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「えー、今度女になりましたが、仕事は今まで通り、厳しくやりますから、みんな覚悟しておくように」
「うん。それでこそ繰戸君だ。ではみんなもよろしく」
と部長が言う。
女子社員のリーダー格の40代の女性から
「織戸課長もお茶汲みのローテーションに入れていいですか?」
と訊かれた。
「うん。私、ふつうの仕事もこれまで同様バリバリやるけど、女性社員になっちゃったし、お茶くみ・お使い・雑用もするよ」
と笑顔で答えた。
女子社員たちにはさっそくその日の夕方つかまって、お茶会に誘われた。
「繰戸課長、声がホントに女の子みたい」
と若い女子社員に言われる。
「ああ。これ結構練習した」
「凄く若い声ですよね。30近い女性の声じゃなくて、女子高校生くらいの声に聞こえる」
と25歳の女性社員。
「お化粧もすごく綺麗にしてる。実は前から練習してたんですか?」
「内緒、内緒」
「へー!」
「声も雰囲気も、なんか私より女らしいよね」
と30代のベテラン女子社員が言う。なお、彼女は例の女性管理職を増やすという方針で来年の4月から係長に昇進することになっている。
その週は
「君に設計してもらいたい案件がたまっていた」
などと言われ、ビルの設計を3つもした。
翌週は現場にも出る。その日はピンクのスーツを着て行った。
「そういう訳で、ヒゲの課長あらためピンク課長の繰戸です。みんなよろしくー」
性転換のことを聞いていなかった人たちも多かったので、みんなびっくりしていた。ここ3ヶ月ほど現場に顔を出していなかったので退職したのかと思っていた人たちも多かったようである。
しかしこれまで通り、しっかりとみんなに指示を出し、手抜きを見逃さないので
「繰戸さん、女になっても全然変わらない!」
などと言われた。
「そりゃ中身は同じだから。チンコがあるかないかなんて大したことじゃないしね」
「大したことですよ!」
仕事の後でお風呂に入る時は、女性作業員さんたち(ほとんどが40-50代のおばちゃんたち)と一緒に女湯に入る。
「失礼しまーす。女になっちゃったから、こちらに入るね」
と断って彼女たちと一緒に入ったが
「ほんとに女の身体になっちゃったんだ!」
と言って、バストにたくさん触られた。1人、お股にまで触るおばちゃんがいたので、「そこは勘弁してー」と言っておいた。
「でも、おちんちん付いてないね」
「そりゃ手術して取っちゃったから」
「へー、凄い!」
「だって女にちんちん付いてたら変じゃん」
「ああ、私、息子から、母ちゃんチンコ付いてるだろ?とか言われるよ」
「おちんちん付いてたら、どこから子供産めば良いか分からないね」
「ああ、確かに子供産むのには邪魔だよね」
紀恵との《新婚生活》も順調だった。
一応紀恵が《主婦》(主夫?)なので、御飯なども作ってくれていたが、里子が少し早く帰宅した日は一緒に晩御飯を作る時もあった。
夜は毎晩熱い時間を過ごした。正常位に近い形でお互いの足を組み合わせて、各々の女性器が刺激される体位を多く使用したが、反対向きになり松葉の形で直接女性器同士を接触させて刺激するのもよくやった。また紀恵はよく里子のクリちゃんを舐めながら、指をヴァギナに入れGスポットを刺激してくれた。それは男性時代にも経験したことのないほどの快感で、1度里子は潮吹きまでしてしまった。
「気持ちいいよー」
「女になったから体験できる快感だよね」
「うん。私、女になって良かったなと思う」
里子も紀恵のを舐めてあげるよと言ったのだが
「恥ずかしい」
などと言って、紀恵は遠慮した。
「私はさとちゃんが気持ち良さそうにしているの見るだけで気持ちよくなるから」
などと言って、指や舌で里子の女性器を攻めてくれた。
里子が会社に復帰した3日後、会社に思いがけない客がある。
大きなビルの設計会議を終えてオフィスに戻ると、放送局の人が来ていると言われ、応接室に入る。
「こんにちは。織戸ですが」
と挨拶したが、里子はその人に見覚えがあった。
「カラオケ番組のプロデューサーさんでしたっけ?」
「あの・・・あなたは・・・?」
とプロデューサーは困惑した顔をする。
「ああ、ちょっと性転換しただけです」
「えーーーー!?」
プロデューサーは、あの素人カラオケ番組を見ていた、あるレコード会社の制作者が、この人は面白い。ぜひCDを出したいと言ったのだと説明した。それで連絡を取ろうとしたが、病気で入院して会社を休職していると言われていたので、退院して復職するまで待っていたのだと言う。
「いや、ヒゲのおじさんがまるで女子高生みたいな声で歌うギャップが面白すぎると言われましてね」
と放送局の人は言うが
「それは残念でしたね。私はもう女になっちゃったので、そのギャップの魅力は無くなっちゃいましたね」
と応じる。
正直仕事が忙しいので、そんなCDを作りましょうなんて話には付き合っている暇が無い。
「いや、そのギャップは無くなっても、今度は《性転換女子高生声シンガー》として売り出せますよ」
