【竹取物語2022】(12)朝霞

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阿蘇山の風景。女房装束の福(山村勾美)が大の字になって倒れています。銀色の女(月城たみよ)がバケツ!の水を顔に掛けてから
「もしもし」
と声を掛けます。
 
(「なぜ奈良時代にプラスチックのバケツがある?」とツッコミ多数)
 
福の意識が戻ります。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何とか」
「元気付けにこれをどうぞ」
と言って、銀色の女は金色の玉のようなお菓子を渡しました。
「これはお菓子かな。力を使った後は甘い物が嬉しい」
と言って食べています。
 
(「あぁあ」という視聴者の声)
 
「都に戻れます?」
「ここはどこ?」
「肥後(ひご)国ですが」
「ああ。だったら3日で戻れる」
「さすがですね。では、これ路銀にどうぞ」
と言って、銀色の女は去って行きました。
 
2m近く積み上げられた反物を見て
「これをどうやって持ち帰れというのよ?」
と福は文句を言いました。
 
(「たみよちゃんはこれどうやって持って来た?」とツッコミ多数)
 

朝霞。
 
★音楽:姫路スピカ『君去りし後』
 
語り手「竹取翁と竹取媼が寝込んでしまった中、ひとり頑張る桃(川泉パフェ)は取り敢えず藤と桐に翁と媼のお世話を頼み、紫(広瀬みづほ)と2人でまず草笛皇女(姫路スピカ)の所に行き、かぐや姫の身の回りの世話をしていた女童2人を女房に昇格させた上で預かってもらえないかと頼みました」
 
「それはもちろん引き受ける。でも色々処理しなければならないことがあるのでは」
「実はそれで困っていまして」
「よし。私が何とかしてやる」
「お願いします!」
 
草笛皇女は、親戚にあたる山倉少輔(山本コリン)と一緒に乗り込んできます。まず当事者能力を失っている翁・媼を隠居させ、竹製品店の番頭・竹本(海沼夬時)と竹細工製作所の司・竹内(大林亮平)・菓子店の店長・小夜(松梨詩恩)、それに美濃から和紙製作所の司・竹原(田倉耕児)にも来てもらい、この4人と草笛皇女・山倉少輔、桃・紫も含めた会議をしました。
 
ここで、竹原は竹内の従兄です。そして小夜は竹内の娘で、かぐや姫の乳母子(めのとご)であり、彼女の夫(緑川志穂:男装)は竹本の甥に当たるという関係です。
 
草笛皇女は小夜夫妻がこの店の鍵となると判断。小夜を象徴的な主(あるじ)とし、竹本・竹内・竹原の3人を大番頭として、基本的な方針はこの4人の話し合いで決めていくことにしました。
 

「私が主(あるじ)なの〜?」
と叫ぶ小夜。
 
「かぐや姫の乳母子(めのとご)という立場は重い。姉妹に準じる存在だし」
「男が出ていかなければならない所には旦那(竹本の甥)を出せば良い」
 
結局、小夜夫婦が、かぐや姫の家の別邸に子供・乳母も連れて引っ越してくることにしました。
 
「この家の調度は豪華すぎる。落ち着かない」
と小夜が言うので
「普通のと交換してあげるよ」
と草笛皇女が言い、普通の障子や建具などと交換してもらいました。また間仕切りを変更して子供部屋をたくさん作りました(少し下の図参照)。
 
本宅の方は、竹取翁・媼だけが住み、藤・桐が取り敢えずそのお世話をします。小夜がこの本宅ではなく、かぐや姫と帝の逢瀬に使用していた別宅のほうに入ることになったのは、小夜は子供が多いので広い家のほうが良かろうということになったからです。また翁・媼が
 
「かぐや姫の使っていた部屋はそのままにしておきたい。ひょっとして帰ってきてくれたら、すぐ使えるように」
と言ったのもありました。
 
土蔵の警備は今まで警備してくれていた人に引き続き頼むことにします。土蔵の鍵は小夜が管理することにしました。女童の桜と橘、警備の女房・柏は草笛皇女の館に移動しました。桜と橘は皇女様の姫君・照子(白雪みずほ)に付けました。
 
福については
「あんた見るからに危なそうだから皇女様の所に戻すのも申し訳無い。うちに残る?」
「じゃそうします」
「でもあんた少し女っぽくなってきたね」
「月の者が来たから」
「そういうたちの悪い冗談言うと殺すからね」
 
(「やはり金玉食べると女になるんだな」と視聴者の声)
 
