるので、醤油の味は結構重要な問題である。料理長の井原さんも、ここの醤油を使う。この醤油はスーパーに行かなければ売っていない(コンビニやドラッグストアには無い)ので、桜坂は近くのショッピング・センターに向かった。
 
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醤油のついでに、食パンと明治チョコの大袋、ついでに金麦2本も買い、レジを出る。それで店を出ようとした所で、出入口そばにある、宝くじ売場のおばちゃんに声を掛けられた。
 
「桜坂さん、ジャンボ買った?」
 
御近所に住む紺村さんちのおば(あ)ちゃんだ。田舎はこういう付き合いが面倒臭いと思う。でも宝くじくらいはいいか。
 
「まだだった。じゃ1セットちょうだい」
「連番?バラ?」
「どうせ1等前後賞なんて当たらないからバラで」
と言って3000円出す。
 
「はい、どうぞ」
と言って、おばちゃんは1パック渡してくれた。
 
「でも1等3億円当たったらどうします?」
「そうだなあ。性転換手術と美容整形手術受けて、美少女に変身して櫻坂46にでも入ろうかな」
 
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(↑放送局時代によく言ってた冗談)
 
「それ私もやりたい!」
「紺村さん、性転換して女の子になるの?」
「私は性転換したら男の子になるよ!ジャニーズに入ろうかな」
「それもいいかもね」
 
「でも私の兄の会社の同僚の人の従弟が去年1等前後賞当てたよ」
 
ほぼ他人じゃん!
 
「すごいね。性転換した?」
 
「性転換はしなかったけど、それを頭金に豪邸を建てたらしいよ」
「へー。凄いね」
と言いながら、無防備過ぎると思った。当たったことを従兄とかにまで話してしまうと、しばしば悲惨な結末になりがちである。宝くじの高額当選は、絶対に誰にも話してはいけない。話してよいのは配偶者だけである。特に親に知られると、物凄く悲惨なことになる。絶対に人間関係が崩壊する。それに家を建てるにも、それで全額支払うのではなく頭金って、ローンを払えるのか?
 
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(↑多分住宅ローン減税狙い。現金で買うと減税対象外である)
 
それでお店を出たが、桜坂はこの宝くじをバッグの中に放り込み、きれいさっぱり忘れてしまった。
 

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その日春貴は女子バスケット部の練習が終わった後、買物に行こうと思い、学校を通勤用のパッソで出てから、少し遠出(といっても5kmくらいだが)してマックスバリュまで行った。ひとり暮らしなので、食材の買い方がなかなか難しい。あまりたくさん入っているものを買うと、始末に困るので、お肉などもだいたい150gとか200gとかのパックを買っている。それにしてもロシアのウクライナ侵略開始以来、物がどんどん値上がりしているのには困っている。
 
取り敢えず1週間分くらいの食材を買って表に出る。ふと宝くじ売場が目に入った。
 
たまには買ってみようかな。
 
売場のおばちゃんに声を掛けた。
 
「今、何の宝くじ売ってます?」
「今ならドリージャンボやってますよ。いかがですか?」
「じゃ買っちゃおうかな」
「連番?バラ?」
「じゃ一等前後賞狙いで、連番で」
と言って3000円出す。おばちゃんが「はいどうぞ」と言って1パック渡す。
 
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「やはり、当たったら大きいもんね。1等当たるといいね」
「ええ。1等前後書当たったら、それで自分専用の体育館建てようかな」
「そういう夢もいいね」
 

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5月20日(金).
 
水泳のアジア大会・ユニバーシアードの代表はこの日、羽田からムーランエアーの所有機A330でスペインに飛んだ。水車マークの機体は見たことのない人も多く、搭乗前に写真を撮っている選手も多く居た。
 
ムーランエアーには元々はフライトアテンダントは居なかったのだが、A330を導入した時に6名採用しており(全員経験者。普段は郷愁・ミューズ・イムタのどこかでグラントホステス業務をしている)、今回の渡航には、全員投入された。
 

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選手たちの多くは、グラナダ空港で、シェラネバダ行きのバスに乗ったが、一部の選手は降機せずに残るよう言われ、結局マルセイユ経由でフランクフルト・ハーン空港(*15)まで行った。そしてマルセイユで7人とハーンで13人(いづれもコーチ役の選手を含む)降りて、各々分離合宿となった。
 
津幡組の福山希美と広島夏鈴、同じ短距離選手でBB水泳部の吉岡さんと観鳥さん、ZZスポーツクラブの永井蒔恵、女子800mユニバ代表の田口さん(STスイミングクラブ)の選手6名、および臨時コーチを頼まれたZZスポーツクラブの七剣さんはマルセイユ・プロヴァンス空港(実際にはマルセイユから27km離れたマリニャーヌにある)で降りて、マイクロバスで30分ほど走り、マルセイユ郊外の邸宅に到着した。
 
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(*15) フランクフルト・ハーン (Frankfurt-Hahn) 空港はフランクフルト・アム・マインから直線距離で100km, 道のりで125kmほど西にあるハーンという小さな村(人口200人:2000人ではない)にある空港である。元々はNATOのハーン空軍基地のあった場所だが、冷戦終了により1993年に基地は閉鎖。その跡地が民間飛行場に転換された。格安航空会社が多く利用している。
 
日本で“東京北空港”にしたいという意見もあった茨城空港は、東京から直線距離で80km, 道のりで100km ほど離れている。つまりこの空港にフランクフルトの名前を冠するのは、東京北空港より酷い。
 