「勘弁してくださいよ。それでなくても性転換で親からあれこれ言われたんで、これ以上全国に個人情報曝したら、何と言われるか」
「そんなこと言わずに、話だけでも聞いてください」
放送局の人があまりにも熱心なので、里子は週末、取りあえずそのレコード会社の人に会うだけは会うことにした。
レディススーツを来て、以前行った放送局に行く。ヒゲをたくわえて麻のジャケットを着た20代の男性が《**レコード制作部A&R》と肩書きの入った名刺を渡した。里子も《**工務店・建設三課課長・一級建築士・繰戸里子》の名刺を渡す。
「取りあえず何か歌ってみてください」
などと言われるので、その日はgirl next doorの『情熱の代償』をアカペラで歌ってみせた。レコード会社の人が何だか物凄く驚いたような顔をしていた。
そして歌い終わったところで
「どうです? この人行けるでしょう。即メジャーデビューという所でどうです?」
などと放送局の人が言う。
「行ける」
と制作担当は言った。
「おお、これで《性転換女子高生声シンガー》の誕生だ!」
などと放送局の人が言った所で、里子は背後に気配を感じたので振り返る。
するとそこに《ドッキリ》と書いたプラカードを持った人が立っている。カメラを持った人も立っている。
里子はやれやれという顔で苦笑いした。
放送局が企画していたドッキリ企画というのは、こういうことだったのか!?全く。くだらない話に乗ったものである。
「ちなみにあの番組で1位になった女子高生にも、2位になったおじさんにも同様のドッキリを仕掛けて、実はもう放送が終わってます」
などと笑いながらプロデューサーは言っている。
「私、忙しかったんですけどねー」
と里子は笑顔で文句を言い、
「じゃもう帰っていいですね?」
と尋ねる。
その時だった。
「待って下さい」
とレコード会社の人が言った。
「いや、これドッキリ企画と聞いてたんだけど、この人、マジでうまいじゃん」
「へ?」
まあ確かに自分でも3ヶ月くらい前からすると歌がうまくなったかも知れないという気はした。女の子らしい声を出す練習を兼ねて、毎日100曲歌っている効果だ。それに声自体も以前はあくまで男声のハイトーンだったのが、最近はかなり本当に女声に近くなっている。
「あなた、マジでデビューする気無い? 正直ヒゲのおじさんなら、どんなに可愛い声を出せても、色物として売るしかないけど、あなた性転換して女性になっているんだったら、やや異色の実力派シンガーとして、本当に売れる」
「いや、からかうのやめてください」
「からかいじゃないです。私は本気であなたのCDを出したい」
「あの・・・マジですか?」
と放送局の人が訊く。
「マジです」
とレコード会社の人。
「おい、カメラ回ってる?」
とカメラの人に訊く。
「回ってます」という答え。
「じゃ、本当にこの人、メジャーデビュー?」
「今度の企画会議にあげます」
そういう訳で、里子はこの後、有名作曲家から楽曲を提供され、歌手としてデビューしてしまうことになる。一応平日はふつうに会社に行き、週末だけ歌手として活動する《週末歌姫》になってしまう。
最初はCDを出しただけだったが、けっこう人気が出て、テレビ番組にも出たり(会社の宣伝にもなるから出て良いと部長から言われた)、全国ツアーとかまですることになった。
そして結果的にはその歌手としての収入で、里子は妹の学資を出してあげられることになるのである。
取りあえずその日、里子は半信半疑のまま放送局を出た。そしてバス停の方に行くのに信号待ちをしていたら・・・。
何か違和感を感じて振り向く。
あれれ??
商店街が無い!?
3ヶ月前に、この放送局を出てこの信号を渡ろうとして、福引券を女性が落として、それでそこの商店街に福引券を届けに行ったのに!
通りかかった地元のおばちゃんっぽい人に尋ねてみる。
「すみません。そこら辺に商店街とかありませんでしたっけ?」
「商店街? ああ、それはもう10年くらい前に潰れてしまったよ。最近の人は商店街とかじゃなくて、スーパーとかジャンピングセンターとかに行って買物するから、客が来なくてね」
とお婆さんは言った。ジャンピングセンターというのは、ショッピングセンターのことかな? でも商店街は10年前に潰れた!??
「でもあの商店街、最後の方は売出とかがどんどん過激化してね」
「へー」
「売り子にヌードの女の子を使って警察に注意されたり、福引きの賞品を顔の美容整形手術にして、公的取引委員会から差し止められたり」
公的取引委員会って公正取引委員会だろうなと思う。しかし美容整形が賞品?もしかして、それが更に過激化して、とうとう性転換手術を賞品にしちゃったとか? その商店街はこの世界では潰れてしまっても、実はどこかのパラレルワールドで続いているんだったりして。そして自分はそんな所に紛れ込んだ?
いや違う。
と里子は思った。多分、自分はそういう過激な商店街のある世界に居たんだ。でも、どこかでこちらのパラレルワールドにスリップしてしまったんだ。それはなぜだろう?
何か理由があるはずだと里子は思った。