ということで福は、かぐや姫宅に残すことにしました。彼は小夜の子供たちの良き遊び相手になります。
 

語り手「一方、竹取翁と竹取媼は、藤や桐が強引に薬を飲ませたりして、半年ほどで何とか起き上がって自分の身の回りのことは自分でできるようになりました」
 
映像は薬師(くすし:医者:谷口翼)が翁・媼の様子を診ている所。
 
「そして翁媼は小夜の子供たちが家の中を走り回っているのを見ていると少しは心が癒やされるようでした」
 
「翁と媼が何とか起き上がれるようになったことから、藤と紫は結婚することになりました(←誤解した人の多かったナレーション)」
 
「藤は3年間かぐや姫と帝の間の手紙のやりとりのお互いの使者となっていた頭中将(薬王みなみ)と結婚することになりました」
 
(視聴者の声「郵便屋さんと結婚するパターンか」)
 
「また紫は、かぐや姫昇天後の事業と家の再編を陣頭指揮してくれた山倉少輔(山本コリン)と結婚することになりました」
 
「小夜が2人のため割と近くに小さな邸を建ててあげて、そこに各々の夫が通ってくることになります」
 
花嫁衣装の広瀬みづほと花婿衣装の山本コリン、花嫁衣装の花園裕紀と花婿衣裳の薬王みなみの姿が各々2秒ほど映る。
 

語り手「翁と媼のお世話は残る桐(箱崎マイコ)が引き続きしてあげることにしました。そして桐はこの家のやや頼りない宅司・竹内晴昌と結婚して、翁媼の部屋の隣の部屋に住むことになりました(←映像無しでナレのみ)」(*201)
 
かぐや姫の家(昇天後)

 
(*201) 月城利海が恥ずかしがって「箱崎さんと結婚とか恐れ多いです。ファンの人から殺されますよ」などと言うので結婚記念写真は撮影しなかった。
 
「花嫁衣装だったら良かった?」
と訊くと
「え?」
と言って真っ赤になったので、それ以上は追及しなかった!
 

「桃は松・竹と一緒に、一応かぐや姫の本宅に寝泊まりして、お店のこと、翁・媼のこと、草笛皇女との連絡などで走り回っていました。しかし翁・媼が何とか起き上がれるようになった時点で、小夜がかぐや姫昇天まで住んでいた家を譲ってもらい、松・竹と3人で移り住むことにしました」
 
「なお生活費としては小夜から曖昧なお給料(年金みたいなもの)を3人とも(藤と紫も)毎月頂いているので、特に何かの仕事をしなくても何とかなります」
 
桃(川泉パフェ)が言います。
「松さん、竹さん、色々ありがとうね。あんたたち、嫁さんの口とか紹介しようか?お店関係でも、(草笛)皇女様関係でも、紹介してもらえると思うし」
 
「私たちは今更結婚とか考えていない。それより桃ちゃんこそ結婚適齢期だから、どこか紹介してもらったら?」
と竹(川泉スピン)は言います。
 
「私は多分しなければならないことがある。この手紙を今年の8月15日に読むように、姫様から言われたんだよ」
と言って桃は手紙を2人に見せます。
 
「だったら私たちも多分それをお手伝いすることになる」
と松(夕波もえこ)は言いました。
 

「主上(おかみ)、藤原中納言が姫君を連れて参りました」
という頭中将(薬王みなみ)の声に、帝は
「ああ」
と、気のない返事をしました、
 
かぐや姫が昇天の間際に帝に宛てて書いた手紙で、藤原中納言の姫君を自分の代わりに愛してほしいと書き残して行ったのでした。
 
藤原中納言(本騨真樹:友情出演)が豪華な婚礼衣装の姫君(アクア!)を連れてきます。4人の侍女が付き従っています。
 
侍女:神田あきら・水野雪恵・広沢ラナ・直江ヒカル
 
帝(アクア)は姫君を見て驚いて口をあんぐりと開けてしまいました。
 
「そなた名前は?」
「光(ひかり)と申します」(*202)
「美しいな」
「それよく言われますけど、私(わたくし)を顔だけで評価して欲しくないです」
と姫君。
「これ、主上(おかみ)の前でそのような失礼なことを言うのでない」
と父親が慌てて言います。
 
「いや気に入った。気が強そうだな」
「そうですね。お前がもっと女らしい従順な性格なら良い嫁のもらい手があったのにと言われますが、私はおしとやかな姫君など演じられる性格ではありませんので」
 
「いや、私はこのくらい気の強い女のほうが好きだ」
と帝は楽しそうに言いました。
 
(視聴者の声「顔が同じならいいのかよ!?」)
 

