広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■福引き(10)

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結婚式の当日、紀恵が書類を里子に見せた。
 
「ねぇ、こんなの出しても認められないだろうけどさ。婚姻届を書かない?」
「ああ。いいかもね。でも、これ《夫になる人》《妻になる人》になってるけどさ、私たちどちらが夫?」
 
「そうだなあ。じゃあ、じゃんけん」
と紀恵が言うのでじゃんけんすると、紀恵が勝った。
 
「じゃ、私が夫になっていい?」
と紀恵が言うので、里子も
「うん、いいよ」
と答える。
 
それで、紀恵が《夫になる人》の所に署名捺印し、里子が《妻になる人》の所に署名捺印した。里子はまさか自分が《妻》になるとは思いもよらなかったなと思いながら名前を書いた。
 
「苗字はどちらを選択する?」
「そうだなあ。私が夫になるの選んだから、苗字はさとちゃんの方のでいいよ」
「じゃ、ふたりとも繰戸(あやべ)になるのね?」
「そうだね。じゃ私が繰戸紀恵で」
 
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そんな話をした上で、出してもはねられるだろうけど、婚姻届を書いたという話を里子の両親にしたら、父が証人欄に署名捺印してくれた。もうひとりの証人は紀恵の高校時代からの友人という光知子に頼んだ。
 
「あんたたち籍入れられるの?」
と光知子は訊く。
 
「入れられないけど、記念に」
と紀恵が答える。
 
「ふーん。のりちゃんが《夫》なんだ?」
「便宜上だよ。両方妻になる人なんだけどね、ほんとは」
「ふーん」
と言って、少し不思議な笑みを見せて、光知子は署名捺印してくれた。里子は彼女の表情を読みかねた。
 

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10時から結婚式である。
 
里子の両親と妹、部長に、紀恵の学生時代からの友人が光知子を含めて3人と勤め先のオーナーさんまで双方の列席者4人ずつでホテルの神殿に入り、神式で結婚式を挙げる。
 
三三九度は普通、夫→妻→夫、妻→夫→妻、夫→妻→夫、という流れになるが今回、婚姻届けで紀恵が夫欄に記入したというのもあり、紀恵が夫役になることになって、紀恵→里子→紀恵、という順序で杯を空けた。けっこうな量のお酒で、手術以来ずっと禁酒していた里子はちょっと酔ってしまいそうだった。(紀恵は毎日お仕事でお酒も飲んでいるので、平気っぽい)
 
神職さんの祝詞(のりと)を聞いていたら
「香茂**の長女・紀恵と、繰戸**の長女・里子、**大神の御前(おんまえ)にて、婚嫁(とつぎ)の礼(いやわざ)執り行わんとす」
などと言われていた。ちゃーんと女同士の結婚ということになっているようだ。
 
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ちなみに里子は性別変更後「長女」になると市役所の戸籍係の人から説明された。でも、それで有華が次女に繰り下がる訳ではなく、ふたりとも長女になるらしい。性別変更と同時に分籍されてしまうので構わないようだ。離婚再婚をした場合に長女が2人できるケースがあるが、それと似たような感じか?と里子は思った。
 
ちなみに、既に運転免許証やクレジットカード、銀行口座も書き換え済みだし、新しい《繰戸里子・女》と書かれた健康保険証も会社からもらっている。
 

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披露宴では、紀恵が純白のウェディングドレス、里子がライトブルーのウェディングドレスを着て、メインテーブルに座った。面倒な挨拶とか抜きに、ふたりがメインテーブルに着いたら、もうお食事スタートということにし、後はみんな適当にお祝いを言ったり、余興をしてくれたりという、無秩序な披露宴にした。結婚するふたりが無秩序だから、披露宴も無秩序にしちゃおうという魂胆である。
 
