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■男の娘とりかえばや物語(7)

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川を渡ってから、茣蓙(ござ)のようなものの上を歩き、やっと風祈社の中に入ります。ここに既に5人の巫女さんたちが待っていました。
 
「童(わらわ)たちも来たね。それでは練習を始めようか」
とその中心に居た巫女さんが言いました。
 
巫女さんたちは全員真っ白の衣を着ていました。童女たちも同じタイプの服を渡されました。
 
これは後で貫頭衣というものだと知ることになるのですが、白い麻布を真ん中で折り返して前身頃・後身頃にし、その真ん中部分をくりぬいて頭を通すようになっています。脇は数ヶ所紐で結んでありましたが、この紐がたまに解けてしまうこともあります。その時は練習のキリのいい所で直すように言われたものの、実際にはほとんどの子が自分では結ぶことができないようです。それで元巫女さんたちに結んでもらっていました。桜姫はさすが、いい所のお嬢様たちだなあと思いました。
 
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なお元巫女の介添え役さんたちは、様々な雑用をするために控えているだけで儀式自体には参加しないようでした。
 
舞はわりとシンプルなもので、難しい動作は無いのですが、その順序をしっかり覚えなくてはいけません。本来は10人が1・2・3・4と三角形の形に並んで舞うのですが、当面練習は1・3・3・5のフォーメーションで行うことになりました。
 
実際には12人の内、4人が経験者で初めての子が8人。それでその4人が前方の1・3の所で舞い、初めての8人がその後ろに並んで、前方の人の動きを見ながら舞いました。実は最初は1・3・8という状態から始めたのですが、少し練習をする内に、動きの良い3人が前に引き出され、1・3・3・5になりました。桜姫も前に出されましたが、他の2人も前に出されただけあって動きがいいなあと思いました。
 
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なお、ここではお互いに名前を名乗っても訊いてもいけないことになっているので、お互い名前も身分も知らないまま舞っています。
 

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初日の練習は半時(はんとき:1時間)ほどで終わりました。これはやはり子供の集中力の持続時間を考えたもののようです。しかし次回からは休憩をはさんで一時(いっとき:2時間)やると言われました。
 
参加者は衣裳を脱ぎ、裸の状態で風祈社を出て、乙女川を渡り、潔斎所に行って服を着ましたが、自分で着れない子が多く、介添え役さんたちが手分けして着せてあげていました。桜姫はむろんひとりで着られましたが、むしろ人に着せてもらっていて、お股のごまかしに気付かれるとやばいよなあと思っていました。
 
その後潔斎所を出て、男子禁制の結界線から出て参集殿に戻ります。ここで童女たちは付き添いの女房に引き取られ、各々牛車で帰還しました。待っていた女房たちは、お互い名乗り合わないこと、お互いの身分なども詮索しないことと言われていたようです。
 
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「言ってはいけないのですけど、桜姫様の従妹君がおられましたね」
と牛車の中で少納言の君は言いました。
 
「へー!そうだったんだ?」
「付き添いの女房同士も名乗りあってはいけないのですが、最初から知っている人もいますから」
「それはそうだね」
 
「その者は、右大臣殿、つまりお殿様のお兄様の四の君に仕えているんですよ」
「へー!」
「栗色の髪のきれいな姫様でしたね」
と言われて、桜姫はすぐにそれが誰か分かりました。今日の練習では3列目の真ん中で舞っていた姫でした。桜姫は3列目の左で、隣で舞っていたのです。彼女は自分で服を脱ぐことも着ることもできませんでした。年齢は少納言の君によると七歳のはずということでした。でも五歳でも通るかもというくらい、幼い感じでした。
 
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この時、桜姫はその姫君が数年後に自分の妻になるとは夢にも思っていませんでした。
 

桜姫が戻ると、橘君ももう戻っていました。
 
「楽しかった?」
「楽しかった、楽しかった。水を掛け合ったりするから、あれは確かに褌でないと無理だったね。そちらは?」
「ひたすら舞っていたから目が回りそうだった(*1)。でも面白かったよ」
「へー。私なら舞なんて2分(*2)も続けられないよ」
 
