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■春動(13)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-09-30
少し時間を戻して、1月2日の夜、青山家。
大晦日からこの家に泊まっている藤尾歩は
「では姫始めしまーす」
と言い、
「おお、頑張れ」
と言う義兄たちに手を振った。
恥ずかしがっている広紀の手を握り、部屋に引き籠もる。
部屋には布団が2つ並べて敷いてあり、ストーブも入っている。
「さあ、お嬢ちゃん、姫始めを始めようぜ」
と歩は言った。
「昨夜もしたじゃん」
と広紀。
「1月2日の夜にするのが姫始めだよ。昨夜のは姫試し」
「何それ!?」
広紀は灯りを消した上で片方の布団に潜り込むと、時間節約で、自主的に服を脱いで裸になった。
『ぼくこのまま歩の奧さんでもいいかもねー』
と広紀は思った。ウェディングドレス着るの少し恥ずかしいけど、頑張ろう、などと考えている。
歩は自分も服を脱いで裸になると、広紀の布団の中に潜り込み、まずは広紀の乳首を舐める。
「あ」
と広紀が声を漏らすので
『可愛い!』
と思う。
充分舐めて広紀が昂揚しているのを感じ取り、彼女の秘所に指を当ててゆっくりと回転運動を掛ける。
「あん」
と広紀が声を出すので、歩自身の心も昂揚する。刺激している内に広紀が濡れてくるのを感じる。そろそろいいかな?
「じゃ入れるよ」
「うん」
それで歩は“連結用のプラグ”を“コネクタのジャック”に差し込もうとしたのだが
「あれ?」
と声を挙げる。
「どうしたの?」
と広紀。
「ぼくのちんちんが無くなってる」
と歩。
「嘘!?」
歩は部屋の灯りを点けて、布団もめぐる。広紀が恥ずかしそうに両腕を交差させて胸を隠す。
「あゆみん、女の子になっちゃったの?」
「うーん。ぼく、どうも性転換してしまったようだ」
と歩は言った。
「なんでそうなっちゃったんだろう?」
「もしかしたら、男の身体になったのはも何か一時的な一種の勃起状態で、それが落ち着いて、元の女の身体に戻ったのかも」
「勃起(ぼっき)状態??」
「あ、間違い。励起(れいき)状態」
いや、わざと言ってるだろ?睾丸が付いてたせいか、最近の歩は物凄くスケベだ。まるで脳細胞が全て性欲でてきているかのようだ。昼間いきなりバイブのスイッチを入れられて悲鳴をあげそうになったこともある。屋根の上で作業している時にやらないで欲しい(←お前たち仕事中だぞ!)。運転しながら悪戯したりするし(←その内事故起こすぞ)。
「あゆみんが女に戻ったのなら、ぼくもその内、男の子に戻れるのかなあ」
と広紀が言うと
「それはいけない。広紀が男に戻る前に姫始めをしなくちゃ」
と言って、歩は結局、女体に戻ったまま、広紀の上にかぶさった。
「でもちんちん無いのに?」
「ちんちんくらい無くても、女の子とセックスするのには支障は無い」
「そうなの!?」
それで2人は姫始めをしたが、普段のセックスとあまり変わらないので、歩って、ちんちんとたまたまが物理的に無くなっても、ヴァーチャルには存在しているのでは?と広紀は思った。
そういう訳で、1月2日の夜、彼女たちの事業部員最後の睾丸が、歩の股間から消滅したのであった。
それより半日前。1月2日の朝。
「富山県の一宮(いちのみや)ってどこだったっけ?」
と、まだ高岡に居た桃香(桃香A)は朋子に訊いた。
「どこだっけ?」
というので、朋子は東京に居る青葉に電話してみた(青葉は1月1日の内に小浜から東京に移動している)。
「越中国の一宮と称される神社は4つある」
「4つもあるの!?」
「ひとつがうちのすぐ近くの気多神社(けたじんじゃ)」
「ここ一宮だったんだ!」
「ひとつが南砺(なんと)市の高瀬神社、ひとつが射水(いみず)市の射水神社、あとひとつが立山の山の上にある雄山神社」
「立山の山の上では気軽に行けないね」
「夏の間しか近づけないよ。あんな所に冬でも行けるのは、ちー姉くらいだと思う。でも麓に中宮祈願殿、その更に手前に前立社壇というのがあって、前立社壇なら地鉄(富山地方鉄道)ですぐそばまで行けるから、初詣はそこに行く人が多いと思う」
「なるほどー」