なお距離がありすぎるとよく言われる仙台空港でも、仙台中心部から直線距離15km, 道のり20km程度である。
 
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(福島空港はあれは多分“福島県にある空港”。福島市中心部とは直線55km, 道のり80kmほどある。また鹿児島空港は鹿児島市中心部から直線30km, 道のり40kmくらいである。さんざん批判されて新東京国際空港から改名した成田空港の場合は、東京中心部から直線55km, 道のり70kmであった:福島市と福島空港の関係に近かった)
 

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「みなさん、お疲れ様です。ここの空港遠いですよね」
と邸宅から出て来た千里がにこやかに選手たちに言う。
 
「千里さん!ここは何かの施設ですか?」
と希美が尋ねた。
 
「ここは私の自宅のひとつ。この家の地下にバスケットボールのコートと、プールがあるので、そこで世界水泳の直前まで合宿していただこうと。でも今夜は遅いから、取り敢えず宿舎に案内しますね。詳しい説明は明日」
 
と言って千里は7人を邸宅の後方に建つ別棟に案内した。
 
「各々の部屋を合宿中、自由にお使いください。部屋の入口にお名前を書いています。1階に希美ちゃん、夏鈴ちゃん、蒔恵ちゃん、七剣さんのお部屋、2階に吉岡さん、観鳥さん、田口さん、のお部屋。1階と2階の間はエレベータでも階段でも移動できます」
 
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(ここは女子ばかりなので“ゲート”は設置していない)
 

「名前呼びと苗字呼びの差は?」
と永井蒔恵が尋ねる。
 
「津幡組は身内だし。蒔恵ちゃんも一時期津幡に居たから、準津幡組ということで」
「うちの会長がそちらの会長と大バトルしたという噂が」
 
「最後は笑顔で握手したらしいからOKね」
と千里。
 
「部屋の中の最低限の説明をしておきます。夏鈴ちゃんの部屋をちょっと貸してね」
と言って千里は全員を部屋の中に入れた。
 
「お部屋にはお風呂とトイレが付属しています。湯沸かしケトル、電子レンジ、オーブントースター、IHヒーター、テレビ、パソコン、冷蔵庫、洗濯機、ご自由にお使い下さい。日本の雑誌も適当に揃えましたが、読みたい雑誌があったらリクエスト下さい。テレビはフランスの放送局のほか、日本のアベマTV・あけぼのTVなども映りますが、時差にご注意下さい。部屋ではWi-fiが使えます。暗号化キーは今お配りします」と千里は言って、全員にキーをプリントした紙と各々の部屋の鍵(電子キー)を配った。
 
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「食事は朝昼晩、お部屋にデリバーしますが、お腹が空いたり、おやつが欲しい時は、いつでもそちらにある呼び鈴でお呼び下さい。スタッフがお届けします。日本のカップ麺や代表的なチョコ菓子も用意しています。欲しい食べ物や雑貨などがありましたら、可能な範囲で調達します。好みの生理用品は私宛てメッセをもらえたら、調達しておきます」
 
「一応この後、各部屋に今夜のお食事をデリバーしますが、食べずに寝る人はトレイごと冷蔵庫に入れておいて夜中に起きた時にチンして食べるといいと思います。明日の朝くらいまではもつと思いますが、お昼頃まで残っていたら捨てて下さい。こんな所でもったいながって、お腹を壊したら、いけません」
 
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「こちらに控えておりますメイドは、フランス人のアナベルとロザリー(*16)です。呼び鈴を押したらどちらかとインターホンで話せると思います。日本語は分かりませんが英語は通じます。ドイツ語とスペイン語も話せます」
 
「明日朝9時にプールにお連れします。それまでゆっくりお休み下さい」
 
と言って千里はその日は出て行った。
 
(*16) アナベル(Annabelle) もロザリー(Rosalie) も、フランスではわりとありふれた女性名のひとつ。フランスでは近年まで、赤ちゃんの名前に使用できる名前のセットが定められていた(誕生日の守護聖人の名前の中から選ばなければならない:名前を聞いただけでフランス人には誕生日が分かる)ので、男性名も女性名も種類が少ない。
 
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アメリカのフォークソング『テキサスの黄色い薔薇』に「You may talk about your dearest May and sing of ローザリー」という歌詞があるが、このローザリーは Rosa Lee で、名前はローザさん、リーは苗字である!
 

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そして翌朝、7人をプールに案内し、1人1レーン割り当てるので、24時間好きな時に好きなだけ泳いでと言うと
「凄い環境!まさに合宿ですね」
と田口さんが感動していた。
 
「ま、これがいつも提供されているのが津幡組だね」
と永井蒔恵が言う。
 
「もしかして普段も専用レーンなんですか」
「うん。他の人は使わないから、いつでも好きなだけ泳げる」
「うらやましーい」
 
「欧米のトップクラスの選手もそういう環境で練習してると思う。Practice never tell a lie だよ。効率よく練習するのではなく、ふんだんに練習することが勝利への道だよ」
 
と永井蒔恵は言った。
 
「ま、疲れたら休んでね。プールは逃げてかないから、無理して溺れても責任持てないから」
 
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「いつでも使えるという感覚があると、実は無理せず疲れたら寝るんですよ」
と希美が言う。
 
「その辺りも時間指定で練習しなければならない環境と、制限が無くていつでもできる環境との差だよね」
と千里は言った。
 

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