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■春歩(6)

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その日の放課後、春貴は女子バスケットボール部員を化学実験室に集めた。
 
「みんな、土日は頑張ったね」
「頑張った気がしますー」
と2年生から声が出る。
 
「まあ、昨日は強い所に当たって負けちゃったけど、その強い所と試合をしたことで得られたものもあると思う。それを糧(かて)に、来月のインターハイ予選では優勝を狙おう」
 
「優勝、いいですねー!」
「今年のインターハイは香川県だよ」
「おぉ!」
「讃岐うどん食べに行こうよ」
「讃岐うどん、いいですねー」
 

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「練習場所については、とにかく屋根のある所で練習したいと要望を上にあげているから、もしかしたら何かしてもらえるかも知れない。あまり期待せずに待ってて」
 
「体育館、少しでももらえたらいいなあ」
 
「さて、それで、インターハイ予選までの練習なのだけど、ここ半月ほどやってきた、ミドルシュートの練習に加えて、プレイの正確性というものを練習に入れていこうと思う」
 
「正確性ですか」
「こちらはあまり、おかさなかったけど、対戦チームの選手がボールを奪おうとして、こちらの手とかに触れてしまい、ファウルを取られる例が多かったよね」
 
「多かったてすね!」
「うちはあまり取られなかった」
「というか、今のうちの技術では相手が持ってるボールを奪うのは無理」
 
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「ま、それでその練習をしようというと所なんだよ」
「私たちにできます?」
 
「正確なプレイに心がければできる。ファウルになっちゃうのは、不正確に相手に手を伸ばすからだよ。相手の動きをよく見て、自分が手を伸ばした時、相手の持つボールはこの付近に来るはずだと予想して、そこに手を伸ばせばボールを叩き落としたり奪ったりできる」
 
「動体視力ですね」
 
「そうそう。それを鍛えよう。それで相手からボールを奪ったり、パスをカットしたり、シュートをブロックしたり、できるようになる」
 
「たくさん練習すればできるかも」
 
「その練習場所が確保できるかですね」
「うん。それは私の仕事」
と春貴は言った。
 

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春貴は翌日(4/26 Tue) 教頭と体育主任の先生から呼ばれた。
 
「練習場所としては不満だと思うんだけど、屋外よりはマシだと思ってね」
と言って連れて来られたのは、プレハブ造りの古い教室のようである。どうも美術室か何かとして使っていたようだ。
 
「ここは元は美術室だったのだけど、4年前に特別教室棟を建て直した時に美術室はそちらに移って、ここは空いていたんですよ。取り壊す予定だったのだけど、実は取り壊すための予算が出なくて」
「あぁ」
 
「窓が破れているのは直させますが、ここは板張りだということに気付いてね。Pタイルとかではなく板張りの方がいいですよね?」
「はい。その方が助かります」
「天上が低くて申し訳無いけど、ここを自由に使って下さい」
「いえ助かります」
 
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この教室は天井の高さが約4mである。バスケットのゴールの高さは3.05mなので、ロングシュートを撃つと天井にぶつかりそうだ(*8) でも屋外よりは随分マシかな、と春貴は思った。
 
なお、校舎裏の壁に打ち付けて留めていたゴールリングはその日の内に3つとも横田先生がこの部屋の壁に移設してくれた。多分、教頭にバレない内に移設したのだと思う!
 
(*8) 美奈子(158cm)が自分の頭と同じ程度の位置から高さ3.05mのゴールめがけてスリーを撃った場合、最も効率の良い50度の仰角(*9)で撃つと、最高点の高さは4.04m という計算になり、天井に美事にぶつかる。
 
(*9) 高校の物理では45度の仰角で発射するのが最も小さい力で済むと習うが、それは発射点と到達点の高さが等しい場合である。高低差がある場合は、方程式を代数的に解くことができず、数値的に解く必要がある。プログラムを組んで計算してみると、発射点が1.58m, 着地点が3.05mなら、最も小さい力で到達させられる角度は仰角50.02度という計算になる。
 
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春貴は「ロングシュート練習のため」と言って、移動ゴールは旧美術室内ではなく、そのそばの屋外に移動してもらった。
 
翌日(4/27 Wed) には割れていたガラスを交換してもらうことになったが、春貴はガラスではなくベニヤ板か、予算が無ければ段ボールとかにできないかと要請した。
 
「ボールがぶつかってもベニヤなら平気だよね!」
 
それで結局現在のガラスを全部取り外して、ほんとに段ボールを貼ってくれた。この作業は、手の空いている男性教師数人と男子バスケ部員!でやってくれた。きっと使用予算はゼロだろう。女子部員たちがクッキーを焼いて(材料費は春樹が出した)、手伝ってくれた先生や男子部員たちにプレゼントしていた、
 
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更には取り外した古ガラスは売却して3000円くらいになったらしい。古ガラスはグラスウールの材料になる。
 
しかしこれで女子バスケット部は取り敢えず、雨が降っても練習できることになったのである。
 

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4月27日(水).
 