(*202) このドラマの“光”のモデルは聖武天皇の皇后になった、藤原不比等の娘・光明子(光明皇后)。
 

語り手「月の都に帰ったかぐや姫は、何も憂いなどのない、幸福感でいっぱいの暮らしをしていました」
 
映像は、銀色の羽衣を着たかぐや姫(アクア)が、同じく銀色の羽衣を着た姉妹(高崎ひろか・町田朱美・東雲はるこ)(*203)と一緒に何かふわふわしたもの(実は綿菓子!)を食べているシーンが映ります。
 
そこに座っている面々は全員無表情です。食べ物を黙々と食べています。会話とかもありません。
 
背景を月の人が数人銀色の羽衣を着て、ふわーーっと飛んで行きます。
 
飛んで行った人:ナイスエンジェルズのメンバー(ワイヤーアクション)
 
(視聴者の声「しかし月の世界って女しかいないのか?」「男が月に行くと女に変わってしまったりして」「月の者が来るようになるんだな」「誰がうまいことを」「だったら生殖は?」「きっと女同士で生殖する」「卵子融合だな」)
 
(*203) 東雲はるこが演技力ゼロなので、無表情でいればいい月人の役を割り当てた。それに相棒の町田朱美が付き合った。更に高崎ひろが付き合ってくれた。
 

かぐや姫(アクア)が金色の球体に入ります。どうもかぐや姫の私室のようです。
 
(男子視聴者の声「金色の玉だ」「金玉だ」)
 
球体の中でかぐや姫は着替えようとして、腰布を脱ぎます。
 
(カメラは脱いだ腰布のみを映し、アクアの身体は映さない。実は水着を着ている)
 
その時カタッという音を立てて何かが落ちました。何だろう?と思って拾い上げると扇です。何気なく広げると、歌が書いてありました。
 
「秋の田の穂の上(へ)に霧ふ(きらう)朝霞(あさがすみ)、何方(いつべ)の方(かた)に、わが恋やまむ」(*204)
 
★音楽:アクア『朝霞』
 
(*204) 万葉集2-88にある磐之媛命(仁徳天皇(AD500頃)の皇妃)の歌。
 
秋の田の稲穂の上に漂う朝霞が、どこかに流されて消えて行くように私の恋心もどこかに消えて行くでしょうか?いえ。あなたの心の上にずっとあるのです。
 

それを見たかぐや姫の顔がそれまで無表情だったのが、何かを懐かしむような表情に変化します。かぐや姫の脳裏に、10年程前、家の垣越に歌や楽器を奏でるでもなく、ただひたすら恋心を語っていた人物の映像がフラッシュバックします。
 
映像は狩衣姿の石上麻呂(七浜宇菜)が垣の前で恋を語る姿。
 
そしてかぐや姫は記憶が戻ったのです。
 

Playback映像が流れる。(右上に“PlayBack”の表示)
 
媼が抱きしめていたかぐや姫(アクア)が浮き上がって塗籠(ぬりごめ)の外に出て行く。かぐや姫が翁と会話し、翁への手紙を書き、そのあと、帝への手紙を書く。その時、塗籠の部屋で、かぐや姫の左に座っていた桃の横に唐突に銀色の衣を付けた女性“雪兎”(月城たみよ)が出現し、桃の肩を軽く叩いてから囁く。
 
「かぐや姫が羽衣を着る直前に姫に抱きついて、これを姫の腰布に差しなさい」
 
それで桃は立ち上がる。銀色の女の姿は消える。桃は塗籠を走り出し、今まさに羽衣を着ようとしていたかぐや姫に抱き付き、抱き付いた勢いで腰布の後ろのほうに扇を差す映像が流れる。羽衣の陰になって、月人たちには見えなかった。
 
(視聴者のツッコミ「かぐや姫は、あれ以来下着を替えてなかったのか?」)
 

白い衣を着て、片膝で座り目を瞑って瞑想している石上麻呂(七浜宇菜)の姿。
 
その顔を後ろから「だーれだ?」と言って両手で覆う手。
 
「かぐや姫!?」
と驚いて振り返る石上麻呂。そこには銀色の羽衣を着けた笑顔のかぐや姫と、同じく羽衣を付けた侍女・雪兎(月城たみよ)の姿があります。
 
★音楽:坂出モナ『再会』
 
「姫も亡くなったのですか?」
「いいえ。私は元々月の都の住人だったんです。それで地上で24歳の時に月の都に帰ったのです」
「ここは時間とかが分からない。多くの人は数年でどこかに消えて行くが私は思い残したことが多かったせいか、まだこうしている」
 
