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■春動(9)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-09-25
ΛΛテレビは12月26日から1月18日まで(12/31夜と1/1夜のみ除く)、毎晩深夜枠で2017年に制作したものの“諸事情”で半分まで放送した所で放送打ち切りになっていた、キャロル前田と七浜宇菜のダブル主演『変身ポンポコ玉』を22話。一挙再放送した(後半は初めての放送)。
これはサトウハチロウが昭和初期に書いていた『あべこべ物語』を原作とするもので、1973年にTBSが放送した『へんしん!ポンポコ玉』のリメイクになっている。
キャロル前田の当事の可愛いセーラー服姿や、七浜宇菜の立ち小便シーンなどもあり、なかなか萌え度の高い作品である。
原作の『あべこべ物語』が水物ビーナの画像付き朗読劇で話題になったので、それを機会に再放送したものであるが、物凄い反響があった。深夜枠とは思えない高い視聴率を出し、再リメイクの要望まで出て来ていた。
「やはり男の子は羽田小牧ちゃんだよね」
「羽田小牧ちゃんのセーラー服姿見たーい」
と勝手なキャスティング要望が暴走していた。
郷愁村に建てられ、昨年夏の『白雪物語』の撮影に使われた“白雪城”が1月2日から一般公開された(1月1日はホテル以外休業)。
コロナの折、入場制限をしており(1日限定1000組で前の人が入場してから30秒待って次の人は入れる)。入場希望者は予約をした上で、郷愁リゾート内のどこか(自家用車や宿泊者なら自室推奨)で待機し、「あと30分くらい」、「あと15分くらい」というメッセージを頼りに入場口まで来てもらうというシステムにしている。
映画は今ちょうど公開中であるが、その映画の人気とあいまって、こちらの入場者もかなりの数になっていた。
八犬伝村の方は、整備に時間が掛かっており、3月くらいの公開予定である。
千里は1月1日付けで、藍川真璃子の自宅と資料館!および土地を買い取る契約を結び、代金として1億円を振り込んだ。
「まあ“死後”の資金かな」
などと真璃子は言っていた。
「普通の人の“老後”ですね」
「いやあ、死んだ後、こんなに長時間存在し続けるとは自分でも驚異だよ」
藍川真璃子は元日本代表のシューターであり、ある意味、千里や花園亜津子、の先生であるし、佐藤玲央美の直接の先生である。
彼女は 1994.4.26に航空機事故で死亡(38歳) しており、その後、27年以上にわたり“幽霊”をしている。幽霊なのに、バスケットの指導をし、出羽の修行に毎年参加し、ジョイフルゴールドを わずか数人のチームからWリーに参戦するまで育てあげた。
ただ、いかんせん幽霊なので、いつ昇天して消滅してしまうか分からない。彼女の状態については、出羽の美鳳さんも首を傾げている。
彼女には子供も親族も全くなく、彼女が唐突に消滅してしまった場合、死亡届を出す人はもとより、失踪宣告を請求する人も存在しない。彼女の資産が宙ぶらりんになってしまうので、10年くらい前から、真璃子は千里に「買い取ってくれない?」と言っていた。千里は「気になるものがあった方が長生き?できる」と言って買い取りには消極的だったのだが、真璃子が「いい加減やばいと思う」と言うので、買い取ることにした。
真璃子はここ10年ほど、ジョイフルゴールドを所有するKL銀行の寮に住んでおり、家にはほとんど帰っていなかった。今後も寮に住み続けるので、消滅した場合は銀行が家出人捜索依頼などを出すかも知れない。
その日、お正月で妻の実家がある留萌に来ていた春都は、妻の恵香に言った。
「カーナビの音楽入れてたSDカードがどうも壊れちゃったみたいなんだよ。余ってるSDカード無い?」
「ちょっと待って」
と言って、恵香は自分の机の中を漁ってみる。小学生の時から使っていた机なので、実に雑多なものが入っているが、見覚えの無いSDカードが指に触れた。これ何に使ってたやつだっけ?と思うが記憶が曖昧である。容量は2GBである。
「これ使える?2GBだけど」
と言って夫に渡す。
「2ギガかぁ。小さいけど、家に帰るまで程度のお供にはなるかな、アルバム10枚か20枚程度くらいの容量だと思うけど」
と言って受け取る。
パソコンで開いて見る、
「なんかデータ入ってるけど消していいやつ?」
「何だろう?」
ひょっとして子供の小さい時の写真とかだったら消せないので確認する。
「何これ?」
「なんかディスクイメージファイルが1個、.psdってPhotoshopのファイルだっけ?それが6個、あと拡張子.inddって何のファイルだったっけ?」
「さあ」
「お前も知らないの?」
「うん」
それで春都はPhotoshopのデータを開いてみた。
「これは・・・・」
「千里に電話してみる。これきっと千里から預かってて忘れてたデータだと思う」
「うん」
連絡を受けた千里はその日の内に札幌に飛び、小樽から迎えに来た<せいちゃん>と一緒に恵香の家に行って、SDカードを受け取った。
<せいちゃん>はSDカードを取り敢えずそのまま持参のパソコンにコピーする。そして開いてみた。
