【竹取物語2022】(10)かぐや姫の昇天

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かぐや姫の昇天。
 
語り手「五節の舞にかぐや姫が出たこと、関係者の話からかぐや姫はその後帝と夜を過ごしたらしいことから、近い内に盛大な入内(じゅだい)の儀式がおこなわれるのだろうと人々は思いました。しかし特にそのような沙汰も無いまま、年が明けて、かぐや姫は24歳になりました」
 
「当時としては結婚適齢期後半ですし、帝にはまだ1人も子供が居ないことから、1日も早い婚儀が望まれていました。また、草笛皇女が、かぐや姫の後見になってくれたので、後宮に入っても肩身の狭い思いをすることはないものと思われました」
 
この年になって、かぐや姫はしばしば月を見ては何か物思いにふけっているようでした。そばに付いている桃や紫が
「月の顔を見るのはよくありません」
と言ってかぐや姫に月を見せないようにしていたのですが、それでも夜みんなが寝静まった頃にこっそり夜空を見て泣いておられます。
 
そうこうしているうちに半年が過ぎて7月15日の晩(*171)、かぐや姫は月を見て酷く物思いにふけっているようでした。心配した紫が竹取翁に申し上げます。
 

(*171) 当時は太陰太陽暦なので、月(month)の日付と月(moon)の朔望が連動している。1ヶ月は平均29.53日で1月(ひとつき)は29日(小の月)か30日(大の月)である。
 
月(month)の日付と月(moon)の形の関係はだいたい次のようになる。
 
1日=朔(新月:闇夜)
8日頃=上弦
16日頃=望(満月)
23日頃=下弦
 

女房の紫は言いました。
「かぐや姫は元々月を見ると悲しい顔をされていました。でもこの所のご様子はただごとではありません。何かひどく悲しいことがあるに違いありません」
 
それで翁はかぐや姫に問いました。
「どんな悲しいことがあるのですか。月を見てこんなに沈んだ様子なのは。これほど楽しい世の中だというのに」
 
「私は月を見ると世の中のことがしみじみと感じられるのです。特に何かを嘆いているということではありません」
 
でもかぐや姫の様子を見ると何か心配しているように見えます。
 
「私の大切な娘よ、一体何を思っているのです。あなたが気に掛けているのは何ですか」
 
「別に何も心配事はありません。ただ物事がとても心細く思われるのです」
 
ついに翁は
「あなたは月を見てはいけません」
と禁止しましたが姫は
「月を見ないではいられないのです」
と言います。
 
そして月が出るとそれをじっと見詰めています。7月下旬の月が出てない夜は特に変わった様子も無いのですが、8月に入り、また月が見えるようになりますと、それを見て嘆き声まで漏らしています。お付きの者も翁も
「姫はやはり何か心配事があるに違い無い」
と思うのですが、理由がさっぱり分かりません。
 

8月15日に近くなり月がかなり丸くなってきた晩、月を見てかぐや姫は人目も避けずに激しく泣きました。それで翁たちが
 
「一体どうしたのですか」
と訊きますと、かぐや姫は泣きながら言いました。
 
「以前から、いつかは言わなければと思っていました。でも言うとお心を乱されると思い、言えませんでした。でもいつまでも言わないままにはいかなくなりました」(*172)
 

(*172) 視聴者の茶々(ちょうどここでCMが入る)
 
「ついに実は自分は女なんですという告白か」
「自分は女だから帝と結婚できないのです、とか」
 
↑「女だったら問題無いのでは」というツッコミ。
 
「分かった。帝が実は女なんだよ。他の帝候補者を退けて大臣が自分の娘が産んだ子を天皇にするために男の子を装っていた」
「それが月からの使者が来てバレるんだな」
「それもラノベにはありがち」
 
「でもかぐや姫は実は男だったから5人の貴公子や帝の求婚を拒否し続けたなんてのもラノベにありそうだよね」
「ありがちありがち」
「でも月の使者が来るようになって結婚できるようになる」
「それも安いラノベにありがち」
「女の子になれて、めでたしめでたし」
 