「越中国一宮については、この4社を挙げる資料と、高瀬神社・気多神社のみを挙げる資料がある」
「だったら、気多神社って意外に凄いんだ!」
「近所だし、初詣はそこに行けば?」
「だねー」
と朋子は答えたのだが、桃香は
「こんな近い所に行ってもありがたみが無い。適度に苦労する所まで行こう」
などと言う。
気多神社は、青葉邸からは、ほぼ「裏山」の感覚である。
季里子は
「なんでわざわざ苦労しないといけないのよ」
と言う。全くである。
「青葉、お隣の新潟県や石川県の一宮はどこ?」
「越後国一宮は弥彦(やひこ)神社、あるいは直江津の居多(こた)神社、加賀国一宮は白山市(はくさんし)の白山比咩(しらやまひめ)神社、能登国一宮は羽咋市(はくいし)の気多(けた)大社。直江津の居多神社とうちのそばの気多神社は羽咋・気多大社の苗裔神(びょうえいしん)つまり子供の神社だよ」
(気多大社の主要な苗裔神としては、伏木の気多神社、直江津の居多神社、飛騨市の気多若宮神社、小松市の気多御子神社、兵庫県豊岡市の気多神社の5社が挙げられる。伏木は元々越中国国府があった場所で、伏木の気多神社は、気多大社の国府遙拝所が発展したものとも言われる)
「弥彦神社は参拝客多そうだなあ。直江津と羽咋(はくい)と白山(はくさん)ってどれが近いんだっけ?」
「そりゃ羽咋がいちばん近い。羽咋までは氷見(ひみ)から国道415号を越えたら40kmくらい。津幡経由でも70kmくらい。少し遠回りだけど道は圧倒的にこちらがいい。どっちみち1時間ちょっと。白山比咩神社までは80kmくらいで金沢市内が渋滞するし、市街地から先の道路状態が悪くてスピード出せないし混みやすいから2時間以上かかる。直江津までは150kmくらいで、そもそも高岡市内で小杉ICまで行くのに時間掛かるし、上越市内も混みそうだから3時間掛以上掛かると思う」
「よし、直江津はさすがに時間かかりそうだし、白山比咩神社に行こう」
「え〜〜〜!?」
と声を挙げたのは季里子である。
それで、青葉家に居るメンツは、わざわざ金沢市の西側・白山市(旧鶴来町)にある白山比咩(しらやまひめ)神社まで初詣に出掛けたのである。
2台の車に分乗する。
マーチニスモ(青葉の車)季里子・桃香・来紗・伊鈴
アクアのアクア(朋子の車)朋子・京平・由美・緩菜
京平は助手席でジュニアシートに座らせた(早月は千里と一緒に小浜に行っている)。
それで道を知っている朋子が先を行き、季里子がそれを追尾した。距離が離れたら桃香が京平に電話するように言っておいた。それで朋子のスマホを京平が持つ。京平は電話係である。小学生の来紗・伊鈴より幼稚園児の京平の方がしっかりしているので、京平に頼んだ。
朝10時くらいに出て、お昼頃、やっと白山比咩神社の駐車場まで辿り着く。
三ヶ日なので車が無茶苦茶多い。うまい具合に2つ並んで空いている所があったのでそこに駐めるが、地面は雪だらけなので、隣とあまり近づきすぎないように慎重に駐めた。季里子にはさすがにこの状態で駐めるのは厳しいので2台とも朋子が駐車させた。
「お義母さん、済みません」
「いやいや、これは雪道に慣れてる人でないと厳しいよ」
「ちょっとアクセル踏みすぎたら、後ろの車にぶつけそう」
「恐いよね」
「普段なら反対側から突き抜けるのだが」
と桃香が言っているが、
「桃香なら普段でも隣の車にぶつけそうで恐い」
と季里子は言う。
子供たちがお腹空いたと言うので、先に途中で買ってきたお弁当を車内で食べた。
その後でみんなトイレに行ってから参拝するが、雪道で子供たちは楽しそうにはしゃいでいた。
ソーシャル・ディスタンスを空けて並び、祈祷の申し込みをして控室に入り順番を待つ。
走り回って叱られたので、由美と緩菜はおとなしく桃香のそばに座っていた。
その時、緩菜は一瞬、千里の気配を感じて
「お母ちゃん!?」
と呟きながら、ある方向を見た。
そこには若いカップル?が座っているが、その紋付き袴の女性?と、隣の振袖の男性?に緩菜は千里の気配を感じたのである。
「うーん・・・・」
緩菜の見る感じ、性別逆転カップルっぽい。お母ちゃんの気配を感じるということは、この2人、お母ちゃんの“犠牲者”ではなかろうかと思った。きっと無意識に性転換しちゃったんだ!
