広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■春動(20)

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「午後からは広い駐車場とかを実地に見てこようかと思います」
と青葉が言うと
「ああ。だったら私も同行しますよ。ドライバーと撮影係を兼ねて」
と幸花が言う。
 
「じゃお願いしようかな」
 
そんなことを話している時に、カメラマンの城山さんが入ってきた。この時、幸花・青葉・千里は、入口に近い側に3人並んでいた。パソコンの画面を一緒に見られるよう並んでいたのである。それで城山は自然にテーブルの向こう、奥側に座った。
 
「いやあ、疲れた疲れた。これお土産です」
と言って、“おたべさん”を出す。
 
「京都に行ってこられたんですか?」
「いえ。大阪の娘のところに行ってきました。大阪のお土産ってよく分からなくて、結局これを買いました」
「大阪って定番のお土産が無いですよね」
 
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「そうなんですよ。東京なら東京ばな奈とか人形焼き、名古屋ならウイロウとかゆかり煎餅、博多なら通りもんとかひよこ、北海道なら白い恋人とか六花亭、金沢ならあんころ、柴舟小出、中田屋のきんつば、でも大阪はそういう定番が無い」
 
「私も大阪に行く度に悩むんですよねー。神戸プリン買って帰ったり」
などと千里も言っている。
 
「お嬢さん、そろそろ卒業でしたっけ?」
「そうなんです。それで就職関係の書類が色々あったので」
「ああ、大変ですね」
 
「サンダーバードに乗っていたんですが、乗る時間が分からなかったので、飛び込んで、取り敢えず指定席の空いてる所に座って、車掌さんが回ってきて検札ですと言われたんで、ギリギリで飛び込んだから乗車券しか持ってなかったと説明して、指定席の切符を買いたいと言ったのてすが、指定席は売り切れだと言われて」
 
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(どうでもいいが文章が長い!)
 
「あらら」
「調整席は空いてないんですかと言ったら、最近は調整席用意しないんですよと言われました」
 
「昔は必ず調整席ってあったから、旅慣れた人は最初からそこに座ってましたよね」
「ええ。でもコンピュータで完全に管理するようになって、二重発券とかが起きることも無くなったので、調整席は作らないようになったという話でした」
 
「うん。どうもそうみたいですね」
 
昔は何かの間違いで二重発券してしまった場合や、政治家などが無理を言ったような場合に備えて、必ず列車には“調整席”が用意されていた。しかも昔は調整席の位置は決まっていたので、旅慣れた人は最初からそこに座っていたりした。しかし、後に調整席の位置はランダムになり、どこが調整席かは分からないようになる。そしてやがて完全なネットワーク管理の体制ができて、二重発券の恐れが無くなったこと、政治家などの無茶な要求へのマニュアルが整備され、断固としてお断りするようになったことから、調整席は現在ほぼ設けられていない。
 
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「まあ結局自由席の切符買って、そちらに移りましたが、けっこう空席があって助かりましたし、かえって指定席より密度が低かったですよ」
 
「それは良かった」
と幸花は言ったのだが、千里は言った。
 
「でも城山さん、感染してますよ」
 
「え〜〜〜!?」
「感染してから1日くらい経ってます」
「うっそー!?」
 
千里姉の眷属に病気に詳しい子がいるみたいだから、その子が気付いたんだろうな、と青葉は思った。
 
「ただちにかかりつけの病院などに電話してPCR検査受けてください」
「分かりました!」
「簡易検査キットさしあげますから自分で確認してください。簡易検査キットで陽性になったと言えばPCR検査してくれますよ」
 
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と言って千里はキットを1個渡した。
 
「ありがとう」
 
それで城山さんは部屋を出た。
 
千里たち3人も部屋を出て廊下に立つ。
 
幸花はすぐ神谷内さんに電話したが掴まらないので、石崎部長に電話した。すぐに消毒班が来て、部屋を消毒始める。城山さんから電話があり、簡易検査キットで、しっかり陽性が出たということだった。それで病院に連絡してPCR検査してもらえることになったらしい。
 
「君たちどのくらい彼と接触した?」
と石崎部長が訊く。
 
「10分くらいかな」
「マスクは?」
「もちろん全員してます」
「この部屋、換気扇も回ってますし」
「城山さんは換気扇のすぐそば、つまり風下に居ました」
 
むろん彼がそこに座るように千里姉がうまく誘導したのだろうと青葉は思った。
 
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「じゃ大丈夫かな」
「濃厚接触条件にはならないと思います」
「テーブルをはさんで座ってたから2mくらい離れてるし」
「良かった良かった。でも万一体調が悪かったりしたらすぐ言ってね」
「はい、もちろん」
 
それで部長は帰って行った。
 
「この“おたべさん”はどうする?」
と幸花。
「アルコールで外側を消毒すれば平気ですよ」
と千里。
 
「そだね」
 
ということで、もらうことにした。
 
(城山は結局、無症状ということで自宅待機になった)
 