かぐや姫は告白します。
 
「私はこの世の人ではありません。実は月の都の人なのです。それが前世の契りがあり(*174)、この世界にやってきていました。でももう帰らなければならない時になりました。今月15日に(*173) 月の世界からお迎えが来ます。このお迎えからは逃げることができません(*175)。このことを知ったら父上母上が随分お嘆きになるだろうと思い、今年の初めから嘆き悲しんでいました(*176)」
 

(*173) 今はもう月がほぼ丸に近い状態。つまり8月13日か14日くらいと思われる。つまり、この娘は昇天の1〜2日前に唐突にこのことを告白したのである。
 
(*174) 原文「昔の契ありけるに」。一般に「前世の約束ごとがあったので」などと訳されることが多い。ここでは「前世の契りがあったので」と訳した。
 
(*175) 原文「さらず、まかりぬべければ」。“さらず”は“避らず”で避けることができないということ。
 
(*176) こういう言葉を見ると、かぐや姫は物凄く深い感情を持っている。逆に言うと、5人の貴公子に難題を出したかぐや姫はまるで別人である。本当にこういう優しい心を持っていたら、誰とでもいいから結婚していればよかった。それこそ、双六大会でもくじ引きでもして決めれば良かったのである。
 
結婚して子供ができていたとしても何も昇天の妨げにはならない。
 
かぐや姫の基本プロットというのは“羽衣伝説”である。羽衣伝説では男と結婚して子供もできていたが羽衣を着ると、あっさりと男の元を離れて昇天する。羽衣伝説には老親型と若い男型の2通りがあるが、竹取物語はそのミックスになっている。
 

翁は驚いて言います。
「なんというとをおっしゃるのか。あなたは竹の中に居るのを見つけて、当時は菜種のように小さかったのを(*177) 私と同じくらいの背丈になるまで育てました。その可愛い子供を誰が連れて行くというのでしょう。こんなことなら、その前に私が死んでいればよかった」
と言って、媼共々激しく泣きます。
 
かぐや姫も
「月の世界に私の両親もいますが、私は随分長くこちらの世界で過ごしてしまいました。(こちらの)父上・母上とも別れがたく、自分の故郷に帰るというのが少しも嬉しいとは思いません。ただ悲しいばかりですが、私は帰らなければならないのです」
と言ってさめざめとお泣きになります。(*178)
 
かぐや姫の傍に仕えている女房・女童(めのわらわ)たちも
「そんな突然月の世界に帰るなんて。お別れしたくありません。ずっと姫様と一緒に居るつもりでしたのに」
と言って、みんな泣いています。
 

(*177) 菜種、つまりアブラナの種は1mmほどのサイズであり、竹の中に居たかぐや姫はこんなには小さくない。単に「とても小さかった」という意味である。現代でいえば「ケシ粒のように小さい」などと同様の表現として使用された。
 
ちなみにケシ粒(アンパンの表面に貼り付いてるもの)の大きさは0.2mm程度。
 

(*178) 今昔物語のほうでは、かぐや姫は「私は人ではないのであなたとは結婚できません」と帝に言うと、あっさりと輿に乗り空から迎えに来た者たちと一緒に昇天していく。ここで使者は「空から来た」(只今空より人来て迎ふべき也)となっていて、「月から来た」設定ではない。そもそも十五夜でもない。
 
月から来たというのは、竹取物語・作者のオリジナルと思われる。
 
今昔物語:帝が求婚した時/空からの迎え/−
月上女経:満月の晩/如来からの使者/求婚者たちの色欲が消滅する。
竹取物語:十五夜/月の都からの迎え/兵士たちが身動きできなくなる。
 

語り手「宮中とかぐや姫の家の間を毎日のように行き来して文を伝えている頭中将は、かぐや姫の家に行くとみんな泣いているので、てっきり翁か媼が亡くなったのかと思い尋ねます。そして女房頭の藤から話を聞くと驚いて、急ぎ宮中に帰り報告しました」
 
