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■男の娘とりかえばや物語(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-07-06
 
権大納言(大将)の家には同い年の2人の子供がいました。春姫の子供・桜君(さくらのきみ)と秋姫の子供・橘姫(たちばなのひめ)です。
 
ところが桜君は男の子なのに女性的な性格で、いつも部屋の御帳の中に閉じこもっており、母や女童など以外には会おうとせず、蹴鞠や小弓は苦手、笛や琵琶も苦手、漢字を見たら頭が痛くなる性格。一方橘姫は女の子なのに男性的な性格で、まず部屋に居ることがなく、いつも邸の中を走り回り、木登りしたり蹴鞠などで遊んでいます。笛も好きで、男の子が習うようなものを習いたがり、逆に普通の女の子が好むような人形遊びなどはしません。
 
それで父の権大納言は「兄と妹をとりかえばや(取り替えたい)」と悩んでいたのでした。
 
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ところがふたりが6歳になった頃、お邸の中を“冒険”していた橘姫は偶然兄の桜君と遭遇します。そしてお互いがそっくりの容貌で、声も似ていることに驚きました。
 
すると橘姫は、それを利用して桜君の代わりに笛や琵琶・漢詩などのお稽古を受けるようになり、逆に自分が嫌いな箏のお稽古などを兄にやらせます。更に姫は兄の服を借りて髪も美豆良に結って男装してみます。すると本当に桜君に見えることから、その格好で蹴鞠や小弓を本格的に習ったり、他の男の子たちと一緒に小弓比べに出かけたりして、すっかり外出の味を占めてしまいました。
 
ある日橘姫が男装で外出している最中に舞の先生が来ます。橘姫はこの日舞の先生が来ることをすっかり忘れていたのでした。それで橘姫の乳母に切願されて桜君が橘姫の服を着て髪も解いて振り分け髪にして、橘姫の振りをして舞のお稽古を受けました。
 
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そして兄が自分の服を着てお稽古の身代わりをしてくれたことを知った橘姫は頻繁に兄を身代わりにして外出するようになり、その度に桜君は女装して妹のふりをするハメになってしまったのでした。
 

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賀茂祭の日、橘姫は男装で流鏑馬(やぶさめ)の伝授に出かけてしまい、またまた桜君は女装で代役をして西の対に居ました。ところが橘姫が戻ってくる前にお出かけ用の豪華な服を着なさいと言われ、結局そのまま秋姫と一緒にお出かけすることになってしまいました。
 
いくらなんでも橘姫の母と狭い牛車の中で一緒になっていたら、バレてしまうのではと思った桜君はあまり顔を見られないようにとうつむき加減でお祭りの見物の間を過ごしました。何とか無事バレずに済んだかなと思っていた桜君でしたが、帰宅して橘姫と交替し、男装に戻ってから自分の部屋に戻ろうとしたら、バッタリと廊下で秋姫に会います。
 
そして秋姫は言ったのでした。
 
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「“桜姫”様も可愛かったね。ああいう服、似合ってる。あなたを私の娘にしたい所だわ」
 

そういう訳で、ふたりの入れ替わり作戦は秋姫様にはバレてしまったのですが、秋姫はそのことを他の人には言ったりしないようでした。むしろふたりの入れ替わりに協力してくれる感じで、同じ模様の服を2つ作らせて1つは桜君に渡してくれたりしました。
 
もっとも橘姫も姫の乳母もかなり叱られたようです。乳母は恐縮して辞任を申し出たものの、橘姫のために頑張っていたのだから辞任は不要。ずっとこの子を守ってやって欲しいと言われ、涙を流していました。
 
秋姫はふたりの様々なお稽古の時間を調整して双方ができるだけぶつからないようにしてくれました。そして秋姫を装った“桜姫”が舞や礼儀作法のお稽古を受ける時には橘姫にも同席させ、また桜君を装った“橘君”が漢籍や歴史などを学ぶ時には桜君にも同席させて、一緒に学べるようにしました。そして桜君が苦手だった漢字については橘姫に教え役を命じて、簡単な字から順に覚えさせていきました。それで、桜君もかなり字を覚えましたし、橘姫も最低限の礼儀作法は分かるようになっていきました。
 