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部屋の消毒も続いているので、3人は出掛けることにした。
 
まずは、多数の車が並んでいる、示野のイオンタウンに行ってみた。
 
「壮観だけど、この車が勝手に遠くに移動したりはしないだろうなあ」
「自分で移動しておいて、移動したことを忘れてるというのはありそう」
「ああ、それは私もよくやる」
 
と千里は言ったが、青葉は『ちー姉は車の位置を自力で見付けられるから実害は無いだろうけど、忘れ物の天才だからなあ』などと思った。
 
人形供養のW神社にも行ったが、青葉と千里は顔を見合わせた。
 
「何体居る?」
「・・・・8体」
「え?7体かと思った。ちょっと待って・・・あ、8体目見っけ」
 
「これ許可取ってからやるべきだよね」
「宮司さんと話をしよう」
 
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それで青葉は社務所に行き『〒〒テレビ・北陸霊界探訪・霊界探偵・金沢ドイル』の名刺(恥ずかしい!)を出して宮司さんと話をしたいと言う。
 
宮司さんは歓迎してくれた。あらためて『心霊相談師・川上瞬葉』の名刺も出す。千里は『越谷F神社・名誉副巫女長・村山千里』の名刺を出していた。
 
「へー。ドイルさんの妹さんは巫女さんですか」
と宮司さんか言うのは、気にしない!(幸花が楽しそうである)幸花も『〒〒テレビ・サブディレクター・皆山幸花』の名刺を出していた。
 
「実は今境内を拝見させて頂いていたら、供養してあげたほうが良さそうな人形に気付いたものですから」
「どの子ですか」
と訊かれるので、現地に案内する。青葉が指し示した人形全てについて、宮司さんは
「実は私も気になっていました」
と言った。
 
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「供養してあげていいですか?見ていられなくて。料金とか取りませんから」
「はい、お願いします。料金の件は後ほど」
 
ということで、青葉が一体ずつ、きれいに供養してあげた。明らかに人形の表情が変わったのを幸花さえも認識した。
 
8体全ての処理が終わった所で、幸花は
「さて再現ドラマの撮影しようか」
と楽しそうに言う。
 
「宮司さん、いいですか?」
「どうぞどうぞ」
と言って、今度は宮司さんも楽しそうに見ていた。
 
「でも浄化の供養している実際の映像は映さないんですね」
「そんなのとても放送に流せません」
「そうですよね!」
 
タクシーただのり幽霊の時はリアルに処理中の映像を流しちゃったけどね!
 
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「ところで宮司さん、お願いがあるのですが」
と千里は言った。
 
「はい」
「そこにビスクドールが12体並んでいますよね」
「あ、はい」
「その子たちを養女に申し受けることはできませんでしょうか?」
「え?」
 
「かなり貴重な人形も含まれているんですよ。元々ここに持ち込まれた方にはそれなりの補償金をお支払いしますので」
 
「でも、処分を依頼されたものなので・・・」
と宮司は困っている。
 
「ここに居る、ジュモーのパプリカに380万円、ケストナーのエリーに85万円、ティルダに45万円、他の9体は一律6万円、合計564万円を元の持ち主の方に、神社さんにはその1割の56万4千円の手数料をお支払いするというのではどうでしょうか」
 
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「500万円ですか!?」
と宮司は度肝を抜かれている。
 
青葉はこんな計算を暗算でしたということは、今ここにいるのは3番さんか、と思った(←甘い!)。
 
「特にこの3体は失われてはならない貴重な作品です」
「分かりました。持ち込まれた方と連絡を取ってみます」
 
取り敢えずこの12体のビスクトールは、庭から社務所内へ移されることになった。
 

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W神社では他にも打ち合わせたことがあり(後述)、この日W神社を辞したのはもう17時だった。
 
「明恵ちゃんたちが来てるだろうし、いったん局に戻りましょう」
ということで、3人は局に戻った。
 
編集室には、明恵・真珠・初海・邦生が来ていた。神谷内さんも居て、城山さんが自宅待機になったことを話してくれた。
 
「濃厚接触者になるお嬢さんにも連絡をとって、PCR検査受けてもらったら、向こうも陽性だった。無症状で自宅待機になる」
「一人暮らしなのに大変だ」
 
「これってひとり暮らしの人はほんとに辛いよね。自治体が食料とか届けるのも全然間に合ってないみたいだし」
「そうそう。だから緊急に必要そうな食料を奧さんが買って宅急便の置き配で送ったらしい。サトウのごはんとか、カップ麺とかレトルト食品とか。多分明日には到着する」
 