頭中将(薬王みなみ)が申し上げます。彼は殿上人なので清涼殿に昇って御簾の中の帝と話します。
 
「かぐや姫は実は月の都の人で、今月十五日に月の都に帰らなければならないというのです。かぐや姫の家ではそれでみんな泣きはらしていて、食事の支度もできないほどでした。造麿(みやつこまろ)は憔悴して、2日前に見た時から、かなりやつれていました」(*179)
 

(*179) この部分で原文は
「翁今年は五十ばかりなりけれども、物思には片時になむ老いになりにけると見ゆ」とあり、前出のように、ここで翁が50歳とするのは求婚者が殺到した時の記述と矛盾するので、このドラマでは採用しない。
 

頭中将の報告を聞いた帝(アクア)は御簾の中から出て来られると、
 
「そんなことはさせん」
 
とおっしゃいました。あちこちに伝達して武人など2000人を集めます。指揮官に少将の高野大国(木取道雄)(*180) を指名しました。
 
★音楽:品川ありさ『Two thousand warriors』
 
帝自ら武人たちを率いて、かぐや姫の家に向かいます。そして2000人で警備させました(*181)(*182)。かぐや姫の家は人が密集し、身動きもできないほどになります。かぐや姫は塗籠(*183) の中に入れ、媼が抱きしめています(*184). 桃や紫、女童なども同じ部屋の中に入っています。
 
★音楽:UFO『千人乗っても大丈V(ヴイ)』
 

(*180) 少将役の木取道雄について。視聴者の声「この人を指揮官にするのは不安すぎる」「絶対人選ミスだ」
 
むろん、いかにも不安そうな人をこの役に起用した!
 
でもこの場面はどんな優秀な指揮官でも対抗できなかったであろう。
 
(*181) 原作では帝はかぐや姫の家には来ず、宮中で待っている。しかしこの重大事に帝が来ないのは不自然なので、このドラマではかぐや姫の家まで来たことにした。
 

(*182) 原文「築地(ついぢ)の上に千人、屋(や)の上に千人。家の人々、いと多かりけるに、空ける隙(ひま)もなく守らす」
 
築地(ついぢ)というのは土塀のことで(魚市場では無い!)、初期の形式は単に土を盛っただけであったが、後に柱を立てて板を渡すようになり、その後更に瓦屋根まで載せられるようになり、現在でも古い大きな屋敷などに見られる塀(へい)の形となった。こういうものを持つのは多くは上級貴族であったため、貴族の婉曲表現として使われることもあった。
 
かぐや姫の家は多数の求婚者が殺到したあたりの記述を見ると最低でも柱と板くらいはありそうにも思えたのだが、柱と板だけの状態、またそれに瓦屋根を取り付けた状態では人が登れないと思うので、あるいは盛り土だけの状態か。
 
しかし屋根の上に1000人は無茶である。
 
竹取翁の家、1000人乗っても大丈夫!
 
ということでUFOの歌『千人乗っても大丈V(ヴイ)』となる。
 
なお、この2000人の武人はCGである。
 
『黄金の流星』で多数の国の軍隊がグリーンランドに集結した様子をCGで生成したのと同様の、まほろばグラフィックスの力作で制作には2ヶ月掛かっている。コロナの折、エキストラが使えないのでCGとなった。
 
単純コピーではなく、ひとりひとりの動作タイミングが微妙にずれているし、ひとりひとりの体型、着けている装備の色あせ具合も全員違うので、あまりCGっぼく見えないのがこの会社の技術の高さである。
 

今昔物語は、かぐや姫の家は帝の宮と同じくらいの大きさだったとあるが、昔は身分による規制が厳しいので、平民の竹取翁がそんな巨大な家を建てることは許されない。だいたい建てたとしても住む人は翁媼とかぐや姫に若干の使用人だけだから使い道が無く無意味である。
 
25m×25m(190坪)の広さがあれば、50cm四方に1人ずつ立たせる(コロナ以前のライブハウスの密度)と50×50=2500となるので、2000人の武人がいると身動きできない状態になる。当日のかぐや姫家の警備はこういう状態だったことが想像される。
 
トイレはどうしたんだ?
 

