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■春動(10)
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青葉は1月下旬の北島杯までは東京方面に滞在するので、忙しいケイと一緒に1月1日夕方には、Honda-Jet
Blueで熊谷に戻り、浦和の千里家に入った。
京平と来紗が戻って来てないので、この家には現在、貴司と猛獅だけがいる(千里は居るのか居ないのか、よく分からない!)
浦和の家に居る女が青葉だけとはいっても、青葉は超多忙なので、御飯を作ったりはしない。彪志もコロナで薬屋さんは忙しいので、朝早く出て夜遅く帰ってくる。それでこの家の主婦?は貴司になっていた。貴司はBリーグ2部のメトロ・エクシードに所属しており、だいたい昼頃自分の車で出掛けていき、試合の無い日は夕方、試合のある日は夜帰る。午前中に少し時間が取れるので、その時間帯で御飯を作ってくれていた。
もっとも唐突に夕方くらいに御飯ができていたりすることもあり、どれかのちー姉、あるいはちー姉の眷属さん?が作ってくれているんだろうなと思った。
この家には以前はよく龍虎(アクア)も来ていたが、昨年6月?くらいに八王子の家ができてからは来る頻度が減っているようだ。あの家が出来たので、荷物をかなり向こうに移動したため、代々木のマンションにはスペースのゆとりができてストックルームと和室を潰してピアノルームを作ったようである。あのマンションの10階のほうの部屋はもう売却したのかな??
そういえば八王子の家には大量の太陽光パネルが乗っていた。あれに比べれば、まだ高岡の新居のほうが、規模が小さいかな?(*5)(青葉はまだ新居に1度も泊まっていない)
でもソーラーパネルといえば、高岡の家には青山さんが工事に来たと言っていたなあと思う。普通の家なら4枚とか8枚くらいだろうけど100枚の設置には数日かかったろうと思う(*6) 彼(彼女?)を見たということは、その時、ちー姉は現場に来ていたのか。
と考えてから、青葉は凄く嫌な予感がした。
ちー姉ったら“余計な親切”してないよね??
ほんとにウェディングドレスで結婚式したりして?
(*5) 青葉の新居は32H×11HJ=88坪/八王子は母屋が21H×8H=42坪、西の対が21H×10H=52.5坪なので、載っている太陽光パネルの数も大差無いはず。南の対か完成すると青葉宅の倍以上になるかも:いつ完成するかは九重の気分次第:九重は10日の内9日くらい飲んだり雌の龍とイチャイチャしてて、1日くらい仕事をするパターンである:気分転換に猪や羆を狩る−彼は16年ほど運営を続けている“野獣牧場”の発案者であり、千里たちから社長に任命されている。
(*6) 120枚の設置に、男の娘社員5人+歩の6人がかりで、11/9の朝から夕方まで丸一日かかったようである。
青山は顔見知りなので、特に千里に挨拶して千里は「充分普通の女の子に見えるよ。結婚式では堂々とウェディングドレス着るといいよ」と言って、握手して励ましておいた。
なお、歩は事業所内ではほぼ男子扱いされている。彼女は声も低いので、部内には彼女を男の娘と思っている人も多い。歩は筋力もありメカに強いので、実は男の娘社員以上に現場での戦力になるし、男の娘たちから頼りにされている。ただし、トイレは「心が男というのでないなら」女子トイレを使うよう副所長から釘を刺されている。
スカートの制服で男子トイレに入り小便器を使われるのは色々問題がありすぎる!
歩がプライベートでしばしば男子トイレの小便器を使うのは、ズボンを穿いていると個室でズボンを下げてするより小便器の方が楽だからで、男になりたい訳では無い。彼女はただのレスビアンの男役であり優子などに近い。
1月5日にはアクアに関する制作会議をしたいということで、五反野の研修所(女子寮)に行った。出席者は、和泉、青葉、千里、ケイ、コスモス、三田原の6人である。
冒頭和泉から
「現在のアクアの路線は女の子路線に行きすぎている」
として強い抗議があった。
「アクアを女性タレントとして売り出すのであれば、自分はディレクターを辞任する」
と強い口調で和泉は言う。
青葉は、この人がいなかったら、とっくの昔にアクアは(Mまで)性転換させられて女性タレントになってしまっているなと思った(和泉がいても既に事実上女性タレントになっている気もしないでもないが。そういえば今Mは男の子の身体なのだろうか?また女の子の身体になっているのだろうか?)。
アクアプロジェクトでは、青葉が(ほぼ名前だけの)プロデューサーで、和泉がディレクターである。もっとも実際のアクアの制作は、ほとんどコスモスが主導している。
ケイは
「アクアが自分で完全な女の子になってしまったりしない限りは、あの子を女性タレントとして売るつもりはないよ」
と明言する。
コスモスは言う。
