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■春動(17)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-10-02
優子は、高岡市役所に行き、まずは住民票で、奏音(かなで)を自分の住民票から世帯分離した上で、自分の住民票については、転出する手続きを取った。
「お子さんは転出しないんですか?」
「はい。子供は祖父母、私の両親に預けて、私は千葉で再婚するんですよ」
「なるほどですね。分かりました」
ということで、手続きをしてもらった。
優子はその転出届のほかに、自分の戸籍謄本も取った。そしてほんとに奏音を母に預けると、先日夏樹が残していったMX-30に乗り、ひとりで夜通し運転して千葉に行った。
それで1月20日(木・大安・なる) 朝、夏樹のアパートに転がり込んで“新婚生活”を始めた。
もっとも初日は、ひたすら寝てて、夕方会社から戻った夏樹に起こされ、ごはんを食べた後もひたすら21日朝まで寝ていて、“初夜”は空振りになった。育児疲れが普段から溜まっている所でほぼ徹夜(一応妙高SAで1時間と東部湯の丸SAで2時間仮眠した)で運転したせいだと思う。
でも21日(金)の夕方は優子が頑張って、ビーフシチューにフライドチキンを作った。シャンパンとバゲットも買ってきて、ふたりで祝杯を挙げ、その後、22-23日の土日は甘い生活を送った。
優子は24日(月)朝には愛夫弁当!?も作り、
「あなた、いってらっしゃーい」
と言ってキスで夏樹を送り出した。
その後、優子は一週間ほど千葉に滞在する。
妊娠検査キットの窓に「−」の表示が出るのを見て、千里は呟いた。
「やっと“自分で”妊娠できた。まあ五輪の後で良かったよ。シーズン前に出産できそうだしね」
「でも次は男の子かなあ、女の子かなあ」
などと呟いてから
「最初が男の子、次が男の娘だったから、次は女の子もいいかもね」
などと言った。
むろん龍虎の八王子の家と代々木のマンション10階に置いてもらった“鏡”はこの3人目の子供のためのものである(*14).
「しかし。最初の子が**、2番目の子が精霊の生まれ変わりで、3番目でやっと人間(?)になる」
(*14) 龍虎Fは2つの鏡の間を“通れる”ので、実は、龍虎Fは日常的にこの鏡を通って、八王子と代々木の間を移動している。仕事場に行くのがとっても楽!だし、帰りも代々木に送ってもらえば済む。結果的に八王子の家を知る人も最小限で済むので、マスコミなどにバレにくい。
鏡を通れる“人間”は限られている。セシルの友人・一希(だと後から知った)などは通れたようだが、龍虎Mが通れるのか、Fにも確信は無い。たぶん特殊な条件の巫女だけが通れるのだろう。
妊娠検査キットの窓に「−」の表示が出るのを見て、広紀は声を出した。
「そんなぁ。妊娠なんて心の準備ができないよぉ」
「ひろちゃん、でかした。ぼくたちのファーストベイビーだね。産婦人科に行って診断書を書いてもらって、市役所で母子手帳もらおう」
と歩が言った。
「産婦人科!?母子手帳!?」
と広紀は頭の中がパニックになっていた。
僕が産婦人科を受診するの!??
半分眠りながら、真珠は邦生に言った。
「でもくーにん、睾丸取ってるんでしょ?ぼくを妊娠させる可能性無かったら生でやってもいいよ」
「睾丸取ったりしてないよ!ちゃんと付いてるの分かるだろ?だから結婚するまではきちんと付けてするよ」
「これ本物は取って、取ったことバレないように入れたシリコンボールか何かじゃないの?」
などと真珠はそれに触りながら言う。
「本物だよ。だいたい何のために睾丸取らないといけないんだよ?」
「男っぽくならないように取ったのかと」
「俺は男なんだから、男っぽくなると思うけど」
「いや、くーにんは確実にここ2年くらいの間に女らしくなってきてる」
「そ、そうか?」
真珠にまで言われると、邦生も少し不安になった。
真珠がいきなり、握りしめた!
邦生が反射的に真珠の手を払いのけ、苦しそうにしている。声も出ないようだ。
5分ほどしてからやっと声が出る。
「何するんだよ!」
「本当に本物だったんだ!」
と真珠は驚いたように言った。
「だいたい玉が無かったら、ちんちんが立つ訳ない」
「あ、やはりそういうもん?オカマさん仲間で玉取った人もたいてい、取った後は全く立たなくなったと言うのよね」
「ちんちんを立ててるのはたまたまの力(ちから)だから。まだ痛い」
「ごめんねー。お詫びに入れてあげるよ」
「なぜそうなる!?」
「入れられるの好きでしょ?凄く気持ち良さそうにしてるもん」
「入れるほうが好きだ」
「ぼくたちの間で、恥ずかしがらなくてもいいのに」
1月27日(木).