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この時点でふたりがしばしば入れ替わっているのを知っているのは、双方の乳母、秋姫の腹心の女房である中将の君、橘姫の女房の少納言の君、少輔命婦、他に数人の口の堅そうな女童くらいでした。少納言の君と少輔命婦は
 
「みずくさい。そんなことなら私たちにも言っておいて下さったら良かったのに」
と乳母に文句を言っていました。
 
しかし秋姫にバレたことから、ふたりの入れ替わりは随分楽になったのです。
 
もっとも橘姫の乳母(めのと)がかなり叱られたという話を聞き、桜君の乳母は明日は我が身、と憂鬱な気分になり、念のためいつでも出せるように辞表をしたためておきました。
 

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ところで、賀茂祭の前日に膠(にかわ)で接着されてしまった、桜君のおちんちんですが、その月の末にお風呂(蒸し風呂)に入った時に、乳母が言った通り、取れてしまいました。
 
(おちんちんが取れたのではなく、接着が取れた。念のため)
 
現代でもシンクロナイズドスイミングの選手は競技の時に髪が乱れないよう、髪を膠で固めています。すると水に入って演技をする時は固まっているので演技の邪魔にはならず、競技が終わった後お風呂に入ると、その熱で全部溶けてしまうのです。膠というのは、実に便利な接着剤なのです。これがデンプン糊やカゼインだと、水で溶けてしまうので使えませんし、古代から使われているもうひとつの接着剤であるアスファルトだと、お風呂の熱程度では取れません!永久に接着されたままになってしまい、男性を廃業するハメになるかも!?
 
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(アスファルトは日本でも縄文時代から使用されている。なおアスファルトは柑橘類の皮に含まれるリモネンで溶けるが溶かすのにかなりの時間が掛かるらしい)
 

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さて、その日、桜君がお風呂に入った時は、結局桜君としてではなく、姫の姿で、橘姫としてお風呂に入っています。
 
また、橘姫本人は桜君として外出していて、遅く帰宅したのでその後、入れてもらいました。つまりこの日、橘姫は2回風呂に入ったことになっていて、何人か首をひねったものの、深くは考えませんでした。
 
桜姫がお風呂に入った時は、事情を知っている少納言、命婦と乳母の他、このことを知っている女童たちだけで桜姫をお風呂に入れました。おちんちんは膠が溶けて皮膚から外れ、桜君自身がそれを丁寧に洗いましたが、お風呂から上がると、中将の君の提案で、また膠でくっつけられてしまい、桜姫のお股は一見女の子のお股に見える形にされてしまいました。
 
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これはふたりの入れ替わりが頻繁に行われるので、このようにしておいた方がバレにくいからという理由によるものです。
 
桜君はまだ自慰を知らなかったこともあり
「ちんちん使えなくても、特に不便では無かったし、貼り付けておいていいよ」
とこれに同意しました。
 
「いっそ切っちゃいます?」
「それは困る」
 
それでこの後、桜君のおちんちんは月に1度くらい、お風呂に入る時にメンテされることになりますが、普段の沐浴の時も指で開いてよく洗うようにしていました。
 
(結果的に桜君のタマタマはいつも体内に入ったままになってしまったのですが、これが問題?を引き起こすことには誰も気付いていませんでした)
 

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頭の回転が速く肝が据わっている秋姫に対して、万事のんびり屋で物事を深く考えることのない春姫は、何か変だとは思いながらも、ふたりの入れ替わりにはまだ気付いていないようでした。
 
そしてこの状態が更にもうしばらく続いて行くのでした。
 
橘姫は堂々と男装して表に出て行けるので、とても活き活きとした生活を送っていました。その度に女装で橘姫の代理をすることになる“桜姫”は憂鬱な気分ではありましたが、元々外で遊ぶのは好きではない性格です。好きな箏や和琴を弾いたり、橘姫が人から贈られたまま放置している人形で遊んだり、女房や女童を相手に双六や囲碁などをして楽しんでいました。
 