『おにいちゃん』
と緩菜は京平に脳間通信で呼びかけた。
『なあに?』
『このボールをあそこの振袖着てる男の娘さんの隣の紋付き袴着てる男装女子さんの足元に転がして』
と伝えて、持って来ている手鞠を渡す。
『いいよ』
と言って、京平はいかにも“うっかり落とした”ような振りをして、ボールをその紋付き袴の女性の足元に転がした。
「あ。ごめん」
と京平が言う(演技力が無いのでわざとらしい)。
緩菜がボールを追いかけて行く。
紋付き袴を着た歩は、足元に転がってきたボールを反射的に停め、駆け寄ってきた小さな女の子に渡した。
「はい」
「お兄さん、ありがとう」
と言って緩菜は歩に微笑んだ。
「どういたしまして」
と歩。
それで緩菜はボールを受け取ったついでに、歩の手にも触れた。そして緩菜は隣に座っている広紀に
「あ、お姉さん、何か付いてる(憑いてる?)」
と言って、彼女の振袖の袖口付近を払う(祓う?)ようにし、本人の手にも触れた。
「ありがとう」
と広紀が言った。
『これで2人とも元の性別に戻れるんじゃないかなあ』
と思いながら、緩菜は手鞠を持って桃香の所に戻った。
結構な時間待ってやっと昇殿祈祷してもらい、お守りや撤饌・御神酒などを頂いて社殿を出る。おみくじを引くと、みんな吉や大吉だったが、桃香だけ凶だった。
「お正月は凶を減らしてると思うのに、それで凶を引く桃香は凄い」
と季里子は言っていた。
「恋愛運凶と書かれている」
「つまり浮気は失敗するということね」
それで帰ろうとするのだが、朋子も季里子もどの付近に車を駐めたか不確かだった。
「どの辺だったっけ?」
「うーん・・・」
「なんか辿り着くだけで疲れたからなあ」
京平と緩菜が顔を見合わせる。
「緩菜が分かるみたいだよ」
と京平が言う。
「ホントに?」
それで半信半疑で緩菜に付いていくと、ちゃんとマーチとアクアが並んでいる所に辿り着けた。
「緩菜ちゃんすごーい!」
「この子はお母ちゃん譲りでこういうの得意なんだよ。ぼくはお父ちゃん譲りで、すぐ迷子になる」(*9)
などと京平は言っていた。
季里子は、確かに千里さんは道に迷ったことないと言ってたもんなあと思ったが、朋子は、美映さんって方向感覚いいのかな?などと思っていた。
(*9) 貴司もわりとよく迷子になるが。阿倍子はかなり酷い方向音痴である。貴司と阿倍子の馴れそめも、阿倍子がホテルの部屋を間違ったのが原因だった。阿倍子と京平の組合せは最悪で、梅田の地下街を2時間さまよったこともある。
なお、京平は法的には貴司と阿倍子の子だが、本当は貴司と千里の子。緩菜は法的には貴司と美映の子だが、本当は信次と千里の子。つまりふたりは法的には同父異母兄妹だが、実際は異父同母兄妹である。
↓4人の関係
_京平|早月|緩菜|由美
京−−|捻れ|同母|××
早捻れ|−−|捻れ|同母
緩同母|捻れ|−−|同父
由××|同母|同父|−−
(京平と由美だけが無関係。他の組合せは全て親の片方が共通)
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