「ディスクイメージファイルは『ワンザナドゥ』そのものだ。psdファイルは恐らくジャケ写だと思う。インデザインのファイルは封入するパンフレットだね」
「ということは」
「これはこのアルバムを工場に持ち込むためのデータだよ。タイムスタンプ見ると2003年12月28日だから、高岡猛獅さんが死ぬ前日。つまりこのアルバムが完成した直後のもの」
「なぜそんなものがこんな所に」
「たぶん千里が誰かから預かって、でもどこかで落として、それを布施さんが拾ったものの、布施さんも忘れてて、この部屋の机の中で18年間眠ってたんだな」
と<せいちゃん>。
「ありそう!私、全く記憶無いけど」
と千里。
「まあ千里は記憶無いだろうな」
と<せいちゃん>は言ったが、恵香も全く同意だった。
千里もまさか志水照枝が落としたものを拾ったものとは思いも寄らない。
「恵香。このデータ預からせて。必ずお礼するから」
「うん。持ってって」
それで千里は<せいちゃん>と一緒に東京にとんぼ返りし、データをコスモス(*4)と雨宮三森に見せた。2人とも驚愕していた。
「この絵は夕香ちゃんが描いたものっぽい」
と雨宮は言っていた。
雨宮はその夜の内にワンティス全員とアクアの承諾を取った上で、このジャケ写を2月発売予定の同アルバムに使用するとともに、この18年前のパンフレットは、新しいパンフレットと一緒にアルバムにサービスで封入することを決めたのである。
(*4) コスモスは「今日は千里が7-8人出没してないか?」と思った。
なお、ここで急遽札幌まで往復したのは“千里5”である。他の千里が全員何か作業をしていたので、元締めの5番が行くしかなかった。司令室の留守番を頼まれた花星と小道が悲鳴をあげていた。
(小道は小町の曾孫である)
1月4日0時過ぎに高岡の青葉家を出た千里は、後部座席に乗る桃香に
「寝ててね」
と声を掛け、伏木万葉大橋を越えて、鏡宮交差点方面に向かう。
「ね、ね、千里、海王丸パークあたりに駐めてちょっとセックスしない?」
とビールを飲みながらスマホでゲームをしている桃香は言った。
「しません!」
と千里はきっぱり言う。
「季里子ちゃんと約束したからね。変なことはしないって」
「言わなきゃバレないのに」
「桃香の浮気は全部すぐバレる」
「むむ。なぜだろう」
「とにかく寝てなよ」
「分かった。寝てる」
それで千里の運転する車は鏡宮交差点をそのまま南下し、小杉ICに向かう。そして北陸道に乗って、新潟方面に向かった。桃香はビールを飲み尽くすと静かになったようだ。
後ろの様子を感じ取る。
「寝たかな」
と呟くと、千里は「コリン、あとはよろしく〜」と言って、眠ってしまった。それでコリンは千里の中に入って、車を運転し続けた。
つまり・・・・・小浜から高岡までセレナを運転して早月たちを運んできたのは千里2だったのだが、青葉邸をインプレッサで出たのは千里4だったのである。4番はレスビアンの趣味は無いので、桃香とセックスするなんて、お断りである!
翌日早朝。千里は上里SAで休憩。ここで桃香と一緒に朝御飯を食べた。そして、その後は自分で運転して、桃香を勤務している塾にポストした。
「ありがと。キスとかしたらダメ?」
「ダメです」
「ケチ」
しかしそれで一晩ぐっすり寝た桃香は受験追い込みの時期の塾に復帰したのであった。
千里は黒いインプで“関東の家”まで走ると、車を駐め、自分の部屋のベッドに潜り込んで「疲れたぁ」と言って、ぐっすり寝た。
この年末年始は千里1,2,3,4,5,6が全員フル稼働に近い状態になっていた。
1月8日(土)、季里子は来紗(小2)伊鈴(小1)京平(年長)早月(4月から幼稚園)をセレナに乗せて、青葉宅を出た。チャイルドシートが4つ取り付けられるセレナでないとできないワザである。もっとも小学生の来紗は普通のチャイルドシートは卒業してジュニアシートを使用している。由美と緩菜(ともに3歳)は高岡にまだ残す。
「うちって、その内移動にマイクロバスが必要になるかも知れない」
と季里子は一瞬考えた。
大型免許、取りに行こうかな?
子連れのロング・ドライブは消耗するが、今回は桃香が一緒ではないので随分楽だった!(桃香は子供以上に手が掛かる!更にすぐセックスしたがるし。あの子は脳細胞が全て性欲でできているとしか思えん!)
ひとりで運転するので大量の休憩を入れながら走って行く。でも自分が仮眠している間は、京平がみんなをまとめてくれているので、結構安心であった。
来紗の方が年上なのだが、来紗はわりと“ねんね”なので、結構年下の京平を頼っている。性格なんだろうなあと季里子は思う。(実際は、京平は人間の年齢では幼稚園児でも中身は高校生くらいなので、しっかりしている)。
季里子は翌日、浦和で千里(千里3)に京平と早月を渡すと、3時間休ませてもらって(青葉の部屋に寝せてもらった)から、自分のアクセラに乗り換え、来紗・伊鈴と一緒に千葉の自宅に戻った。
一方、季里子たちが青葉宅から退去した後、千里1がヴィッツに乗せて、桃香Bを旧宅から連れてきた。この後、しばらくは、朋子・桃香・由美・緩菜の4人での生活となる。
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