「どうしても女役のオファーが多いんですよね。でも基本的に女役だけの仕事は断っていますから。やむを得ずやらせたのは、プリマが本番直前に怪我して他にできる人が居なかった『白鳥の湖』とか、撮影しているスタジオのそばを通りがかりに徴用されちゃった『大工と鬼六』ですね。『大工と鬼六』はプロデューサーさんが後でこちらに謝罪に来ましたけど」
「シンデレラは?」
「あれもコロナで突然ラピスラズリが使えなくなって、他に代替できる人が居なくて」
「まあシンデレラでは尺のほとんどでアクアは男装だったけどね」
と千里は言う。
「でも男装女子という設定だったし」
と和泉。
「ま、それで実はアクアに今度は逆に、女装男子の役をさせようという企画が進行中なのだけど」
とケイが言うと
「え〜〜〜!?」
と和泉は非難するように声を挙げた。
『黄金の流星ですか?』
と事務所でお留守番をしていた川崎ゆりこは、多忙の中わざわざ訪問してきた鳥山渚プロデューサーが言ったタイトルをオウム返しした。
「新作童話か何かですか?」
「いえ。ジュール・ヴェルヌ原作なんですよ。彼の最後の作品である可能性もあります。実は息子さんが少し加筆してヴェルヌの死後に出版されたんです」
「へー。でもそのタイトルは聞いたことない」
「ヴェルヌの作品の中では日本での知名度は低いかもしれないですね」
「なるほど」
「原題は『La Chasse au météore』で『流星の追跡』というのですが、50年ほど前に日本語訳が出た時は『黄金の流星』というタイトルだったので、それを踏襲しようかと。実際『流星の追跡』より『黄金の流星』のほうがタイトルとしてインパクトがあります」
「ですね!」
と、ゆりこも同意した。
それで鳥山はあらすじを説明する。
「ヴェルヌは"météore" 流星と書いているのですが、実際の物語内での天体の動きは、地球の重力に捉えられて一時的に衛星になった小惑星という感じです。さて、地球を周回する小さな衛星が発見されるのですが、その衛星は純金でできているという分析結果が発表されて世界は騒然となります。更にこの衛星の動きが天文学者の計算通りにいかず、天文学者たちも困惑する。ここで世の中の関心は、この衛星は、いづれ地球の引力に捉えられて地上に落ちてくると思われるものの、それがどこに落ちるかという問題です」
「落ちた所に未曾有の災害が発生する?下手すると人類滅亡」
「ヴェルヌはどうも小惑星激突のインパクトを理解していなかったようで、その問題は全くスルーされてるんです。それより、その流星が落ちてきたら、その黄金は誰の物になるのかというので大騒ぎになるんですよ」
「あぁ」
「領土の広い国は、落ちてきた国のものだと主張します。一方多くの国は全ての国で平等に分けるべきだと主張します」
「でも平等って、どういう比率か曖昧ですね」
「そうなんてすよ。均等割なのか、人口比なのか面積比なのか。で、この衛星の軌道が不安定なのは、実はある若い科学者が電波でこの衛星を操っていて、自分の好きなような軌道を変えていたからだったんです」
「SFっぽくなってきましたね」
「そしてこの科学者の伯父さんが出てくるのですが、彼は実は金融家で、この衛星が落下してきた時、大量の金が市場に投入されることにより、金の相場が暴落することを予測していました」
「きなくさくなってきた」
「それでここに1組のカップルが出て来ます。この2人は、この衛星をめぐって何度も口論したり、同じ意見になったりして、物語の展開の中で頻繁に結婚と離婚を繰り返します」
「へー」
「牧師さんの所に、あまりにも頻繁にやってきては、結婚式・離婚式を挙げていくので、物語の最後で2人が結婚式を挙げて去っていった後、牧師さんは呟きます。今のは『さようなら』ではく『ではまた』と言うべきだったかな、と」
「その2人が主役だ!」
「そうなんです。大国の政治家とか、衛星を発見したのはどちらが先かと言い争ってる天文学者とか、その2人の子供の恋人同士とか、衛星の軌道を制御している科学者とか、その伯父の金融家とか、全部脇役にすぎません」
「その主役を誰がするんですか?」
と、ゆりこは訊いた。
鳥山さんがわざわざ来たというのは、アクアか舞音へのオファーなのだろう。でもどちらも空いてないぞと思う。
「アクアさんにお願いできないかと思っているんてすが」
と鳥山は言った。
アクアか・・・・
「映画の撮影前になりますが、この2人は主役なのに出番は少なく、撮影も他の出演者との絡みが無くて、2人と牧師の3人だけで撮れます。だから飛び飛びでもいいから合計で20-30時間程度あればいいんですよ」
「その相手役は?」
「七浜宇菜さんにお願い出来ないかと申し入れています。彼女も映画前で多忙なのですが、アクアさんが出るのなら、自分も出ていいと言っています」
宇菜!?
ゆりこはソファに体重を預け、腕を組んで考え込んだ。
「それ、どっちが男で、どっちが女なんです?」
と尋ねる、
「どちらがいいと思います?」
と鳥山さんは笑顔で訊いた、
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