この日から、H南高校(*10)の女子バスケットボール部は、念願の屋根のある所で練習することができようになった。
 
「屋根があるって、いいですね」
とみんな言う。
 
「風があるとパスしたボールがカーブするんだもん」
「先生にウッドカーペット買ってもらうまでは、ボールがイレギュラーバウンドして」
 
ここの広さは12m×18mくらいなので、コートの端から端までの長さ(28m)には足りないが、16mくらいならドリブル走できそうだ。
 
ところが・・・
 
「先生、床が波打ってるから、ドリブルしたら、ボールが変な方向に飛んで行きます」
「うむむ」
 
「先生、これまでドリブルの練習に使ってたウッドカーペットを敷いて、その上でドリブル走は練習したらどうでしょう?」
「でも距離が足りなくない?」
 
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あれは1枚1万円したので買い増しは辛い!
 
「細く切っちゃうとかは?」
「計算してみる」
 
春貴が(ポケットマネーで)買っていたウッドカーペットは3畳サイズ、つまり2.7m×1.8m である。これを半分に切ると、2.7m×0.9mのウッドカーペットが2枚できる。これを3組並べれば全部で2.7m×6=16.2m のレーンが生まれるはずである。幅は0.9mになっちゃうけど!
 

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春貴は体育館で男子たちを指導している横田先生に相談してみた。
 
「ああ、そのくらいやってあげますよ」
と言って、3枚のウッドカーペットを技術室に持ち込み、電動鋸を使って、全部真ん中で2つに切断してくれた。
 
「ありがとうございます!」
「ちょっと曲がったのは愛嬌」
「いえ、全然問題無いです。助かります」
 
それで春貴は、その6枚のカーペットを、女子部員たちと一緒にガムテープで旧美術室の床に貼り付けた。これで16.2mのドリブルレーンができた。
 
なお、この日には間に合わないが、部員たちが勢い余って壁にぶつかった場合の用心に、バスマットを買ってきて、翌日両端に貼り付けた。
 

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この後は、8人の部員の2人にドリブル走の練習(右手でドリブルして向こうまで行ったら左手でドリブルして帰ってくる)をさせている間に残りの6人は3個のゴールを使ってシュート練習をする。これで回していく。
 
しかしドリブル走した後は、息があがるので
「1分休ませて」
という声が出る。それで3年生2人の話し合いで、ドリブル走の後は1分休んでよいことになった。
 
こういう細かいことは、生徒たちに任せているが、練習のルールを自分たちで決めて行くのも楽しいだろうなと春貴は思った。
 
「でも春貴先生は私たちと一緒に練習してくれるから嬉しいです」
とキャプテンの愛佳が言っていた。
 
「前の顧問の先生は練習に参加してなかった?」
「練習には全く顔を見せませんでしたよ。部員の名前も覚えてくれなかったし」
「それでは事故があった時にまずい」
「横田先生はずっと男子バスケ部に付いているけど、ああいう先生の方が少数ですよ」
 
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「まあ色々な先生がいるかもね」
と春貴は言っておいた。
 

「移動コールは中に、いれないんですか」
という質問がある。
 
「あれはロングシュートの練習に使う」
「なるほどー」
「このま部屋の中でロングシュート撃つと天井にぶつかるからね」
「ぶつかりそうです!」
 
それで比較的ロングシュートが入っている感じの、美奈子と夏生をペアで外に出し、春貴も見ている中でスリーを撃つ練習をさせた。ライン引きを持って来て。ゴールを置いた場所から、6.75mの所に半円を描いた。そしてそこから場所を移動しながら撃つ練習をする。
 
「ビナちゃん、凄い。スリーが3回に1回“は”入る」
と夏生が言う。
 
「え?3回に1回“しか”入らないと思ってました」
 
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「いや、3割入れば、シューターを名乗れますよ」
と夏生が言う。
 
「じゃ、美奈子ちゃんは次回からはSG(シューティングガード)登録にしようか」
と春貴は言った。
 
「“ガード”を名乗るには、私ドリブルが下手なんですけど」
「それは愛嬌で。インターハイ予選が終わってから少し練習しよう」
「予選前には、しないんですか」
 
「だって、苦手なものを練習するより、得意なものを練習するほうが楽しいじゃん」
と春貴が言うと
「そうですよね!」
と2人とも同意していた。
 
もっとも、ロングシュート練習は、雨の日はお休みになる。
 

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この日の練習では17:35で旧美術室での練習を切り上げ、その後全員でジョギングに出た。これまで軽いウォーミングアップで校舎の裏を往復500m程度は走っていたのだが、やはり足腰を鍛えようよということで、この日からジョギングを練習メニューに取り込んだのである。
 
普通ジョギングは練習前にウォーミングアップを兼ねてやるものだが、練習の最後にすることにしたのは
 
「ジョギングやったら疲れて練習ができない」
という意見があったからである!
 