「ちんちん無いことバレなかった?」
と桜姫が訊きます。
 
「もちろんバレたりしないよ。姉上はちんちん付いてることバレなかった?」
と橘君も訊きます。
 
最近橘君は、桜姫が女装している時は「兄上」ではなく「姉上」と呼んでいるのです。桜姫自身も、女装して橘姫の代理をしている最中は、みんなから姫様、姫様と呼ばれるので、この際、姉でもいいかという感じです。
 
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「もちろんバレたりしないよ」
と言って、ふたりは微笑みあいます。
 
「でもちんちん生えてこないかなあ」
「はえてきたら凄いね」
「姉上のちんちん、私に譲ってくれないよね?」
「どうやったら譲れるんだろう?」
「引っこ抜いてくっつけるとか」
「そう簡単に引っこ抜けるものではない気がするけど」
 

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(*1)基本的に「舞」というのは横回転の動作をメインとする。西洋のワルツと同系統である。これが「踊り」になると、飛び跳ねたり、場合によっては、とんぼ返りしたりする動作が入る場合もある。舞と踊りの総称が「舞踊」である。西洋のdanceがこの舞踊に相当することもあり、現代では一般の人はよく舞と踊りを混同するが、民謡や日本舞踊の関係者は両者を厳密に区分する。
 

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(*2)ここでいう「分」というのは現在の時法の分ではなく、刻(30分)を10分割したもの。つまり現代時法の3分に相当する。つまり橘君が言う「2分」は現代の言い方では6分である。「5分ともたない」くらいの感じ。
 

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六月七日(今の暦なら7月初旬)。
 
祗園祭の神輿渡御(みこしとぎょ。祇園社→神泉苑)が行われました。橘姫は褌を締め男装して早朝から元気に出かけて行きました。
 
“橘君”たちの出番はお昼すぎで、祗園天神(*3)の神霊を下ろしたお稚児さんを守って神殿に入り、その後、神輿出発の先駆けで走り出ます。
 
(*3)祇園社(現在の八坂神社)は12世紀頃からは素戔嗚尊あるいは習合した牛頭天王を御祭神とみなされていますが、初期の頃は祗園天神を御祭神としていました。
 

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そういう訳で、“橘君”が出かけてしまったので、“桜姫”はその身代わりで、早朝から女装して西の対に入っていました。
 
それで手持ちぶさたにお人形遊びをしていて、結構仮想世界に没入していたら
 
「あら、桔梗は出かけたの?」
という声がしたので急にリアル世界に引き戻されてギョッとします。
 
秋姫(橘姫の母)が御帳の裾を開けています。
 
「今日は祗園祭りの神輿渡御なんですよ、母上」
と桜姫は答えます。
 
「あの子、まさか稚児?」
「さすがにそれではないですけど、神輿の先走りらしいですよ」
「なるほどー!」
 
と言ってから、秋姫は不安そうに訊きました。
 
「もしかして、あの子、上半身裸になるの?」
「まあ普通そうですね。褌を締めてましたよ」
「うーん・・・」
 
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寛容で大胆な秋姫様も少し悩んでいたようです。さすがに本来は誰にも姿を見せないまま育っているはずの深窓のお姫様が上半身裸の褌姿になるというのは、母親には言えなかったのかな?と秋姫は思いました。
 
「ま、いっか。さすがにそんなことできるのも今年くらいまでだろうし」
「8〜9歳の男の子だけらしいです。だから来年はできないですね」
「なるほどね」
 
「じゃ、私たちも見物に行こうか」
「ああ」
 

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中将の君に秋姫からの手紙を持たせてお誘いした所、見に行きたいなとは思っていたということだったので、牛車2つ出して見に行くことにしました。今回は急に決めたので場所取りができませんが、神輿の進行ルートのどこかで見ることができたらいいかなということでお出かけしました。
 