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「いろいろ大変だ」
 

この日(1/28 Fri)は、明恵と真珠は、いったん局に来て、真珠は明恵を降ろし、初海をマンションから連れてきて、更に邦生の銀行まで行ってこちらに連れてきたらしい。真珠大活躍である。初海は郵便局には授業の空き時間に行って来たらしい(真珠がマンションの鍵を貸していた)。
 
「くーにんたら、さっき放送局内で男子トイレに入ろうとして、50歳くらいの男性に叱られていたんですよ」
などと真珠が言っている。
 
「そりゃ叱られるに決まってる。ちゃんと女子トイレ使わなきゃ」
と神谷内さんからまで言われて、邦生が困ったような顔をしていた。
 
幸花がみんなに、今日W神社で“供養”をしてきたことを報告し、再現ドラマも見せる
 
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「早速ひと仕事してきている。青葉さん凄い」
と初海。
 
「私、水泳の練習したい」
と当の青葉。
 
「だったら、会議が終わったら津幡まで送りますよ。それで今夜は津幡に泊まるといいです。夜中でも好きなだけ泳げるもん」
と真珠。
 
「あはは」
 
(この後、青葉は取材や浄霊で2月中旬まで飛び回ることになり、取材先の近くのホテルに泊まったり、あるいは“宿泊所”や津幡に泊まったりして、結局高岡の新居では1泊もしないまま、また代表選考会のため熊谷に移動することになる。こんなことなら、コスモスの用事を受けた方がマシだったかも、などと後から思った)
 
「明日は青葉と2人でS市の人形美術館に行って来たいんだけどね」
と千里。
 
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「それ明恵ちゃんと真珠ちゃんに付き添ってもらおう。ドライバーとカメラマンも兼ねて」
「じゃそうします。じゃ明日朝そちらに迎えに行きますね」
「了解」
 

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青葉はおもむろに、みんなの前で言った。
 
「動く人形対策は、基本的には“見張り”を置くといいと思う」
 
「へー!」
 
「昨日まこちゃんが『誰も居ないだろうと思って安心する所に、実は見張りがいる』って言ってたじゃん」
 
「そんなこと言ったっけ?」
「ああ。警察の話ね」
「あ、そういえば言ったかも」
 
「お昼に城山さんが来てた時、特急の指定席に車掌さんが検札に来た話をしてたんだよ」
「へー」
 
あれはその話を自分に聞かせるため、千里姉は彼の感染に気付いてもそこまて話させたのだろうと青葉は思った。
 
「11月に私が埼玉のホールで、客席に座らせた人形の念を成仏させた時も、その後、見回りロボットを導入したんだよ」
 
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と青葉が言うと千里が
「その映像あるよ」
と言って、パソコンを開いてみせる。
 
そのロボットの動きを見て、みんな
 
「面白ーい」
と言っている。
 
「このロボットはオーケストラの演奏が終わった後、18時から、翌朝人が来る朝9時までの間、1時間に1度客席を巡回する」
と千里は解説する。
 
「凄いですね」
 
「これは津幡パークに導入予定の警備ロボットの簡易版」
「わぁ」
 
「スーパーの駐車場も、警備員が巡回するのがいいとあっちゃん言ってた」
と初海が言う。
 
「羊飼いが犬に群れを制御させるのにも似てるかも」
と千里が言う。
 
「すると動く人形への対策は見張りを付けることか」
「でも概して費用が掛かるよね」
 
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「広い駐車場は、警備員さん雇っても1人ではとても無理ですね」
「イオンタウン程度の規模なら4〜5人必要だと思う」
「あまり費用掛かると無料で駐車場を運営できなくなる」
 
「その見回りロボットはいくらするんですか」
 
「津幡に導入予定の物(12月に§§ミュージック社員寮に導入したのとほぼ同仕様)は色々な機能が付いてるから、1体300万円の予定だけど、小鳩ホールで使ったのは、巡回する機能だけのもので100万円」
 
「なるほど」
「人間雇うよりは安いかな」
 
「小鳩ホールでのお仕事は終了したから、今はF神社で自宅待機中」
「ふむふむ」
 
「まあ見張りを付ける場合、できるだけ費用を掛けずにするというのがポイントだろうね」
「でもIT(アイティー)の時代、結構安い費用で実現する手はあると思うよ」
「多分発想の問題だろうね」
 
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「羊飼い犬だと餌あげるだけでいいし」
「家の中だと猫ちゃんでも結構役立つ」
「ルンバ一匹飼っておく手もある」
「お掃除もしてくれるから、いいね」
「ルンバはたぶん現代の羊飼い犬だ」
「土星の羊飼い衛星とかがまさに掃除屋さん」
 
(羊飼い衛星 Shepherd moon とは、土星や木星などの環のすぐ内側・外側を周回している衛星で、この衛星の働きにより、環から飛び出してきた粒子はまた環の中に押し戻され、環が維持される。まさに羊飼い犬の役割を果たしている)
 
 
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