(*183) 塗籠(ぬりごめ)とは、壁を作らない昔の日本家屋の中で中心付近に作られた唯一の固定壁で囲まれた小さな部屋。初期の頃は神様を祭るのに使われたと言われ、後に夫婦の寝室となり。最後にはただの物置になった!(窓のない部屋だし)。
 
(*184) 媼役の入江光江さんは、かぐや姫役のアクアをしっかり抱きしめて「やはりこの子、女の子だよねぇ」と思った。むろん抱きしめられたのはF。
 

(再掲)かぐや姫家想像図

かぐや姫は普段いる私室の隣の塗籠の中に居る。
 
帝は武人たちに
「空を飛んでいる者はカラスだろうとコウモリだろうと射殺しろ」
と命じておられます。その言葉を聞いて翁は頼もしく思いましたが、かぐや姫は悲しい声で言います。
 
「どんな所に私を閉じ込めても無意味ですし、どんなにたくさん武人を揃えても月の都の者には対抗できないでしょう。私も今年の初めから月に居る父に、せめてあと何年か地上に留まらせて下さいとお願いしたのですが、どうしてもお許しが出ませんでした。月の都に行けば物を愁うこともなくなるのですが、そんな所へ行きたいとも思いません。(こちらの)父上と母上のこの先を見ることができないのが残念です」
 
「ああ、かぐやよ。私はもう胸が張り裂けそうです」
と塗籠の外に控えている翁は嘆いています。
 
(塗籠の中には女だけが居るので、男の翁は入口のところでかぐや姫と会話している)
 

語り手「そうこうしている内に、宵の頃もすぎてやがて子の刻(深夜0時)になると、翁の家周辺が昼間以上に明るくなりました。それはまるで満月を10個並べたような明るさで(*185)、隣の人の毛穴も見えるほどでした」
 
★音楽:ラピスラズリ『月よりの使者』
 
「そして月から雲に乗って100人ほどの人々降りてきました。月の人々は高さ2-5m (*186) ほどの高さの空中に雲に乗ったまま並びました。それを見ると、武人たちはみんな魂を抜かれたように何もできなくなりました。必死に気を振り絞って弓矢を取ろうとする者もありましたが、手に取ることはできませんでした。一人、帝の護衛をいつも務めている赤石という者(新田金鯱)が頑張って弓矢を射ましたが、矢は関係ない方角に飛んで行きました」
 
(*185) 無粋なツッコミだが、満月を10個並べても昼間の明るさには遠く及ばない!満月の実視等級は-12.74、太陽の実視等級は-26.74であってその差は14もある。等級は5等級差があると100倍である。つまり、10014/5= 398107 つまり40万倍の明るさがある。昔の人はさすがにこういうスケールが計算できなかったろう。
 
それでも多少とも算術的感覚のある人なら満月の10倍が昼間には遠く及ばないというのは感じ取ったと思う。つまりこの作者は多分算術には強くなかった!
 
(*186) 原作では「地より五尺ばかりあがりたる程に立ち連ねたり」とあり、五尺なら150cmであるが、このドラマでは一番低くまで降りてきた人が2mほどでそこから階段状に5mくらいの高さまで展開したことにした。これはひとつは当時と今では平均身長が違うのもあるだろうが、150cmでは武人たちの頭とぶつかってしまうこと、それと階段状に並べないと周囲の家の屋根ともぶつかることを考慮した。繰り返しになるが作者は数字的なものの感覚がとてもアバウトである。
 
月上女経は70尺(約200m)と書くが、そんなに高いと今度は見えない!
 