司会者も余興の合間に祝電を読むという感じであった。
 
里子の同僚の女子の祝辞。
「ヒゲの課長として男らしさで有名だった、あの繰戸さんが、まさか女になってしまうなんて。そしてお嫁さんになっちゃうなんて、もう完璧に想定外。でも本人のウェディングドレス姿見て、きれーい。びじーんと思いました」
 
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一方、紀恵の元同級生の祝辞。
「高校時代にあんなに男らしくて、女子たちの憧れの的になっていた、のりちゃんが可愛いお嫁さんになると聞いて、やはりのりちゃんは女の子だったのかと改めて思いました。ほんとにお祝いしたいです」
 
紀恵は笑っていたが、里子は「男らしかった紀恵」というのをちょっと見てみたい気分だった。確かに紀恵は決断力があるし、包容力もあるので、女子の友人の中ではけっこう人気だったかも知れないなと思った。紀恵は商業高校を出ているので、一応男女共学ではあるが、男子は1学年200人中10人くらいしか居なかったらしい。ほとんど女子高のノリだったのだろう。
 
最後には里子の両親への感謝状贈呈なんてことをしたが、里子の父は半分困ったような顔をしていたものの、ちゃんと受け取ってくれた。
 
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結婚式・披露宴が終わり、二次会の会場に移動しようとしていた時。
 
紀恵が何かを探しているふうである。
「のんちゃん、どうしたの?」
「あ、さとちゃん、ここに置いてた婚姻届、知らないよね?」
「へ?」
 
「今朝記念に書いたの、封筒に入れてここに置いていたはずが、見当たらなくて」
「バッグにでも入れたとか?」
「そうかも」
 
と言って、紀恵はバッグを探すが、やはり見当たらないようだ。
 
「まあいいじゃん。実際に提出する訳じゃないし。その内どこかから出てくるよ」
「そうだねー」
 
それで二次会に行く。カラオケ屋さんのパーティールームを借りたのだが、定員35名の所に無理矢理50人くらい入ったので、結構窮屈である。
 
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しかしその人数で適当に食事を取りながら、マイクを奪い合って歌いまくると、けっこう楽しいものであった。
 
里子にも「松田聖子の赤いスイートピー」というリクエストが掛かったので元々持ち前の可愛い声で歌うと、大きな歓声が上がっていた。
 
そういえば、こんな感じでテレビ局で歌ったのが、性転換劇のはじまりだったんだなあ、などと里子は歌いながら思った。
 

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「ところでさ」
と高校時代の里子の友人男子がビールを飲みながら言った。
 
「お前、里子って名前にしただろ?」
「うん」
 
友人は手近な紙に《繰戸里子》と書いてみる。
 
「この名前って確かに本来は《あやべ・さとこ》かも知れんが、音読みしたら《くりとりす》だよな?」
 
里子は吹き出した。
 
言われて見れば確かにそう読める! 音読みなのかどうかは知らないけど。
 
そばにいる紀恵も今気付いたようで笑っている。
 
「でも、お嫁に行くんだったら、苗字変わるの?」
「あ、いや苗字は私の方のを使うことにしたから。だから紀恵が繰戸紀恵になる。って、婚姻届は書いただけで提出してないけどね」
 
「あれ、なんで提出しないの?」
「いや女同士の婚姻届は受け付けてくれない」
「あ、繰戸、女になったの?」
「うん。戸籍上の性別を変更したよ」
「へー。でも性別変えずにおけば、戸籍上も結婚できたのに」
 
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「私が事実婚で良いから、ちゃんと戸籍の性別も変えた方がいいと言ったんです。だって選挙の投票に言っても《この入場券違います》って言われるからって」
と紀恵が言う。
 
