広告:ボクの初体験 2 (集英社文庫―コミック版)
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■福引き(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-01-17

 
繰戸里太郎(あやべ・さとたろう)は田舎のとっても無名な大学(名前を言うと9割くらいの人が何県にあるのか?と訊く)の建築科を出て中堅の工務店に入った。いくら建築科を出ていると言っても、大手なら数年見習いなのだろうが、従業員300人ほどの会社であったことと、その年は翌年消費税が上がるということで建設業界は少し特需になっていて人手不足の雰囲気があったのもあり、入社して1ヶ月でいきなりPC/RCなどのコンクリートのビルの設計と建築の現場指揮までするハメになる。
 
設計は実際問題として自社の過去の似たようなビルの設計を参考にさせてもらい、最初はベテランの人にチェックしてもらったりしながら進めた。現場では若いと馬鹿にされやすいというので、ヒゲをはやして渋めのダブルの背広を着て指揮したので、実際問題として、30歳くらいの設計士さんかな?とみんなには思われたふしもある。
 
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そんな半ば泥縄的な仕事を2年続け、里太郎は無事一級建築士の資格も取った。そして人の入れ替わりが割と激しい会社であることもあり、大学を出てから3年で係長、5年で課長の肩書きをもらった。
 
入社以来はやしているヒゲは里太郎のトレードマークとなり、○○工務店のヒゲ課長などと下請けの人たちから親しみを込めて呼ばれたりするようになっていた。
 

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そして里太郎が29歳の年。
 
彼はその年の春から、接待で行ったクラブのホステス・紀恵と個人的な恋愛関係ができてしまった。ホステスなどという仕事をしているのに、ひじょうに身持ちが堅いようで、彼と紀恵は半ば恋人同然になり何度もデートをしているのに、夏になってもまだ実はセックスをしていなかった。
 
里太郎はソープなどには行かないものの、これまで水商売の女性と何度か恋愛的なものをしたことがあったが、いつも3回目のデートくらいまでにはホテルに行っていた。それで逆に紀恵には里太郎も少し本気になってきていた。
 
「私、実はまだヴァージンなんだよ。あんた何やってんの? 18-19歳でヴァージンですと言ったら、それなりに価値があるけど、28にもなってヴァージンなんて、女として魅力が無いという意味だよ、とか先輩とかから言われるけどね」
などと彼女は言っていた。
 
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「君は充分魅力的だよ。じゃ、そのヴァージンを僕にちょうだいよ」
と里太郎は言ってみたが
 
「そうだなあ。その内考えてみようかなあ」
と紀恵ははぐらかした。
 

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セックスをさせてくれないことから、最初里太郎も彼女は「仕事上の付き合い」
で自分とデートしてくれているだけなのだろうか?と考えてみたこともあったが、キスは何度もしたし、深夜のドライブデートで運転席と助手席で「好き」と言い合ったこともある。その時は里太郎も思わず車を脇に寄せて停めて
 
「ね、ホテルに行かない? それか後部座席でもいいよ。毛布もあるよ」
と言ってみたものの
 
「遅くまで頑張ってると明日に差し支えるよ」
などと紀恵は言い、里太郎のズボンのファスナーを開けて棒を取り出すとそれを舐めてくれた。
 
「お風呂入ってないのに・・・」
「いいんだよ。私の、さとちゃんのだもん」
などと紀恵は言った。
 
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里太郎は感激して紀恵の口の中であっという間に逝ってしまった。逝った後、紀恵はそれを舌で舐めてきれいにしてくれた。
 

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その年の7月初旬の月曜日。里太郎は前日仕事だったので代休を取り、久しぶりにのんびりと町を歩いていた。
 
そこでツイードのジャケットを着た30代くらいの男性に呼び止められる。
 
「あなた、今お時間ありますか?」
「何ですか?」
と里太郎は反射的に返事をした。普段ならきっと宗教かマルチ商法かなどと思いこの手のは無視するのだが、相手が割ときちんとした人のような気がしたので返事をした。
 
「私○○テレビの者ですが、視聴者参加番組の出場者を集めているんです」
などと言う。
 
里太郎はその日は特に予定が無かったので
「ああ、そのくらい出てもいいですよ」
と言った。
 
これが里太郎の人生の大転換点となるとは、彼は全く思いもよらなかった。
 
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近くで40人くらいの男女が集められていた。10代から40代くらいまでバラエティに富んでいる。きっと色々な層の人を集めたいのかなという気がした。
 
やがて大型バス2台に乗せられて、テレビ局に行った。バスの中で自分たちが素人カラオケ合戦とかいう番組に出場することを知らされる。最初予選がありその中から10名が本選に出るという。里太郎は接待でたくさんカラオケも歌っていたので、歌は割と自信があった。高校時代は友人3人と一緒にバンドをしていたこともある。里太郎はベースでリードボーカルだった。里太郎の声は基本的にはバリトンなのだが、当時A2からA5まで3オクターブの声域を持っていたし、特にハイトーンは女声かと思うほど澄んだ声で、けっこう女声ボーカルの歌を(オクターブ下げずに)そのまま歌ってみせたりしていた。
 