この日、大将は在宅でしたが、伺ってみると自分も行こうかなということでしたので、結局牛車を3つ出すことにします。春姫がお気に入りの女房・越前と乗る牛車、大将が乳兄弟の良光様と乗る車、そして秋姫が橘姫と乗る牛車が仕立てられますが、実際には橘姫は代わりに桜姫が乗っています。大将が春姫と同乗すれば牛車は2つで済むのですが、大将はこういう場合、絶対に春姫とも秋姫とも同乗しません。あくまでふたりの妻を対等に処遇しています。それで牛車が3つになってしまったのです。
 
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神輿が走るルートを目指して行く内に空いている場所があったので、大将は春姫にそこに入るよう言いました。それで春姫の牛車がそこに入ります。大将の牛車と秋姫の牛車が一緒に進んでいく内、また空いている所があったので、そこに秋姫が入るように言いました。それで秋姫と桜姫の乗った牛車が入りました。大将の牛車はまだ先に進んでいきました。
 
そういう訳で祇園祭では3つの牛車がバラバラの位置で見ることになりました。
 

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実際には牛車の中で秋姫と桜姫は、松尾神社の秘祭のことを話していました。
 
「あの秘祭は、私は参加したことがないんだけど、私の従姉が昔参加したのよ」
「そうなんですか!」
「扇の要(かなめ)の位置で舞ったらしいよ」
「すごーい」
「桜ちゃんも、かなりうまいでしょ?来年くらいには要の位置に行くかもよ」
「私より、右大臣の四の君の方が上手いから」
「あの子も来てるんだ?」
「凄い幼い感じですね。服も自分では脱ぎ着できないし」
「そんな話はやや耳にしてた」
 
「でも、私、本当は男の子なのに、男子禁制の舞を踊っていいものなんでしょうか?」
「結界線を通ったでしょ?」
「男子禁制の結界線がありました。そこを男の子が通ると、死ぬか女の子に変わってしまうかって言ってました」
「桜ちゃん、死んでないから、女の子に変わっちゃったりして」
「え〜?でも取り敢えず男の子のままですよ」
「その内、変化が現れるかもよ」
「うっそー!?」
 
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やがて大きな声や音が聞こえてきます。
 
「来たかな?」
「ええ」
 
それでどうも先駆けの子たちが近づいてくるようです。秋姫も桜姫も御簾を少し開いて、外の様子を見ます。
 
「あ、いました」
「どこ?」
「あそこ」
と言って桜姫が指さす方角を秋姫も見ます。
「ああ、いたいた」
 
橘君は褌一丁の格好で元気に先駆けをしています。沿道から水が掛けられます。先駆けの子たちはそれでもうずぶ濡れのようです。
 
「湯を使えるようにしておいた方がいいね」
と秋姫が言います。
「嬉しがると思いますよ」
と桜姫。
 
「しかしまあ元気なこと」
「身体が丈夫なのはいいことです。きっと元気な“ひつぎのみこ”を産みますよ」
と桜姫は言いました。
 
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「あの子、帝の女御になれると思う?」
と秋姫は不安そうに訊きます。
 
「大丈夫ですよ。お母さんがひ弱だと子供もひ弱になりやすいんです。あのくらい元気な方がしっかりした子供を産めますよ」
「今、あんなことをしていても?」
「外で動き回っているのはあくまで桜君のはずですから」
「そのあたりが私も段々分からなくなって来た」」
 

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桜姫たちが帰宅してからかなり経って、橘君は戻って来ました。すると父が興奮気味に言いました。
 
「お前、本当にたくましくなったなあ。小さい頃はもう女の子みたいで、この子はどうしたものかと思っていたが、だいぶ男らしくなった。この調子で頑張りなさい」
「はい」
 
と答えたものの、橘君は「私、もっと男らしくなっていいのかなぁ」と若干の罪悪感を感じていました。
 

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