「ああ、確かにそうだよね」
「クレジットカード使う時とかも不便ですしね」
「なるほどなるほど」
 
などと言っていたら
 
「あ、婚姻届は出してきてあげたよ」
 
などと妹の有華。
 
「へ?」
「控室に置いてあったけど、ふたりは出しに行く時間無いだろうしと思って代わりに市役所に持って行ったよ」
 
「えーーー!?」
 
なんで。。。。自分の周りにはこう余計な親切をする人がいるのだろう。
 
里子は紀恵と顔を見合わせた。
 
「受け付けられちゃったりして」
と紀恵。
「まさか」
と里子。
 
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「受理証明書は後日郵送しますって言ってたよ」
 
「あ、そう」
「ありがとう」
と言ったが、多分受理拒否通知書が送られてくるんじゃないかと里子は思った。
 

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新婚旅行は、里子の体力問題があるので、あまり遠くに行くのはやめようということで、伊豆白浜の少しお値段高めの温泉宿で3泊4日過ごすことにした。
 
なお、結婚を機に紀恵はクラブを退職してしばらく「専業主婦」になることにしている。但し一応嘱託ということにして籍は残し、繁忙期は頼むと言われている。
 
「私、婚姻届けで《夫になる人》の所に名前書いたから、専業主夫かも」
と紀恵。
 
「まあ、それでもいいけどね。私が奥さんだし」
と里子。
 
白浜の海岸も歩いてみたが、ここはほんとに美しい。ゴミとかが全く落ちていない。そもそもあまり人が来ないというのもあるのだろうが、清掃などもマメにされているのであろう。
 
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少し涼しいが浜辺に座ってふたりで海を眺めた。
 
「私たちさ・・・」
と紀恵が言った。
「うん?」
「きっと、何とかなるよね?」
「うん。何とかしていこう」
と里子は笑顔で答えた。
 

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温泉宿なので、当然お風呂は温泉である。大きな宿なので、大浴場も広いものが付属しているようだ。里子と紀恵は一緒にその大浴場に行った。内風呂と露天風呂が続きになっていて、露天風呂からは海も見えるという趣向である。
 
「さとちゃん、もう女湯に入るのも平気だよね?」
と紀恵から訊かれる。
 
「まあ、のんちゃんに連れられて5回も銭湯に入ったからね」
と里子も微笑んで答える。
 
脱衣場は明るくそしてきれいだ。掃除もメンテも行き届いている感じ。ふたりは並んだロッカーに服を入れて裸になり、浴室に入った。
 
「ひろーい」
 
シーズンオフなのでお客さんも少ない。ふたりはのんびりと身体を洗ってから浴槽に身体を沈めた。
 
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「さとちゃん、最近乳首が立ってるよね」
「うん。女性ホルモンが効いている感じ」
「乳首も大きくなったら、もう男には戻れないね」
「チンコが無い時点で男に戻れないよ」
「まあ確かにそうだね」
「でも身体は女でも男として生きる道はあるよ」
と紀恵は言う。
 
それは確かにちょっと考えたこともある。性転換しちゃったのは仕方無いが、男装して、男として仕事をする手も無いことはない。
 
「ううん。女として生きるのも悪くない気がするから、女でいいよ」
「ふーん。女という生き方にハマったのかもね」
「うん。そうかも」
と言って里子は微笑んだ。
 

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新婚旅行が終わり、3日休んでから、会社に出て行く。(出社前日に病院で女性器の診察を受け、ふつうの人より早く回復していると言われた)
 
女としての初出社である。紀恵に見立ててもらったレディススーツに身を包み出て行き、まずは部長に挨拶する。少し話しておこうと言われ、社長室に行く。専務と常務、人事部長もやってきた。
 
基本的に今までと同様に扱うと言われた。うちの会社は男子と女子で建前的には給与に差を設けてないので給与も変わらないが、査定が悪ければ下がることもあるというのは言われる。
 
「あなた、生理休暇は必要無いよね?」
と人事部長(社長の奥さんの妹)から言われた。
 
「はい、必要ありません」
「卵巣は作ってないんでしょ?」
「ええ。卵巣も子宮も無いので生理はありませんから」
「了解、了解」
 
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それでいつも仕事をしていた大部屋に戻ってから、みんなの前で挨拶する。
 
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