ジョギングのコースとしては体育館や校庭が使えたらいいのだが、生憎どちらも他の部が使っている。それで春貴は横田先生に許可を取って校外のコースを走ることにした。事前に春貴自身で走ってみた、学校から出て片道1km程度のコースである。往復2kmでは大した量のジョギングではないのだが、現在の部員たちの体力を考えると、この程度が限界だろうと思った。
 
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このコースは車の通りが少なく、走りやすい。
 

キャプテンの愛佳が先頭、最後尾を春貴が走る。
 
「両側がほとんどたんぼばかりだ」
「元々そういう所に学校が建っているから仕方ない」
 
「でも街灯がずっと立ってますね」
「そうそう。だからジョギングコースとして使えると思った」
 
「街灯が無くて真っ暗闇の場所を走っていたら、部員が1人また1人と行方不明になっていったり」
「悪魔教信者の黒ミサに生け贄としてささげられたり」
「安いホラー漫画にありそうだ」
 
「私は、悪の組織に拉致されて改造人間にされるかと思った」
「あの改造人間というのも、いまいち目的が分からない」
「美少年を美少女に改造してあげるといいと思いまーす」
「昔そんな漫画があったなあ」
「あったんですか!」
 
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高速道路の高架があるので、そこで折り返して帰って来る。
 
「そこ、何かお店があったのかな」
 
結構広い土地があり、廃業したっぽい何かの店舗が建っている。ロープが張られていて「売地」と書かれている。
 
「2年くらいまでは焼肉屋さんがありましたよ。でもコロナで営業自粛させられたし、緩和されても、お客さん来なくて、潰れたんですよ」
 
「ああ、それは気の毒に」
「結構広い土地だね」
「田舎はみんな車で来るから、駐車場広く取らないと」
「そしてみんなお酒飲んで帰る」
 
「うーん・・・・」
 
「警察もこういう所のそばで待機してればたくさん検挙できるのに」
「田舎はそういう取り締まりが緩いよね〜」
 

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(*10) おことわり
 
氷見市にはリアルには「氷見高校」という高校がひとつあるだけで「H南高校」は架空の高校です。最初「氷見S高校」と書くつもりだったのですが、読者さんがリアルの氷見高校と混同するのを避けるため、こういう変則的な書き方をしています。“心(こころ)的”には「氷見南高校」です。
 
この高校は氷見南ICの近く(高岡市との境界近く)にあるという設定になっています。ですから実は春貴は実家(高岡市北部の伏木)からも通勤できるはずですが、たぶん9年間一人暮らしして今更実家には戻りたくないのだと思います。性別も変わっちゃったし。それであれこれ言われそうだし。
 
氷見市の市街地は市の中央に宝達丘陵から海岸に向かって伸びた尾根・朝日山で南北に分断されています。氷見高校はこの朝日山の上にあります。恐らくは市の北部からも南部からもアクセスしやすいようにという配慮か。
 
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この朝日山の南側には、古くは布勢水海という湖があり、大伴家持(おおとものやかもち)なども記述しているのですが、長い年月の間に少しずつ埋め立てられ、現在では十二町潟という小さな池が残るのみです。
 
氷見には以前もうひとつ有磯高校(*11)というのもありました。これは氷見女子高校・氷見農業水産高校という2つの高校が(実質的に)合併して作られたものでしたが、この学校は現在の氷見高校のすぐ近くにあったもようです。2012年に氷見高校に統合されています。
 
(実は1948-1951年にも氷見高校に一時的に統合されて“氷見高校分室”と呼ばれていた。氷見女子高校の校舎を使用したらしい←トイレの改造が大変だった気がする)
 
そういう訳で、氷見市の最南部には高校は無かったものと思われます。
 
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(*11) “有磯海”(ありそうみ)は富山湾の古称。越中国司だった、大伴家持(おおとものやかもち)が『万葉集』巻17-3959に
 
かからむとかねて知りせば越の海の荒磯の波も見せましものを
 
と詠んでおり(天平18年9月25日(Greg 746.10.18)に弟の死の報せを聞いて歌った歌)、これがこの言葉の語源と考えられる。つまり最初は荒磯だった?
 
↓富山県略図

 
“有磯”を冠したものは富山湾沿岸のあちこちに見られる。有磯海サービスエリアは県東部の魚津市にある。筆者が車で東京や東北から戻ってくる時は、たいていここで朝御飯を食べる。
 
この物語内部の架空の病院・有磯海クリニックは射水市にあるという設定。
 
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春歩(6)

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