「麻呂様が亡くなってから7年ほど経ちました」
「そのくらいの時間が流れたのか」
 
「常世(とこよ)の国と月の都は近くにあるのです。ですからこちらに参りました」
「へー」
「麻呂様、もしかしたらまだおられるかもと思って」
「・・・・・」
 

「麻呂様、これを確かに頂きました」
と言ってかぐや姫は、例の扇を広げる。
 
「あ、その扇は」
 
「私、麻呂様が生きていた間は全然気付きませんでした。あの時、私を最初に助けてくださったのが麻呂様でしたのね。麻呂様が亡くなった後、従者(ずさ)の方からこの扇を託されて気付きました」
 
画面には6歳のかぐや姫(白雪大和)が崖から落ちそうになったのを手を掴んで止めた幼い頃の石上麻呂(岩旗雪華)の映像が2秒ほど映る。
 
「可愛い子だなあと思った。でも東宮(はるのみや:但し当時はまだ東宮になる前)が先に求愛したいなんて言ったから僕は何も言えなかった」
「でも麻呂様はじっと私を見ておられました。その視線が求愛だと思っております」
 
かぐや姫は語ります。
 
「麻呂様が亡くなってから2年間は服喪しておりました。その間に、大伴大納言は自分で諦められました。石作皇子が御仏の鉢だというものを持って来ましたが、明らかな偽物でした。続いて車持皇子が玉の枝を持って来ました。美事なもので、私も喪中だけど約束を果たされた以上逢わねばならないかと思いましたが、結局それも偽物でした」
 

「服喪が終わった後、阿倍右大臣が火鼠の皮衣を持って来ました。本物にしては立派すぎたので火を点けてみてくださいと言ったらあっけなく燃えました。それで求婚者は居なくなったので結局誰とも逢わないまま月に帰ることになるのかなと思いました。でも帝(みかど)が強引に求婚してこられました。まあ結婚してもいいかなとも思ったのですが、結局逢うことのないまま終わりました」
 
「それで月に戻っていったん地上の記憶は消えていたのですが、私の可愛い女房の桃が必死の行動をしてくれたお陰で私の記憶は戻りました。麻呂様を思う気持ちも戻りました。地上に居た間は、常世国(とこよのくに)に逝ってしまった麻呂様と逢うこともできなかったのですが、月に戻ったおかげで、また麻呂様と会うことができました」
 
かぐや姫は長い話を終えて麻呂を見ています。
 
「かぐや姫、この常世国(とこよのくに)でも男と女が逢うということはできるものなのだろうか」
「やってみなければ分かりませんね」
 
「私は今でもそなたのことが好きだ。もし叶うのなら、私はあなたと逢いたい」
「よろしいですよ。愛しいお方」
 
それで2人は口付けをしました(*205).
 
(「こらー!離れろ!」とアクアファン、宇菜ファン、双方からの声)
 

(*205) ふたりはリアルでキスしている。寸止めの予定だったが、宇菜が
「めんどくさい。しちゃおうよ。長い付き合いだし」
と言って、本当にキスした。
 
舌を入れようとしたのは何とか阻止した!
 
宇菜とキスしたのはもちろんFである。
 

看板係(麻生ルミナ)が銀色の服を着て「かぐや姫が昇天してから1年後」と書かれたプラカードを掲げる。
 
桃(川泉パフェ)、竹(川泉スピン)、松(夕波もえこ)、石上菘鳥(白鳥リズム)の4人が馬に乗って旅を続けていました。
 
「明日くらいには富士の裾野付近まで辿り着けると思うけど、一体何があるのだろう」
と菘鳥が言います。
 
「分かりません。ただ昇天翌年の10月1日頃に富士の裾野まで来て欲しいということだったのですよ。可能なら麻呂様の弟様も一緒にと。その手紙は私が読み終えると、すーっと消えてしまったのです」
 
「かぐや姫殿が最後に残したことばだ。何かあるのだろうな」
 
それで桃が富士まで行くことになったのですが、護衛にと言って松と竹が付いてきてくれたのです。
 
映像は高くそびえ、煙たなびく富士山(*206).
 