月の都の人たちは着ている服もたいそう立派なものでした。
 
その中の王と思われる人(non credit !!)が呼びかけます。
 
「造麿(みやつこまろ)出てきなさい」
 
月人の声は抑揚の無い平坦なものでした。年上なのか若いのか、男か女かさえ、よく分かりません。
 
竹取翁は月人が来るまでは、月の使いが来たら引っ掻いてやる、目を潰してやるなどと威勢良く言っていたのですが、月王に声を掛けられると抵抗する気力もなくなり、出て行って月王の前に伏しました。
 
月王は抑揚の無い平坦な声で言います。
「汝(なんじ)、幼稚な者よ。翁にいささかの功徳(くどく)があったので、少しお前を助けてやろうと、少しの時間、かぐや姫をそなたの所に遣わし、少しばかりの黄金も与えた。お前の生活も少しは楽になったであろう。かぐや姫は罪を犯したのでこのような卑しい世界に流したのだ。今はその刑期も終了した。めでたいことなのに泣いているとは何事だ。さっさとかぐや姫を出しなさい」
 

翁は気を振り絞って言いました。
「少しの時間とはあんまりです。私はかぐや姫を20年以上育てて参りました。もしかして、別の所にお求めの別のかぐや姫がおられるのではないでしょうか。ここに居るかぐや姫は重い病気なので動かすことはできません」
 
(武人たちが動けなくなるほどの凄まじい威圧の中でこれだけ言い返せる翁の精神力はハンパではない)
 
すると月王は竹取翁には返事せず、かぐや姫に直接(抑揚の無い声で)呼びかけます。
 
「かぐや姫、このような汚らしい世界にずっと居てはいけない。帰る時である」
 
すると、家の雨戸・部屋部屋の戸や格子が、誰も触っていないのにどんどん開いていきます。媼に抱かれて座って居たかぐや姫は座ったまま媼の手を離れて空中を移動し、塗籠を出て家の外に出てしまいました。
 
(この部分はワイヤーアクションである。かぐや姫を演じるアクアの身体を高強度ポリエチレン繊維“テクミロン”のロープで吊って、滑車で移動している。アクアはその間腹筋で頑張って座ったままの姿勢をキープしている)
 
媼はかぐや姫を押さえることができず泣いています。松・竹・柏はかぐや姫に飛び付いて押さえようとしたのですが、身体が動きませんでした。柏はかぐや姫に触ったものの、そこまででした。
 
唯一、福だけがかぐや姫に飛び付きましたが、空中を移動するかぐや姫に引っ張られる形になります。そして庭まで来た所で月人のひとりが彼の身体を掴むとポーンと遠くに放り投げてしまいました(飛んで行く所はCG:誰も彼を心配しない!)。
 
かぐや姫は庭で地面に立ち上がると翁に言いました。
 
「私も月の世界に行きたくないのですが、行かざるを得ません。どうか私をお見送りして下さい」
 
「そんな悲しいことを言わないでくれ。あなたを諦めてお見送りなどできない。どうしても行くというのなら私も連れていってくれ」
 

かぐや姫も涙を流し「文を書きます」と言って、翁に手紙を書きました。
 
「この世界に生まれた身であるなら、こんなに嘆かせることもなくずっとおそばにいることもできたでしょぅに。ほんとに申し訳無く思います。私の衣を脱いで置いていきます。それを私の形見にして下さい。月の出た晩は月を眺めて下さい。父上・母上を見捨てて帰ってしまう月から落ちてしまいそうな気分です」
 
ひとりの月人が天の羽衣の入った箱、ひとりの月人が不死の薬の入った箱を持ってきます。
「かぐや姫殿、この不死の薬をお飲みなさい。地上にいる間、随分汚い物を食べていたでしょうから、お口直しです」
 
かぐや姫はその薬を少しだけ舐めます。そして自分の服を脱いでその服と一緒に翁に不死の薬を渡そうとしましたが、月人はそれを許しませんでした(*189). 仕方ないので服だけ翁に渡します。
 

もうひとりの月人が銀色の天羽衣を着せようとしますが、かぐや姫は
「少し待て」
と言って、帝への手紙を書きました。
 
「このようにたくさんの人を動員して、私が月に行くのを止めようとしてくださったこと、本当に感謝しております。しかしどうしても私がこれ以上地上に留まることが許されないのです。帝の傍で宮仕えもできなかったことも本当に申し訳ありません。どうか私の代わりに、藤原中納言の姫君を宮に召して下さい」
 