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番組は1時間半の特番で、最初の30分で予選のダイジェストを流し、後半1時間が本選ということであった。参加者は全部で60人ほどだが、里太郎が敢えて今売れっ子の女性アイドルグループのヒット曲を、そのままの音域で歌ってみせると、審査員?の人が驚くような顔でこちらを見た。
 
「あんた、予選合格。でもよくそんな高い音出るね!」
などと進行役のタレントさんから言われる。
 
「接待カラオケでこれやると、うけるんですよ」
と里太郎が普通のバリトンボイスで言うと
 
「そりゃ受けるだろうね! 声だけ聴いたら18歳くらいの可愛い女の子が歌っているかと思うのに、顔見たらこんなおっさんなんだもん」
と言われた。
 
そうそう、そのギャップが物凄いのでうけるのである。
 
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「あんた、実は女装趣味があるとかは?」
「あはは、それは無いですよ。私が女装で歩いてたら警察に捕まります」
「確かにそうだ!」
 

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やがて予選が終わり、10人の本選出場者が決定する。予選でその場で合格と言われたのは、里太郎と、凄く可愛い感じの16-17歳くらいの女子高生、それに50代の歌手くずれか?と思うほど歌が巧かった男性の3人で、残り7人は予選の点数上位から、点数と《おもしろみ》で選択された感じであった。
 
里太郎は1番の番号札をもらった。例の女子高生が2番、物凄く巧い人は10番だった。何となくシナリオが読める感じだ。
 
本番が始まる。
 
里太郎はトップバッターで予選とは別の女性アイドルグループの歌をまたまた可愛く歌った。点数は85点だった。里太郎の歌は声はいいのだが、音程がやや怪しいのが問題点なので、その分を引かれた感じであった。
 
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しかし司会者に捕まる。
「あんた、声だけ聴いたら可愛い女子高生かって感じなのに」
「あはは、本人はこれですから」
「いっそ性転換するつもりない?」
「女にはなれるかも知れないけど、今更女子高校には入れてくれないかもね」
などとやりとりをした。
 
「でも次出てくる時は性転換して女子高生の制服着て出てきてよ」
「そんな無茶なー」
 
その後司会者は
「今の人は《なんちゃって女子高生》でしたが、次は本物の現役女子高生です」
と言って2番の人を紹介した。
 
まあ、このセリフを言いたいからこの順番だよねー。
 
この女子高生は歌も結構うまく、点数は95点だった。
 
番組は進んでいく。結構うまい人もいるが、歌は適当でパフォーマンスに徹する人もいる。もっとも、だいたいは「外している」感じだ。
 
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最後、10番のとっても巧い人が歌った。里太郎も彼の歌に聴き惚れていた。凄いなあ。どうしたらこんなに巧くなれるんだろう。そんなことも考えていた。そして点数は・・・・
 
94点!?
 
里太郎はてっきりこの人を優勝させると思ったのに、2番の女子高生に1点及ばない。歌った本人もちょっと不満そうだ。しかしこれは多分番組的には50代のおっさんより、10代の女の子を優勝させた方が美味しいとみた選択なのであろう。テレビの番組はあくまでショーであり、コンテストではない。
 
優勝した女子高生が「うっそー」などと言って出てきて、優勝トロフィーを受け取る。副賞は100万円とハワイ旅行ということだった。ちょっとバブリーな感じだ。10番の人も準優勝ということで、盾と副賞30万円に温泉の宿泊券をもらっていた。
 
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「この他に特別賞があります」
と司会者が言う。
 
へーと思っていたら
「1番、****を可愛く歌ってくれた変なおっさん」
とコールされた。
 
苦笑いして出て行き、記念のメダルと副賞3万円をもらった。
 
「なお、優勝・準優勝の人と特別賞の人には後でどっきり企画もありますので期待していてください」
と司会者は言った。
 
この《どっきり企画》というのが、何だろう?と里太郎は思った。
 

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テレピ局を出て、バスで帰ろうと思い、局前の横断歩道まで来た時、目の前を超格好良いポルシェが通り過ぎて行く。おっと思って、それに見とれていたら、背の高い女性とぶつかってしまった。
 
「あ、ごめんなさい」
「いや、すみません」
と言葉を交わす。それで横断歩道を渡ろうとした時、足下に何かチケットのようなものが落ちていることに気付く。今の女性が落としたのかな?と思い
 
「落とし物ですよー!」
と言ってみたものの、女性は急いでいるのか、小走りに向こうへ走っていく。ボストンバッグを持っているので、旅行者だろうか?
 
里太郎は取り敢えず落としたものを確認するのにチケットらしきものを見た。商店街の福引券だ。
 
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女性は走っている。自分と女性との距離を考えると、こちらはかなり全力疾走しないと彼女を捕まえることはできない感じ。そして、どうするかなと考えている内に女性は地下鉄の駅への階段に入ってしまった。これではもう見つけられないだろう。
 
里太郎は取り敢えず商店街に届けておくかと思い、すぐ近くに見えた福引所に近づいて行った。
 
「いらっしゃいませ。福引き、引かれますか?」
「あ、いや。今、そこで女の人がこれ落としたんですけどね」
「あらら」
 
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