桜姫はせっかくだからと言われて、お化粧も習いました。最初は恥ずかしかったのですが、その内どんどん楽しくなっていきました。3ヶ月もすると
 
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「姫様、随分お化粧が上手になられましたね」
と言われます。
 
(最近は“姫様”と呼ばれるのに慣れてしまっている)
 
「妹姫様も少し練習してくれたらいいのですが」
「あの子がお化粧した所見たことない」
「そもそもおしろいからして好きじゃないとおっしゃって」
「なるほどねー」
 
(貴族の男性がおしろいを塗ったりお歯黒をしたりするようになるのは平安時代も末期頃からである。武家が台頭してからは平氏は貴族を真似てお化粧をしたが、源氏はスッピンだった。源氏が天下を取ったため、男性は化粧しない文化がその後の主流となった)
 
「あと御裳着を過ぎたら、眉を剃って描き眉をしますよ」
 
「僕は御裳着はしないよぉ」
「そうでした!」
 
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そんなことを言いながらも、僕今のままだったら、裳(スカート)を穿くことになるのでは?という気がして、桜姫はなぜかドキドキする気分だったのです。
 
橘姫の代わりにお嫁に行ってなんて言われたらどうしよう!?などと妄想してまたドキドキしていたのですが、それがやがて現実になるとは、この頃はまだ思いも寄りませんでした!
 

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桜君の侍女の中にも協力者を作った方がいい、と中将の君が言い、結局、伊勢という女房と、まだ女童ではあるものの頭の良い式部という子に、入れ替わりのことを教えて協力を求めました。伊勢は驚いていたものの、結果的にそれで桜君も漢籍などを覚えていくのであれば協力すると言ってくれました。式部は実は知っていたと言いました。気付いてはいたけど、主人の秘密を安易に話すものではないと思い、誰にも言ってなかったと彼女は言っていました。
 
「だって、いくら似ていても若君と姫君の区別はつきますよ」
と式部は言いましたが
「いや、それはきっとあんただけ」
と伊勢は言っていました。
 
しかし桜君は伊勢や式部が協力してくれることになったおかげで、男装で東の対に居る時も、彼女らを御帳の中に入れて双六(バックギャモン)の相手をさせるなどして、以前より気楽に過ごすことができるようになりました。実は橘姫が使わない人形の中でお気に入りのものもいくつか、こちらに持って来ています。
 
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「いっそのこと、僕が西の対で暮らして、橘が東の対で暮らした方が良かったりして」
などと双六をしながら桜君が言いますと
 
「そうなりますと、若君はいつも女の子の服を着ていることになりますが」
と伊勢が指摘します。
 
「それは嫌だという気がする」
と桜君は答えましたが、答えるまでに少し間があったので、伊勢は若君、実は女の服を着るのが好きなのでは?と疑問を感じました。
 
「橘姫様はいつも男の子の服でも全然問題無いでしょうけど」
「ああ、あの子はそちらがいいと言いそう。あの子、女の服を着ている時にも尿筒を使おうとして叱られたらしい」
「よく、女の身体でそんなもの使えますね〜」
「きっと実はちんちんが付いているんだよ」
 
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と桜君が言いますと、伊勢がしばらく沈黙します。
 
「どうしたの?」
「いや、一瞬真剣に考えてしまいました」
「ああ」
 

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秋姫はふたりの髪の長さにも注文を付けました。
 
橘姫と“桜姫”の髪の長さが、この時期は実は少し違っていて、“桜姫”の方が長かったのです。それで橘姫には、しばらく髪を切るのを禁止し、桜姫の髪は少しだけ切らせました。
 
それでふたりの髪の長さが揃い、振り分け髪にしている時に違いが出にくくなるようにしました。
 
“少し髪が短くなった橘姫”が舞の練習をしているのを見て、父親が
 
「あれ?髪を切った?」
と尋ねましたが
 
「夏で暑いので少し切ってもらいました」
と“橘姫”は答えました。
 
父親は少し不満そうでしたが
「まあ、御裳着とかにはまだあと2〜3年あるだろうし、それまでにはまた伸びるであろう」
と言っていました。
 
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