★音楽:常滑舞音『唱歌・ふじの山』
 
「しかしここから見ても、まさに天にそびえる山だな」
「はい。普通に“山”として認識できる付近を見ても頂きを見ないから、最初はそこに山があることに気付かない。ありえないような高さに頂きがあります。きっとあの山の頂きからは、月にも近いですよ」
と桃は言います。
 
(*206) 富士山の実際の映像を加工し、宝永山を消して、噴煙を描き加えたもの。
 

吉原(よしわら:現富士市)付近で野宿(*207) して、
 
「富士と言ってもどこに行けばいいんだろうね?」
などと言いながら、馬に乗ったまま山に近づいて行くと、銀色の衣を付けた女性(月城たみよ)が現れて、こちらに向かってニコリと微笑みます。
 
「桃さん、こんにちは。雪兎(ゆきえ)と申します」
「私、あんたを何度か見た記憶がある」
「何度かお会いしましたね。ご案内します」
 
そして雪兎は4人を案内して富士に向かって行きました。
 
(*207) 平安初期頃までの旅は基本的に野宿である。奈良時代頃から近畿付近を中心に寺院などが運営するあるいは公営の“布施屋(ふせや)”が設置されるようになるが、全国に広がるのはかなり後の時代になってからである。かぐや姫は10月1日(新月:月は日中に出ている!)を指定した。今の暦で言えば11月初旬である。涼しくはなってくるが、天候は比較的安定していて旅をしやすい季節だったと思われる。これが旧暦8月だと、二百十日・二百二十日にぶつかり台風で遭難するかも!
 

銀色の女性は徒歩、こちらは乗馬なのに向こうはとても歩みが速く、時々距離が離れてしまいそうになります。そんな時は少し待っていてくれたりします。
 
途中から道なき道を行くので、竹は帰りはちゃんと麓まで辿り着けるだうかと少し不安になります。帰りも案内してくれるのだろうけど、念のため、できるだけ目印になるようなものを覚えておこうと自分の記憶に叩き込んでいきます。
 
5-6時間ほど進んで、富士の4合目付近まで来たろうかという所。普通の山ならとっくに頂上に達している高さの所に小さな小屋がありました。よくこんな高い所に小屋を作ったものだと思います。雪兎はその小屋の中に入りました。
 

桃たち4人が馬を降りて中に入ると、小屋の戸が勝手に閉まります。竹は一瞬
「閉じ込められた?」
と焦りますが
 
「桃、竹、松」
と呼ぶ懐かしい声がしました。
 
「かぐや姫様!?」
 
そこには、かぐや姫と石上麻呂が並ぶ姿がありました。
 
★音楽:ビンゴアキ『邂逅』
 
「兄上!?」
 
「かぐや姫様ぁ、会いたかったぁ!」
と言って、桃はかぐや姫に抱き付いて泣いています。かぐや姫は桃の頭を優しく撫でていました。桃の脳裏に1年前の昇天の時にもこんな感じで撫でてもらったことが昨日のように浮かびました。
 
桃が泣き続けるので、かぐや姫はしばらくそのままにしていました。
 
そして桃が泣き止んだところでそれまで麻呂が抱いていた赤ちゃんを自分で取り、桃に渡します。
 

「桃、この子をお願いします」
 
桃は受け取りながら尋ねました。
「このお子は?」
 
「私と麻呂様の子供です。私は月の都の人、麻呂様は常世国の人で、こちらの世界では不安定になるので地上で育てて欲しいのです」
 
「分かりました!」
「名前は雪子です」
「女の子ですね!」
「ちんちん付いてないからきっとそうです」
 
「でも赤ちゃんできたのかぁ。翁と媼がこの子を見たら大喜びしますよ」
「あ、父と母に言うのはやめて。あの人たち絶対、かぐや姫の子供だといって大はしゃぎして騒ぎが大きくなって面倒なことになるから」
 
「確かに大変なことになりそうです!」
「だから、私と麻呂様の子供というのは伏せて桃が誰かお友達から預かった子供とでもいって育てて欲しいのです。子供を育てる費用は適宜差し上げますから」
 
「分かりました。可哀想だけど仕方ないですね、でもいっそ私の子供ということにしてもいいですか?」
「それはいいけど、あなたまだ結婚してないのでは?」
「適当な男を見繕って」
 
一瞬、車持皇子の姿が映る。
 
「私と桃殿の子供ということにしようか」
と菘鳥。
 
「菘鳥様もまだ奥様おられないのに!」
「桃殿が私の奥方になってくれたら」
 
唐突に言われて桃が真っ赤になりました。
 
「何とかなりそうね。じゃまた」
「“さよなら”じゃなくて“また”会えるんですよね?」
「ここにいる人だけの秘密ね」
「はい!」
 
 
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【竹取物語2022】(12)朝霞