そして歌を添えます。
 
「今はとて天の羽衣着る折ぞ君を哀れと思ひいでける」(*187)
 
(*187) 別れの時なので、あなたのことが特に愛しく思える、というのもあるが、天羽衣を着てしまうと人を思う心も消えてしまうので、自分が人間的感情を持つことのできる最後にあなたのことを愛おしく思うという意味でもある。
 

そして、かぐや姫はこの手紙と不死の薬を、頭中将(*188) を呼んで帝に託しました。月人が、かぐや姫から取って頭中将(薬王みなみ)に渡しました。(*189).
 
(かぐや姫が呼んだので頭中将だけ動けるようになったと思われる)
 
(*188) この軍勢を率いたのが少将の高野大国であったのに、ここで唐突に少将より上位の頭中将が出てくるのは不自然である。そもそも帝の愛嬪が奪われようとしている重大事態に少将程度が指揮官になるのかというのも不自然である。それで高野大国が少将とするのが中将の誤写で、この頭中将が高野大国であるという説もある。
 
(*189) 月人は、かぐや姫が翁に不死の薬を渡すのは止めたのに、帝には渡した。この対応の差は不明である。
 

それで月人がかぐや姫に天羽衣を着せようとしますが、そこにいつもかぐや姫のいちばん近くで侍っていた女房の桃(川泉パフェ)が泣いてかぐや姫に飛び付きます。
 
(松や竹も、そして武人たちでさえ、みんな動けない状態になっている中で、かぐや姫に飛び付くことができた桃はただものではない。動けた理由は後述)
 
桃は泣きながら言いました。
 
「かぐや姫様、行かないで下さい。私は姫様に11年仕えて来ました。姫様が結婚して子供を産んでその子が成長して行くのを見守っていくつもりでいました。こんな形で突然お別れするなんて嫌です。私も月へ連れてって下さい。それがどうしてもできないというのであれば、今すぐここで私を殺して下さい」
 
かぐや姫は泣いて抱き付いている桃の頭を優しく撫でました。そして言いました。
 
「桃、分からないことを言うのでない。後のことを誰かに頼むつもりで、その時間が無かった。藤と桐には、父と母の世話を頼みます。女童(めのわらわ)の桜と橘はそろそろ女房になるべき年ですよね。草笛皇女(くさぶえのひめみこ)様に預かっていただけないか訊いてみて。紫は頭がいいから、残された使用人の再編作業を藤と2人でお願いしたいと思います。そしてあなたには頼みたいことがあります。この手紙を1年後の8月15日に読んで下さい」
 
と言って、かぐや姫は文を桃に渡しました。
 

語り手「かぐや姫が桃に手紙を渡したところで月人はかぐや姫に銀色の天の羽衣を着せてしまったので、かぐや姫は人の心を思う気持ちも、地上での23年間の記憶も消えてしまいました」
 
ここでアクアの表情がそれまで涙を流していたのが突然無表情になる。
 
(「今の変化すげー」と視聴者の声。「こんなことができる役者はそうそう居ない。さすがアクア」という評が高かった。“たまたま売れてるアイドル”程度に思っていた人たちが随分アクアに対する評価を変えた瞬間だった)
 
そして桃を突き飛ばす!と、空中に浮き上がり(*190)、さっさと月人が用意した車(*191) に乗り、100人の月人たちを連れて月へ帰って行ってしまいました(*193).
 