優子の父は、ムラーノの後部座席にチャイルドシートを取り付け、そこに奏音を座らせて隣に優子の母が乗り、3人で能登空港に向かった。駐車場で待機していたら、16時頃、搭乗できますよという連絡がある。パイロットさんの案内で、Honda-Jet
Tigerに乗り込んだ。
「こないだ乗ったのと同じ飛行機だ!」
と言って、奏音が喜んでいた。
熊谷の郷愁飛行場には、優子の友人・千里がインプレッサで迎えに来てくれている。
「すみませんね」
「花婿に雑用はさせられませんから」
「ありがとうございます」
と言いながら、両親は
『やはり、あの子は“花婿”なのか』
と思った。
千里は3人にお弁当を渡す。ホテル昭和のお弁当である。優子の両親には松花堂を、奏音には“こども弁当”を渡した。ケチャップライス(日の丸が立ってる!さすが昭和である)。星型のハンバーグ、タコさんウィンナー、アンパンマン型の玉子焼き、など、子供の喜びそうなおかずが詰まったお弁当で、奏音も美味しそうに食べていた。おまけで付いてた料理遊びセットでも楽しそうに遊んでいた。
食事が終わって落ち着いた所で千里は車を出す。そして、千葉のホテルまで連れて行ってくれた。そこに優子が来ていたので、ここで奏音は優子に抱かれてしばし親子のふれあいをした。落ち着いた所で、ホテルの部屋に入り泊まった。
なお、千里や優子たちの関係の全貌を把握しているのは、実は桃香の母・朋子だけで、当事者たちは全く気付いていない(優子は気付いていいはずだが、何も考えていない!千里や桃香はそれ以上に何も考えていない!)。
↓朋子だけが気付いている "Marriage Ring"
(↑桃香は男子ポジション、千里は女子ポジションになっている。この6人の内で出産を経験していないのは信次のみ!)
翌日1月28日(金・先勝・さだん)、優子と夏樹はともにウェディングドレスを着て、千葉市役所でパートナーシップ宣言をした。これでめでたく夏樹と優子は夫婦(婦婦)になった。
宣言には、優子の両親と奏音、夏樹の両親と兄夫婦も列席した。
一同はそのまま写真館に移動し、ここで記念写真を撮った。優子と夏樹だけのもの、奏音も入れたもの。全員入ったものの3種類を撮っている。更にその後、ホテルのプライベートキッチンで食事会をして、披露宴代わりとした。
1月30日(日).
朝から千里がセレナでホテルに迎えに来てくれて、優子の両親と奏音を乗せる。そして、夏樹のアパートに寄って、優子と夏樹も乗せる。
(助手席:優子父、2列目:優子と夏樹、3列目:優子母と奏音)
そして熊谷の郷愁飛行場に連れて行った。
ここで、優子と奏音、優子の両親の4人がホンダジェットに乗り込み、能登空港に飛び立って行った(能登空港からはムラーノに4人で乗って帰宅する)。
そして千里はセレナで夏樹を千葉まで送っていった。
「新婚なのに別居生活って大変だね」
「それは割り切ってるから。でもごめんね。手間を掛けて」
「桃香じゃ運転できないしね。でも、モニカちゃんもこれでめでたく“奧さん”になれたから、良かったじゃん」
「あはは、その名前はもう勘弁して」
「青山さんが妊娠!?青山さんって男の娘じゃなくて天然女性だったの?」
と米田一子副所長は、青山広紀と藤尾歩の報告に驚いた。
「いえ確かに男の娘だったのですが、11月に急に体質が変化して女の身体に変わってしまったんです。実は私も同時に男の身体に変化しちゃって。それで私たち、私が男、青山が女という形でしばらく交際してたんですよね。でも、1月3日に私は元の女の身体に戻っちゃって。でも青山は男の身体には戻らず、代わりに妊娠が発覚したんです」
と歩は説明する。
「お医者さんの診断では、受精日はおそらく1月3日くらいではないかと。つまり、藤尾が男の身体から女の身体に戻る直前にした性行為で私が妊娠してしまったみたいで」
と広紀は補足説明する。
「えっと、そしたら2人とも性別ほ変更して、藤尾さんが男、青山さんが女になって結婚して出産するの?」
「いえ、私は女に戻っちゃったから性別訂正ができないんです」
「あっそうか!」
「青山は性別訂正の申請ができますけど、そうすると私たち女同士になるので、婚姻届が出せなくなっちゃうんですよね」
「日本の法律は不便ね」
「同性婚、認めて欲しいですよね。それで、青山には、私の保険証で藤尾歩として病院に掛からせました」
「ん?」
それでふたりは“藤尾歩”名義の母子手帳を見せた。
「えっと妊娠出産するのは藤尾さんだっけ?」
と副所長も混乱気味である。
本人たちも混乱してるし!
「たからこのまま青山は藤尾歩として出産して、子供は父が青山で母が私の子供として出生届を出すつもりです」
「待って。私分からなくなった」
と言って、副所長は椅子に座って悩んでいる。
「そういう訳で、青山は出産までの間、高所作業からは外して頂けませんか?私が倍頑張りますから」
「私まだよく分かってないけど、高所作業から外すのはOK。産休も必要だよね?」
「出産予定日の2ヶ月くらい前から、出産後3ヶ月くらい休ませて頂けたら」
「うん。それも全然OK。取り敢えず出産までは基本的には内勤だけにしようか。お使いとかは頼むかも知れないけど」
「ありがとうございます」
ということで、広紀は高所作業からしばらく外れることになったものの、副所長はまだ理解できないようで、悩んでいる様子だった。
ふたりは広紀の妊娠が分かったことで、すぐにも婚姻届を出し、早い時期に結婚式も挙げることにした。むろんウェディングドレス同士での結婚式になる予定である。
なお、翌日には幸花が“歩に”電話を掛けてきて、取材された。どこで情報を聞きつけたのか、さっぱり分からない!
夕方には幸花と真珠が青山家まで来て、ふたりの写真に母子手帳まで撮影していった。
「母子手帳の名前はモザイク掛けるか、あるいはフレームの外にするから」
「それでお願いします」
「でも元男の子が妊娠したとかいったら大騒動になりませんかね」
と広紀は不安そうに幸花に言う。
「大丈夫。『北陸霊界探訪』はバラエティだから、全部ジョークだと視聴者は思うよ」
「あれ、バラエティだったんですか!?」
撮影係として同行した真珠は
『青山さんすごーい!うちの、くーにんも妊娠させちゃおうかな』
などと思っていた。
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