 
★音楽:高崎ひろか『昇天』
 

(*190) ここもワイヤーアクションである。アクアは小袖の下にハーネスを装着している。アクアが演じたのは車に乗ったところまでで、その先はCG。車は本当に空中に浮かべてあった。
 
(*191) 竹取物語の作者は牛車を想定した可能性が高いが奈良時代に牛車は無い。
 
この車は、2人乗りの馬車のようなものを難燃加工した合板とポリカーボネイト板を組んで作り銀色のスプレーで着色し、外側に大きな三日月型の銀色プレートを取り付けたものである。
 
(再掲)

 
プレートは鉄の棒で外枠を作り薄いアルミ板を貼った。プラダンを使う案もあったが“燃える素材は困る”と§§ミュージックが要求して費用は掛かるがアルミにした。だいたいの所は大道具さんが1日で作ってくれたが、山村マネージャーが細かい注文を付け様々な装飾品が取り付けられてかなりゴージャスになった。最終的に監督の発案でLEDランプを取り付けたので、撮影時にライトを当てる必要が無く(発火する危険も減るし、吊っているロープも目立たない)、いかにも月人の乗物という雰囲気になった。
 
映画公開時にテレビ局の庭に屋根付きの臨時展示場が設営されて展示された。
 
撮影時には空中に吊り上げ10度ほど傾けて撮影している。乗ったのは羽衣を着けたアクアとドライバー(人形)のみである。展示した時はドライバー人形の隣に羽衣を着けたアクアの1/1サイズ・フィギュア(女の子仕様)(*192) が座った。
 

(*192) 2021年春に公式に発売された。値段が50万円(シリコンバスト付きは53万円)もするのにこれまでに2500体ほども売れている。男の子仕様と女の子仕様があるが、ほとんどの購入者が女の子仕様を買っている。
 
関節は自由に動くので、助手席に座らせてドライブのお供にすることも可能。結構その手のレポートがブログや動画サイトに上げられている。アクアちゃんとアクアラインを走りました(定番)とか、アクアちゃんと阿蘇に行きましたとか、アクアちゃんと沖縄の海を楽しみましたなどという類いの動画が検索すると多数ヒットする。わりと女性が多い。
 
ラブドールではないので、ヴァギナは無いが購入者が勝手に改造(造膣手術)して挿入(何を?)できるようにするのまでは関知しない。ネットには女性の身体の構造に無知な男性(とは限らない)のために“穴を空けるべき位置と適切なサイズ”を解説しているサイトもあるようである。わざわざちんちん付きを買い、シリコンバスト(オプションとして単独購入可能)を貼り付け、穴を空け(豊胸手術+造膣手術)、ふたなりに改造した人もあるらしい。
 

(*193) ここに出てくる月人は、全て銀色の絹製のドレスのような服を着ており、これは物語冒頭でアクアが着ていた服、話中で度々登場した月城たみよが着ていた服と同じである。ただし、この場面では全員顔に銀色のベールのような紙をたらしていて、顔が全く見えない!しかも月人は全てノンクレジットだったので、誰が演じたのかも分からないようになっている。
 
アクションがあったのは4人である。
 
月王(セリフあり/動作無し!不動で空中に立っていた)
不死薬の人(セリフあり/地上。動作あり)
羽衣の人(セリフ無し/地上。動作あり)
福を投げ飛ばした人(セリフ無し/地上。動作あり)
 
不死薬の人を演じたのは実は大空由衣子、羽衣の人を演じたのは今川ようこであるが、この物語では、月人は悪役!なのでクレジットしなかった。この2人は五節舞の付添女房役もして、そちらでは顔出ししている。
福を投げ飛ばしたのはもちろん千里!
 
そして月王は人形!である。空中に浮かんでいたのはテックロープで吊っていたから。つまり操り人形だった!
 
この4人(?)以外の月人は全てCGである。
 
そして月人の声は、月王・不死薬の人ともに、合成音声であった。今の技術なら抑揚を付けて台詞を読めるが、敢えて抑揚の無い状態、まるで20世紀のSFドラマやアニメに出て来たコンピュータ音声みたいな感じで台詞を棒読みさせたのである。
 

だからこのクライマックスシーンに出演したのは下記21名である。
 
(3)竹取翁・竹取媼・かぐや姫
(10)藤・桐・紫・桃・桜・橘・松・竹・柏・福
(4)頭中将・高野大国・赤石・帝
(3)不死薬の人・羽衣の人・投げ飛ばした人
(1)雪兎
 
五節舞よりずっと少人数である!
 
 
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【竹取物語2022】(10)かぐや姫の昇天